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2010.09.10 (シャニム32号掲載)

福島敦子のアントレプレナー対談 No.32

株式会社アメニティ◎山戸里志社長

山戸里志社長と福島敦子


「おもてなしの心」を形作る
トイレ保守・管理のプロ集団

株式会社アメニティ(神奈川県横浜市)

●設立/1989年12月6日
●事業内容/独自の製品・システムによるトイレ総合メンテナンスのFC本部
 (1)トイレの環境改善を目的とした専門店
 ・トイレの4K問題を究明するためのトイレ診断
 ・トイレの4K問題を解決する予防メンテナンス
 ・トイレ環境改善に必要な商品の開発
 (2)上下水道水周りの環境改善
 ・施設全体の使用水量の適正化
●経営理念/「創造・実践・保守」
トイレを通じ、環境重視のサービス・製品を開発し提供すること。社会に貢献すること。そして、それらを実現するための人材の育成をすること。

Webサイト
アメニティネットワーク
アメニティ本部
 

「トイレ診断士」とは!?

 福島 「トイレの総合メンテナンス」は、一般にはあまり馴染みのない事業です。まずは企業内容から教えてください。
 山戸 どんなビジネスでも、お客様をどうもてなすかが共通テーマですよね。「おもてなし」というサービス、もてなす心を形にするのはトイレが一番やりやすいんです。汚いトイレで、おもてなしはできませんよね。快適なトイレをお使いいただく。トイレをちょっと磨くと、もてなしの心が形になるわけです。そのお手伝いをする。それがトイレ診断士を軸にした我われの仕事です。

 福島 トイレ診断士とは、御社独自の検定制度ですね。
 山戸 ええ。どんな事業もPDCAが大切ですよね。プランがあって、実行があって、チェックして、次のアクションに入る。だけどチェックって、どんな事業でも難しいですよ。

 例えば会社の決算内容をチェックするのは会計士。プロに数字上のチェックを求めますよね。チェック機能がうまく働かないと、次の手が打てない。人間も健康チェックをお医者さんにお願いします。チェックしてもらい、予防のためのアドバイスをいただく。もし症状が見つかれば、すぐに手を打つ。チェック機能は、それぞれの生活の中にあります。

 ところが、トイレのチェック機能はないんですよ。法人の場合、トイレのメンテナンスは専門会社に任せっぱなしが多い。でも、それだけでは当初の目標どおり、きれいに維持されているかチェックできない。

 そこで、私たちが毎月お客様のトイレをチェックする。そして「アンモニアが30ppm発生しているから臭い」というように数値化したり、汚ければ写真に撮って、いわゆるカルテを作り、提出します。問題点がはっきりするので対策も分かります。

 福島 メンテナンス会社に任せれば、そういうこともやってくれるような気がするんですけれど。
 山戸 そう思いがちですよね。でも、メンテナンス会社が入っていて、臭いトイレはたくさんあります。

 福島 原因を追及し、対策を取っていないから。
 山戸 そうです。本当は毎日チェックするのがいいんですが、プロが見れば月に1度でも傾向が分かります。もし臭ければ何のにおいがして臭いのか、原因を突きとめます。トイレのお医者さんと思ってください。

 

公衆トイレのネーミングライツ

 福島 渋谷区の公衆トイレの命名権を購入して、区役所前のトイレに「区役所前トイレ診断士の厠堂」を開設されましたね。これは宣伝効果に期待して、ですか。
 山戸 というよりも、渋谷区が命名権を募集したこと自体が、そもそも珍しいんですね。渋谷区内の公衆トイレのうち、14カ所でネーミングライツの募集を始めたんです。ところが1社も集まらないという記事が新聞に載りましてね。それを見た社員が「社長、やりましょう」といってきたんですよ。
 「我われはプロなんだから、その公衆トイレをデパート並みとまではいかなくても、それに近づけましょう」と。FC(フランチャイズ)加盟企業からも「やろう、やろう」という声があがりましてね。「じゃあ、まずは区役所前の命名権を買おうか」ということになったんです。

