福島敦子のアントレプレナー対談事業者団体の圧力にも徹底抗戦
保育改革に猛進するイノベーター

株式会社JPホールディングス 山口 洋社長

株式会社JPホールディングス(名古屋市東区)

株式会社JPホールディングス(名古屋市東区)
●本社:〒461-0004 名古屋市東区葵3-15-31
住友生命千種ニュータワービル17F
(TEL.052-933-5419)
●東京支社:〒169-0075 東京都新宿区高田馬場3-3-3
三優ビル6F(TEL.03-5332-7888)
●事業内容:子育て支援事業、給食の請負事業、英語・体操・リトミック教室・研修請負事業、物品販売事業、研究・研修・コンサルティング事業
●子法人:株式会社日本保育サービス、株式会社四国保育サービス、株式会社ジェイキッチン、株式会社ジェイキャスト、株式会社ジェイ・プランニング販売、株式会社日本保育総合研究所
●設立:平成5年3月31日
●資本金:10億円
●年商:137.89億円(H25.3月期)
●証券コード:2749(東証一部)
●従業員数:正社員 1,734名 / アルバイト 1,166名
(H25.3.31日現在・連結)
URL www.jp-holdings.co.jp

利益優先の企業風土にNo!

福島山口社長は大学卒業後に証券会社に入社し、法人営業やM&Aなどを手がけてこられました。それがなぜ起業しようと思われたのですか。

山口もともと起業する気はありませんでした。サラリーマンとして、安定した生活をしたかったんです。証券の仕事は肌に合っていましたし面白かったのですが、利益を優先する会社の体質が嫌だったんですね。

 顧客のために頑張りたいという気持ちは、普通の営業マンなら誰でも持っていると思います。ところが金融機関という組織は、それは二の次。そういう体質が嫌だったんです。

福島他の会社へ転職するという選択肢はなかったのですか。

山口無理だと思いました。社内で傍若無人に振る舞い、やりたいことをやってきましたから。これは実力と数字だけの世界だから許されたのであって、普通の会社では許されない。自分でやるしかないことは、やめる頃には気付いていました。

福島その後、オフィス向けのコーヒーサービス事業をスタートしたわけですが、どういうきっかけだったのですか。

山口いろいろとリサーチした中で最終的に選んだのですが、もともと法人営業が得意でしたから、オフィス向けコーヒーなら得意分野だ、ということで始めました。

 スタートから順調でした。営業は得意ですから、いくらでも顧客を開拓できたのですが、開拓すればするほど資金が必要になる。コーヒーの機械を買ってきて、これを無料で貸し出すビジネスですから。そして売り上げが増えれば、運転資金も必要ですよね。常に資金繰りに追われていました。何十件と受注を抱え、お金ができれば機械を買って納入するという、そんなやり方でした。

事業所内託児所の開設

福島コーヒーサービス事業では、ターゲットをずいぶんと拡大したそうですね。

山口ターゲットはオフィスだけではなく、人がたくさん集まる場所ならどこでもよかったんです。いろいろな顧客を開拓しましたが、その中の一つがパチンコ屋さんでした。新幹線のワゴンサービスのような感じで、パチンコ客の間を売り歩く商売を考えたんです。

福島パチンコのご経験は?

山口高校3年間と浪人の2年間、ずっとパチンコ人生でした(笑)。

福島店内を知り尽くしているわけですね。

山口やる人の気持ちが分かりますから、「こういうサービスがあったら絶対ええやろな」と思っていました。パチンコ屋さんを説得して歩き、ようやく1軒に了解をもらえました。スタート当初から、ひと月で150万円も売れたんです。オフィスコーヒーが1カ月平均で1万5000円でしたから100倍です。「これでブレイクスルーしたな」と思いました。

福島そんな急成長を遂げながら、なぜ保育事業に移ったのですか。

山口当時、店内のワゴンサービスと併行して、パチンコ店に併設する飲食業を始めていましたが、これも当たったんです。順調に伸びて1990年代の後半には、職員が1000人を超えていました。ほとんど女性です。彼女たちが頑張ってくれたのですが、土・日は保育園がない。夜8時までやっている施設も当時はありませんでした。

 我々の商売は、土・日・祝日が一番のかき入れ時ですし、夜8時でも仕事があります。そうすると、子どもができた人は辞めていく。非常にもったいなかった。そこで、事業所内託児所という形で、職員向けの福利厚生を始めようと思ったのがきっかけでした。

