2007.04.20
世界で2番目に易しい決算分析入門(最終回)|損益分岐点分析

覚えておけば何かと便利
「損益分岐点分析」の計算法
シャニム編集長
征矢野毅彦
これまでROA(総資本経常利益率)を中心に、決算分析手 法を解説してきた。ROAは投下した資本(建物、商品在庫等)に対し、どれだけの利益が出ているかを見る指標だ。企業の現状を分析し、問題点などを把握す るのに有効な手法である。
これに対し、企業の未来を分析する代表的な手法が「損益分岐点分析」である。損益分岐点という言葉は、実際のビジネス 現場においても広く聞かれるのではないだろうか。
損益分岐点とは、利益も損失も発生しない売上高のこと。いわゆる収支トントン状態だ。 売上高が損益分岐点に届かなければ赤字となり、これを超えれば黒字になる。
企業の将来を考察する際、損益分岐点分析を行なえば「目標利益を出す ためには、いくらの売上高が必要か」や「より利益を高めるためには経費額をどう制御するか」などを試算することができる。連載の最終回は、この計算手法を 解説しよう。
固定費と変動費
損益分岐点分析の公 式は以下の通りだ。
損益分岐点 売上高 = 固定費÷(1-変動費÷売上高)
公式自体はそれほ ど難しいものではないが、固定費と変動費という用語が耳慣れないかも知れない。
表1はA社の損益計算を、①一般的な損益計算書、②損益分岐点分 析で用いる損益計算書とに分けて比較したもの。A社の現状は売上高1億円、総経費1億500万円、最終利益が500万円の赤字である。
①と②で 異なるのは経費区分だ。①では、まず商品仕入れ原価5000万円を売上原価に区分。これを売上高から差し引き、売上総利益(粗利益)5000万円を導いて いる。そして、残りの経費5500万円を販・管費に区分し、これを売上総利益から差し引いて最終利益(この場合は営業利益)が500万円の赤字と導いてい る。
一方、②では経費のうち「商品仕入れ原価」「宣伝・販促費」「商品配送費」「販売応援アルバイト費」の4項目合計6180万円を変 動費に区分。これを売上高から差し引き、最初の利益である限界利益3820万円を導き出している。
そして、残りの経費である「給料」「光熱費」 「家賃」の3項目合計4320万円を固定費に区分し、これを限界利益から差し引くことで最終利益が500万円の赤字と示している。
つま り①と②の違いは、経費区分の仕方だ。損益分岐点分析では、経費を変動費と固定費とに区分することが非常に重要である。
まず固定費だが、これは 売上高にかかわらず、一定額の支出を要する経費だ。ここに区分された給料(この場合は正社員の給料。残業等は考えない)、光熱費(残業等による増加は考え ない)、家賃はどれも、売上高にかかわらず一定額を支払わなければならない経費だ。
一方、変動費は売上高の増減によってその額が変動す る経費である。仮に売上高はゼロでいいと考えた場合、商品仕入れは不要になり、宣伝販促や販売応援アルバイトも必要なく、商品の配送経費もかからない。
売上高の増減と共に額が変わってくる経費がここに区分されている。ただし、変動費額は変わるが、売上高に対する変動費の比率(変動費率。A社の場合は 61.8%)は一定である。これも損益分岐点分析を行なう上での大前提である。
現実には販・管費をこのようにきれいに変動費と固定費と に区分することは簡単ではないだろう。しかしながら、できる限り経費を変動費と固定費の実態に即すように区分することが、損益分岐点分析における重要なポ イントである。
限界利益=固 定費
表2は、表1の経費をもとに A社の損益分岐点を試算したもの。1億円の売上高では500万円の赤字であったが、これを1億1308万円強に高めれば、赤字解消することを示している。 この1億1308万円強の売上高が、現状の経費構造におけるA社の損益分岐点売上高である。
■表2 A社の損益分岐点売上 高
売上高 "100,000,000"
変動 費 "61,800,000"
(変動費率) 61.8%
限 界利益 "38,200,000"
