IT活用事例[学校編]横浜市立白幡小学校(神奈川県)

PR動画作成でAndroid端末を活用
プレゼンスキルの育成に効果を発揮
  • 小学校の学習項目として注目されるプレゼンテーションスキルの育成
  • 白幡小学校はPRビデオの作成を通じて同スキルの向上に取り組む
  • 調べ学習から撮影まで、すべてにアンドロイドタブレット端末をフル活用
  • 再生映像の共有、操作性など多数のメリットを実感

小学校の学習で重視されている項目の1つに、自分の想いを明確かつ効果的に伝えられるプレゼンテーション能力の育成がある。このスキルを磨くために、タブレット端末を活用して効果を上げているのが横浜市立白幡小学校だ。

学習単元名は「壁画にこめた想いをPRビデオにして伝えよう〜日本とチュニジアをつなぐ壁画共同制作プロジェクト〜」。これはJAM(ジャパンアートマイル)主催の活動で、国内と海外の子ども達が1枚の壁画(横3m×縦1.5m)を共同制作し、異文化理解を深める取り組みである。

白幡小学校の5年3組(担任・田村拓之教諭)も2012年度に同プロジェクトに参加し、チュニジアの小学生と壁画を共同制作した。具体的には、テント状の大きな布に日本側の子ども達が考えた絵を、左右半分ずつ両国で協力して描き壁画を完成させる。

田村教諭は、この活動をスピーチやプレゼンテーションの学習と関連させたのだ。白幡小学校の子ども達が考えた壁画の原案は、虹と地球を中心に相手国の民族衣装を着たお互いの子ども達を描くと共に、背景には両国の象徴となる、例えば富士山や砂漠などを配置するというもの。これをチュニジアの子ども達へ伝えるに当たり、「どのような想いで壁画案を考えたかを理解してもらいたい」とPRビデオの作成を計画した。

そして、ビデオ作成に活用したのが約10.1インチの液晶ディスプレイを搭載したアンドロイドタブレット端末である。ビデオカメラではなく、タブレット端末を撮影ツールに選んだことについて、「プレゼンテーションを学ぶ上で子ども達にとって使いやすいと感じた」と田村教諭。撮影だけでなく、ビデオ作成全般でタブレットをフル活用している。

映像を共有し何度も撮影

ビデオ作成の流れは図の通り。「スピーチ学習」でプレゼンテーションの基礎と撮影アプリケーションの使い方を覚え、「編集会議」と「動画撮影」という手順で完成させる。具体的に見ていこう。

スピーチ学習は、伝記を読んだ感想の発表を通じて人前で話すスキルを学ばせる試みで、この段階ではタブレット端末を「撮影ツール」と「情報提示ツール」として活用した。

撮影ツールとして利用する狙いは前述したように、子ども達にとっての使いやすさ。特に、撮影した映像をすぐに大きな画面で再生でき、複数の子ども達で映像を共有しやすいことがメリットという。

というのも、表情や視線、声の大きさ、しぐさといったスピーチのポイントとなるスキルを磨くには、自分の話す様子を確認しながら何度も修正して反復することが欠かせない。この点で、ビデオカメラなどより液晶画面が大きいタブレット端末は、撮影とチェックを繰り返しながらスピーチ力を向上させるのに最適なわけだ。

活用した撮影アプリケーションはKDDIの協力を得て開発されたオリジナルのもの。ズームなどの基本的な機能に加え、独自の「いいね!」ボタンと「がんばろう!」ボタンなどが搭載されている。

授業スタイルはペア学習で、タブレット端末を使いお互いのスピーチを撮り合う。撮影中に、話し方や資料提示などがよいと感じた時には「いいね!」ボタンを、改善した方がいいと思った場合は「がんばろう!」ボタンを押す。

例えば、「いい表情でハキハキ話している」と感じた時は「いいね!」ボタンを、「話の内容はいいのに顔が下を向いている」という場合は「がんばろう!」ボタンを押して評価するといったイメージだ。評価は自動集計されるので、すぐに見ることができ改善の目安となる。

これらは撮影映像の再生機能にもリンクしており、「いいね!」ボタンと「がんばろう!」ボタンが押されたシーンだけを頭出しできる。すべてのスピーチを見る必要がないので、効率的に学習を進めることが可能だ。

