2011.05.31 (シャニム35号掲載)
福島敦子のアントレプレナー対談 No.35
株式会社ヤマダ電機◎山田昇会長 
東日本の着実な復興に向け
支援体制をより一層強化
株式会社ヤマダ電機(群馬県高崎市)
●創業:1973年4月 ●設立:1983年9月
●上場証券取引所:東京証券取引所市場第一部
●資本金:710.5億円(2010年3月末現在)
●本社:〒370-0841 群馬県高崎市栄町1番1号
●事業内容:国内有名メーカー及び海外有名メーカーの家庭電化製品ならびにオーディオ機器・健康器具・介護関連機器・OA機器の販売と修理、ビデオソフトレンタル、ソフトセル、書籍の販売
●主要取引銀行:みずほ銀行、東和銀行、群馬銀行、三井住友銀行、八十二銀行、北越銀行、三菱東京UFJ銀行
●HPアドレス http://www.yamada-denki.jp/
震災翌日に被災現場を視察
福島 今回の大震災は、亡くなった方だけでも1万4000人を超え、1万人以上の方が今なお行方不明という状況です(※1)。本当に戦後最悪の災害となってしまいました。ヤマダ電機さんも被災地の店舗が大きなダメージを受けたそうですね。従業員の方の被災状況や現地の被害状況はいかがでしょうか。
山田 まず、今回の震災で亡くなられた方にお悔やみを申し上げます。そして被害にあわれた方や、いまだに避難生活を余儀なくされている方々に、心からお見舞いを申し上げます。弊社としましても、できる限りのご支援をさせていただきたいと思っています。
当社の被災状況につきましては、亡くなった社員は、おかげさまでありませんでした。店舗も流されたとか、全壊したというのはありませんでした。
私どもの危機管理体制をお話ししましょう。基本的には災害が発生したら直ちに現場へ飛んで状況を確認し、対策を打つ。そういう管理体制を敷いています。
3月11日は金曜日でしたよね。その翌日には、すぐにヘリコプターを手配して、2カ所降りられるところがあったのでそこまで飛んでいき、そこでクルマを手配して被災現場を視察しました。同時に地上からもクルマで視察に出たチームもあります。ふた手に分けて、二日間にわたって現地の状況を確認しました。
当社の被災店舗は、ダメージの大きいものから小さいものまでを合わせると110店ほどでした。その場で35店舗ぐらいを指導して、月曜日から店を再開させたんです。
我われの取り扱い商品には、電池やストーブなど、非常用のものがたくさんありますから、そのような商品をできる限り販売させました。店舗を開けられる状態ではなかなった店もありましたが、店頭でご提供しました。中には、それもできない店もありましたが。
そして火曜日には全国の建築業者さんに、本社へ集まっていただきました。うちは全国展開していますから、そういう業者さんがたくさんいます。ネットワークですね。
彼らと打ち合わせを行ない、翌日の水曜日から一斉に現場の復旧に入りました。
3月末の段階で再開できない店は、11店舗まで減りました。あと福島の原発避難地域に1店舗ありますが、こちらは再開の見通しが立っていません。
福島 すいぶんと迅速な復旧ですね。地元の被災者の方々も助かったでしょうね。
山田 現地や視察チームなどの報告で、大体様子が分かってきましてね。月曜日でしたかね。すぐに支援物資を手配しました。カップラーメンや食品類、水なども取り扱っていますからね。これらを当社の配送センターシステムを利用して、29カ所の避難所へ配りました。火曜日にトラックで飛んでいかせたんです。そういう意味では、うちは喜ばれたんじゃないかな、というような危機管理体制を敷いています。
危機管理体制の一層の強化
福島 地震発生から4日で支援物資を送られたのですか。それは迅速ですね。災害発生直後は、被災者のその日の生活を支えるための支援が求められると思いますが、時間の経過と共に求められる支援も違ってきますね。
山田 とにかく現場は大変なことになっています。しかも、原発問題がまだ解決したわけではないですし。今、原発の避難区域は20キロ圏内ですけれども、「もしかすると80キロぐらいまで広がることは考えておいた方がいいんじゃないか」ということを想定しています。
