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2008.05.20 (シャニム23号掲載)

農業専用ITからりネットで 食の安全と農業の活性化/愛媛県喜多郡内子町

自治体編
愛媛県喜多郡内子町

農業専用IT「からりネット」で
食の安全と農業の活性化を両立

 

年間7億円を売る巨大直売所「内子町フレッシュパークからり」
成長の原動力は、POSを使った販売情報管理システムの導入
農作業中でも携帯電話使って売れ筋や残品をリアルタイムに確認
農家の自立意識や経営感覚が芽生え農業活性化の一助に

  「町内にある3店のスーパーマーケットがライバル」。こう語るのは、第3セクターとして運営されている「内子フレッシュパークからり」の 本厚美社長だ。 地元農産物を集めた直売所を核にレストランやオリジナル加工品の販売などを展開。07年度末の売り上げが7億円近くにも達する一大直売所である。
  成功要因としては、直売所には珍しくレストランやイベント開催、自然環境を活用したいやしの提供など、集客や滞在時間を増やす工夫を取り入れていることが あげられる。

 だが、事業の中心は売り上げの70%以上を占める地元農産物の販売。これを支えているのが、全国の自治体や直売所の関係者 のみならずIT企業さえも視察に足を運んでくる「からりネット」だ。
 素朴で地味なイメージが強い農産物直売所だが、徐々に情報化が進んでいる。 現在、全国の直売所の約2割でITが利用されているといわれ、その中でも“からり”は草分け的な存在として注目されている。

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80歳の 高齢者が携帯を駆使

 からりネットとはPOS(販売時点情報管理)を使った直売所と農家をつなぐ販売 管理システムのことで、農家は出荷した農産物の売れ行き状況や残品をリアルタイムに把握できる。
 導入の意図は作業の効率化や先端技術導入による 農業のイメージアップなど様々だが、大きな狙いは「農家に販売者としての意識を喚起し商品力を高める」ことだ。一般的に、農家は生産した農産物を農協など に出荷した時点で仕事が終了するため、基本的には生産者視点しか持ち合わせていないことが多い。

 これに対して、直売所は生産者である農 家と消費者が直接向き合える場所。ITを駆使することで、「(消費者とのつながり)を強く意識できると共に、売る楽しみを感じてもらえるのではないか」と 考えたのだ。
 そこで、手書き伝票や残品を元に手計算していた売り上げの農家別精算が、会員農家の増加と共に限界に達したタイミングに合わせて情 報ネットワークを構築した。

 具体的な仕組みはこうだ。①出荷作業、②販売、③販売情報の送信、④追加出荷——このサイクルを繰り返す。
  まず、①出荷作業では農家は朝、店舗のパソコンで生産者名や値段などが印字されたバーコードシールを作成し、それを農産物に貼って店頭に並べる。
  バーコードシールはトレーサビリティー(囲み参照)に対応。消費者は農薬の使用履歴など栽培情報を店頭などで確認することができる。

 農 産物が②販売されると売り上げはPOSシステムで集計され、農家別の販売データとして蓄積。1時間ごとに携帯電話をはじめ、FAXやパソコンなど各農家の 端末へ③販売情報の送信が行なわれる。電話機から販売情報を聞くことも可能という。
 最も多用されている端末は、やはり利便性の高い携帯電話だ。 農作業中に畑の真ん中で、携帯電話を操作する姿が至る所で見られる。それこそ、80歳を超えようかという高齢者が当たり前のように携帯電話を駆使している 様は圧巻だ。

 販売データからは残品数だけでなく、販売額や売れ筋なども分かる。これらの情報を元に、農家は④追加出荷するかどうかを判 断。追加する場合には、農産物を店に持ち込み改めて①出荷作業を行なうわけである。
 畑で農作業中なだけに、追加出荷を決めたら採れ立ての農産物 をトラックに積み込んで店に持ち込む。その新鮮さはスーパーが及ぶところではない。からりネットの導入以前は午後になると品薄になるという課題を抱えてい たが、「今では1日に5回も追加出荷する農家も少なくない」と、それも解消された。

