2010.11.30 (シャニム33号掲載)
iPhone駆使した観光ツールを導入 旅行客の回遊性高めて地元活性化
IT活用事例 自治体
岐阜県高山市
iPhone駆使した観光ツールを導入
旅行客の回遊性高めて地元活性化
●観光スタイルの変化で旅行客が増えるも消費は停滞
●商店街への誘致狙いiPhoneとセカイカメラで観光客向けサービスを実現
●季刊発行の情報誌と連動した同サービスのクイズラリーが盛況
●ツイッター連動やライブ配信、仮想空間でのイベント開催など膨らむアイデア
岐阜県高山市といえば、飛騨高山と呼ばれ全国各地から多くの旅行客が訪れる観光地だ。05年2月に旧高山市と周辺9町村が合併し、国内で最も広い市町村となった。
旧高山市の中心部は江戸時代の城下町や商家町の姿が残され、“飛騨の小京都”とも呼ばれている。高速道路が延長され交通の便がよくなったことに加え、仏ミシュランが発行する旅行ガイド本で日本の必見観光地として三つ星を獲得。国外からの旅行客も増加しており、年間400万人が足を運ぶ観光市だ。
恵まれた環境にも思える高山市だが、実は意外な課題を抱えていた。旅行客は多いものの、ピンポイント観光が中心で有名スポットから一歩道を外れると人もまばらで極めて回遊性が悪いという。
「旅行客が増えたといっても、交通の便がよくなったため多くは中部圏からの日帰り旅行客。また、かつて合掌づくりで有名な白川郷の玄関口として機能していたが、高速道路が延びたことから、高山市を経由せずとも足を運べるようになった」(地元商店街関係者)とのこと。データ上の旅行客数ほど、地元の飲食店や土産物店、旅館、ホテルは潤っていないわけだ。
これを解決しようと、ソフトバンクモバイルの「iPhone」と、そのアプリケーションソフト「セカイカメラ」を組み合わせた観光ツールを導入。町の情報提供やクイズラリーなどイベントの開催に活用している。
この取り組みの旗振り役である山都印刷の平和民代表取締役は、「ピンポイントの日帰り観光を滞在型へ変えたい。面白い遊び方を提案して滞在時間を長くすることにより、地元商店街などで消費してくれる機会が増えると考えた」とiPhoneを導入した狙いを語る。
●セカイカメラとは
セカイカメラは、iPhoneやスマートフォン端末向けプラットフォームのAndroid上で動作する拡張現実ソフトだ。
端末搭載のカメラを介して画面に映し出された現実の映像上にテキストや画像、動画などの様々な電子情報をエアタグとして表示させることができる。GPSで現在地を特定し、端末側に内蔵された電子コンパスによりカメラが向いている方向を認識。その方向に貼り付けたエアタグを映像上へ表示可能となる。
利用者は表示されたエアタグにタッチすることで、テキストや画像だけでなく動画などの情報を見ることができる。
岐阜県大垣市のITベンチャー拠点の「ソフトピアジャパン」に本社を置くソフト開発会社頓智ドットコムが開発した。ソフト自体はApp Storeで無料ダウンロードできるが、商用目的などでエアタグを貼り付けるなど同ソフトを利用したサービスを提供するような場合には、編集権として利用料のコスト負担が発生する。

iPhoneでセカイカメラを起動させると、目の前の様子が画面上に映し出されて様々なエアタグが表示される
公衆無線LANのWi-Fi利用
仕組みは以下の通り。まず、セカイカメラとは、iPhoneの画面に映し出された現実の映像上にテキストや画像、動画などの様々な電子情報(エアタグ)を表示させることが可能なソフト(詳細は囲み参照)。旅行客は、セカイカメラがインストールされたiPhoneで同ソフトを起動し、高山市の町並みにカメラを向ける。町並みの映像上に店舗や名所情報、クイズなどのエアタグが表示されるので、それをタッチすることで様々な観光情報を入手できる。
エアタグはGPS機能と電子コンパスにより、空間上に自由に貼り付けることができる。例えば、セカイカメラを使ったクイズラリーなどのイベントを開催し、足を運んでもらいたい商店街や名所などにエアタグを貼り付けて旅行客を誘導することで、自然と回遊性が高まるわけだ。