今の状態を維持したまま収束できればいいんですが、「そうではない場合も想定した危機管理をしなければ駄目だろう」ということで、その体制も作ってあります。
そうなった場合の人の問題、支援物資の問題を含めて、「もう一段の手を打たないといけないかもしれない」という状態にはしてあります。事業計画にしても、大幅に狂ってしまいます。そうなってくると。
福島 確かに原発の問題は、かなりの長期戦になりそうですね。赤十字に送られた義援金の件でヤマダ電機さんらしいと思ったのは、総額4億3000万円の多くを管理職以上の全社員が拠出したことです。その決断の早さが素晴らしいですね。
山田 日ごろのCSRということで、我われは、そういう目標で経営しています。ですから今回も、何の異論もなく決まりました。常日ごろ、そういう意識でやっているからじゃないですか。初めてやろうとすれば違和感があるかもしれませんが、続けているからスムーズです。
福島 確か、新燃岳の噴火災害に対しても義援金を送られましたね。
山田 そうなんです。その矢先に今度は大震災が起こったものですから、これはもう同時にやろうということで。実は今、CSRの一環として教育基金や環境基金などについて、財団法人を設立して対応していこうかと考えているんです。今はそういったものがなく、一時的な対応をしている状況です。そうではなくて、恒久的に社会的な使命として。
福島 ヤマダ財団ですね。
山田 CSR経営有識者懇談会をクォーターごと開催しており、そこで日々の取り組みを報告しています。最近は「グローバルなマネジメント、環境マネジメントをやりましょう」などと、要求が高くなってきていましてね。有識者の皆さんからは「国内はもういいですよ、ヤマダさん。十分やっていますよ」といっていただいています。
福島 グローバルにということは、地球環境を救えと?
山田 そうです。ですから、その基盤となる財団を設立しようかと。まだ検討している段階ですので、決定したら改めてお知らせします。
電気の新たな活用提案
福島 被害の規模があまりにも大きくて、復興に向けての道のりは非常に長く険しいものがあると思います。しかし、その先には災害に強い町作りや、原発に頼らないエネルギー政策、ライフスタイルの変化などが出てくると思います。
その点を考えますと、ヤマダ電機さんが力を入れている太陽光発電住宅や環境性能に優れた商品などへのニーズが、一段と高まってくるのではないかと思います。会長ご自身は人々のライフスタイルの変化や住まいのあり方、あるいは町作りについて、どう考えていらっしゃいますか。
山田 すでに一事業として太陽光等環境の商品を扱っていますが、原発の問題が出てきたことで、急に問い合わせが増えてきました。もともとグローバル的には「CO2排出量の削減」という下地があったのですが、ある意味で「これに拍車がかかるかな」というふうには感じています。
災害というのは復旧があって、復興があるじゃないですか。
その中でいろいろな話が出ているようですから、私どもも、いろいろな形でご支援しなければいけないと思って準備だけはしています。
福島 実は私も今日、この対談が終わったら太陽光発電の売り場を見学しようと思っているんです。本当ですよ。計画停電で大変でしたから。
山田 そうですか。では、後ほどゆっくりとご案内しましょう。
今は太陽光発電と家庭用リチウム蓄電池とを組み合わせた、電気の新たな活用提案を本格化しています。昼間は太陽光で発電し、それ以外の時間帯には深夜電力で充電した蓄電池を使う。これが普及すれば、昼間の電力需要ピークをぐんと引き下げられます。仮に計画停電が再び始まったとしても、有効な対策になります。太陽光発電といっても、もう売電(電力会社への余剰電力売却)だけではないんですよ。
福島 全部自分たちで使うという。
山田 そうです。今までの太陽光発電は「売電したらどうですか」というコストメリットの提案でした。それも重要ですが、今後、もっと大切になってくることは「自分が使う電気は自家発電を主にする」ということだと思っています。
福島 原発に頼らないということですね。
山田 そうです。日本のこういう少資源の中で、これは有効ですよ。昼間は太陽光で発電し、夜は安い電気代で蓄電池を充電する。さらにいえば「蓄電池を電気自動車で代用する」という考え方もありますよね。