 やっていくうちにいろんなことが分かってきました。例えばなぜ延長保育や土日保育をやらないのか──。既存保育園の人たちは「子どもは親と一緒にいるのが幸せだから、延長保育はやるべきではない」といっていましたが、でも、これは建前。

 延長保育のない保育園に子どもを預けているお母さんは、結局、二次保育に出す。時には無認可の劣悪な施設に預けるわけです。その方が、子どもにとって、よっぽどかわいそうじゃないですか。それを分かっていながら「延長保育はかわいそうだからやらない」と。ウソなんですね。

腐った日本の保育を変えてやる

福島なぜ、そんな……。

山口自分たちの負担になるから嫌なんです。だから、やらない。おかしいでしょう。この業界は本当におかしいと思いました。

 しかし、2001年に規制が緩和され、株式会社も参入できるようになりました。うちがそれまでパチンコ店の駐車場などでやっていた保育所は福利厚生目的でしたから、どこも大赤字。しかし補助金で運営できるとなると、事業として成り立つ。私はその時に「これだったら事業化できる。今の腐った日本の保育を変えてやろう」と思ったんです。

福島規制が緩和されるまでは、本当に厳しかったわけですね。

山口パチンコ屋さんでやっていた保育施設はすべて赤字です。補助金をもらってやり始めたのが2002年から。東京都の認証保育所が最初です。例えばゼロ歳児でも、月額1人13万円ぐらいもらえます。保護者に6万円ぐらいご負担いただくので、トータル19万円ぐらい。これでやっと利益が出始めたんです。

福島保育事業は、基本的に補助金がなければ不可能なんですね。

山口無理です。無認可の保育園で法律を守っているのは3割ぐらいといわれています。無認可で補助金が入らない残りの7割は、大半が職員の配置などもいい加減ですね。でも、それはある意味で仕方がない。法律通りでは経営できませんから。

福島制度のあり方に問題が多いということですか。

山口認可保育園が足りな過ぎるんです。それを補完するために自治体は、独自に認証制度を作ったりしていますが、それでも足りない。お母さんたちは、仕方なしに無認可保育園に頼らざるを得ないのです。

事業者団体の反対運動

福島最近、認可保育園に入れずに断わられ続けてきたお母さんたちが、「これはおかしい」と行政不服申立しましたよね。政府はここへきて、ようやく女性の活用に向け、今後5年間で保育所の定員を40万人増やす方針を打ち出しましたが、国はこれまでは「女性にもっと働いてほしい」といいながら、そういう環境をまったく整えてこなかった。私の周りにも預け先がなくて困っている方がたくさんいますが、この現状をどう見ていますか。

山口気が付くのが遅過ぎたんですね。この業界は規制緩和前までは、社会福祉法人しか入れなかった。彼らが完全に圧力団体になって政治家を動かしていたんです。彼らの発想は、保育園が増えてほしくない。競争相手ですから。今でもそうです。

 待機児童がいるから今はいいけれど、「将来は少子化」という不安がある。保育園が増えると、いずれ自分たちの子どもを取られると、潜在的にそう思っているんです。彼らの発想は、いかに楽に何も考えず、のんびりと運営できるかなんです。

福島株式会社が保育事業に参入可能になったのは2001年からということなんですけれども。

山口ただし、すぐには開放されませんでした。法的には参入可能になったのですが、認可するのは自治体。自治体のレベルで株式会社の参入を認めなかった。地元の社会福祉法人が、一生懸命に反対運動を起こしたからです。

福島現実は何も変わらなかったのですね。

山口抵抗勢力の反対が岩盤のように厚かったんです。ただ、そんな状況でも、本当に市民のことを考える首長が出てきた。例えば石原慎太郎さん(前東京都知事)。あの方は利権団体なんか屁の河童なので「関係ない。やれ!」といって一気に保育事業を開放しました。大阪市も今年の4月まで変わらなかったのですが、橋下徹さんが市長になった瞬間に開放されました。

福島山口さんも最初の認可保育園を川口市で始めた時には、かなりの抵抗を受けたのですか。

山口川口は抵抗があまりなかった。既存の社会福祉法人が少なかったからです。公立保育園しかない自治体もありますが、そういう地域は誰も反対しない。既存の事業者団体があるかないかで、すんなり入れるかどうかが決まります。