 また、農家に経営感覚や競争意識が芽生えたことも、 「売る楽しさを感じてもらいたい」という最初の狙い通りとなった。漠然と農産物を出荷するのではなく、売れ行きを見ながら店頭に並べる品種を日によって変 える。売り上げがいい他農家の商品を参考に、値付けや味などを工夫する農家も増えてきたという。
 今や、430戸(08年3月末時点)の会員農家 が同システムを活用。“からり”成長の原動力となっている。

からりネット[ 写真 ]
左上/「内子フレッシュパークからり」には年間約60万人が訪れる。このうち9 割以上が町外からの消費者だ
右上/約800種類の農産物が、日替わりで店頭に並ぶ

左下/「地元産だけなので、ない農産物もたくさん ある。それでも新鮮さを求めてお客さんは来てくれる」
右下/自然環境を生かした“いやし”空間を提供することで、リピート率や滞在時間アップに取 り組む

 


行政主導で 成功した事例

 とはいえ、こうした仕組みは「一気呵成に導入できたわけではない」とのこと。「直売所 に参加する農家は女性や高齢者が多い。いきなりシステムを整えて、どうぞ使ってくださいではうまくいかない」と続ける。
 実際、“からり”も10 年をかけて現在の形を作りあげてきた。そもそも営業を始めたのは94年。当時、町役場で産業課の課長だった 本社長が先頭に立って、町内農業の活性化の一 助として取り組んだことがきっかけだった。

 直売所の立ち上げでは、女性や高齢者の参加に主眼を置いた。農家の男性は農作業に忙しく、比 較的時間に融通のきく女性に活躍してもらうことが販売成功につながると判断したからだ。さらに、「農業を楽しくお洒落に楽しんでもらうには何か魅力が必 要」と、当初からITの活用を視野に入れていたという。
 だが、周囲からは「行政が主体の取り組みで成功した例はない」「年寄りに難しいITの操 作をさせるのか」といった批判の声ばかり。町役場の職員達は、段階を踏みながら導入を進めていった。

 すでにPOSをベースにしたシステ ムはいくつもあった。だが、女性や高齢者が使いやすいシステムを構築するため、パソコンに詳しい職員がソフト開発会社から資料を取り寄せ、96年に自分た ちで独自システムを作りあげた。開発は外部に委託。大きな会社では要望を聞き入れてもらいにくいと、小回りがきく地元の小さなソフト会社と二人三脚でシス テムを開発、拡充してきた。

 送信端末も、最初は専用の多機能FAXからスタート。そこから一般FAXやパソコンへと広げ、03年に携帯 電話にも対応したのである。
  「ほとんどの高齢者は最初、端末の扱いに不安を覚える。しかし、使いやすいように改良し操作も懇切丁寧に教えれ ば、その便利さに驚きすぐに使えるようになる」。これが、80歳を超えるお年寄りが当たり前のようにITを使いこなす理由といえそうだ。

  ある会員農家は、「これまではすべて農協頼みだったが、自分たちで何とかしようという自立意識を持てるようになった」と語る。内子町の農家は約2400 件。「将来は3分の1くらいにまで増やして、この町の農業を引っ張っていきたい」と 本社長。“からり”の事例は、厳しい現状が続く地方の農業政策に1つ の方向性を示しているのではなかろうか。

 

 

トレーサビリティーにも早くから対応

  「内子フレッシュパークからり」の立ち上げ時に掲げられたテーマの1つには、安心・安全の提供も含まれていた。
 これを実現するため、05年3月 にはトレーサビリティーシステムを整備。会員農家は、農薬の使用などの栽培情報を登録しなければ、商品を店に出荷できないようになっている。
 し かも、自前の監査委員を設置しており残留農薬検査など定期的なチェックを行なうことで、徹底した安全体制を整えている。

トレーサビリティー

トレーサビリティー情報の 栽培履歴を登録するためのOCR用紙。手書きとの併用で操作を分かりやすくしている。録された栽培情報はサーバーに蓄積。消費者が直売所の店内にある端末 機にバーコードをかざすと、当該農産物の生産者名や使用した肥料などの情報が分かる仕組みだ。

 

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