2010.11.30 (シャニム33号掲載)
福島敦子のアントレプレナー対談 No.33
株式会社マザーハウス◎山口絵理子社長

現地発「世界ブランド」を実現
途上国の貧困解消に全力投球
株式会社マザーハウス(東京都台東区)
●設立/2006年3月9日
●資本金/27,950,000円
●事業内容/発展途上国におけるアパレル製品及び雑貨の企画・生産・品質指導、同商品の先進国における販売
●ミッション(同社HPより抜粋)
「途上国から世界に通用するブランドをつくる」。「途上国」という言葉で一括りにされた場所にも、素晴らしい資源と可能性があることを伝えたい。それが、マザーハウスの使命です。
途上国にある工場で、同じテーブルに向かい合い、同じ言葉で議論をし、同じ目標に向かって、一つ一つ丁寧にもの作りをしています。同じ目標、それは、お客様の心を動かす商品を「途上国発のブランド」として胸を張ってお届けすることです。
よりよい社会をつくるために情熱をかたむける一企業の活動が、今まで「貧しさ」という暗闇の中で見過ごされてきた途上国に、希望の光を灯すことを証明したいと思います。
●Webサイト/マザーハウス
“本当にいいもの”を作る
福島 最近でこそソーシャル・アントレプレナー(※1)やBOPビジネス(※2)といったキーワードが注目されていますが、山口さんはその先駆け的な存在。起業家を目指したきっかけから教えてください。
山口 起業家を目指したわけではないんですよ。やりたいことをやり続けたら、結果的にこうになってしまったんです。私がやりたかったのは“本当にいいもの”を作ること。そこがスタートだったので、ソーシャル・アントレプレナーといわれても、よく分からないんですよ。
福島 そうなんですか。
山口 なぜ、いいものを作ろうと思ったかというと、バングラデシュではそれができていなかったからです。そして、できなかった理由は、先進国のバイヤーさんたちの「安かろう・悪かろう商品しか作れない」という偏見が大きいような気がして。
でも、本当はいいものが作れるのではないか。そういう可能性を信じてしまったんですね。それが最初のきっかけです。
福島 できるに違いないという手応えを感じたわけですね。
山口 そうです。学生時代に現地で大手商社のインターンをしていたのですが、その際、いろいろな工場を回りました。日本人スタッフは絶対に踏み込まない場所なのですが、興味があり、現地の言葉を話せたこともあってどんどん回りました。
そして現地スタッフと話すたびに、バイヤーでは知り得ない彼ら、彼女らのやる気が分かり、「できるのではないか」という気持ちが湧いてきたんです。でも、実際に作っているのは2ドルぐらいのもの。そのギャップを埋めたいと思ったし、消費者としての自分だったら、できるのではないかと思ったんです。
福島 現地で働いている人たちも「自分たちにはもっと可能性がある」との思いを抱いていたのですか?
山口 いや。彼らはレベルが上にあるものを作ったことがないから分からない。ただ、ネガティブな見方で作らされている現状は、ひしひしと感じていたはずです。
ちょっとした気遣いで、ここがよくなるのにという部分が、たくさん見えてきたんですね。もう少し見方を変えたら、到達できるのではないかということを感じました。
福島 途上国に必要なのは先進国からの援助ではなく、先進国との対等な経済活動。そのためには、きちんとしたモノ作りの方法を教えるべきだと。
山口 私も学生時代には「援助が一つの大きな手法」だと思っていたのですが、それがなかなか届かない。そういう現状を、バングラデシュで2年間一人暮らしをしながら見て、知って。では、その先にビジネスがあるのかといったらそうではなく、やはり安かろう・悪かろうという商品の輸出でしかない。しかも、搾取の構造だったり、児童労働だったりと、ビジネスとしても問題があることを個人として感じました。
援助も駄目、ビジネスも駄目となった中で唯一の手法が、私の中では、単純にいいものを作ることだったんです。それが国際競争力につながることこそ、一番健全だと思ったのです。で、皆さんにそう話すと「確かにそれが一番健全ではある」と。
でも「しかし」みたいな部分が出てくるんですね。その「しかし」を、私は経験がなくて、「やらなかったら、分かんないんじゃん」という感じで進めたんです。
生きる意味を探しに
福島 その辺が山口さんの怖いもの知らずというか、バイタリティというか。ご自身の性格を、どう見ていらっしゃいますか?
山口 バングラデシュへいくまでとは全然違います。大学時代は、クラスで発言することも難しいぐらいシャイで。
福島 本当ですか?
