2010.02.28 (シャニム30号掲載)
元航空機機長が綴る熟年起業奮戦記(最終回)
元航空機機長が綴る「熟年起業奮戦記」(最終回)
熟年起業、3つのポイントは
「ニッチ」「自己資金」「一代限り」
㈱竹資源開発 会長
田中一男
開店休業状 態の現実
サラリーマン時代の多額の銀行ローンを返済できないまま、定年退職を迎えたことによる自 己破産の危機。
これを熟年起業の事業計画で乗り切り、何とか銀行の協力を取り付けて会社を設立しました。
会社は軌道に乗り、 ローン返済も順調になって借入残高は見る見る減少しました。自己破産の危機回避ができローン返済の目途が立ったことから、目的を果たしたと思った私は、営 業譲渡して長男に新会社を設立させ、ビジネスの第一線から一度は引退しました。
しかし新会社は製品製造を委託していた中国工場の倒産を 引き金に、経営状態が急転。民事再生の瀬戸際に追い込まれてしまったのです。
社長の長男をはじめ、取締役全員が退任届を提出。結局は代 表取締役会長で連帯保証人である私だけが後始末を引き受ける羽目になりました。
金融機関からの借り入れをどうにか返済し、何とか民事再 生は免れたものの、私は精神的な打撃から勤労意欲が減退。本業の竹フローリングのビジネスは開店休業状態となってしまいました。
竹資源開 発の反省点
しかし、このまま老後を無為に過ごすことは、人生の敗北が決定付けられてしまいます。 その思いから、新会社が短期間のうちに経営不振に陥り、民事再生の土壇場にまで追い込まれてしまった原因と結果を反省してみました。
民 事再生は免れたものの、事業に成功したとはとてもいえない現状を反省して、何がよかったのか、何が悪かったのか。冷静に振り替えることにしたのです。
まず「熟年起業」というキーワードと、森林伐採抑制のため、木材の代替品として竹フローリングを供給するというビジネスモデル。この2つがマスコミの注目 を集め、広告宣伝費を使わずに企業と商品の知名度を上げられたことはアイデアとして有効だったと思います。
しかし、零細企業のもう1つ の重大な問題が「事業継承」でした。
一般論として、創業者や現経営者が高齢や病気などで経営から退くとき、経営をどう引き継ぐか。
通 常は長男などが候補にあがるでしょう。しかし、相当の力量がないと事業継承できないのが実情です。
しかも、借り入れが大きいと引き継ぎ を辞退されることもあります。そうなると早晩企業は倒産する可能性が高まってきますが、企業がなくなっても債務は残り、家族が破産の憂き目にあうことにな りかねません。深刻な問題です。
そして、私自身はまったく自己の危機管理ができていなかったのが実情です。
サラリーマン時代 に多額のローンを借り入れたのですから、退職前に自己破産などで定年後の借財がなくなるように清算すべきでした。しかし、そのことに気が付かなかった自分 の迂闊さが、定年後の苦労の出発点でした。
自己破産は一時の不名誉な行為ですが、その後の安定した老後を望むのであれば、早い時期に思 い切って借財を整理すべきです。それも退職金を受給する前です。退職金を借金の支払いに充てるのは愚かなことだと断言できます。
その愚 かな選択をしたのが私です。
事業承継の重要性
苦労し て起業した会社が順調に伸び、ローン支払いも軌道に乗り、1億円以上を返済したことに安堵して、安易に長男へ事業継承したのが第二の失敗でした。
二代目は創業の意図や思い入れなどを十分に理解しないまま、そして会社運営のノウハウを十分体得しないまま、代表取締役という肩書きを得てしまいました。
それでも対外的には社長として通用するため、企業運営が順調なら金融機関は簡単に融資します。それが、いつの間にか借金経営に陥る危険性があることを実体 験しました。
そして一旦企業運営がつまずくと、たちまち企業再生・破産の危険性が高くなるのです。
借り入れがなければ収益が 低くても破産する危険性は低いのですが、二代目はそのことに気が付きません。売り上げを上げることが会社の業績だと単純に考え、業績を上げるための融資を 正当化します。
事業が順調で業績が右肩上がりの場合はすべてうまく運ぶのですが、業績が悪化するとたちまち倒産のリスクが高まること を、十分に予測しておくことが大事だったのです。
ベンチャー企業にとって、内部保留がないまま融資を頼りに事業拡大を図ることがいかに ハイリスクであるか、骨身にしみて体験しました。
新たなビジネスにトライ!
そういう実情ですので、今現在、竹資源開発という会社は休眠状態です。そしてもはや新しい事業を興すだけの資金がありません。
そんな私 が今、新たに取り組んでいるのが無店舗販売のビジネスです。
世界的な発明であるエアー式投球マシン「トップガン」の販売代理店として、広報と販 売を行なっています。このマシンの製造元は福岡の共和技研株式会社で、開発者は私の実弟。ですので運転資金なしで、このビジネスを立ち上げることができま した。
その手始めとして今年正月の日本テレビ特別番組「世界最強の勇者たち」の中で取り上げられました。竹フローリングのときのマスコ ミ取材で経験を積んでいましたので、マスコミとの交渉はうまくいきました。

▲田中会長の新たなビジネス「TOP GUN」
トップガン・ スポーツのホームページを立ち上げたのです。すると数社のテレビ局から取材の打診があり、過去にNHKのニュース番組で放映された映像のDVDを見せて ピッチングマシンの性能を説明。その中で「ぜひ番組で取り上げたい」という最も熱心な局と交渉を始めました。
こちらは商品であるトップ ガンを提供すると提案したのですが、担当デレクターは「商品ではない特殊なマシンを提供してくれ」との要望。数次にわたり交渉を重ね、結局時速250km のマシンを特注することとなり、「スーパートップガン」として放映することが決まりました。
この放送で知名度が上がり、全国の野球チー ムやバッティングセンターなどからの引き合いが入り始めました。
今の私は過去の経験を踏まえながら、新たなこのビジネスを着実に展開していこう と思っています。
熟年起業の3ポイント
読者の皆様の中で、これから熟 年起業しようと計画しておられる方もいらっしゃるかと思います。私の経験が何がしかの参考になればと思い、最後に熟年起業のポイントをまとめてみました。
まず大切なことは、「ありきたりのビジネスでの成功はかなり困難だ」ということです。競争率が低いニッチ産業で、自分にしかできないビジネスモデルを構築 することがポイントでしょう。
また、起業の際は一定の自己資金を準備するでしょうが、「自己資金の範囲内で事業規模を守ること」も、熟 年にとって重要な要件だと思います。事業がうまくいくようになると、もっと大きくなろうと借り入れを行ないがちですが、元も子もなくす結果になる可能性が あります。
また、自分で立ち上げた事業を「身内に事業継承させることは極めて危険で」す。二代目が貴方よりうまく経営できる可能性は低 いのです。熟年起業は貴方一代限りと割り切ったほうが身内を不幸にせずにすみます。事業が順調なのに隠退を考えるのならば、身内でなく第三者に会社を譲渡 するほうが無難です。
この3点が私が経験してきた熟年起業のポイントだと思います。そして何より大切なことは、情熱だと思っています。
これまでのご愛読、まことにありがとうございました。(完)
※「元航空機機長が綴る熟年起業奮戦記」は今回をもってひとまず終了 とさせていただきます。長い間のご愛読ありがとうございました。
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