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2010.02.28 (シャニム30号掲載)

福島敦子のアントレプレナー対談 No.30

オーセンスグループ◎元榮太一郎社長

元榮太一郎社長と福島敦子

日本初の弁護士紹介サイト
「弁護士ドットコム」

オーセンスグループ株式会社(東京都港区)

 2005年7月設立。同年8月に「弁護士ドットコム」をオープンし、弁護士検索サービスやインターネット法律相談をスタート。初年度の登録弁護士数は 100名(12月)だったが、2007年10月には500名を突破。現在は1721名(2010年2月16日現在)の弁護士が登録している。
 また2006年には「司法書士ドットコム」「税理士ドットコム」、2008年に「社労士ドットコム」をオープン。各分野での専門職紹介や相談、見積もり比較サービスなどを実施中。「専門職サービスを身近に」を基本コンセプトとした、独自のマッチングサービス・サイトとして注目されている。

http://www.authense.co.jp/
http://www.bengo4.com/

 

事故の経験から弁護士に

 福島 「弁護士ドットコム」を拝見しました。確かに一般人にとっては、弁護士さんはどこに頼んでよいか分からないし、費用だってどれくらいかかるか分からない。不安な気持ちになりますよね。その意味で「弁護士ドットコム」は弁護士さんとの距離を縮めてくれるビジネスだと思います。そもそも、このビジネスを考えたきっかけは?

元榮太一郎社長

 元榮 原体験は学生時代の交通事故です。ローンで中古車を買ったんですが、その際、資金がギリギリだったもので任意保険に入るかどうか迷っていたんです。そうしたら物損事故を起こしてしまいましてね。
 相手はもちろん損保に入っているので、保険会社の示談交渉担当者と直接交渉しなければいけませんでした。

 相手はプロ。こちらは何も知らない若者ということで「10対0で全部払え」と主張してきたんです。当時の私には、それが正しいかどうかも分からない。本当に悲嘆にくれてしまいました。

 その時、弁護士会に相談にいきました。そうしたら7対3だと。「確かにあなたは悪いけれども、向こうにも前方不注意がある。弁護士がそういったと交渉してみなさい」とアドバイスしてくれたんです。

 その通りに話したら本当に7対3で即決してしまいました。人の困った時にこんなに役に立てる弁護士はすごいと思いました。ただ同時に、こんなに便利で役立つ職業なのに、何でこんなに遠いんだ、とも思いました。報酬も分からないし。弁護士サービスの使いづらさ、利用しづらさを感じたんです。

 福島 それでご自身でも弁護士を目指されたわけですね。
 元榮 はい。大学3年から司法試験予備校に通って勉強し、弁護士資格を取得して大手法律事務所に入りました。本当は困った人の役に立ちたいという気持ちだったのですが、人は人でも法人の役に立つビジネスローヤー(企業関係主体の弁護士)になりまして。国際法務の分野を担当させてもらい、非常に充実はしていました。でも、一度きりの人生、これでいいのかなと。もっと違う人生あるんじゃないか──。そう考えて起業したんです。

「弁護士×IT」で何かできないか
福島敦子

 福島 まさしくエリートコースを歩んでいらっしゃったと思うのですが、それよりも一般の人の身近な存在として手助けしたいという思いがおありだったんですか?
 元榮 そう思っていましたし、一度きりの人生なので、もっと世の中を変えられるんじゃないかとも。そもそも司法試験を目指した時も気持ちのどこかに、No.1になりたいとか、何か大きなことやりたいという思いがあったんです。大手事務所の仕事もやりがいのあることなんですけれど、自分のビジョンが100%実現できているという充実感が感じられなかった。弁護士サービスという枠組み自体を変えられないかな、という思いを持っていましたね。

 福島 そこから弁護士ドットコムのアイデアを思いつき、事務所をやめることにしたわけですね。
 元榮 はい。起業するにしても、やはりコア・コアコンピタンスとしては弁護士がいいだろうと。それに2003年頃からインターネットのブロードバンドが普及し始めたので「弁護士×IT」で何かできないかなと。

