2010.05.31 (シャニム31号掲載)
全科目で「iPod」をフル活用 デジタル教材の作成で授業改革
IT活用事例
学校編
松伏町立松伏第二中学校
全科目で「iPod」をフル活用
デジタル教材の作成で授業改革
●iPod導入は職員の意識改革による授業改善が最大の目的
●教師自らが作成したデジタル教材が生徒に大好評
●研修会や体験の場を設け、教師のiPod活用を徹底サポート
●他校の教職員や大学生、一般企業も巻き込んでコンテンツ強化に着手
アップルのiPodといえば、人気のデジタルオーディオプレーヤー。音楽だけでなく、動画や写真などのコンテンツも取り込んで再生できる小型ITツールだ(*1)。これを教育現場で活用しているのが、埼玉県内の松伏町立松伏第二中学校である。
クラスや個々の実情に合わせて教員が作成したデジタル教材を、授業中に生徒たちがiPodの画面で学習。いわば、パソコンとプロジェクターの代替ツールとして利用している。成果は上々だ。「集中できるし記憶にも残る」と生徒に好評で、「画面を見て操作する行為があるだけでも、生徒の食い付きが違う」(数学科の細野弘美主幹教諭)と教員の満足度も高い。
デジタル携帯型ツールの活用では生徒の集中力アップばかりが注目されるが、実は同校の最大の狙いは教員の意識改革にある。「教員の教材開発力育成や授業改善が目的だった」と発案者の大西久雄教頭。「授業の進め方や教材活用に対して保守的な姿勢の先生方が多く、これはよい面と悪い面を持つ。デジタル教材の活用により意識改革を促し授業のマンネリ化を改善したかった」と話す。

▲英語のリスニング授業。デジタルとアナログを使い分けることが重要だ
こうした思いの具現化には、「教材コンテンツを自由に作成できる」という利点を持つiPodが最適だった。
授業で活用するデジタル機器としては、ゲーム機の任天堂DSが注目を集めており、数々の事例も報告されている。だが、iPodとDSの最大の相違点は、コンテンツを自ら開発できるかどうかだ。現状、DSでは教員がコンテンツを作ることはできない(*2)。
「既存ソフトしか使えないDSは生徒の集中力をアップさせるにはいいが、教員にとっては使わせているだけ。デジタル教材による授業改善という目的は果たせない」(大西教頭)とのこと。家庭でも所有率が高く生徒の興味も引きやすいDSではなく、iPodを選んだ背景にはこうした理由がある。
教育現場に適したデジタル機器
教材用のコンテンツを作成する間口は広い。例えば、ネット上には教材として使えるフリーの動画や写真素材が流通しており、単元や項目に応じてiPodに取り込んで活用することが可能。「You Tubeなど動画サイトにアップされている素材には意外と授業に使えるものが多い」(同前)。
慣れれば、自分で撮影した動画や写真を使うこともできる。さらに、レベルを上げれば、パワーポイントやキーノート(*3)といった汎用プレゼンテーションソフトを使いデジタル教材を作れるようにもなる。
また、「デジタル教材を授業で扱う上でiPodは使い勝手がいい」ことも利点という。映像を扱う上で、携帯性や操作が手軽であるからだ。
授業内で映像などのコンテンツを使う場合、パソコンやプロジェクターなどを使うことが多い。だが、「授業の合間の休憩時間はわずか10分しかない。この間に、機材を移動させセッティングしなければならない」と大西教頭。「この点、持ち運びに便利なほど小型で、ディスプレイと接続すれば動画や写真を提示できるiPodは使いやすい」という。
提示方法にしても、大型ディスプレイとつなぎクラス全体で情報共有することや、個々の生徒に持たせてiPodの画面を見ながら学ばせるなど、集団の中で個の時間をうまく使うこともできる。

▲レタリングの学習。画面の解説を見ながら実践可能だ。
視線の移動が最小限で、生徒の集中力も増す
こうした利点を活かし作成されたデジタル教材は、現在127コンテンツにも及ぶ。例えば、美術の水彩画の学習だ。iPod内には、デジタル教材として「下書き」や「着彩」など6段階に分け、実際に教員が説明しながら描いている様子を撮影した映像を保存。生徒は、各自これを見ながら同じように水彩画を描いていくスタイルで学習に取り組む。
水彩画などは、生徒により作業スピードの差が大きい。授業の最初で描き方を説明するより、個々の進度に合わせて映像でリアルタイムに学ぶ方が効果は高い。実際、「みんな見ている画面が違う」(担当教諭)とのこと。理解できなければ何度でも繰り返せる上、それでも分からなければ先生に質問することも可能だ。
この他、数学の立体図形や家庭科で料理作りの解説など、活用の範囲は多岐にわたる。各教科での例を表にまとめたので参考にしてほしい。
他校や異業種連携で教材強化
今や、ほぼすべての教科で活用されているiPodだが、当初は「先生たちにいかに使ってもらうか」というIT機器の利用につきものの問題を抱えていた。とにかく、使ってもらってメリットやよさを感じてもらうことが欠かせない。そこで、大西教頭は町内外から全教育関係者が集まる研究発表分科会を、プレゼンテーション用ツールとしてiPodを同校の教員に活用してもらう場とした。