 福島 最初はひどい状態だったそうですね。汚れもすごいし、近寄り難い場所だったと聞きました。
 山戸 そうです。我われが手をつける前は、いたずら書きで壁は汚いしね。汚いまま維持管理はできないので、まずは「リフレッシュ」という我われの技術で、いかに新品同様に戻すかということから始めました。その上で本来のメンテナンスの仕事に入っていきました。

 福島 維持管理もアメニティがやっているのですか。
 山戸 日常の維持管理はメンテナンス会社が入っていますが、以前は全部任せっぱなしだったんです。
 しかし、我われがチェックを始めると、汚れの原因などをはっきり指摘できます。作業員の方に「ここにちょっと手を加えてもらうと、そんなに時間かけなくてもきれいになりますよ」という話ができるようになりましてね。そうすると、その作業員の方の表情も、変わってくるんですよ。今までは無理だと思っていた汚れがとれたり、共に取り組んでいるという意識なのでしょう。また、この厠堂ではトイレパトロールを実施しました。

 福島 パトロールですか。
 山戸 当初は週3回、社員が交代で状況を見にいってましたが、今は週1程度ですね。チェック機能が働くと、そうなるんです。

 

夜の銀座でビジネスチャンス!

 福島 トイレの総合メンテナンス事業を始めたきっかけは何だったのですか。
 山戸 もう40年近く前ですよ。以前勤めていた会社でトイレのビジネスを始めることになり、その責任者になったんです。そこは経営コンサルタント会社で、主にメーカー系列家電店の販促をお手伝いしていました。その会社で、あることをきっかけに「自分たちでも何か商売をしよう」ということになったのです。
 条件は3つ。1つは競争相手がいないこと。もう1つは真似をされないこと。そして大資本に簡単につぶされない仕組みを作ること。労働集約型のサービス業だったら、大資本には魅力がないから入ってこないだろうとなりました。

 福島 トイレに着目したのは?
夜の銀座が絡んでるそうですが(笑)。

 山戸 そうそう(笑)。渋谷、銀座と、よく飲み歩いてましたからね。どこもお姉さんはきれいだけど、トイレがプンプンにおう。これは商売になるなって。

 福島 ピーンときたんですね。単に遊んでいたのではない(笑)。
 山戸 そうです。トイレの芳香剤の交換から始まったんですが、あっという間に100軒、200軒、300軒と大きくなりましたよ。

 福島 特殊な商品だったのですか?
 山戸 市販はされていませんでした。アメリカからの輸入品で、時間がたつと自動的に中身が吹き出てくる芳香剤です。そのボンベを定期的に訪問して交換する。それがスタートでした。
 でも配達しながら、問題点は解消していないということが分かってきましてね。香りでごまかしても、元の臭いにおいを取らない限り、本当の快適なトイレにはならない。しかも、お客様もぜいたくになってきますから「今月の香りは先月より質が落ちた」とか、いろいろいわれるようになる。実際は同じ商品なのに、臭いとか快適さって数字で表わせないでしょう。

 福島 感覚的なものですからね。
 山戸 しかも「トイレは無臭がいい」ということが分かってきましてね。芳香剤でごまかすのはにおいにマスクをかけるだけで、においの原因を除去しなければ、完全な対策ではない。小便器の中では尿石というのが発生して、そこからアンモニア臭がするんです。

 福島 それを取り除こうと。
 山戸 その汚れを取ることから始めたんです。汚れを取ると、においがなくなる。それで、取った時はなくなるんだけど、後でまたすぐ汚れが付くわけですね。
 そこで、汚れを予防する方法がないかということで、製剤会社に製造をお願いして、当社オリジナルの尿石防止剤を開発しました。これを定期交換しにいくことで、本当にきれいかどうかや、においがするかどうかのチェックもできる。これがアメニティを全国展開するきっかけになったんです。

