2008.02.20 (シャニム22号掲載)
無料ソフトで構築した庁内SNS 職員の情報交換と共有に威力!
IT活用事例|自治体編
福井県
無料ソフトで構築した庁内SNS
職員の情報交換と共有に威力!
●ITで縦割り構造を打破し、地方行政の効率的な組織運営の実現目指す
●庁内SNSを活用した「crab net」で職員の情報交換を可能に
●庁内版ウィキペディア「crab wiki」で暗黙知を共有
●政策推進化の職員が無料ソフト駆使して開発費を抑制
「庁内に埋もれているアイデアや意見を吸い上げ議論や情報を共有し、効率的な組織運営を実現したい」と語るのは、福井県総合政策部政策推進課の澤崎敏文企 画主査である。
行政の組織スタイルといえば、いまだ縦割り構造が一般的。民間企業以上に職員間の情報や備品などの流動性が低い。こうした組織構 造を打破することを狙いに、07年10月から本格稼動させているのが「福井県職員政策フォーラム(crab net)」だ。
crab netは政策形成を目的とした職員同士のネット交流の場で、独自の庁内SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)により実現された。これと共に庁 内に散逸した情報を蓄積する場として、「crab wiki(クラブ・ウィキ)」を構築。2つのツールを活用することで、行政組織の効率的な運営を目指している。
まず、crab netの詳細から見ていこう。前述したように、システムのベースはSNSだ。SNSとは、人のつながりを促進・サポートするコミュニティ型サービスで、民 間では「mixi(ミクシィ)」(*1)が最も有名だろう。
福井県の庁内SNSの仕組みも、基本的には民間会社のサービスと同じだ。IDを入力 して庁内イントラネット(*2)にログインし、実名や所属する課などプロフィールを設定すれば利用可能。民間SNSが備える同様の機能もそのまま使える (*3)。
約4000人いる全職員が事前にID登録(*4)されており、業務時間内も含めて自由に書き込みが可能だ
庁内のイ ントラネットに限定した運用により外部のネットリスクにさらされる危険を避けるなど、セキュリティにも配慮している。
(*1)民間で最大規 模を誇るSNSサイト。ユーザー1人当たりのサイト滞在時間は国内トップ。運営会社の株式会社ミクシィは06年9月に東証マザーズへ上場
(*2)企業内ネットワーク。外部ネットワーク(WAN)につながっていない閉域網
(*3)SNSには会員のプロフィールや写真の公開機能、メールアドレスを知られることなくメッセージを送信できる機能、コミュニティ機能、アドレス帳や 日記帳、予定などを書き込めるカレンダーなどコミュニケーションを円滑にするための様々な機能から構成されている
(*4)最大規模のmixiが紹介制を採用していることから、SNSが紹介制であると誤認されているが、登録制を含め複数の仕組みがある
電子 掲示板から庁内SNSへ
もともと電子コミュニティのツールとしては、06年7月から「電子掲示 板」を利用した仕組みを稼動させてきた。SNSへ移行する時点での累計アクセス数は20万件、1日最大7000件近い利用があった。ここでの議論を通じ て、同県の恐竜ブランド(*5)を生かした環境省との共同ロゴ開発など成果も生まれている。
では、なぜ庁内SNSへと移行したのか。 「所属や役職に捉われずにアイデア本位で自由に議論できる反面、匿名投稿のため当事者意識に欠け建設的な意見が少なく、実現性が低い空論に終始するケース も多かった」と澤崎企画主査。「批判的な意見が書き込まれることもあり、全職員によるブレインストーミングをしたいとの思いからも外れてきた」と続ける。
こうした課題を解決できるツールとして注目したのが、SNSが持つ「実名性」や「コミュニティ機能」といった特長だった。
実名参加が原則の crab netでは書き込みをした職員が明確になり、責任ある深い議論が可能だ。民間SNSでは実名とニックネームなどを併用しているが、責任所在の明確化から実 名を参加要件としたという。
ただ、実名参加とすることに抵抗を感じる職員もいる。これが原因となって自由度が抑制されることを防ぐた め、「コミュニティ機能」を最大限に活用している。
コミュニティ機能とは、自由にテーマ設定をして会員同士が交流できるSNS内の集まり。全メ ンバーが自由に参加できるオープン形式の他、テーマ設定者の承認を前提に公開範囲や参加者を限定することも可能だ。
「限られた職員だ けで議論できることから、気兼ねなく自由に意見交換できる。さらに、一方通行になりがちな電子掲示板に比べ、庁内SNSのコミュニティでは参加職員が全員 で情報共有できる。この点、気軽に利用できるグループウエアとしても重宝している」(澤崎企画主査)
