学校IT最前線三重県松阪市立三雲中学校

概要

「協働学習」のIT化電子黒板/タブレット端末

1コマで5つの授業プロセスを完結
授業内での思考&試行機会が増加
  • 課題提示や課題共有に効果的なデジタルプリント
  • 個人思考とグループ思考では、タブレットの入力方式が利点
  • 一覧提示や拡大表示など、全体共有では電子黒板が大活躍
  • ITによる時間短縮効果で振り返りまで1コマの授業内で完結

近鉄線の伊勢中川駅からクルマで約10分。地方都市に特有な広々とした敷地に松阪市立三雲中学校は立地している。一見、普通の公立中学校だが、ITを駆使した授業スタイルは最先端だ。

校内のデジタル環境は、総務省のフューチャースクール推進事業などに参加し、その支援を受けて整備している。すべての普通教室に加え、理科室や音楽室などの特別教室にタッチディスプレイ型の電子黒板と、書画カメラ(実物投影機)を設置。タブレット端末は、生徒用と教師用を合わせて約490台が用意されており、1人に1台の環境が整う。

ネットワークは無線LANが校内はもちろんのこと、運動場の隅々まで敷地全体をカバーしている。

今や全国から注目を集めるが、もともと同校ではIT利用に積極的ではなく、フューチャースクール事業への参加も偶然のことだったという。

だが、これを機に「IT教育素人の公立学校に何ができるかを伝えたかった」と研究主任の楠本誠教諭。『公立学校のゼロからの挑戦』を掲げ、教師の意識改革やリテラシー向上に始まり、授業のIT化など、様々な実証実験に取り組んだ。

いずれも興味深いが、教育の現場で最も重視されているだけに、「協働学習(生徒同士の学び合い)」にITを使った検証への注目度が高い。

「50分の授業の中で協働学習をどう組み立てるかが大事」(楠本研究主任)と、①課題共有、②個人思考、③グループ思考、④全体共有、⑤振り返り――の5工程で1コマを構成。ここに、電子黒板とタブレット端末を活用することで授業を組み立てている。以下、詳細を見ていきたい。


教室に常設の電子黒板はビジュアルの情報発信ツールとしても活躍。
ネットワークにつなげて、災害発生や緊急連絡の伝達などにも利用されている

課題共有

まず、①課題共有だ。これは、授業で学ぶべき目的やゴール(課題)を明確にすること。三雲中学校では電子黒板で課題を提示する。単なる文字提示ではなく、アニメーション機能を活用してインパクトを与え、生徒達に50分の授業で取り組むべきことを印象付けることが狙いだ。

さらに、電子黒板の課題提示画面を生徒のタブレットに送信する。電子黒板が50型と画面が小さく、後方の席からは画面が見えにくい。生徒の手元で確認できるようにすることで、共有を徹底する試みである。

タブレット端末への送信は、時間短縮に役立つ。配布資料や問題なども紙ではなく、デジタルプリントとして生徒達の端末へ送ってしまうことで配布時間はかからず、すぐに作業が始められることがメリットだ。

個人思考とグループ思考

課題を共有した上で、次に取り組むのが②個人思考である。目的は、与えられた課題に対して個々人の理解度や認識具合を整理させること。ある程度理解できる生徒には問題を解かせてみるわけだが、この時にタブレット画面で書いたり消したりする作業は鉛筆や消しゴムほど時間がかからない。わずかだが、時間短縮となりトライ&エラーの回数を増やせる。

また、課題を解くにあたって過去の学習履歴を参考とするにはノートでも可能だが、デジタルでは音や動画まで残っていることが利点だ。

例えば、理科の授業で溶液を混合させて色の変化を知る実験だ。ノートの場合は文字や図での認識だが、タブレットでは写真や動画、音声などのビジュアルとして見返せる。以前に学習した実験を五感に訴えるような形で捉えることができ、再確認する上での効果が高い。