 福島 なるほど。
 山戸 今までは汚れたところを清掃するという後処理型のメンテナンスだった。あるいは、においを芳香剤でごまかす対処療法でした。それを、汚れない仕組みに切り替えたんです。これが「予防型メンテナンス」。根本的な原因を取り除く予防メンテナンスに切りかわった時期で、そこからがFC展開のスタートです。

 福島 予防メンテナンスの会社は他にあったんですか。
 山戸 当時も今もありません。

 福島 そしてトイレ診断士という資格制度を始められたんですね。
 山戸 はい。お客様はヤマダ電機さんのように全国展開しているところがありますよね。そうすると、我われも全国で同じ品質のサービスを提供しなければならない。

 福島 全国均一のサービスですね。
 山戸 人によるサービスですから、能力によって格差が出てくるでしょう? すると「横浜はいいけれど、博多はだめだ」となっては看板に傷がつきますので、やっぱり一人ひとりのレベルアップが必要なんですね。それで資格制度を作ったんです。それがトイレ診断士です。

 


日本古来のトイレ文化

 福島 日本のトイレは、メンテナンスを怠らなければ、非常に清潔ですよね。洗浄機能が付いていたりで、海外の方たちは日本のトイレの高機能ぶりにすごく驚かれます。日本のトイレは世界に誇れるシステム、文化だと思うんですけれども。
 山戸 そうですね。温水洗浄便座なんて、まさに日本独特の文化ですね。おしりを洗うという発想がね。

 福島 ええ。
 山戸 もっと本質的な話をしますと、日本人の持つ独特の文化観ってありますよね。トイレの汚物を水で流すという発想は、どちらかというと日本は後発なんです。もともと日本のトイレは、そこでため置いて土壌に戻すという、非常に地球に優しい文化を持っていました。

  その頃、ヨーロッパのトイレは「おまる」の文化、外へ捨てていたんです。目の見えないところに汚物を捨てたんですが、それで疫病がはやったりした。下水道を早い時期に整備したのも、捨ててしまう文化を下水道のインフラにつなげたんでしょうね。
 日本は個々に自分のところで処理をする、あるいは農家がくみ取りにきて、それを肥料にして土壌に戻すという文化があったんです。
 そういう土壌があるから、今も日本のトイレは世界に誇れるんじゃないかと思いますよ。これを世界に文化として伝えていければいいな、という思っています。

 福島 日本独自の文化観もあるので、国によっては受け入れられ難いということもあるでしょうね。
 山戸 ええ。ですから、この文化をそのまま持っていくんじゃなくて、考え方ですね。もてなしの心。これはどの国へ持っていっても迷惑にならないはず。「それを形にすると、こうなりますよ」というのを、どう伝えるかがこれからの課題ですね。

 それから、以前は「クサイ」「キタナイ」「コワイ」「クライ」という4Kがトイレの問題点で、それに取り組んできたわけですが、現在は「教育」「経済」「健康」「環境」という新4Kがテーマです。それらを通じて、トイレをどうとらえていくかということですね。

 福島 教育は本当に大事ですよね。やっぱり小さな頃から、トイレはどう使うものかということを教えられていないと、ひどい状況になっちゃいますものね。
 山戸 そうです。子が親から最初に教わるのはトイレのマナー、しつけですよね。  茶道に「亭主に三つの馳走あり。酒・飯・雪隠、気をば付くべし」という教えがあるんだそうです。茶会で客人を呼ぶ時の主の心構えとして「うまい飯とうまい酒をきちんと仕込んだ上で、トイレも徹底して磨けよ」と。茶道はまさに、作法のゴールに近い文化。その最後は、やっぱり雪隠なんです

 福島 奥が深いですね。
 山戸 教育って、そういうことなんでしょうね。

 


次なるテーマは「コスト低減」

 福島 今後の事業戦略を、どう描いていらっしゃいますか。
 山戸 FC展開を始めて21年です。直営ではなくFCを選んだ最大の理由は、1社でやっていると常に社長と社員のつながりでしかないですが、FCは経営者と経営者のつながりになるからです。自分の力は知れていますけれども、みんなの力を合わせると、結構強いものができ上がる。
 トイレ診断士資格にしても、その原動力になったのは有志の社長たちです。彼らに参加してもらい、この制度を作り上げました。小さな会社ほど、周囲の会社と力を合わせることが大事なんです。