山口 はい。でも、バングラデシュで感じたことは「失敗したらこうなる」というドン底のイメージが、日本ではたかが知れているということです。バングラデシュで本当に生きるか、死ぬかの人たちを2年間見てきたので。そういう人たちを毎日見ていると、誰だって考え方が変わると思います。私は一番多感な23歳の時を、そういう環境で過ごしたので、「自分は恵まれているんだな」ということが心底分かったんです。
だから、会社がいつなくなろうが、またやるだろうし、日本で失敗しても、バイトして生活したらいいと思うし。バングラデシュの路上で生活している人たちのようにはならないじゃないですか、日本は。やりたいことがやれる環境だと思うんです。
日本にはセーフティネットがないとか、いろいろいう人がいるけれども「じゃあ、何と比較して?」と思ってしまうんですね。私の場合は比較対象が地球の反対側にいったので、他人にはチャレンジととらえられるのかもしれないけれど、見方が変わっただけなんです。
福島 大胆な決断ができる方だと想像したのですけれど。
山口 大学時代の私を知っている人がみれば、すごく驚きだと思うんです。私がバングラデシュにいったことも、雑誌の記事などで読むと、すごく簡単に決まったように思えるかもしれないけれど、自分の中ではものすごく葛藤があったんです。
本当に泣きながら空港にいって。生きて帰ってこられるのかという緊張感があまりにもあって、自分の中ではハードルが高かったことなんです。あの時と比べたら、今は「やってやろう」という気持ちが強くなった。バングラデシュのあの光景を見て強くなった気がします。
福島 泣きながら成田まで……。
山口 現地で私を受け入れてくれる態勢は何もないわけです。NGOのボランティアだったら現地で待ってくれている人がいますよね。それがトランク一つで、住む家もなくて。いきなり2年間のビザだけ持っていくことに、両親は猛反対しましたし、大学の先生にもすごくがっかりされました。友達も「いってどうなるの?」と。就職に有利になるわけではなく、バングラデシュにいったからといって、現場を知ったとどこまでいえるんだろうとも思ったし。
あの時、成田にいったのは本当に自分の力ではない気がするんです。言葉でいうのは難しいんですけれど、誰かに押してもらっているような。使命感みたいなものがあった気がします。あの日は自宅からいったら絶対途中で怖くて帰ってしまうと思ったので、成田のホテルに泊まったことをすごく覚えています。
福島 引き寄せられるような。
山口 うん、そうなんですね。でも、だからこそ、自分が生きる方向性というか、道を見つけてから帰ろうと。それだけは思っていました。何かにがっかりして帰るのではなくて、生きる意味を見つけにいったような気がしています。
ジュートとの出合い
福島 いろいろなバッグを見せていただきましたが、ジュート(※3)という素材は、本当に独特の風合いで、いいですね。しかも、ものすごく軽いので驚きました。
山口 ああ、よかった(笑)。
福島 ジュートとの出合いが、山口さんにとって大きかった。
山口 大きかったです。最初の出合いは商社のインターン時代。コーヒー豆の袋だったんですけれど、私の中で衝撃だったのは、それが世界の輸出量の90%を誇るということ。そんなものが、あんな国にもあるんだということなんです。今までバングラデシュは、私の中ではないものだらけで、ネガティブなものしか見えなくて。
一つの光でした。「あ、こんな国でも」という部分で。ジュートが私に教えてくれたことがすごくあって。だったらこれをなんとかしたいな、という気持ちがすごく湧いてきて。
ただしボサボサ、チクチクでは駄目だから加工しようと思ったんです。ファッションにするために色を付けようとか。でも、今まで誰もファッションバッグにしたことがない素材だったので難しかったんですよね。
それが一つの大きなハードルだったんですけれども、技術的にハードルを乗り越えたことが、すごくよかったと思います。日本では今、ジュートを素材にしたこういうレベルの商品は、私たちだけしか販売していないんですけれども、それが一つの切り口になって、卸先が広がったわけですから。
福島 会社設立から4年。現地で働いている方たちの意識は、ものすごく変わったでしょうね。
山口 はい。変わりました。顔つきが変わってくる。入社して半年ぐらい経つと顔つきが変わってきて、初めて人間だと思われるといううれしさがあって。その後、徐々にモノ作りの厳しさが分かって、その後、楽しさを分かってというプロセスがあるんです。
本当に頑張ったスタッフは日本に連れてきています。店舗に立たせて、お客様に商品を渡させる。そうすることで「自分がやっていることはこういうことなんだ」というプライドとか自覚が、また新たな品質を作っていくんですね。製造と販売の一直線が私たちの強みですから。
さまざまなSPA(製造小売り)企業がありますけれど、ここまで工員たちを育てている工場はないと思うんですよ。人づくりはモノ作りと一緒だなと、いつも思いながらやっています。
ブランドを作ること
福島 途上国から世界に通用するブランドを作りたいということで、ネパールでも事業を立ち上げられた。途上国から世界に飛躍できるブランドを、どんどん増やしたいという思いでいらっしゃるんですか?
