IT活用事例 [特別編]自治体の「AR活用」

概要

行政でも急速に普及する話題の「拡張現実」とは!?

現実とデジタルを融合するAR技術
自治体の広報誌や名刺が動き出す!

 

  • 娯楽やビジネス分野に続き、自治体でも広がるAR技術の採用
  • 大阪府豊中市や大阪府、北海道登別市などが広報誌に導入
  • AR名刺を作成した大阪府吹田市など広報誌以外でも活用事例は様々
  • 百聞は一見にしかず。実際にARを採用した自治体の取り組みを誌面に再現

「AR(Augmented Reality/オーグメンテッド・リアリティ)」という言葉を見聞きする機会が多くなった。これは日本語で「拡張現実」といわれており、現実の空間や環境にデジタル情報を重ねて合成提示することにより、そこには見えない付加情報を可視化(現実の拡張)する技術だ。

具体的な仕組みは、専用アプリケーションソフト(ARアプリ)をダウンロードしたスマートフォンやタブレット端末のカメラ機能を通じて映し出された映像(現実)上に、別の画像や動画、アニメーション、3Dキャラクター、テキストなどのデジタル情報(拡張)が表示される。そこから、さらにホームページやSNSなどへ移動させることも可能となる(詳細は図参照)。

ARで行政情報とウエブを連携

このARの活用は、冊子カタログの掲載商品を実際に使っている様子を映像で見られるようにするなど、企業広告や販促、ミュージカルや映画などのプロモーションに多いが、実は同技術を行政の広報誌に導入する自治体が急速に増えている。

その先陣を切ったのが大阪府豊中市だ。2013年9月号の『広報とよなか』に掲載した、「命を救うためにできること」をテーマとした救命救急の特集ページに全国で初めて採用した。

誌面の「AR動画」マークが入った写真に、ARアプリをダウンロードした端末をかざすと、応急手当の解説や人命救助を体験した市民のインタビュー動画などが立ち上がる。心肺蘇生の写真では画像の人物が動き出すように実演と解説動画が始まり、最後はフル映像が見られるYouTubeの「とよなかチャンネル」へとリンクが可能な仕掛けになっている(次ページで体験可能)。

ARアプリによる動画から、さらに別映像へとつなげるのには狙いがある。ARアプリにより表示された動画や情報は、端末がマーカーからずれてしまうと消えてしまう。このため、動画を見ている間は、端末を保持しておくことが必要だ。この時間が長いと持ち手が疲れてしまうため、ARアプリでの動画再生はCM的な位置づけとし、十数秒の圧縮版にとどめた。

YouTubeサイトへ移動してしまえば端末を広報誌にかざす必要がなくなるので、楽な姿勢で少し再生時間が長い動画も見てもらえるというわけだ。

仕組み構築で中心的な役割を果たした政策企画部広報広聴課・広報報道係の濱浦崇主事は、「動画を見て救急救命の意識を高めてもらうことはもちろん、そこから救命講習などを受講するきっかけになれば」という。

同市がARを導入した経緯は救命救急の特集を組むにあたり、その重要性を読者に効果的に伝えたいと考えたこと。「イラストでの解説も検討したが、胸骨圧迫のタイミングやテンポなど心肺蘇生方法の実際を正確に伝えるには動画が最適だと判断した」(濱浦主事)。

誌面と動画を効果的に連携させる方法はないかと模索していた時に、演劇公演のフライヤーで使われていたARを目にした。技術の認知度やスマートフォンの普及状況、市民意識の把握を目的に、導入に先立ち市民アンケート調査を実施。肯定的な意見が多数を占めたことを受け、動画を見られない市民へは別の方法で対処することとして実験的な導入を決めた。

ARを採用した広報誌は、市民からの評判が上々という。「文字や写真だけでは充分に思いを伝えきれないコンテンツには積極的にAR技術を使って、興味や関心を喚起し市民の市政参加を促す広報誌にしていきたい」と濱浦主事。2014年以降の採用継続を決定し、すでに1月号と2月号の表紙などでも活用している。

相次ぐ自治体での導入

豊中市以外に、広報誌でAR技術を導入している自治体には大阪府や北海道登別市などがある。

大阪府は、2013年11月発行の広報紙に採用。「発行部数304万の『府政だより』の中心購読者は50代から60代の方々が多く、少しでも幅広い世代に読んでもらいたいと、そのきっかけづくりにARを取り入れた」(府政情報室広報広聴課広報広聴グループの田中太郎課長補佐)と、当面は試行実施を続けるという。