福島 クルマの新しい役割ですね。
山田 クルマと一緒に、それこそスマートハウス的な提案が広くできるんです、蓄電池があれば。売電という発想ではなく、丸ごと節電ということですね。
福島 太陽光発電、オール電化、電気自動車をセットにしたスマートハウスにずっと力を入れてこられて、現在は会長自らスマートグリッド事業本部長を兼務していらっしゃるそうですね。 ただ、どうなんでしょうか。これまでのテレビや冷蔵庫を売るのとは、全然違うノウハウが求められると思うのですけれども。その辺りはどう対応しておられるのですか。
山田 やはり一番は人ですね。店頭で売れるものではない。店頭は1つのソースとしては使えるけれども、それがソリューション的かというとそうじゃないですよね。現場へいって、設計し提案するという作業がある。今まで我われが店頭でやってきたこととは、まるっきり違う世界ですね。そういった人材の採用と教育は非常に難しい。それで今回、それぞれの事業を別会社にして、専門教育をスタートしたんです。 その一方で、各事業は密接に関係しています。電気自動車、太陽光、蓄電池、オール電化。それぞれの事業を個別に行なうのではなく、力を合わせてみんなが一体となって提案していく。そうしなければ、その利便性や有用性を正しくお伝えできません。ですから軌道に乗るまでは、私が責任者をやろうと。
ビジネスノウハウの蓄積
福島 スマートハウスを、将来的にヤマダ電機の柱となる事業に位置付けていくと。
山田 そのことはアナリストさんなどからもよく聞かれます。「昨年までのエコポイントをカバーできますか」と。私は「そうじゃない」といっています。「まだ、そこまで育っていないけれど、そういう準備はしていますよ」という段階です。
この事業では今年、500億円を目標にしていますが、うちのボリュームからすれば、たいした数字ではありません。それでもナンバーワンなんです、業界では。それが現状です。
福島 消費者の意識が、まだそこまで育っていないということも、背景としてあるんですかね。
山田 例えば今うちは、電気自動車を販売していますよね。自動車メーカーさんは「ぜひぜひ」といって当社にこられますよ。競合他社さんもやってはおられますけれども、その多くは店頭で話題を作るというだけのもの。実態はゼロに等しいでしょう。
でも、当社は実際に売っています。売り先はどこかといったら、太陽光をご購入いただいたお客様なんです。太陽光のお客様が、今は電気自動車のお客様なんですね。そうしながら実績を作っているのが現状で、まだその程度のビジネスです。
福島 電気自動車販売の難しさは、どのへんにあるのでしょう。
山田 クルマの販売はシステムがないと駄目です。例えば、当社が「電気自動車をどうぞ」とお勧めする。そうすると「今乗っているクルマはどうしてくれるの?」という話に、必ずなりますよね。「それはヤマダが下取りします。だから、新しいクルマを買ってください」という仕組みがない限り、クルマは販売できません。
当社は4年ほど前に自動車販売をスタートしたのですが、この間、仕組みを作りあげてきました。「これは将来に役立つ」と。そして「我われが電気自動車を売る時代が必ずくる」ということでやってきたのですが、その通りになってきました。
1つひとつにビジネス(ノウハウ)があるんです。太陽光には太陽光のビジネスがあるし、電気自動車には電気自動車のビジネスがある。あるいは中古住宅を仕入れてリフォームし、太陽光、オール電化にして売るというビジネスもある。
これらが一体となれば、スマートハウスができるんです。今までは1つひとつをビジネス化して、ノウハウを蓄積してきたのですが、その全部が黒字になってきました。ですから「さあこれからですよ、うちは」という、今はそんな状態です。
福島 それらを連携させて、トータル提案していくビジネスに育てていきたいと。
山田 これにスイッチを入れるのは行政だと思っています。例えばもう少し補助金を増やすとか。クルマにしても、もっと容量の大きなバッテリーを積んで、蓄電池として使えるようにするとか。そうすればもっと用途が広がり需要もふくらむでしょう。単体のバッテリーよりも、クルマの方がいいと思われませんか?