また、SNSはPDFファイルや画 像など資料を添付することもでき、より深い議論につながっているという。
実際、稼動2カ月足らずで特定業務関連の課横断プロジェクトや出先機関 の勉強会などをテーマに14のコミュニティが生まれている。
運用面では課題もある。例えば「書き込み基準」だ。SNSの利点はメンバー が自由にテーマ設定や書き込みができること。福井県でも職員の積極的な参加や議論の活発化を促すため書き込み基準は原則自由。内容の判断は利用者に委ねら れることになる。
自由度が高いとはいえ、crab netの主眼は政策形成という業務利用である。職員もどの程度の内容までが許容されるのか判断に迷うところ。そこで、現在は最低限の内容チェックを行なっ ている。
「業務である以上、最初は内容をチェックしながら運営していくことも必要。最終的には職員の良識に任せた自由な話題も書き込めるよう にしたい」(澤崎企画主査)と模索中だ。
(*5)福井県は国内の8割以上の恐竜化石を出土。国内初の新種も発見されており、地域資源として“恐竜”を同県のブランドとして県内外にアピールしてい る
庁内に散らばる暗黙知を共有
一 方、crab wikiは業務に関わる暗黙知を形式化し、全職員で情報共有する場。複数人でサイトを共同構築できるwiki(*6)ツールをベースとした仕組みだ。同じ 仕組みとしてはネット上のフリー百科事典「wikipedia(ウィキペディア)」が有名で、crab wikiはその庁内版ともいえる。
行政内の業務は形式的に処理できると思われがちだが、実際にはマニュアル化されていないものも多い。カラーコピー機やデータプロジェクターなどの備品、公 用車や会議室などの利用が好例だ。
例えば、データプロジェクターなどは各課の予算で購入されていることが多く、配備先が限定されている。このた め他の課が借りたい場合、手当たり次第連絡を取り配備先や空きなどを確認する必要がある。公用車や会議室なども集中管理下にないため、効率的な運用ができ ていない。
こうした情報を分かる範囲でcrab wikiに掲載。閲覧した他の職員が情報を追加していくことで、内容が充実していくというわけだ。実際、「備品の保管場所」や「公用車・会議室の管理先部 課」以外に、便利だが存在があまり知られていない「封筒シール機」の所有情報、実務内容に則した項目なども書き込まれ始めたという。
「個々の職員が有する知識やノウハウを、この庁内版ウィキペディアに集積したい」と澤崎企画主査。「引継ぎ書にはない業務の進め方やコツなどのノウハウを 蓄積できれば、人事異動の際に生きたマニュアルとして役立つ」と期待を寄せている。
実は、これら両ツールともシステム構築にコストは、 ほとんどかかっていない。政策推進課の澤崎企画主査が中心となり、無料ソフトを駆使して作り上げた。SNS、wikiとも無料ソフトが数多く用意されてお り、選択に困ったほど。庁内SNSにはシステム連携性の高さ、So-net(*7)にも採用されている安心感から「OpenPNE」(*8)を採用し、 wikiではPDFへの変換機能を備えた「FSWiki」を選択した。特に、後者の採用は庁内に根強く残る紙文化に配慮してのことだ。
サーバーなどのハードが必要となるが、福井県では庁内サーバーの空き容量を活用したため未購入。こうした努力により、民間企業に委託すれば「少なくとも数 百万円はかかる」というコストを抑制した。
これは特殊事例ではない。「無料ソフトの完成度は高く、サイトのレイアウトを少しカスマイズした程 度。ネットワーク構成やハードの設定などが必要だが、多少のIT知識があれば十分。広い庁内には、知識のある職員はいるものだ」(澤崎企画主査)。
「将来は、メールや基幹業務関連などのシステムとも連携させたい」とのこと。福井県の取り組みは自治体のみならず、民間企業にとっても参考になりそうで ある。
「福井県職 員政策フォーラム(crab net)」のコミュニティ機能を利用した画面。
基本的なレイアウトなど、民間のSNSと変わらない。
それだ け無料ソフトの完成度が高いことを示す
(*6)ウェブページの発行や編集などが簡単に行なえるコンテンツ管理システム。サ イトの共同構築を目的としており、閲覧者がページの修正や追加を自由に行なえることが利点。パスワードにより編集制限も可能である
(*7)ソニー コミュニケーションネットワークが運営しているインターネットサービスプロバイダー
(*8)パソコンとモバイルの双方に対応可能で、豊富なSNS 機能を搭載した無料ソフト。様々なサーバー環境に適合する
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