 たまたま「引っ越し比較ドットコム」というサイトを見つけたんです。家電の価格比較なら分かるんですけれど、サービス業も比較できる。そう思った時に、交通事故で困った大学2年の自分がフラッシュバックしました。あの時、弁護士の比較サービスがあったなら……。

 今それができれば、あの時の自分のような人たちが救われるんじゃないかと考え、これはすごいぞと。でも、その一方で他に誰かやっているはずだという冷静な気持ちもあり、国内のサービスを調べてみたのですが、一切ないんです。「見つけた。これだ」ということで、その翌月、法律事務所に退職を願い出ました。

法律をもっと身近に!

 福島 法曹界の人たちからは当初、「見積もり比較なんてとんでもない」というような反発が相当あったと思うのですが。
 元榮 まずは「弁護士ドットコム」に登録してくださいと、弁護士の友人や先輩にお願いすることから始めました。でも「一見さんお断り。紹介案件しか受けない」という風土が色濃く残っている業界なので、「登録したくない。インターネットに名前をさらしたくない」という時期がけっこう長かったですね。

 そこは根気よく「インターネットを通じて法律をもっと身近に、もっと便利にしたいんです。そういう場所がインターネットという世界になくてどうするんですか」という話を熱い思いで話し続けて、ようやくご理解いただけました。 

 福島 弁護士さんもサイトへの登録は、ビジネスチャンスになりますよね。利用者と弁護士の双方にメリットがあって急成長したのかな、という思いもあるんですけれども。
 元榮 おっしゃる通りだと思います。やはり弁護士も顧客開拓がテーマになってきていますので、その1つとして「弁護士ドットコム」に登録しておこう。場合によっては見積もり回答をしてみるとか、そういう流れに少しずつ変わってきているのかな、という気はしています。

弁護士報酬の適正化を後押し

 福島 ただ、どうなんでしょう。見積もり比較は結局、いろんな業界で起こっている価格破壊に進むという心配はないのですか。
 元榮 価格下落は相当程度あると思います。けれども、価格の適正化を後押ししたいというのが私どもの考え方です。今まではブラックボックス。競争相手がいないのに、わざわざディスカウント価格を出す弁護士はいないでしょう。

 そういう意味で今までの弁護士報酬相場は洗練されていなかったと思います。マーケットメカニズムが機能しないというか。弁護士や医者は聖職ということで、ある程度大切にしていただいていると思いますが、サービス業であることに変わりはない。弁護士の先生だってヤマダ電機にいったら、時にはディスカウントを要求するわけじゃないですか。

 福島 本当ですよね。
 元榮 それと同じように、サービス業である弁護士報酬も、ある程度比較して選んでいただく。弁護士報酬だけではなく、事件処理の方針や経歴なども比較して選んでいただく。他の業界の方々が頑張っていることを、我われもやるべきではないでしょうか。
 要は人に対して正しいことをいうためには、自分自身も襟を正す。過当競争になったり、価格相場が下落して弁護士がやっていけなくなる状況は望んでいませんが、依頼者の方に適正な報酬相場を提示できる弁護士業界にしたいな、という思いはありますね。

コンプライアンス社会を実現

 福島 日本も裁判員制度が始まり、法律の場が身近になってきました。いずれアメリカのような訴訟社会になる、との見方もありますけれども。
 元榮 法律が社会のルールだという市民の認識が高まってくるので、「不当に法的に不利な立場に置かれている」とか「ここは権利行使しなければならない」とか、そういう発見をしつつ訴訟社会に進行していくとは思います。

 ただし、訴訟社会の向こうにはコンプライアンス社会があります。コンプライアンス意識が高まった市民や企業は違法行為を行なわなくなるので、そういう意味で最終的には訴訟社会を通じて、みんなが事前予防、事前抑制をする、そういう社会になるんじゃないでしょうか。