福島 クルマは単なる移動手段だけでは、なくなってくるわけですね。
山田 自動車メーカーさんは、それを目指していると思いますよ。 
ヤマダ電機のスマートハウスコーナー(テックランド横浜泉店)
ヤマダ電機のネットワーク
福島 最近は医療分野にも力を入れておられますが、ちょっと意外な感じがしました。オリジナルの電子カルテシステムを開発されたり、医療機器を販売されたり、病院のシステム構築も展開されているということなんですけれども。こういう分野に進出されようと思ったきっかけを教えてください。
山田 当社に法人部門があったからこそ、そういった取り扱いができるし、提案ができるんです。たまたま医療関係の子会社を、縁があって以前からお世話してきました。電子カルテソフトは、そこで開発・販売していましてね。 それをヤマダ電機本体の法人事業部で本格的に取り扱おうということになりまして、それで医療ソリューション部を立ち上げたんです。電子カルテソフトだけではなく、情報システムや医療機器など、医療施設に必要な機器はすべて、医療機器メーカーさんと協力しながら提案していきます。
福島 それにしても「どうして医療なのかな」とも思います。
山田 電機屋のヤマダがなぜ? と。もともと全国の医療機関さんに、家電やIT機器を購入いただいており、すでに多くのお客様がいらっしゃるからです。これは医療機器メーカーさんからみれば、新たな販路なんですね。「それならば、一緒にやりましょう」と。もちろんアフターフォローやメインテナンスは、メーカーさんと協力してきちんと対応しますし、そういう商品しか扱いませんから、ご心配には及びません。
ヤマダ電機のネットワークを利用するということですね。今は都市型から郊外型、そして地域密着のチェーン店まである。このネットワークは、本当に理想的なんですね。これを利用した新たなビジネスモデルの一例が、医療なんです。こういうネットワークは世の中にありませんし、世界にもない。ですから可能性があるんです。
よく「ヤマダさんの成長戦略は何ですか」と聞かれるのですが、私は「今のヤマダ電機のネットワークを生かしたソリューション的なサービスは、可能性が非常に大きいと思いませんか?」とお答えしています。
うちがなぜこれだけ、いろいろなビジネスをして、すぐチャンスに結び付けて売れると思われますか? 太陽光から化粧品まで。これはヤマダの今のネットワークがあるからです。その背景はストアロイヤルティです。信頼ですよね。
その代わり分野は絞っています。専門店であるという絞り方です。可能性があるから「何でもやる」ということではなく、家電専門店という枠の中でのビジネスチャンス、ソリューションサービスを展開していくということです。その範囲だったら何でもやる。それこそ「創造と挑戦」ですよね。イノベーション。我われはそれを絶えず発揮していこうと。
福島 医療ソリューションにしてもスマートハウスにしても、あるいはお米やお水や化粧品や、本やスポーツウェアなど、いろいろなものを扱っています。レストラン街や子どもが遊べるキッズコーナーまで。もはや私の感覚では、家電量販店という枠を、とっくに超えていて……。
山田 そうですか。
福島 今「あくまで専門店の枠の中」とおっしゃったじゃないですか。でも多分、大半の人には「もう十分に枠を超えている」というふうに見えていると思います。しかし会長は「枠の中だ」とおっしゃる。イメージしている枠の大きさの違いが、世の中と会長との間にはあるように感じます。
山田 そうなのかもしれませんね。ですが、私の中ではあくまで家電専門店の枠の中で、可能性を広げながら、いろいろとチャレンジしているだけなんですよ。 (敬称略)
東日本大震災の義援金として
5億2284万円を日本赤十字社等に贈呈
4月16日、ヤマダ電機は同社が募った「東日本大震災および新燃岳噴火義援金」が総額5億2284万円に達したことを発表した。 同義援金のうち4億3041万円はヤマダ電機グループ全社、役員・役職員、従業員をはじめ取引先各社からの寄付、ならびにヤマダ電機各店に寄せられた顧客からの募金を集計したもの。4月16に日本赤十字社に手わたされ、今後の復興支援に役立てられることになる。 残りの9243万円は物資及び義援金として、すでに直接現地の被災者へ届けられている。支援物資は、水(約94t)、お茶(約6t)、米(約9.8t)、カップ麺(約2500個)、医薬品関連(1800個以上)、オムツ(1800セット)をはじめとし、総額4000万円相当に及んでいる。これらをヤマダ電機の自社物流ネットワークを駆使することにより、震災の4日後に現地へ届けている。 日本赤十字社での贈呈式に出席したヤマダ電機の一宮忠男社長は「少しでも早く被災者のご支援に役立ちたいとの思いから、当社としてできる限りの迅速な対応を心がけてきた」と語っていた。

●インタビュー後記 山田会長と前回、お会いしたのは、日本の専門量販店として初めて売り上げ1兆円を突破した頃。あくまで通過点に過ぎないとおっしゃっていましたが、その言葉通り、ビジネスモデルを進化させ、売上高2兆円も達成されました。
「創造と挑戦」がヤマダ電機のビジョン。多くの企業が同じような言葉を掲げていますが、“言うは易し、行なうは難し”の重い言葉です。
まして業績がよければ現状に満足しがちですが、ヤマダ電機は同じ位置に留まることなく、ビジョンを実践し、成長を続けています。
今後は、環境ソリューションを提供してくれる身近な存在になっていくと思いますが、さらにその先、これまで構築してきたネットワークをインフラとして、どんなビジネスモデルを展開していくのか、山田会長のスケールの大きい発想が楽しみです。
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