▲回遊性を高め観光客の誘致に取り組む本町通り商店街。
平日の夕方ということもあって、人影もまばら
さらに、クイズ用のエアタグ以外に店舗や土産屋情報、割引情報などのエアタグを貼り付ければ、地元商店街での消費を促す機会の増大にもつながっていく。
活用を促すため、様々な工夫も凝らす。iPhoneの認知度は向上したとはいえ、実際に所有しているユーザーはまだ少ないことから、8台の貸出機を用意している。「セカイカメラの操作が分からない場合、旅行客はわざわざ調べてまでは使ってくれない」(平氏)と、商店街内に操作をレクチャーする拠点を設置した。
また、動画再生などに対応するには高速な回線スピードが必要であることや、通常の携帯電話回線で通信コストを負担して利用してもらうとなると、同サービス活用の障壁ともなってしまう。
そこで、公衆無線LANサービスを導入。観光客誘致のメインスポットと位置づける旧高山市内の本町通り商店街を中心にWi-Fi(*1)エリア化した。協力店舗の軒先にWi-Fi対応ルーターを設置してもらい、同商店街一帯では基本的に通信コスト不要の高速回線環境を実現している。
この他、季刊発行する観光客向けフリーペーパー(以下、FP)の特集記事との連動イベントを展開するなど、同サービスの露出度や利用機会の拡大に取り組む。
こうした努力と、どこよりも早くセカイカメラを使ったサービスを提供した先進性により注目度は高く、「最近は個人のiPhone利用者も増えており、このサービスの体験を目的に高山に来てくれる旅行客もいる」(ひだっちプロジェクトに参加しセカイカメラの使い方をレクチャーしている田端恵氏)。効果は上々だ。

▲名所として旅行客に人気の古い町並み。
平日の夕方だが賑わいを見せる。外国人が多い
景観厳しい街には最適
高山市が取り組んでいるサービスは、ふるさと雇用再生特別基金事業である「ひだっちプロジェクト」の一環として展開されている。
もともと、同プロジェクトがスタートする以前から平氏は前述の旅行客向けFPを発行し、高山を連想させるご当地キャラクターの“ひだっち”を生み出すなど、独自に商店街活性化に尽力していた。
「地域に密着する総合印刷会社としては、地元企業やお店に元気になってもらうことが必要」と平氏。「高山を訪れる観光客は年間約400万人なので、単純に10日で高山市の人口とほぼ同じ10万人にもなる大きな市場を狙わない手はない」と話す。
企業として地域活性化に取り組む中で、県が募集した再生事業に「本町通り商店街内で観光客向け店舗を運営し、FPとご当地キャラクターなどを連動させたイベントで旅行客の回遊性を高める」とのアイデアで応募したところ、これが採用される。09年4月、県からの委託を受け支給される基金を元手に、本格的に活性化事業に取り組み始めた。
シールやスタンプ、クイズラリーなどの開催やキャラクターの人気もあってそれなりに効果をあげてはいたが、取り組み自体は特に目新しくもないと、次なる手段を模索していた。
そうした中、岐阜県が整備したIT拠点ソフトピアジャパンにセカイカメラを開発した企業が入居していた縁で、同ソフトを知る。業種柄、Mac関連製品に詳しかったこともあり、すぐに観光ツールとしての有用性に着目。09年秋、県の支援もあってセカイカメラのリリースと同時に先の仕組みをスタートさせた。
サービスインから約1年。前述のように成果も見え始めているが、「ようやく下地ができた段階、これから様々なアイデアが出てくる」(同前)とのこと。例えば、エアタグに動画をリンクさせて、高山祭やがらくた市といった楽しそうな映像と、それを楽しめる時期を伝えることでリピートにつながる確率が高まる。ツイッター連携やライブ映像の配信によるお得な情報提供も試してみたいという。
また、等身大キャラクターを街中に連れていきイベントをやってみたいとも。だが、古都の雰囲気を壊してしまうため景観に厳しい高山では、実現が難しい。この点、「セカイカメラの仮想空間内であれば派手なエアタグで、いくら賑わせても問題ない。ヴァーチャルなイベントを開催し、そこから現実世界に結びつけることも考えられる」(同前)。
高山には、実は観光として見る場所が多い。「いずれはこのサービスを広げていきたいが、一足飛びにはできないので地道に取り組みたい」と語る平氏。今後に、注目していきたい。

▲高山を連想させるご当地キャラクター“ひだっち”。かなりの人気だ
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