スピーチ映像はペアだけでなくグループでも評価し合う。タブレット端末で動画を再生しながら、より様々な視点からプレゼンテーションの方法を話し合い、最終的には端末を大型モニターと接続して映像を共有。クラス全員で意見や反省点を話し合い、改善点などを確認する。

また、スピーチではタブレット端末を画像資料などの情報提示ツールとして取り入れた。従来のように紙ベースで資料を見せるのではなく、タブレット端末に画像などを表示して提示するわけだ。

メリットは、強調したいポイントや小さな資料を簡単な操作で拡大表示できるなど、資料を提示するのに使い勝手がいいこと。「撮影アプリのズーム機能を使ってタブレット端末の画面だけを大きく映すこともできるので、インパクトある資料提示なども可能」(田村教諭)という。

■図 PRビデオ作成とプレゼンスキル育成の流れ

タブレット端末だけで完結

スピーチ学習を終えると、本格的にビデオ作成に取り組む。全体で10分程度の作品とするため、班ごとに1分前後の撮影を行ない、それらをつなぎ合わせて1本のPR動画に仕上げることにした。

撮影の前には編集会議を実施。プレゼンテーションの方法論について、書籍やホームページはもちろん、プレゼンの上手さで有名なアップルの故スティーブ・ジョブズ氏の映像を見せるなど、徹底的に下調べをさせた。その中から、どのプレゼン技術を使うかなどを、子ども達主体で決めさせた上で実際の撮影に入る。

撮影の取り組みは、基本的にはスピーチ学習と同じだ。屋上やグランドなど校内の好きな場所で撮影し、映像をその場でチェック。改善点に注意しながら納得がいくまで、子ども達は何度も撮影を行なう。

授業の最後には、その日に撮影した中で最も満足できた映像を、大画面モニターにつなぎクラス全員で意見交換し、次回撮影の参考にする。この過程を何度も繰り返し、プレゼンの完成度を高めた。最終的に、各班で子ども達が選んだ作品を1本にまとめてPRビデオが完成。DVDに保存して、日本側で半分を描いた壁画と共にチュニジアへ送ったのである。

「今回の学習でタブレット端末の効果は期待以上」と田村教諭。「調べ学習のためのインターネット閲覧や撮影など、子ども達の作業はパソコンなど他のデジタル機器を使わずにタブレット端末だけでほぼ完結できた。電源オンからの立ち上がりが速く、教えなくとも、子ども達は操作に戸惑うことなく自由に使いこなしていた」。

PRビデオと共に送った壁画はチュニジアで仕上げられ、今年の3月に日本へ戻ってきた。しばらく白幡小学校内に飾られ、2013年6月の「第5回アフリカ開発会議(横浜開催)」会場で展示される予定だ。

外部の協力を得てIT環境を整備

現在、白幡小学校には約200台のアンドロイドタブレット端末が揃い、校内には無線LANが敷設されるなど充実のIT環境が整う。だが、同校も元は一般的な公立の小学校だった。

私立でもなければ、公立学校の予算は限られている。その中で、IT環境に差が出てくる理由は、「企業や地域との連携にある」と田村教諭。「学校側に意欲があれば、地元企業の協力を得たり、児童の保護者に手伝ってもらうことも可能」という。

実際、白幡小学校は、2011年4月に文部科学省が打ち出した「学びの情報化ビジョン」を背景に共同研究先を探していたKDDIと連携する。お互いに意見を交換しながら、KDDI側がシステムやタブレット端末を提供しアプリケーションを開発。同校は授業で活用した感想やデータなどを、KDDI側にフィードバックすることで授業のIT化に取り組む。

本格スタートは2011年10月。算数アプリや動画撮影機能などを搭載したタブレット端末を普通授業に取り入れた。以降、KDDIとの話し合いを重ねながら活用の幅を広げ、現在は4年生以上の算数や英語、総合の授業などに加え、朝の短時間学習でも使われている。

「タッチ式のユーザーインターフェースは教師が考えている以上に、子ども達にとっては扱いやすく、教科書やノートと同じように机という自分の空間内に収まるタブレット端末は、パソコン以上になじむITツールなのだろう」と田村教諭。今後も、KDDIの協力を得ながら活用を模索する意向だ。