固定費 "43,200,000"
利益 "-5,000,000"
損益分岐点売上高 "113,089,005"
ポイント1
損益分岐点売上高計算
=固定費÷(1-変動費÷売上 高)
=4320万円÷(1-6180万円÷1億円)
=1億1308万9005円
そのことを示しているのが表3だ。売上高が1 億1308万円強になった場合の、最終利益を試算したもの。最終利益は0円(つまり収支トントン)であり、この売上高が損益分岐点売上高であることを示し ている(これよりも売上高が増えれば、そこからは利益が生じる)。
表3を、表2と比較した際のポイントは、限界利益が高まったことだ。 売上高の増加にともない、限界利益も増加したのである。そして、表3では限界利益と 固定費が同額であることに着目してほしい。損益分岐点売上高とは、「限界利益=固定費」となった状態のことなのである。
そして固定費は一定額で あるため、売上高が損益分岐点を超えれば限界利益も増加し、固定費との差額である最終利益も増加するわけである。
■表 3 売上高アップによる赤字解消
売上高 "113,089,005"
変動費 "69,889,005"
(変動費率) 61.8%
限界利益 "43,200,000"
固定費 "43,200,000"
利益 0ポイント2
売上高が変わっても変動費率と固定費は変わらない
変動費=売上高×変動費 率
=1億1308万円×0.618
=6988万円
例えば売上高が2億円となった場合、変動費も1億2360万円(2億円 ×0.618)に増加するが、限界利益も7640万円までアップ。固定費は4320万円と変わらないため、最終利益は3320万円まで拡大する。
この試算をもとにして、「目標利益を達成するためには、いくらの売上高が必要か」や「そのためには、どんな手を打つか」といった戦略を立案するわけであ る。
また、これとは逆に、現状の売上高で黒字化するには、経費をどこまで圧縮すればいいかといった試算も行なわれる。
表4は固定費の圧縮 による赤字解消を試算したもの。表2の4320万円 の固定費を、限界利益と同じ3820万円まで引き下げれば、売上高は1億円のままで赤字が解消する。そのためには給料や家賃の引き下げなどの対策を講じる ことになろう。
■表4 固定費圧縮による赤字解消
売上高 "100,000,000"
変動費 "61,800,000"
(変動費率) 61.8%
限界利 益 "38,200,000"
固定費 "38,200,000"
利益 0ポイント3
「限界利 益=固定費」となった状態が損益分岐点売上高
この場合は固定費を限界利益額まで引き下げる
また、変動費率に手をつけた試算が表5だ。変動費率はここまで61.8%(0.618)で計算してきたが、これを56.8%に圧縮すれば、限界利益は 4320万円までアップ。売上高1億円のままでの赤字解消が可能だ。そのためには仕入れ原価の値引き交渉、宣伝・販促や応援アルバイトの縮小などが必要と なろう。
どちらの試算も「限界利益=固定費となる売上高が損益分岐点売上高」という大前提を応用したものだ。
売上高を伸ばせ ず、限界利益が拡大できないのであれば、固定費を圧縮する。逆に固定費を圧縮できず、売上高も拡大できないのであれば、変動費率を圧縮して限界利益を拡大 すればいいわけである。
現実的には、より複雑な計算が必要となるが、基本的な考え方は同じだ。損益分岐点分析の手法を活用すれば、事業計画書な どがより説得力を持つことは確かである。
■表5 変動費率圧縮による赤字解消
売上高 "100,000,000"
変動費 "56,800,000"
(変動費率) 56.8%
限界利益 "43,200,000"
固 定費 "43,200,000"
利益 0
ポイント4
変動費率 を圧縮すれば限界利益は拡大する
この場合は固定費と同額になる限界利益が得られる変動費率まで圧縮する
"※表1~表5の 単位:円、%"
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