登別市は、市政だよりの『広報のぼりべつ』に導入。初採用の10月号では、表紙に掲載された地元の祭りの写真に端末をかざすと、実際の様子が動画再生される。

また、広報誌以外での活用は、ひと足早く進む。大阪府吹田市は2013年8月に自治体公認のイメージキャラクター「すいたん」のAR名刺を市のプロモーションに利用。兵庫県姫路市は、2012年11月から観光推進策としてARを採用。市内の観光スポットで公認イメージキャラクター「しろまるひめ」と一緒に記念撮影できるサービスなどを開始している。

2013年夏に行われた参議院議員選挙では、岡山県の選挙管理委員会が啓発グッズとして「ARうちわ」を作製した。うちわに端末をかざすと、描かれたイラストが動き出して動画が再生され、投票を呼びかけるメッセージが最後に表示される仕掛けだ。

防災意識を高めるために利用しているのが神奈川県茅ケ崎市。東京大学と共同でARアプリ「天サイ!まなぶくん茅ヶ崎版」を開発。市内の風景に端末をかざすと、津波時の浸水深や地震で道路がふさがる確率などの防災情報が表示されるサービスを提供している。

様々な広がりを見せるARの歴史は古く、1960年代半ばにハーバード大学で研究がスタートしたという。国内で同技術を使ったサービスが見られるようになった時期は2009年頃のこと。ARアプリの開発やサービスを提供する事業者が増えるに従い、ビジネスや観光案内、娯楽などに採用されてきた。それが、行政の現場でも活用されるようになったわけだ。

とはいえ、行政でのAR活用はまだ端緒に着いたばかり。次ページで実際に自治体のARアプリを体験すると共に、今後の展開に期待したい。

■大阪府吹田市

キャラクターのAR名刺を起点に行政情報を発信


▲名刺(リアル)の上に、すいたんが登場すると共
にコメントなどが表示(拡張)される

吹田市では、2013年8月から公認イメージキャラクター「すいたん」のAR名刺を活用してプロモーション活動を展開している。

名刺に専用アプリをダウンロードした端末をかざすと、画面に映し出された名刺からすいたんとコメントが飛び出すと同時に、SNSや関連動画サイトへリンクするアイコンも表示される。アイコンにタッチすることで、ツイッターやフェイスブックなどへ移動可能だ(次ページで体験可能)。

「すいたんの情報を発信することで市内外の注目度を高め、そこに行政情報を挟み込むことで、市政への参加などを促していきたい」(総務部市長室広報課の中村暢之主査)とのこと。その周知ツールとして、「AR名刺が適していると感じた」(同前)。

名刺は手元に残りやすく後からでも見てもらえる可能性が高い。ARアプリでは、表示させる画像やコメントを自由に変更でき、動画再生も可能なので、必要に応じてコンテンツを更新して様々な情報を発信できる。この意味で、AR名刺は行政と市民などをつなぐツールとして有用だ。

 

■兵庫県姫路市

観光推進と知名度アップにARアプリを活用

兵庫県姫路市では、2012年11月から観光推進策として姫路城を中心にAR技術を応用したサービスを提供している。

具体的には、「姫路城でしろまるひめ」と「『姫路』でしろまるひめ」の2つだ。前者は、姫路城や好古園の庭など4カ所の観光ポイントで公認キャラクターの「しろまるひめ」と一緒に記念撮影できるARアプリだ。

GPSによる位置情報をマーカーとして、撮影場所や角度によりキャラクターが向きを変える3DCG技術を採用している。観光ポイントをベストポジションで見られる位置で正面を向くように設定されており、正面から撮影することで観光客は必然的によい眺めを堪能できる。

一方、後者のサービスは「姫路」という文字に端末をかざすと、しろまるひめが画面上に登場する遊び的な要素の強いアプリだ。姫路という文字をマーカーにしており、字体の違いによってキャラクター出現の有無が左右される楽しさが人気という。

今後は、「キャラクターと姫路の魅力を全国に広めたい」(姫路市観光交流推進室の吉田貴俊主事補)と、キャラクターのAR名刺によるプロモーションにも取り組む意向だ。
▲姫路城(改修工事中)にスマートフォンを向けると、キャラクターが登場する。現地のみで体験可能なアプリだ