学校IT最前線佐賀市立小中一貫校北山校

概要

山間部の学校がネットで国際交流
英語が使える人材育成に手応え

  • 電子黒板とテレビ会議システムによる国際交流を英語の授業に導入
  • 生徒や子ども達は、楽しみながら語学習得に取り組むなど意欲付けに効果
  • 交流相手は同世代が最適。世代間格差がなくスムーズなコミュニケーションが可能に
  • 達成目標を明確化し、そこに向けて学ぶことで英語力が飛躍的にアップ

「Well, what is 『Hinamatsuri 』?」。電子黒板のディスプレイに向かってクイズを出したのは、小中一貫校である佐賀市立北山校の中学生だ。

画面に写っているのは、豪州(オーストラリア)・メルボルン市リスモア校の子ども達。北山校の生徒の質問に対して、少しなまりのある日本語で返答する。お互いが主に相手の母国語を使いながら、自己紹介や文化の学び合い、クイズ、ゲームといった幅広い交流を行う。

別の時間には、北山校の小学生が同じようにリスモア校の子ども達とクイズや絵本の読み聞かせなどの交流を楽しむ。そこには、緊張や気恥ずかしさは見られない。

日本人同士が仲良くなるように、ごく自然に外国の言葉や文化を受け入れコミュニケーションを取る姿があった。


北山校は、JR佐賀駅から車で約1時間の奥深い場所に立地。
61名の小中学生が学ぶ

国際交流を英語の授業に導入

急速なグローバル化を背景に、これまで以上に英語を操る能力が求められているが、多くの日本人は英語を苦手としている。実際、様々な調査でもその英語力はアジアの最低クラスにランクされている状況だ。

理由はいくつか指摘されるが、1つには英語教育や学習が資格試験やペーパーテストの点数取得に偏っていること。テスト内容でヒアリングやスピーキングが重視されるようになったとはいえ、高得点が取れたとして必ずしもコミュニケーション能力のアップにはつながっていない。

そうした中で、「英語が使える人材の育成」を目標に掲げ、英語教育の変革に取り組んでいるのが佐賀市立北山校である。

これを先導したのは、今は退職して佐賀龍谷学園中等部で教鞭をとる陣内陽子・前校長だ。十数年前に、外国人との遠隔地交流授業が生徒の学習意欲を向上させるという経験をしたことから、「異文化に触れながら同世代の外国人とコミュニケーションできる環境を実現したい」と、インターネット回線を介したテレビ会議システムを導入した。

IT環境やテレビ会議システムの詳細は、囲みを参照してほしい。当初はSkypeなど無料の音声&ビデオ通信サービスを利用して環境を構築しようとしたが、国外との通信だけに音声切れが発生するなどシステムが安定しなかった。

そこで、県が公募していた「外国語教育充実プラン事業」に名乗りを上げたところ、取り組みが認められる。県や民間のIT企業からの支援により専用機を借り受けて環境を整えた。

交流開始から約1年半。効果は予想以上で、生徒や子ども達にとって英語を学ぶ大きな意欲付けになっているという。

北山校で英語担当の南里貴子教諭は、「ALT(外国語指導助手)や生徒同士のスピーキング練習なども取り入れているが、ネイティブと英語でコミュニケーションを取るチャンスがあるとないとでは刺激が違う」といい、陣内前校長も「表現力はもちろんのこと、読解力も上がっている。交流を始めて、CRT(到達度テスト)の結果が10ポイント以上もアップした」と話す。


「交流の回数が多いほど、コミュニケーション能力も高まる」
(陣内・前校長)ことから、2015年度は交流機会を増やす計画だ

交流相手は同世代が最適

北山校で、ネット交流による英語力アップと国際交流が上手くいっている要因は、「相手校の選定」と「プロジェクト型の学習スタイル」だ。

ネットの国際交流で最も難しいのが、相手校の選定だ。北山校が交流するリスモア校があるオーストラリアは、英語を母国語とする国としては日本との時差が少なく日本語熱も高いので交流校を探しやすい。これが、豪州に目を向けた理由である。
そして、最も大事なポイントに「同世代であること」と「小グループで交流可能なこと」を挙げる。