 市民が法律をもっと知ることによって、結局は平和な社会が訪れる。今までの日本は裁判が少なかったといわれていますけれども、要は「泣き寝入り」と「やり得」が多かっただけです。そういう意味で実質は非法治国家だったわけですね。

 福島 確かに法律の知識があれば防げたり、不利にならなかったりということはあると思います。でも日本人は法律に対してアレルギーというか「裁判なんてとんでもない」みたいな思いがありますよね。
 元榮 あると思います。ですから法律をポジティブなものにしたいんです。「弁護士ドットコム」や「法プラス(hou+)」(法律情報サイト)という私どものサービスは、アレルギーを持たれやすい、世知辛そうなイメージの法律を、劇的に前向きな生活の知恵っぽい、それを知っていることが誇らしげな、そういうものに変えたいと思っています。

法律の理解が社会の幸福

 福島 その実現のために、どんなアイデアをお持ちなのですか?
 元榮 例えば今どこの銀行の預金利率が高いとか、皆が知りたくなる情報ってあると思うんです。そういうものと同じような情報にまで、法律を落とし込む。そして私どものサービスからモバイルやPCを通じてゲームなり、マンガなり、いろんな形でやわらかく、皆が日頃触れている情報と同じように加工してお出しする。これを今年から積極的にやっていきたいと思っています。

 福島 ハードルを引き下げるわけですね。
 元榮 要は法的センスを磨いていただければ幸せになれるんです。例えば借金で困って自殺する方がいますよね。でも、今だったら何百万円という過払い金が戻ってくる可能性がある。知らないが故に亡くなってしまう。知らない不幸というのが法律の世界には非常に多いので、何とか知ってもらって、皆さんにちゃんと免疫をつけていただきたい。

 法律という社会のルールを少しでも意識してもらうことが個々人の幸せになり、それが社会の幸せになると思っています。訴訟にしても何かを訴える武器ではなく、実は守る鎧なんだと。そういうとらえ方をしていただければ、法律に対する怖さがなくなるのかなと思っています。

 福島 学校でも法律を学ぶ場が必要ですね。社会人になって、いきなり法律といわれても、なかなか勉強する場もないし。
 元榮 二十歳を過ぎると法的には成人なので、契約書にサインすれば、突然何百万、何千万の債務を負わされるリスクもある。
 車は教習所でライセンスを取ってから乗りますけど、法律は義務教育で何も教えません。
 突然社会に放り出されるので、事故も起こしますよね。本当に基本的なことは義務教育に入れた方がよろしいんじゃないかと思いますし、私たちも余力が出てきたら、課外授業のような形で取り組みたいですね。

法律とは変えるもの

 福島 中小企業と弁護士さんの連携とか、訴訟社会に対応するための対策とか、今後の経営者が心がけておくべきことは何ですか。
 元榮 弁護士人口も増えていますし、インターネットの発達で情報収集が極めて容易になっていますので、従来のやり得経営、コンプライアンスを意識しない経営は、今後重大な損失につながる可能性があると考えています。
 一番リスクがあるのは、やはり未払い残業代、つまりサービス残業です。ここは弁護士も意識し始めています。未払い残業代は過去2年間にさかのぼって支払い義務が発生します。卑近な例としてマクドナルドの店長の件がありましたけど、あれだって1人の店長が認められてしまうと、掛ける店舗数になり大変なことになります。

 福島 サービス残業の問題は労使双方にとって重要なテーマですね。
 元榮 おっしゃる通りですね。私も労働法制は正直いって無理があるかな、と思っています。すべての割増賃金を払っていたら、企業の国際競争力は実現できませんよ。

 日本は法治国家なので、経営者の皆さんが声をあげれば法律を変えることもできる。民主主義国家ですから、場合によってはそういう手法で自分のビジネス環境、企業環境を変えるという発想も必要なんですね。