山口 そうです。スタート地点がたまたまバングラデシュだったというだけで、ネパールは南アジアでバングラデシュの次に貧しい。その国で新しい商材、新しい素材を探し出して、新しい販売手法、出店戦略を練りながら展開するイメージです。
福島 ただ、ビジネスを通してその国の人たちの生活を向上させていくことと、事業として利益を上げていくことの両立は難しいといわれますけれども……。
山口 それは本当によくいわれるんですよね。でも、私はそこまでのコンフリクトがあるかなといつも思うんです。逆に皆さんがそう思う理由は何なのかなと。
例えば、工員にエプロンを提供しているんですけれども、それは自社工場の福利厚生というか、工員たちを精神的に満たすためにやっているんです。これはもしかしたら社会的な活動かもしれないけれども、最終的には品質に戻ってくるものだと思っています。工場のランチもそう。ランチを提供している工場は現地にはないですけれど、うちはやっています。それがロイヤルティになって、辞める人が少ない理由もそうかもしれないし。つながっているんですよ、全部。私たちの中では。
なぜ、そこまでAとBで分けるのかなという感覚の方が強いですけれど。むしろ二つがつながるものを考えることが、経営者の仕事のような気もするんですけれど。
福島 それはそうですよね。でも、社会性を強調し過ぎてそちらに傾いてしまうと、なかなか利益が上がってこない。そこをうまくやっていくためのポイントは、どこにあるのかと思ったものですから。
山口 なるほど。確かに前者が大きくなり過ぎると、バランスが崩れてしまいますよね。私たちの活動は基本的にビジネスです。すべての意思決定において、会社を大きくするという気持ちが強いですし、それが学生インターンたちとのマインドのギャップではありますね。
インターンの人たちは社会的な企業という理想を抱いてきますけれども、私たちは段ボールの上げ下げが非常に大事だということを教える。一個一個売るのがどれだけ大変かということを、分からせていくんです。「結局は利益を出さないと何もできないよね」ということを、みんな肌で感じて分かっているんですね。
福島 大前提は会社を大きくし、利益をしっかりと得ることですね。
山口 ブランドを作ることですね。バングラデシュのイメージを覆すブランドを作ることしか、頭にはないです。社会貢献している意識なんて、これっぽっちもない。いいものを作りたいだけ。工場だって納期管理、数量管理、生産管理、すべて他のバッグ工場と変わらない。それどころか、より厳しいし、きちんとしたペナルティもある。社内のプレゼンテーションでも数字に対する厳しさは本当に強いですよ。
それはなぜかといったら、雇用とか税金を払うこととか、企業がすべき当たり前のことこそが、社会貢献だと私は思っているからです。
大企業の進出について
福島 先日、日本の大手アパレル企業が、バングラデシュに工場を作り、衣類をわずか1ドルで現地販売すると発表、大きな話題になりました。どう思われますか?
山口 「ああ、なるほどな」という感じでしょうか。私はBOPビジネスは、ソーシャル・ビジネスとは違うと思っています。貧しい人に安い商品を売ることをソーシャル・ビジネスと呼ぶということも、ニュースで初めて知ったぐらいです。
なぜうちがバッグをバングラデシュ国内向けに売らないかといったら、それは国内向けに作っている会社が他にあるからです。その工場にはそれなりの雇用があって、それなりに経済的インパクトを持って、現地の経済を支えているんですね。そこに先進国の工場が入って食い散らすことは、国内のためにはならない。私は起業する前に、そう思ったんです。だから100%輸出を決めました。
福島 最初から……。
山口 そうです。先進国が現地の需要を食うことに私は反対です。もちろん雇用のインパクトは私たちの数十倍で、ものすごいものがあるかもしれない。けれども、それと同時に、国内向けアパレル工場がどれくらい潰れるのかということも、きちんと考えなければいけないと思っているんです。
福島 雇用の場を作るというのは、単純にいいことだと思っていたのですけれど。
山口 もちろん雇用の場を創出することは、ものすごくインパクトがあるし、大切だと思うんですけれども、ではトータルで見てどうか、ということですね。
その大手アパレル企業が、どれくらいの労働環境を提供するのかということにも注目しています。原価を知っている人間からいわせると、1ドルの衣類というのは、誰かが何かのマイナスを背負わないと実現できない。私は現地にいる人間として「そういう人たちの数を増やすことが、トータルで見ていいことなの?」と思っている部分があります。