③グループ思考は、個人で考えたことを班の意見としてまとめる作業である。ここでも、タブレットを使うメリットが多いという。

会話だけの議論では、苦手な生徒にとっては何が問題なのかが把握できない。この点、タブレットでは話し合いながら画面上で書いたり消したりを行うが、まさにそこが論点。しかも、理解している生徒が中心になってタブレット画面上で、それを繰り返すことで自然と論点に視線が集中する。

また、班での学び合いといいながら机を合わせただけで個人学習しているケースも多い。だが、タブレットを介することで、生徒達がお互いに身を乗り出して画面を覗き込んで話し合う姿が見られるなど、グループ学習をうまく機能させる支援ツールとしても役立つという。

全体共有

班ごとの意見がまとまったら、それを④全体共有する。これは、文字通り個人からグループへとまとめてきた意見を、クラス全体として認識するプロセスである。
以前は、ミニホワイトボードなどに書いたものを班ごとに黒板に貼っていた。9班なら、9枚のボードが並ぶわけだ。現在は、班の見解をまとめたタブレット画面を電子黒板へと送信させて一覧表示。この作業も瞬時に完了するので、大幅な時間短縮につながっている。

生徒が前に出て発表する時も、一覧から選択してワンタッチするだけで拡大表示が可能。画面では問題を解いたプロセスなどを同じように再現できるので、結果だけでなく思考過程も共有することが可能だ。

ホワイトボードや黒板でもできなくはないが、電子黒板を利用した方がはるかに簡単で時間も節約できる。視覚を明確化できるので生徒にも分かりやすく、比較学習などにも効果的である。

振り返り

そして、楠本研究主任が「協働学習でIT利用が最も効果的と感じた」というプロセスが、⑤振り返りだ。

振り返りとは、全体共有した成果を生徒が自分なりに整理すること。例えば、間違っていたり異なる解法だったりした場合に、新しい意見を取り入れて自分の考えの再検討や再構成を行う過程で、協働学習の成果を定着させるための重要ポイントとなる。

電子黒板とタブレット端末を活用する以前は、黒板に貼ったミニホワイトボードなどの小さな文字を見ながら、苦労して取り組んでいた。

今では、電子黒板に表示された同じ一覧画面を、瞬時に生徒達の端末に送信できる。新たに書き込まれた文字や線なども含めて全体共有の結果を、そのまま戻すことが可能だ。生徒は手元で画面を見ながら、授業を振り返り内容を確認できる。ホワイトボードや模造紙を使った共有では、取り組みにくい授業スタイルといえる。
「課題共有から振り返りまで、5つのプロセスを50分の授業で完結できるようになったのは電子黒板とタブレット端末の活用が大きい」と楠本研究主任。「これがなければ振り返りまで行うには時間が足りないことも多かった」。

その成果が明らかとなるのはこれからだが、少なくとも協働作業スキルは向上しているという。「これからは第2フェーズに入る」(同前)というだけに、今後が楽しみだ。

従来:板書
デジタル:板書すると同時に、電子黒板へ提示。さらに、タブレット端末に送信
効果:課題共有の徹底
従来:紙のプリントに筆記用具を使用
デジタル:タブレット画面上で指やスタイラスペンで行う
効果:時間短縮による試行回数の増加
従来:言葉だけの議論
デジタル:タブレット画面を見て書き込みながら試行錯誤
効果:学び合いの深度が深まる。全員参加しているかどうか把握が可能
来:班でまとめたミニホワイトボードや模造紙を黒板に貼る
デジタル:タブレット端末から電子黒板へ一斉送信
効果:時間短縮。一覧表示や、選択しての拡大表示、思考プロセスの再現が可能。比較による考察も深まる
従来:黒板で全体共有したものを生徒が各自でノートにまとめる
デジタル:全体共有での考察も含めて電子黒板画面に表示したものをタブレット端末に送信
効果: 時間短縮、生徒の視認性が向上すると共に、再確認や再認識の時間を確保可能