IT活用事例[学校編]越谷市立大袋中学校(埼玉県)

Facebookでキャリア教育を実現
現役職業人と交流し生の声を聞く

  • 職業体験はキャリア教育に有効だが時間的物理的制約による限界も
  • 大袋中学校はフェイスブックを使い、この課題をクリア
  • 仕事の質問を現役の社会人へダイレクトに聞く仕組みを構築
  • 具体的なアドバイスが得られると生徒たちに好評


 現在、教育現場で実施されているキャリア教育の主軸は、生徒たちの職業体験だ。生徒が事業所などの職場で働くことを通じ実際の業務や職業人と接することで、仕事に対する理解を深める。自身のキャリアを意識することを目的とした学習で、「生きる力」を育成する活動としても大きな役割を果たしている。

 職業体験が有用な活動であることは確かだが、「時期や場所が限定されるため現場の職業人とのコミュニケーションが一過性で終わってしまったり、希望する職場を訪問できない生徒がいる」などの問題が指摘されていることも事実だ。

 地域の協力を得ながら、この課題解決に取り組んだのが埼玉県越谷市立大袋中学校(飯塚敏雄校長)だ。交流サイトのFacebook(以下、フェイスブック)を活用して、様々な職種の社会人から職業観や経験を生の声として聞く仕組みをキャリア教育として取り入れている。

様々な外部協力を得て実現

 フェイスブックによるキャリア教育は、20台のiPad端末と2台のWi-Fi対応無線ルーター(20回線に接続可能)というIT環境上で実現されている。具体的な仕組みは図の通り。

 生徒たちが大袋中学校のフェイスブックページのトップ画面で「キャリア教育」のアイコンをタッチすると、職業別にグループ分けされたキャリア教育のページが表示される。スポーツや医療、芸能、漫画、政治行政など27種類もの職種が並ぶ。

 憧れや興味を持っている職業を選ぶと、その仕事に携わっている現役社会人(キャリア教育専任講師)と交流できるページに移動する。

 そこには専任講師が自身の職業概要ややりがい、誇り、魅力などの思いを語ったプロフィールが記載されており、生徒たちはそれを読んで質問や疑問を投稿。それに対して、専任講師が回答するといった交流を通じて同校の生徒たちはキャリアに対する知識や理解を深めていく。

 大袋中学校フェイスブックページは誰でも閲覧できるが、生徒や協力してくれているキャリア専任講師の個人情報を保護するため、投稿画面へ入るには個人アカウントを必要とする仕組みだ。

 だが、生徒が個人ごとにアカウントを取得すると管理など諸々の負担が増えるため、交流ページにログインできるアカウントを校長と教頭、教務の3つに限定した。生徒たちは、いずれかのアカウントのパスワードを使ってアクセスする。

 このため投稿者名には校長や教務などの名前が表示されることになるが、質問の冒頭に必ず生徒名を記入することで投稿者がだれか分かるようにした。1年生から3年生まで全学年が交流ページを共有しているので、学年の壁を越えて同じ職業に興味を持っている仲間の投稿を参考にすることが可能だ。

 キャリア教育にフェイスブックを導入しようと発案したのは、同校の前校長である大西久雄氏(現越谷市教育委員会)。最前線の現場で活躍している職業人の生の声を生徒たちに紹介したいという思いはあったが、様々な制限から対面で話しを聞くことは現実的でないと判断し、交流サイトに着目したという。

 交流の場として、フェイスブックを選んだ理由は実名主義なのでセキュリティが担保されていると考えたからだ。

 導入に際しては、ネットワークとフェイスブックページ作成、専任講師募集の3つがネックとなった。

 ネットワーク関連では、市により設置されている校内無線LANにはセキュリティ上、外部端末に接続できないという問題が発生。さらに、校内パソコンではフェイスブックなどの交流サイトがフィルターによりブロックされるため、活用どころか閲覧することもできなかった。

 そこで、すでに導入していた20台のiPadを教室で使えるよう2台のWi-Fi無線ルーターを学校独自の予算で契約し、校内LAN環境とは別回線を構築することで解決している。

 また、フェイスブックページ作成そのものは難しくないが、登録相手を職種別にグループ分けするような機能は搭載されていない。これを可能とするアプリ開発に協力してくれたのが外部の民間企業だ。

 学校教育の充実を目的に、大袋中学校では外部教育機関や民間企業と連携する支援団体「つどい」を組織しており、フェイスブック画面の作成に手を貸した企業も同組織に参加している。20台のiPadも市教委の設置設備ではなく、支援組織の一員である文教大学からITの活用実践事例や成果研究を目的に提供を受けている。

 同大学からはICT支援員もボランティアで派遣されており、フェイスブックの開設や運営面でも協力を得られているという。

文教大学から毎週定期的にICT支援員が来校し、教材作成や授業補助、IT機器の活用補助など幅広くサポートしている

講師と生徒の双方で好評価

 以上はハード的な課題だが、仕組み構築としての課題が生の声を聞かせてくれるキャリア教育専任講師を、いかに集めるか。教諭たちの知り合いを手始めに、同校の卒業生や協力を快諾してくれた専任講師の知り合いなどにも声をかけた。

 とはいえ、フェイスブックへ第三者からの「友だち」申請を、無条件で認めるわけではなく、校長や担当教諭がプロフィールなどを判断。協力条件などに納得した場合に承認した。当初は28人だった専任講師も今では100名近い社会人が登録。27職種すべてで交流可能な環境となっている。大西前校長と共に立ち上げに携わった柿沢英和主幹教諭は、「今後も、数を増やして交流の質を高めていきたい」と力強く語る。

 環境構築と職員研修を経て、フェイスブックによるキャリア教育は2012年の2学期からスタートした。直接の進路指導はもちろん、社会科や総合的な学習、学級活動などキャリア教育に関わる単元において全学年がフェイスブックを活用したという。

 協力した専任講師は、「自分達の仕事について生徒たちにダイレクトに伝えられる」と話す。「親や先生以外に、将来の夢について憧れの職業で働いている大人の話を直に聞ける」と生徒たちにも好評で、質問に対して大人から返事がくることに純粋にうれしさを感じる生徒もいる。

 「職業体験や校内の進路指導が将来のキャリアにつながっていないとの声がある中、より職業を身近に意識できる点でフェイスブックの活用は一定の成果を上げている」と、柿沢主幹教諭も自己評価する。

 課題もある。例えば、生徒の興味がいくつかの特定職業に集中する傾向があり、柿沢主幹教諭は「せっかく協力しているのに質問がこないと感じている講師もいるのではないか」と危惧。現状では学校のイベントを案内して招待するなど、つながりを保つ努力に取り組む。

 初年度の交流内容は電子データ化した。毎年の投稿を年ごとにまとめて電子書籍とし、図書館に設置したパソコンや端末などから、いつでも閲覧できる仕組みを考える。さらに、「地理でインドについて学んだ際にインドへ赴任経験のある講師から意見を聞いた」といったように、いきた知識の宝庫として様々な授業で活用したいとのことだ。

 大袋中学校の取り組みに注目していくと共に、同校を巣立つ生徒たちの将来にも期待したい。