同世代であることを重視する理由は、「できるだけ緊張や気構えを取り払うと共に、自然なコミュニケーションを実現する」ため。世代が同じであれば、知識のレベルや興味の範囲などが大きく外れることはなく、友達感覚で打ち解けられるというわけだ。
特に、小学部の子ども達は交流を重ねるごとに、姉妹校のような感覚が醸成されている。ただし、「リスモア校は小学校なので、北山の中学生との交流では若干のズレが見られた」(南里教諭)ことから、やはり中学生が適していると判断。中学部は相手校を新たに選定中という。

また、生徒数の少ない学校と小グループで交流することにより、すべての生徒や子ども達がネット交流に参加できる機会が生まれる。コミュニケーションを取らざるを得ない状況を作ることで、無理にでも会話する必要に迫られる。必然的に、英語力をアップさせることを狙っているわけだ。

選定作業はマッチングを手掛ける民間団体やオーストラリア領事館など外部機関の力を借り、相手校との折衝やスケジュール調整といった負担軽減を図った。


小規模な北山校は、ネット交流を行う上で恵まれた環境だ。
「生徒数の多い学校はグループに分けるなどの工夫が必要」と南里教諭は語る

国際交流での達成目標を明確化

一方、単なる交流で終わらせないためのポイントが、佐賀県全域で推進するプロジェクト型の学習スタイル(佐賀メソッド)だ。

これは、年に数回ほど行われるネット交流で、自己紹介や学校紹介といった伝えるべき内容などを実現すべき到達点として明確化。そこに向けて学習計画(北山校では「Can Do リスト」を作成)を立てて取り組むこと。

前述した通り、全員が英語で話さねばならない状況だけに、学習への意欲付け効果が高い。しかも、国際交流には定期試験などのペーパーテストのような強制感がない。多くの生徒や子ども達が楽しく取り組んでおり、効果も倍増だ。

交流の場で、上手くコミュニケーションが取れれば達成感を味わうことができ、仮に失敗しても自分に必要な能力の確認につながっていく。

達成すべき具体的な目標は学年ごとに異なるが、最終的には「相槌や質問、意見をはさみながら、自分の考えや気持ちを伝えられるようになる」こと。自己紹介に始まり、学年が上がるにつれて、英語を勉強する意義など少し難しい内容を語れることを目指す。

これに対して、小学生は「同世代の外国人と交流することで異文化を知る」ことに重きを置く。英語の習得を無理強いするのではなく、楽しく学ぶことで抵抗感をなくし、コミュニケーション意欲の育成を目的としているからだ。

数年内に小学校でも英語が正式教科となる方向だが、従来の学習方法では、学ぶ年齢を早めただけ。真の英語力を養うには、北山校のような取り組みが欠かせないといえるだろう。

「同世代の子ども達と触れ合うことで、外国語学習の意欲向上につながっていることは確か」と語る陣内・前校長。将来、英語を自由に操りグローバルの舞台で渡り合う北山校の卒業生の活躍に期待したい。


交流の様子、リスモア校から送られてきた
手紙や写真などを展示するコーナーを校内に設置。
英語や海外留学に興味を持つ生徒や子ども達が増えたという

北山校のテレビ会議システムの概要

基本的に、市販のネットワークカメラとパソコンやタブレット端末があれば、テレビ会議システムの構築は可能だ。個対個のコミュニケーションであれば、十分に使える。だが、複数人が同時に交流するようなシーンではスペック的に物足りないという。
そこで、北山校でも臨場感あるコミュニケーションとセキュリティを確保するため、専用機を導入した。

超高解像の映像や高品質な音声を伝えることができ、距離が離れていても同じ空間でコミュニケートしているような環境を実現できるビデオ会議システムで、テレプレゼンスとも呼ばれている。


北山校のテレビ会議システム(テレプレゼンス)は、電子黒板をスクリーンに、映像と音声を伝えるカメラとスピーカー、専用機で構成されている。


電子黒板は全教室に設置されているので、移動すればどの教室でも交流できるが、気兼ねなく会話が楽しめる場所として通常は音楽室を使う。