物の単価、生産コストというものは、高いものを作れば作るほどいいことだと思いっています。1ドルのものを1万個やるのではなく、私たちは物の単価、生産コストの高い物を輸出している。その物に付いてくる人の技術だったり、知識だったり、経験という見えない価値の方が、すごく大切なような気がしているんですよね。それがブランドだと思ってやっているビジネスなので。
福島 雇用創出といっても、数だけでなく質が重要なわけですね。
山口 以前、アフリカのすごく小さな国にいきました。そこはかつて中国の大資本が入って経済を支えていたのですが、中国マーケットが厳しくなって一気に撤退したんです。そうしたら国民の働き先がなくなってしまった。仕事場がなくなるリスクは、牛耳ってしまえばしまうほど高まりますよね。
その意味では例えマザーハウスが倒産しても、今働いている彼らには、自分たちで会社を作れるぐらいの技術を教えたいですね。 (敬称略)
※1)ソーシャル・アントレプレナー:社会起業家。社会の課題を事業により解決する人のこと。
※2)BOPビジネス:BOPは「Base of the Pyramid」の略。世界で最も低所得な層を指す。この層をターゲットとするのがBOPビジネス。利益を追求しつつ、BOPの生活水準向上への貢献が求められる。
※3)ジュート:別名はインド麻、ツナソ(綱麻)。熱帯・亜熱帯に生長し、繊維をとる目的で栽培される。主に穀物などを入れる袋・包装布などに用いられる。
■マザーハウスの大人気コレクション!
Obakisumire(オオバキスミレ)
12,600円/税込み
花びらのかたちからパターンをつくり、制作した「Hanabiraシリーズ」の1つ。モチーフとした植物は「オオバキスミレ」。花言葉は「小さな幸せ」で す。花言葉のように、小さなかわいらしい形のショルダーバッグ。バッグを構成する花びらの裏面とバッグ内部には、裏地としてバングラデシュの女性たちが日 常的に着る衣服「サリー」の花柄の布が使われています。

Soft Tuck Tote(ソフトタックトート) 22,000円/税込み
バングラデシュ産の牛革を使った大きなサイズのトートバッグ。スクエアーなシェイプに、シンプルで味のあるタックのデザインがポイントです。落ち着きがあるデザインで、男性にも女性にもお使い頂けます。

Edge Messenger(エッジメッセンジャー) 17,200円/税込み
マザーハウスの初期の頃から不動の人気No.1ショルダーバッグ。リュックサックとしても使える便利バッグです。ソフトなジュート素材が体に馴染んで斜め 掛けしやすく、両手が空くので活動的に過ごせます。発売からこれまで、何度も改良が重ねられている歴史あるバッグです。

Leather Rose(レザーローズ)
28,350円/税込み
こちらもHanabiraシリーズの1つ。モチーフとした植物は「バラ」。花言葉は「愛情・情熱」です。6枚のバラの花びらを重ねてつくられた、ハンド バッグ。同生地で出来たスカーフは、取り外し可能で、首に巻いたり、ヘアアクセサリーにしていただくことも。持ち手はグリーンのレザーを編みこんだもの で、バラのつるを思わせます。
各商品の詳細等はマザーハウスHPまで。
山口絵理子(やまぐち・えりこ)氏
1981年埼玉県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業、バングラデシュBRAC大学院開発学部修士課程修了。ワシントン国際機関でのインターンを通じ、途上国に対する支援のあり方に疑問を持ち、たった一人で「アジア最貧国 バングラデシュ」に渡る。その後、ジュート(麻)を使った高品質でデザイン性の高いバッグを生産する「株式会社マザーハウス」を設立。その商品力と、バングラデシュにおける雇用機会創出という理念を持ったマザーハウスは、多くの学生・社会人に支持されている。「フジサンケイ女性起業家支援プロジェクト 2006」最優秀賞受賞。
●インタビュー後記
山口さんはソーシャルビジネスという意識はない、企業として当たり前のことをやっているだけとおっしゃっていましたが、確かに企業は社会に何らかの貢献をするために事業をして、その対価として利益を得ている存在。本来、ソーシャルビジネスは、すべての企業の本質なのだということを山口さんの言葉に改めて気づかされました。
それにしても、若くて、チャーミングな印象の女性の、どこからあんなエネルギーが生まれるのかと不思議でしたが、バングラディシュで人々が直面している厳しい現実を直視した経験が、自分の中の物差しの尺度を変え、山口さんを強く、大きくしたのですね。
今の日本は内向きで、若い人さえ安定志向が強く、留学生の数も激減していますが、もっと自分の世界観を広げ、生きる意味を見つける挑戦をすべき、そんな熱いメッセージもいただいた対談でした。(談)
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