2009.02.20 (シャニム26号掲載)
地元商店街の活性化に秘策!?地域住民が大注目、ポイント納税制度
地方自治体最前線/商店街活性化策
地元商店街の活性化に秘策!?
地域住民が大注目
ポイント納税制度

●全国の自治体や商工会から注目集めるポイント納税制度
●他に先駆けて施策を導入した福島県矢祭町
●施策実施後にスタンプ券と商品券の流通量が増加
●仕組み構築では、「地方自治法の壁」と「行政との連携」が課題
地元商店街の活性化は、多くの自治体にとって早急に解決しなければならない課題の1つ。趣向をこらしながら様々な施策が講じられる中、「商店会が発行するスタンプ券や商品券、ポイントで公共料金や税金の支払いができる制度(以下、ポイント納税制度)」が全国の自治体や商工会から注目されている。これを全国に先駆けて導入したのが福島県矢祭町だ。
矢祭町といえば、市町村合併特例法を背景に進められた平成の大合併に対して、いち早く「いかなる市町村とも合併しない」と宣言。自立できる町づくりの推進により、全国から関心を集めた。
だが、山間地域に位置する町村の例にもれず、矢祭町も過疎化が進行。さらに近隣エリアに大型スーパーが出店するなど地元経済への影響は大きく、自立を目指す上でも商業振興が急務の課題となっていた。
07年4月に退任した根本良一前町長の元、企業誘致をはじめ様々な地域振興策に取り組む中で、実施したのがポイント納税制度だ。
ポイントといえば一定数たまると次回の買い物以降、商品が割引になるサービスで、店側にとっては販促策の一環である。ただ、ポイントは加盟店での物品購入など限定的にしか利用できないのが一般的。このため、多くの場合は魅力に乏しく、思ったほど販促効果に結びついていないことが多い。
状況は矢祭町も同じ。スタンプ券を発行ポイントとして運営していたが、発行枚数の減少に加え加盟店も増えない。スタンプ会の事業収入も減少の一途をたどり、新たな販促策を打つこともできないため町民の地元離れが進むばかりだった。
そこで、町役場での公共料金や税金の支払いに充てられるポイント納税制度を実施。スタンプ券の使用範囲拡大により利用価値を高め、地元商店街の活性化を狙ったのである。
スタンプの原資は正会員が負担
矢祭町のポイント納税制度の仕組みを詳しく見てみよう。同施策を導入したスタンプ会運営の概要は、図1の通り。
前述したように、矢祭町の商店会ではシールタイプのスタンプ券を活用する。追記式のポイントカードを採用している商店会も多い中、スタンプ券を使う理由はIT化にはコストがかかることもそうだが、地域の商習慣として配達や外商が多いこと。カードはポイント発行のため端末機器を持参する必要があるが、スタンプ券なら渡せばすむ利便性があるからだ。
スタンプ会の加盟店には、正会員と準会員がある。正会員とはスタンプ券を発行できる商店のこと。入会金と年会費を払い、スタンプ会が委託している金融機関からスタンプ券5000枚を1万円で購入。店で買い物をしてくれたお客に対して、金額に応じたスタンプ券を発行する。
スタンプ券は、台紙1枚(スタンプ280枚)で500円分の現金に相当。加盟店での買い物、税金や公共料金の支払いに使える。商品購入時に使われたスタンプの換金について、正会員の手数料は無料だ。
一方、準会員とはスタンプ券の発行権利はないが、お客がスタンプを使って買い物ができる店のこと。年会費や、スタンプ購入コストなどを負担しない分、換金手数料として3%が課せられている。
矢祭町では、スタンプ券を対象にスタートした同施策をすぐに商店会発行の商品券にも拡大した。
スタンプ券と同じように正会員と準会員の店で買い物ができる他、納税や公共料金の支払いに充てることが可能だ。商店が商品券を換金する際の負担手数料は正会員が2%、準会員が5%とスタンプ券同様に準会員の手数料を高く設定している。
再び地元を向いた町民意識
ポイント納税制度を始めてから2年強。この間、着実に効果を上げてきているようだ。これまで関心を持たなかった若者がスタンプを集め、買い物でスタンプを要求する町民が増加。「スタンプで納税できるようになったことで、地元住民の買い物意識が地元商店街に戻りつつある」(矢祭町商工会の鈴木邦美事務局長)という。
売り上げが増えればスタンプ券の発行も増える。実際、正会員のスタンプ券購入額は施策導入後に増加に転じた。05年度の615万円が、07年度には694万円まで増えている。
また、商品券についても流通量が急増した。売上実績は05年度179万円が、施策導入後の06年度には1664万円となった。この理由は、矢祭町役場が区長(自治会長)や消防団の手当て、役場職員賞与の一部、敬老祝い金などを現金から商品券での支給に変えたことにある。
というのも、制度の実施前に一部の商店から「販促のために投資したスタンプ券の原資が自分たちではなく、行政に流出するのでは」といった懸念の声が寄せられたからだ。
これに対して、商品券流通の支援策として、手当を商品券化することで納得してもらったのだ。もちろん、商品券で支給される側から反対の声は出たが、個々に議論を交わし最終的には地域のためと納得してくれた。
