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2009.05.20

元航空機機長が綴る熟年起業奮戦記

元航空機機長が綴る「熟年起業奮戦記」

熟年起業の計画書をたずさえ
いよいよ銀行との交渉を開始

㈱ 竹資源開発 会長
田中一男

 航空 会社を定年退職した私は、サラリーマン時代の多額の銀行ローン返済が、たびたび滞るようになりまして。そしてついに銀行から「返済計画書」の提出を求めら れてしまったのです。
 退職後は収入の目途がたっていませんでしたので、「返済計画書」の書きようがありません。事実上、自己破産勧告の最後通牒 を突き付けられたのでした。

 現役時代は、航空事故や航空安全のリスクマネージメントの指導者として、それなりの業務をこなしていまし た。しかしながら、自分の個人的な危機管理は、まったくできていなかったことを痛感しました。
 現役時代に退職後の返済が困難なことを冷静に判断 できていれば、自己破産は退職前に決断するべきでした。定年退職前であれば、すべての担保物件を銀行へ引き渡せば、借入残額のすべてが免責になり、その後 の支払いは免除され、給与や退職金は保全できたはず。老後の生活はそれなりに可能だったわけです。

 しかし、時すでに遅し。退職金や預金 をローン返済に充ててしまっていたので、今さら破産しては、前途は想像もできません。そんな状況に追い込まれてしまったのです。

眠れ ぬ夜

 この難局をどう切り抜けることができるか−−。その夜は眠ることができず、これまでの数年間 の生活が走馬灯のように思い出されました。
 不動産ブームのころ、業者の甘言に乗せられ賃貸マンション投資に手を出して、多額のアパートローンを 借り入れたことが悔まれました。

 メガバンクのいいなりに変動金利で借り入れたローンの利子は、政府の不動産ブームの過熱を抑えるための 政策で高金利となったのです。ローンを払っても払っても、元金が減らない仕組みになっていました。そして多額のローン残高を背負ったまま退職し、収入源を 失ってしまったのです。
  「ローンを返済するためには、熟年起業に挑戦するしかない」−−。そう覚悟を決め、いろいろと勉強を始めました。
  このことを知った友人からは「しょせん、武士の商法だ。飛行機のことしか能のない者には、ビジネスの成功率は低い。悠々自適の生活ができただろうに」との 冷やかな忠告が浴びせられました。
 私はローン返済で追い詰められていることなどおくびにも出さず、「ゴルフもマージャンもできない俺が隠居など できないよ。これからは環境保全の時代だ。森林伐採から樹木を守る環境ビジネスをこれからの生き甲斐に残りの人生を掛けるつもりだ」と強がりをいったもの でした。


熟年起業の計画書

 返 済計画書の提出を求められた私は、意を決しました。返済計画書の代わりに事業計画書を提出して、運を天に任せて時間を稼ぐことにしたのです。
 そ の当時、地球環境に貢献できる可能性があると見込んで経営を支援していた「竹資源開発株式会社」という零細企業がありました。

 ここの社 長は竹には詳しいが商売はからっきしダメで、累積赤字が膨らんでいたのです。この会社の株式を譲渡してもらうことを前提にした、事業計画を書き上げたので す。
 銀行の応接室で「返済計画書」の代わりに「事業計画書」を広げて、必死にプレゼンテーションを行ないました。

  「具体的 な返済計画書を提出できなければ、銀行としてはすべての権利証を提出するようにいわれるでしょう。ですが今は不動産相場が下落しており、銀行の損失が確定 してしまいます。私は自分の能力で全額を返済しようという事業計画書を書いてきました。どちらが銀行の利益なるでしょうか」と話し始めたのです。

   「森林伐採により、CO2濃度が高まって温暖化が進み、地球環境が悪化しています。森林伐採を抑制するには、木材の代替品として竹があります。竹は3年 で成長する無尽蔵なエコ資源。竹資源を活用すれば、その分、森林が救えます。地球環境に貢献できる竹産業は、必ず成長するはずです」と力説しました。
  そして「会社を軌道に乗せて役員報酬でローンを完済するので、銀行としても支援してほしい」と懇願したのです。

