IT活用事例[自治体編]富士の国やまなし観光コンシェルジュ(山梨県)

GPSとスマホで旅程を簡単作成
富士山観光をもっと身近で便利に!
  • 日帰り観光客を滞在型旅行者へ引き上げる対策に取り組む山梨県
  • 旅行前には約4000名所が登録された県の観光サイトで旅程表を作成
  • 現地では、GPS機能搭載の路線バスによる位置情報サービスで移動を支援
  • 産官学共同で政府事業の助成を受けてシステム構築を実

 

地域経済の活性化を観光資源に頼る自治体では、旅行客数を増やすと共にいかに滞在期間を長くするかという課題を常に抱えている。

富士山や温泉、ぶどう狩りなど豊かな観光資源を有する山梨県も例外ではない。首都圏からの交通アクセスがよいため、1カ所の観光スポットだけを目的に日帰りしてしまう観光客が多いからだ。こうした短期客を滞在型の旅行者に引き上げる対策が必要だった。

そこで、取り組んだのが「県内を訪れる個人観光客を対象に、旅程の作成や移動などを自宅と現地の双方で総合的に支援するシステム」を構築すること。旅行しやすい環境を整えることで、首都圏などからの集客力アップを目指したというわけだ。

システムは「富士の国やまなし観光コンシェルジュ」で、仕組みのイメージは図の通り。

旅行者が事前に県の観光サイトでオリジナルの旅程表を作れるようにし、作成した観光ルート情報を携帯電話やスマートフォンへ転送。現地では、路線バスの運行情報と観光案内やオリジナル旅程表との連動で移動や観光の利便性を高めている。

富士の国やまなし観光コンシェルジュの概要

県内の路線バスにGPS搭載

この観光コンシェルジュのシステムは、「やまなしマイプラン」と「やまなしバスコンシェルジュ」の2つのサービスから構成されている。

まず、旅程表を作成する機能がマイプランだ。県の観光サイト「富士の国やまなし観光ネット」上に追加されている。データベースとして収納された県内約4000カ所の観光スポットを検索でき、気になる場所は「お気に入り観光情報」に登録しておく。

旅行前には、実際に行きたい観光地をいくつか選択すれば各スポットをつないだ推奨ルートを移動距離や時間、マップを含むオリジナルの旅程表として自動作成する。旅程表は、携帯電話やスマートフォンなどのモバイル端末に転送できるので、現地での閲覧が可能だ。

ネット上で個人の旅程表を作成する仕組みを持つ自治体はいくつかあるが、これを路線バスの運行情報と連携させている例はない。

運行情報の提供機能は、山梨県バス総合案内システム「やまなしバスコンシェルジュ」である。県民と観光客の利便性向上を目的に導入されたサービスである。

文字通り県内の路線バス情報を提供する機能だが、一般的な乗換案内や時刻表検索といったことにとどまらない。全地球測位システム(GPS)を搭載した県内約230台の路線バスについて、運行状況などを現地で把握することが可能だ。

例えば、「バス接近情報」は、乗車バス停と降車バス停を入力すると乗車予定バスの現在地を知ることができる。直近に通過したバス停と通過時刻を確認できるので、遅延などの運行状況も分かる。

接近情報の結果を表示した画面では、現在地バス停周辺の観光スポットを検索する仕組みを導入した。

観光客は接近情報や時刻表を確認し、時間に余裕がある場合には周辺の名所を探して待ち時間に散策するといったこともできる。

とはいえ、同じ道路を複数のバスが走る複雑な路線バスのルートや停留所名を、観光客が熟知しているわけもない。

そこで、採用したのは観光客が使う端末の持つGPS機能を利用して居場所を把握し、現在地周辺のバス停を検索する方法だ。さらに、目的地を入力したり、主要観光スポットから行きたい名所を選んだりするだけで、現在地からの最適な路線バスを検索できる仕組みとなっている。

このバス総合案内システムはマイプランで作成した旅程表とも連動しており、ルートに組み入れた観光スポット周辺のバス停を検索したり、目的地までの路線を旅程表のマップページで調べたりすることが可能だ。

産学官の共同プロジェクト

こうした観光情報と運行情報を連動させたシステムは、地元山梨大学の豊木博泰教授が開発に取り組んでいた「山梨バスマップ」を基盤に作られた。停留所や路線ルートなどを効率的に管理する仕組みで、同システムは現在オープンソースとして広く公開されている。

山梨県では、この基盤にGPSと名所データベースを組み合わせて、富士の国やまなし観光コンシェルジュを構築。プロジェクトとしては、産官学連携の取り組みだ。

それだけに様々な苦労もあったという。最も大きな問題は、やはり予算確保だった。その対策は、政府からの助成金。同システム構築案件が総務省管轄の「ユビキタスタウン構想推進事業」に認定され、約6000万円の支援を得た。

開発費は調達できたが、システムメンテナンスやGPS利用のためのパケット代など、運用コストがかかる。この点は、路線バス会社に民間委託することで解決している。

システム開発に携わった富士山保全推進課(当時観光振興課)の矢野久副主幹は、「交渉を重ねて最終的にはシステムのメリットを理解してもらいGPS搭載と運用を引き受けていただいた」という。

民間委託を前提に、開発で重点を置いたのがパケット代を節約できるシステムとすること。一般的なパケット定額プランより、さらに低コストのプランで契約するため、GPSの位置情報を送受信する間隔などについて実用性を担保しながら頻度を減らした。

「山間部など信号がない場所では間隔を空けすぎると、正確な位置捕捉が難しい。送受信間隔とパケットコストでぎりぎりのバランスをとるのに苦労した」(矢野副主幹)。

サービスを開始して以降、十分な認知活動まで手が回らず、まだ飛躍的な効果を発揮しているわけではないが、利用者からは「旅行前に自分なりの旅程を作れるのは楽しい。思い立って予定とは別の観光地に行きたい場合も移動ルートや予定が分かって便利」と好評という。

マイプランもバスコンシェルジュも、現在は日本語を含め全5か国語に対応している。「富士山が世界文化遺産に登録されたことで国内外から注目されているので、この好機をいかしたい」と、観光部観光振興課・広域振興担当の丸山孝主査。富士山周辺の地域には、外国人観光客には必須の無線LANを張り巡らした。

今後は、「富士山観光を起点に県内にある他の名所周遊を促していきたい」(同前)というだけに、その動向に注目したい。

マイプランは山梨県の観光サイト「富士の国やまなし観光ネット」のトップページからアクセス(上) 作成した旅程表のイメージ(PC画面版)(左下) モバイル端末へ転送した旅程表。スマートフォンやタブレットなら、直接端末上で作成できる(右下)
スマホ版のバス情報画面のイメージ。目的地を入力すれば、観光客の現在地をGPS機能で把握し、検索をかけた名所付近のバス停まで最適な路線を表示する。利用者のレベルにより様々な視点で検索が可能だ