 福島 今後も加盟店を着実に増やしていかれるんですか。
 山戸 そうです。ただし、FCを増やしても質を落としてはいけないので、歩みはのろいと思いますよ。 スタッフには本部で研修を受けてもらい、必ず覚えてもらう技能がいくつもありますからね。長い経験が必要です。トイレ診断士の資格を取るためにも、1年以上の実績がないとだめなんです。

 福島 事業そのものはどうですか。トイレに特化しておられますが、その中での新展開などはありますか。
 山戸 新しいテーマとしては、コストですね。今までは臭い、汚い、怖い、暗いなどへの対処が柱だったんですが、そこにもう1つ、コストの低減ですね。例えば水をどこまで絞れるかというコスト対策も、大きな次の柱になりつつある。節水という考え方ですね。

 福島 参考までに、家庭のトイレをきれいに保つための工夫は何ですか。
 山戸 手鏡を1つ持ってもらうといいかもしれないですね。目に見えるところは大体きれいなんですよ。我われ診断士の最大の武器は手鏡です。便器の中に顔を突っ込めないですよね。そこは鏡で見るのが一番です。

 福島 なるほど。最後に山戸社長が理想とする究極のトイレとは?
 山戸 理想のトイレは清潔であってほしいということが一番ですね。においや汚れのない空間。その上で、後は「おもてなしの心」をどう形に表すかだと思うんです。その意味では、花を一輪置いておいてくれるだけでも、癒やしの空間になるんですけどね。        (敬称略)

 

■渋谷区公衆トイレ 区役所前  トイレ診断士の厠堂

渋谷区公衆トイレ 区役所前 トイレ診断士の厠堂
2009年にアメニティがネーミングライツ(施設命名権)を獲得した。
「快適トイレを世界に向けて発信しよう!」をスローガンに、同社のノウハウを結集。
今では24時間・365日快適な公衆トイレが実現している。

 

山戸里志(やまと・さとし)氏
1942年東京都生まれ。都立墨田高校卒業後、英語辞典などの外商セールスマンとして活躍。1971年に日本経営センターに入社。トイレ芳香剤レンタルの新規事業を立ち上げ、1975年、その専業会社(株)東陽商会を設立。予防型メンテナンスによるトイレの総合管理サービスをスタート。これを全国にFC展開するため、1989年に(株)アメニティ設立。トイレ診断士(厚生労働省認定社内検定)、トイレ管理士などの人材育成や、製品開発等に力を注ぐ。2009年2月グリーンシート市場に株式公開。


 

●インタビュー後記
 事業内容を訊ねた時、山戸社長から「おもてなしの心を形にすること」といわれ、驚きましたが、お話をうかがうにつれ、なるほどと納得しました。
 茶道にも「三つの馳走」という考え方があるそうですが、確かにトイレが清潔だと本当に気持ちがいいものです。逆に他がどんなに綺麗でも、トイレが汚いとがっくりきてしまいます。
 ただ、こういう仕事はなかなか人材確保が難しいのではと思ったのですが、若い人が積極的に手をあげてくれるので、苦労していないとのこと。トビラの写真でもおわかりのように、働いている社員の方たちが、とても明るく、生き生きとされているのです。仕事に誇りとやりがいを感じていらっしゃるんですね。
 私もトイレの空間に対する意識がずいぶん変わったように思います。取材の際、お借りしたアメニティのトイレは、もちろん、ピカピカに輝いていました。

 

  1. 福島敦子のアントレプレナー対談 No.19
  2. 福島敦子のアントレプレナー対談 No.23
  3. 福島敦子のアントレプレナー対談 No.8
  4. 福島敦子のアントレプレナー対談 No.27
  5. 福島敦子のアントレプレナー対談 No.29

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