分科会に向けiPodの使い方を学ぶ校内研修会を開催するなど、活用環境を徐々に整えた。「デジタル機器は使い方が分からないから、抵抗するケースが多い。教える環境を用意することで、いいツールと分かれば使ってくれるはず」と大西教頭。体験するきっかけを作った上で、後の活用は自主性に任せた。
研究発表が終わった後、ネット上にある素材や、自ら撮影した写真を使って授業を行なう教員が増えるなど、少しずつ授業が変化。こうした状況を踏まえ、本格的に授業でのiPod活用へ移行していったのだ。
当初は、特例としてアップルから42台を無償で借りていたが、期間満了でやむなく返却。だが、その効果を認めたPTAが予算から捻出し画面サイズの大きい最新機を同数購入してくれた。
今後の課題は、デジタル教材をいかに増やしていくか。教員の意識が高まったとはいえ、すべての先生がデジタル教材を作れるわけではない。まだまだ、良質のコンテンツが不足しているのが現状という。
この解決を目指した取り組みが、教材の共同制作や共有化だ。大西教頭が中心となり、埼玉県内の教員に呼びかけて「デジタル教材in Saitama」を発足。不定期の勉強会でコンテンツの作り方などを学んでいる。教職員だけでなく、教員養成系大学の教授や大学生、PTA、教科書会社など多岐にわたる分野から参加している。
同校の音楽で使われているデジタル教材(表参照/*4)も、この活動から生まれたものだ。
「将来はクラウドなどの外部サーバーにデジタル教材を置き、それを生徒が自由にダウンロードして家庭学習に使える環境を構築したい」と展望を語る大西教頭。今後の松伏第二中学校の取り組みに注目したい。
(*1)iPodには、「iPod classic」「iPod nano」「iPod touch」「iPod shuffle」の4種類がある。iPod classicはHDD内蔵タイプ、iPod nanoはフラッシュメモリー搭載の小型機、iPod touchはマルチタッチ方式の大型液晶パネルを搭載。いずれも、音楽や動画、写真の再生が可能だ。iPod shuffleは液晶画面非搭載モデルで、音楽のランダム再生に特化している
(*2)現在、任天堂もDSを活用して自由にソフトを作成する試みに取り組んでいる
(*3)アップル開発のMac OS X用のプレゼンテーションソフト。同社のオフィスソフト「iWork」に組み込まれている
(*4)同校HPで体験可能
●英語
リスニング力の強化に活用。同一のストーリーについて、3つのレベルを用意している。レベル1と2は英文が順番に表示され、レベル1は画像と音声が、レベル2では音声のみが再生される。レベル3は音声のみで、英文がランダムに再生される。いずれも英文を聞き取り、5W1Hを紙に書かせる学習スタイルだ
●数学
計算問題で活用。紙ベースで問題を解いた上で、iPodに収納された解答と解き方のコンテンツを確認しながら自主学習を行なう。また、平面図形を回転させた場合に、どんな立体図形ができるかをアニメーションを使って解説することで生徒の理解度を高めている
●国語
百人一首で、音声とテキスト教材として活用。上の句が表示された後、時間差で下の句が表示される。例えば、イヤホンを2人の生徒で共有し(片耳ずつ)、早く分かった方がプリント上の句をタッチするなど遊び感覚で学習可能。また、書写では書くプロセスを映像として再生することで、筆運びやトメ・ハネなどがよく分かる
●社会
地理の都道府県の学習に活用。白地図→色→県名の順に画面表示させ、県名が表示される前に分かるかどうかをチェックしている。最初の5分程度で生徒はひたすら暗記し、その後にペーパーテストを実施。ビジュアルで覚えられるだけに、生徒の学習スピードも早いという
●理科
現在は、iPodと大型ディスプレイを接続して教員がプロジェクター代替として活用。今後、顕微鏡など実験機器の使い方を同校の独自教材とコンテンツとして作成し、授業内で活用していくことを検討中という
●美術
水彩画やレタリングなどの学習に活用。絵の描き方を、「構図」「下書き」「着彩」など6段階に分け、教員が実際に描いていく過程を動画で再生する。生徒はこれを見ながら、実際に絵を描くスタイル。美術は他の科目以上に生徒個々の進度が違う。自分のペースに合わせて進められることが利点だ
●音楽
合唱を覚えるのに活用。楽譜が読めない生徒が多く、楽譜上を縦のラインが移動しながら音声再生するコンテンツを用意し、最初はデジタルで徹底的に楽譜を見ながら曲を聴く。その上で、実際のピアノに合わせて歌うアナログ授業に入っていく。校歌の学習などにも最適で、すぐに覚えるという
●体育
教員側の活用。プロジェクターで投影する代わりに、事前にiPodに取り込んだ映像を体育館に設置したディスプレイとつないで流している。例えば、女子の選択科目に相撲がある。まわしの付け方など、先輩が実演している様子を教員が撮影。それを流すことで、抵抗感もなくなるという
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