2006.07.20
「地域SNSサイト」で活発化する地元住民のサークル活動

IT活用事例 自治体編
熊本県八代市
[ 写真 ] 人口約14万人を擁する八代市の市庁舎
全国の自治体が注目!
「地域SNSサイト」で活発化する
地元住民のサークル活動
●不振だった市民向けコミュニティーサイトをSNS化
●アクセス数は従来の6倍強となり、書き込みが急増
●多くのサークル活動が生まれ、特に子育て中の女性が活用する
●崩れる地域コミュニティーを下支えする仕組みとして全国が注目
人口約14万人の小さな自治体の試みが全国に広がろうとしている。熊本県八代市が運営する地域SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)「ごろっとやっちろ」のことである。市民のコミュニティー活動を支援するWebサイトだ。
「ごろっとやっちろ」のトップページ。個人のポータルサイトとなっている
一般のポータルサイトのように、誰もが匿名で自由に参加できるオープンなネット空間に対し、SNSサイトは閉鎖的な空間。会員の紹介がないと参加できず、「友達の友達はみな友達」式に、誰が誰を紹介したかの系譜をたどれる仕組みだ。
また、一般にSNSサイトでは多少とも個人プロフィールを公開することがマナーとされ、実名登録の会員も少なくない。そのため匿名で会員登録しても、紹介の系譜の中では、どこかで実名の誰かと関係してくる。
つまり、SNSは現実の人間関係(社会性)をネット空間に持ち込んでいるのだ。その上で個人が自分のページでプロフィールや日記を公開したり、特定の関心事を持つ会員同士が集まって情報交換したりする。
オープンなネット空間では、匿名性による自由の代償として誹謗中傷やデマ情報が横行しやすい。それに対してSNSは、ユーザーが社会性を意識するので最低限の秩序が保たれる。この点が受け、国内の代表的なSNSサイトである「mixi(ミクシィ)」は、2004年2月の事業開始から2年で270万人の会員を集める。
匿名性が情報交換のネック
では、八代市はなぜSNSを活用するようになったのか。情報推進課情報推進係の小林隆生氏は「SNSを始める前から市民向けコミュニティーサイトを運営していたが、アクセス数が伸び悩み、書き込みが非常に少なかった。そして自分自身がmixiに参加してみて、これなら、我々が抱えている問題を解決できるのではないかと思った」と話す。
ネットを使って市民の交流を活発化させようという試みは、多くの自治体が取り組んでいる。八代市も初代「ごろっとやっちろ」を2003年4月に開設。匿名でも会員登録でき、メールや掲示板、サークルなどグループウェア機能により会員同士が情報交換を行なえるものだった。
だが、1年たっても同サイトへの平均アクセス数は月1万件弱と市公式サイトの半分以下だった。書き込みを行なうユーザーも限られ、何十人という月もあった(これは八代市に限った現象ではなく、自治体が手がける市民向けコミュニティーサイトはどこも似た状況だろう)。
そんなとき小林氏はmixiに参加。同サイトの利用が進まない根本原因は匿名性にあると気づく。どこの誰か分からない者同士からサークルは生まれにくい。匿名掲示板は「2ちゃんねる」に見られるように独特な文化があり、初心者は気後れして書き込みにくい。そうなると情報が増えず、アクセス数も伸びない。
「SNSしかない」と感じた小林氏は早速、1カ月ほどをかけ自分でプログラムを書き、実物を見せて市上層部の了承を得る。こうしてSNS版「ごろっとやっちろ」は2004年末に新装オープンした。国内の自治体が運営する初のSNSサイトだった。
新サイトは自由登録からSNSの柱である紹介制へ。初心者でも気軽に書き込める「日記」、サイト上で友達関係を広げられる「ともだちリンク」、所属するサークルのメンバーへ情報を伝達する「回覧板」といったサービスが追加された。会員が日記などを通じてサイト上に自分の“占有空間”を持ちながら、他者との“つながり”を強く感じられるサイトに仕立てた。仕掛けの充実度は、商用のmixiにも劣らないだろう。
SNS化でアクセス数6倍
結果からいえば、小林氏の目論見は当たった。新サイト開設から1年が過ぎ、30代から40代を中心に会員数は約2000名。月間アクセス数は以前の6倍以上となる6万件に達し、市公式サイトを追い抜いた。各サービスで書き込みを行なうユーザーの合計は、従来と比べものにならない月間5400人にまで増えた(いずれも2006年2月実績)。
新サイトの存在を宣伝したわけではない。1人の会員が友達をサイトへ招待、その友達が別の友達を招く口コミで自然に増えていった。また、友達の日記にはコメントしやすい。自分の日記にコメントが付いていると、毎日書き続ける励みになる。この連鎖で書き込みも増えていった。
各会員はサイト上でどんな友達関係を持っているかが分かり、
友達のプロフィールも確認可能
新サイト上では、特定の関心事を持つ会員同士が集まるサークル活動が活発になった。これがSNS化したことの最大の効果という。会員なら誰でもリーダーとしてサークルを立ち上げ、逆にメンバーとして参加できる。現在、80ほどのサークルが稼働しており、それぞれ専用ページで情報交換を行なっている。
「ごろっとやっちろ」上で稼働しているサークルの一覧画面。
サークルの趣旨やメンバー構成が分かる
サークルには、サッカーや音楽といった趣味のものから「まちづくり」など地域に立脚するものまでさまざまだが、特に、子育て中の女性が集まるサークルが活発だという。
「最近、地方でも人間関係が希薄になっているが、実際は、他人とのつながりを欲している人はたくさんいることが分かった。特に子育て中の女性は相談相手を求めている。SNSならサークルメンバーのプロフィールや友達関係が見えるので、サークルに参加しやすい」(小林氏)。
地域でSNSを手がける「地域SNS」 の特徴は、コミュニティーがネット上に限られず、現実世界へも広がりやすいということ。会員同士が顔を合わせようと思えば、いつでも合わせられる距離にいる。オフラインでも交流しているサークルが多いという。一方、就職などで地元を離れた人たちの中で、地元とのつながりを保とうとサイトに参加しているケースもある。これは、物理的な距離が関係ないネットの便利さだ。
小林氏は「ごろっとやっちろ」の今後についてこう語る。「地域で商売をしている人たちにも参加してもらうため、ショッピング機能を加えることを考えている。また、地域SNS同士の連携も考えていきたい。やることはまだまだある」。
現実世界にかなり近い地域SNSの場合、SNSが目指す健全な社会性を超えた“しがらみ”が生じやすく、自由さが損なわれる可能性もある。それでも、希薄化する地域コミュニティーをSNSで活性化するという試みは興味深い。
実際、八代市の取り組みは注目を集め、総務省も2005年末から「地域SNS実証実験」を開始した。東京都千代田区、長野県長岡市が実験に参加するが、そこで使われるシステムは八代市が「ごろっとやっちろ」で使うプログラムをオープンソースソフトウェア(無償入手でき、自由に改変・再配布できるソフトウェア)として提供したものである。
2ちゃんねるでもブログでも商用SNSでもない地域SNSという新しいネット空間が全国に広がりそうだ。
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