福島実際、そういう抵抗に遭われたご経験もおありでしょうね。

山口ずっと抵抗だらけです。平成17年にオープンした瀬戸市がそうでした。強力な事業者団体があり、そこが死ぬほど反対してくれました。怪文書が飛び交うは、市長に陳情がいくは、県会議員を使って県にまで圧力をかけるはで、結局、開園が1年延びました。オープンは1年遅れましたが、今では瀬戸市で一番人気の保育園になっています。

福島これだけお母さんたちが困っていて、「保活」などという言葉もあるぐらいですが、それでも待機児童問題は解消されない。安心して預けられる保育園を増やすためには、何が必要だと思われますか。

山口簡単です。競争ですよ。この業界は競争をさせない。株式会社を排除している。ここに競争を持ち込むんです。競争というと、すぐに価格競争といわれますが、私はそんなこと、一言もいっていません。

 何よりこの業界に、価格競争はあり得ません。なぜかというと認可保育園の場合、契約は行政と保護者の間、行政と保育園の間にしかなく、保護者と保育園の契約はないんです。料金も、保護者は所得に合わせて行政に支払います。我々は保護者からもらわないので、価格競争を起こしようがない。どんなサービスをしようが、一定の金額しか我われはもらえないのです。

 私が競争といっているのは、子どもや保護者のことを真剣に考えた事業者が多く入ってきたら、業界全体が「もっといいサービスをしよう」という方向に向かわざるを得なくなるからです。行政はその中から、より質の高い事業者を認可すればいい。

 今一番の問題は、少ない候補者の中からしか保育園を認可できないこと。そうではなく株式会社も含めて、多くの候補者の中から一番いい事業者を選ぶシステム作りが重要だと思います。今はそれができない。だから保育園も増えないんです。

本来の幼児教育を追求

福島JPホールディングスさんの保育サービスには、どんな特徴があるのでしょう。

山口保育園というのは、本来、子どもたちを養護して教育する施設です。英会話など何か教育的なことをやると、それを特徴的に見る人がいるのですが、そうではありません。幼稚園の幼稚園教育指導要領と保育園の保育園保育指針には、それぞれに「教育とは」という項目があるのですけれど、中身は同じです。

 それは幼児教育であって、早くから計算をさせるとか早くから漢字を書かせるとか、そういうものとは全然違います。子どもたちが成長する過程で、次に小学校に上がる準備段階の中で、必要なものを身につけさせることです。

 例えば、コミュニケーション能力とか対人関係とか、リズム感なんかもそうですし、文字や数字への若干の興味とか、こういったことが幼児教育なのです。小学校に入ってからやることを、早期に始めることではありません。

 ただし残念ながら、そういうことをやっていない幼稚園、保育園が大半です。例えば幼稚園だと今、笛や太鼓を全員で一糸乱れずに演奏させることがはやっていますけれど、あれは保護者に対する見せかけの保育でしかない。本来の幼児教育ではないと思います。その年齢に合った養護と教育とをしっかりと高めてやることが保育園本来のあり方であり、私はそれを追及しています。それが特徴といえば特徴ですね。

福島それが受け入れられて、地域で一番の人気保育園になっているということですね。

山口そうです。子どもと保護者に優しく接して、なおかつ、保育園の先生たちの専門知識を磨くことが基本なので、それをやっているだけです。

規制改革会議のメンバーとして

福島政府の規制改革会議が「株式会社をもっと認可保育事業に参入させるべき」とか「保育士の人数の規制を緩和すべき」という提言をまとめました。これで日本の保育は新たな方向に向かいますか。

山口あれ、私がやったんです。私、規制改革会議のメンバーなんですよ。

福島そうなんですか。では保育制度を根本的に変えるための、具体的な動きに発展するわけですね。

山口変わりますよ。今まで約6年間、国の保育改革委員会に所属していました。少子化対策特別部会のメンバーになっていて、新システムのワーキングチームにも所属しており、ずっと議論してきました。「自治体から許認可権を奪ってしまえ」と強硬に主張してきたのですが、それがようやく通ったんです。

 2年後には株式会社も拒否できなくなります。ただし、法律が施行される2年後まで待たないといけない。そこで今議論しているのは、今すぐに自治体の認可権を行使できないようにするにはどうしたらいいか、ということです。