 銀行の担当者は「事業計 画書」を一べつしただけで、後は私の説明を聞いていました。
 そしてプレゼンテーションが終わると「銀行としてはローン引き落とし日にきちんと引 き落としができれば問題なしです。もし2回続けて引き落としができないと、ブラックリストに載り、銀行の手を離れますので十分注意してください。そうなる と協力は不可能となります」と事務的な対応でした。

 しかし、ここで引き下がっては万事休す。「今の私には毎月の支払額があまりにも大き 過ぎます、何とかならないものでしょうか」と食い下がりました。すると、「では、今日現在のローン残高全額を繰り上げ返済しませんか」と、とんでもない逆 提案がかえってきたのです。

  「えっ」と絶句すると、「現金を用意してくれというわけではありません。同額を新たに融資しますので、そ れで繰り上げ返済をするのです。ちょっと計算しますのでお待ちください」といい残し、応接室を出ていきました。
 しばらく待つと1枚の計算書を 持ってきました。「長期プライムレート(最優遇貸出金利)で返済期間を延ばし、金利も優遇して計算しますと、この程度になります」と提示された毎月の支払 額は、かなり減額されていました。

 ただし、これを実行するには手数料がかかるとの説明。「それでも、よろしいですか」との問いに、もち ろん二つ返事で「はいはい」と同意し、借り換えの手続きをすることになりました。

 

竹の可能性に賭けることを決意△竹の可能性に賭けることを決意
(copyright:http://p-fan.net /)

ゴールドカードを返納

 銀行の事務 のからくりで、こんなにも支払いが軽減されるものかと驚きました。そして驚きながら次の課題に移ったのです。
  「毎月の支払い額をもっと下げた いので、賃貸物件を個別に処分したいのですが、今は一括担保となっているため、時価評価500万円程度の一筆の不動産に1億2000万円もの抵当権が設定 されています。これでは買い手が見つからない。何とかならないでしょうか」

 すると「ご自分で買い手を探し、売買契約の前に連絡をくださ い。先方には売買実行時に抵当権は抹消すると確約をしてもかまいません。ただし、売買代金はローン返済に充当する条件です。不動産売買が成立したら、その 代金を繰り上げ返済の原資にして、その都度、借り換えの手続きをしましょう」というのです。これで自己破産の危機は遠のいたと安堵しました。

  事業計画書は大して評価されなかったのですが、もともと「返済計画書」の代わりに急きょ書き上げたものなので、時間稼ぎの小道具と思えば効果はあったと自 分なりに納得しました。何よりも人前でプレゼンしたことで、熟年起業への決心が固まったのでした。
 自己破産はひとまず回避できたと確信できたの で、礼をいって席を立とうとしたのですが、その際に投げかけられた言葉に心の準備がありませんでした。

  「ゴールドカードをお持ちです ね」 
  「はい」
  「それを返納してください」

 このカードは現役時代に給与の受け取り口座をこの銀行に開設してお り、優良顧客としての一種のステイタスシンボルとして利用していたものです。いつでも無審査で数百万円を引き出せるのですが、それを返納するよう要求され ました。

 予想もしていなかった要求だったので、一瞬「なぜ?」と思ったのですが、一呼吸後に事態を悟りました。
 一度でもロー ン支払いが滞った客は、もう優良顧客ではない。もしこれ以上借金を増やされたら自己破産の可能性が高まり、銀行も困るということか。長年のプライドが傷つ いた瞬間でした。

 その後は、銀行の事前の了解を得て不動産を処分するたびにローンの借り換えを繰り返しました。返済期限の延長と金利の 優遇で毎月のローン返済額も当初の3分の2、2分の1、3分の1と次々に軽減され、借入残高も急速に減少しました。(続く)

 

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