増加した商品券のうち、実際に納税などに使われたのは10%以下。残り90%が買い物に使われる。使用できるのは加盟店に限定されるため、増加分は商店会の売り上げ増加につながることになる。
また、06年度の商品券売上実績から、役場の購入分1232万円を差し引くと432万円となる。施策実施前の05年度実績179万円から増加。「スタンプ券同様に、商品券の利便性が広がったことから地元で利用促進が進んだ」(鈴木事務局長)ことは間違いないようだ。
町役場が商品券の流通を支援するにあたり、商工会では加盟店の増加に取り組んだ。利用できる店を増やすことで、流通量の増えた商品券に対する便を図ると共に、スタンプ券の利便性をアップさせるためである。
これを具現化するために、新たに設けたのが前出の矢祭町商工会準会員だ。正会員に比べ換金の手数料率は高いが、年会費が不要で商品券利用による売上増が期待できることから加盟が相次いだ。
商工会は商品券利用者の利便性を高めるため理容業や飲食店、タクシー会社など、それまでの正会員には少なかった業種へ積極的に声をかけて加盟数を増やしたという。
現在、正会員37店と準会員55店の計92店舗でスタンプ券と商品券を利用できる。これは矢祭町商業者の8割弱を占める状況で、地元商店会活性化の素地づくりに役だったといえる。
「商工会としては、準会員の正会員化や加盟店の増加などに尽力することで、さらなる活性化へつなげていきたい」(鈴木事務局長)。
実現のための2つの課題
そもそもポイント納税制度導入のきっかけは、「『町民ふれあい列車の旅』の費用負担に、たまったスタンプ券を使えないか」という矢祭町商工会女性職員のひと言だった。
町民ふれあい列車の旅とは、矢祭町が主導するイベント。町中を通る主要公共交通機関であるJR水郡線を利用して東京方面へ観劇にいく催しだ。水郡線の廃線論が持ち上がった際に、同交通機関の存続を支援しながら地域振興を目指すことを目的に開催されるようになった。
毎年400名以上が参加する一大イベントだが、参加費用が1人当たり2万円程度かかる。これに対して、同イベントに参加した商工会の女性職員がつぶやいた言葉が、前述のアイデアだった。
これを聞いた町役場の職員が「税金や保育料、水道料金の支払いにも使えればもっと便利」と、さらにスタンプ券の多目的利用のアイデアへと広がり、正式な施策として提案。根本前町長が「それは面白い」と即断し06年8月に、相談からわずか9日間で施策がスタートしたという。

実は、10年ほど前にも矢祭町ではスタンプ券による納税制度の施策案が持ち上がったが、実現しなかった経緯がある。「地方自治法の壁」と「行政との連携」という2つの課題があったことが理由だ。
ポイント納税制度の実現で、クリアしなければならない点が地方自治法の壁。仕組み自体はスタンプ券や商品券を納付書と一緒に役場の窓口へ持参すればいいわけだが、「納税は現金または有価証券に限る」と法律に規定されているため、スタンプ券や商品券のままでは税金や公共料金として納められない。
そこで、矢祭町では以下のような仕組みを取り入れた。納付書、現金とスタンプ券(または商品券)を窓口でいったん預かり、納税者には預かり証を渡す。町職員は持参者に代わってスタンプ券を小切手や現金化し出納手続きを行ない、預かり証と引き替えに領収書を発行するという流れだ(図2)。
スタンプ券や商品券の現金化から納付まで、一連の手続きを町職員が代行することで法の壁を解決したわけである。
信頼関係も制度実現では重要
ここで欠かせないことが、第2の課題である「行政との連携」だ。ポイント納税制度の実現に、コストはほとんど必要ない。だが、一方でスタンプ券や商品券の換金手続きなど役場には新たな負担を強いることになるからである。
もちろん、行政にとってもメリットはある。「スタンプ券やポイントで納税できることで、税金の徴収率アップにつながる」(矢祭町役場・自立総務課総務グループの本田覚主幹兼総務グループ長)と、税の滞納額減少への寄与が期待されている。
ただ、こうしたメリットは微々たるもの。やはり、「商工会側から行政へ強く要請することが重要であり、行政も商工会も負担増をいとわず、地域活性化のためと考えて動くことが欠かせない」(鈴木事務局長)という。
この点、矢祭町では職員の自宅に役場機能を持たせた「出張役場制度」が町内に定着したことが大きい。これは住民票の申請や公共料金の支払いなどを、職員の自宅を窓口代わりに受け付ける制度。いわば、行政手続きを職員が代行するという考え方の元で実現されている。
「出張役場制度は、町民と町職員の信頼関係や町民のために動くという考え方を育んだ。これが町全体に浸透したことで、スタンプ券を預かって納税手続きを代行する仕組みをスムーズに導入できた」(本田主幹)。
こうした点を踏まえると、ポイント納税制度は信頼関係を築きやすい小さな町村にこそ向くといえるのではないだろうか。いずれにせよ、矢祭町をはじめポイント納税制度を実施している自治体の挑戦は始まったばかり。今後の展開に注目していきたいところだ。
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