福島2年後に自治体の認可権がなくなるとは、国がすべて認可するということですか。

山口「客観的要件が整っていれば認可しなければいけない」という形に法律が変わります。株式会社を拒否する理由がなくなるんです。

福島大きな変化ですね。

山口変わります。ただし、国民の総意としてできた法律があるのだから、2年後の施行を待たずに、今からその主旨に合わせなさい、となるのが本来です。当然ですよね。今から変えなさいという圧力を、自治体にどうかけるかということを今やっています。

消費税率のアップを財源に

福島そのお話をうかがうと、ちょっと気持ちが明るくなりますね。ただ、認可保育園が増えるのはありがたいことですけれど、国の財政が厳しい中、財源的に難しい側面はないのか、との危惧もあります。

山口それとトレードオフの関係が消費税です。「社会保障と税の一体改革」の目玉が保育だったんです。保育を拡充するために消費税率アップをやらないといけなかった。

 去年の夏、三党合意で消費税率アップが決まりましたが、同時に社会保障費も上げると。ここに最低7000億の予算をつけたんです。

福島国民みんなで子どもを育てというような発想ですね。そうなれば、いよいよ抵抗勢力も大きなことはいえなくなる。

山口大きな抵抗はできないのですが、自治体レベルではまだ課題もあります。例えば1カ所の保育園募集に対し、2カ所が応募したらどうするか。1つが社会福祉法人で、1つが株式会社だったら……。「選定委員会を設けて決定します」といっても、日ごろから株式会社批判をしている人をメンバーにすれば、絶対に株式会社は選定されません。

 そこで私が次の委員会でやろうとしていることは、そういった不公正、不透明な選定の仕方を排除するためのガイドライン作りです。そうじゃないと、結局、まともな事業者が入れなくなります。

福島抜け穴は埋めていこうと。

山口そうです。例えば「公正に審議すること」というような文言を明記することです。これなら裁判でも絶対に勝てます。「不公正だ。この人は日ごろから株式会社批判をしている。こういう人は絶対に株式会社を落とす方向にしか動かない」ということがいえるわけです。

 これが次の仕事です。国でガイドラインを決めれば、自治体も従わざるを得ない。そういう状況を、今作ろうとしています。    (敬称略)

山口 洋(やまぐち・ひろみ)氏
1961年京都市生まれ。明治学院大学法学部卒業。大和證券に入社後、法人営業やM&Aの分野で腕をふるう。1992年に退職。1993年に当社設立。2006年3月、聖徳大学大学院博士前期課程修了(児童学)。2008年9月、厚生労働省「次世代育成支援のための新たな制度体系の設計に関する保育事業者検討会」の委員に選出される。2009年4月、内閣府「ゼロから考える少子化対策プロジェクトチーム」のテーマ「保育・幼児教育」の有識者として選出。2010年7月、東京都社会福祉協議会「保育所待機児問題対策プロジェクト」の委員に選出。2010年9月、内閣府「子ども子育て新システム基本制度ワーキングチーム」「子ども子育て新システム幼保一体ワーキングチーム」の委員に選出。2012年10月、厚生労働省「児童虐待防止対策協議会」に委員として参加。2013年4月、内閣府「規制改革会議保育チーム」有識者として参加。著書は「子育て支援ビジネス事業化計画資料集」(綜合ユニコム)「元証券マン 日本の保育を変える!」(かんき出版)など。
福島敦子(ふくしま・あつこ)
ジャーナリスト / 津田塾大学英文科卒。中部日本放送を経て1988年独立。NHK、TBSで報道番組を担当。テレビ東京の経済番組や週刊誌「サンデー毎日」でのトップ対談をはじめ、日本経済新聞、経済誌など、これまでに600人を超える経営者を取材。現在、BSジャパンの経済番組「マゼランの遺伝子」のキャスターを担当。経済・経営の他、環境、コミュニケーション、地域再生、農業・食などをテーマにした講演やフォーラムでも活躍。上場企業の社外取締役や経営アドバイザーも務める。島根大学経営協議会委員。1997年にはワインアドバイザーの資格を取得。主な著書に「愛が企業を繁栄させる」(リックテレコム)をはじめ、「それでもあきらめない経営」「ききわけの悪い経営者が成功する」「就職・無職・転職」「これが美味しい世界のワイン」などがある。
URL: http://www.atsuko-fukushima.com/