 皆さん守るだけだと思っているんですけど、法律とは守るものであると同時に変えるものだと。これを経営者の方々にさらに意識していただき、「これだけ自分たちは頑張っているのにおかしいよ」ということであれば、それは法律が悪い。それを変える。そういう発想を持っていただくことが大切だと思います。

「一」か「初」しか目指さない

 福島 今後は中国やアジアに進出して、弁護士紹介サイトを立ち上げる計画だそうですね。
 元榮 アジアNo.1の専門職サイトを目指しています。特に中国は今、急速に法治国家に変わってきおり、一般人が触れる法律については、21世紀に入ってから雨後のタケノコのようにできています。しかも毎年2万5000人が司法試験に合格しています。日本の弁護士は今、トータルで2万9000人しかいないんですよ。

 福島 毎年2万5000人も受かっているんですか?
 元榮 そうなんです。日本がうかうかしていると、あっという間に中国に司法というレベルでも抜かれてしまう。今は海賊品が出回ったり、違法コピーや違法ダウンロードなど、コンプライアンス意識がない国家として有名ですけれど、それもすぐに昔話になるんじゃないですか。

 毎年2万5000人の合格者で出るということは、司法のインフラ整備が急速に進むということ。しかも彼らは食べていくために司法・法律の大切さを伝道師のように唱えていく。
 あっという間に法治国家になると思いますよ。そういう国に「弁護士ドットコム」は、すごく貢献できるんじゃないかと思っています。

 福島 視野が広いというか、そういう発想の豊かさは、どこからくるのですか。
 元榮 そんなに豊かだとは思わないですけど。ただ法律事務所をやめた時に、これからは4つしか目指さないと決めたんです。日本一か、世界一か、日本初か、世界初か。

 一度きりの人生なんだから、リソースを分散させないで「一」か「初」しか目指さない。そのために何をしなきゃいけないかというと、やっぱり独創性も必要だと思います。

 特に「初」は他と違うから初じゃないですか。どうしたら差別化できるかということは、常に思考の中にあります。おもしろいアイデアがあるとすれば、そういうところから出てくるのかなと思います。      (敬称略)

 

元榮太一郎社長元榮太一郎(もとえ・たいちろう)氏
1975年・米国シカゴ生まれ。中学2年の時に西ドイツに1年2カ月居住。1998年、慶應義塾大学法学部卒。1999年、司法試験合格。2001年10 月弁護士登録(第二東京弁護士会)し、同年アンダーセン・毛利法律事務所(現アンダーセン・毛利・友常法律事務所)に入所。2005年、独立。現在、非営利の有限責任中間法人オーセンス代表、オーセンスグループ株式会社代表取締役社長兼CEO、法律事務所オーセンス・パートナー弁護士。

 

インタビュー後記
 ITによって企業と消費者との関係は劇的に変化しましたが、いまだブラックボックス的な業界の1つが、弁護士の世界。元榮社長のお話の通り、本来、司法サービスは社会の重要なインフラのはず。それがこんなに生活者から遠い存在だったことは、おかしなことですし、中国にも言及されていましたが、これではグローバルな時代に、日本の競争力はますます低下してしまいます。法律は生きるためのツールで、1人に1人の顧問弁護士くらい、弁護士が身近な存在になることを期待したいです。
 また、元榮社長の一弁護士としての役割だけでなく、日本における司法サービス全体の問題点まで、視点を広げてビジネスモデルを確立されたところに、志の高さと構想力の大きさを感じました。それにしても「一」か「初」しか目指さないと断言されるところが、頼もしいです。私もこれくらいの気概を持って日々を送れば、何かできることがあるのではと、個人的にはいい刺激を与えてもらったような思いでした。

  1. 福島敦子のアントレプレナー対談 No.19
  2. 福島敦子のアントレプレナー対談 No.12
  3. 福島敦子のアントレプレナー対談 No.18
  4. 福島敦子のアントレプレナー対談 No.9
  5. 福島敦子のアントレプレナー対談 No.8

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