地方発!世界で活躍する会社田舎の廃校から世界に発信する
「段ボールアートの聖地」

株式会社 アキ工作社[大分県]

大分県国東市安岐町富清3209-2

代表取締役 松岡 勇樹

TEL. 0978-64-3002

URL. http://www.wtv.co.jp

段ボールで美しい曲線を表現

大分県国東半島ののどかな山あい。廃校になった小学校の校舎を拠点に、個性あふれるオリジナル商品を創造している会社がある。

段ボールを建築設計の手法によって精密にデザイン。レーザー加工機で美しくカッティングして、全国はもとより海外にも送る。「段ボールアートの聖地」とも呼ばれるアキ工作社。かつては校長室だったという応接室で、「始まりは20年前のことでした」と松岡勇樹社長が静かに語り出した。

松岡は元々が建築士で、当時、建築設計事務所から独立し、東京で仕事をしていた。その松岡に、ニットデザイナーである妻が相談を持ちかけた。ニットの展示会を開きたいんだけど、いいマネキンがなくて困っているのよ……。話を聞いて、松岡は思った。それなら自分で作ってみようか。

その頃、時間はたっぷりあるが、金はないという状況だった。安くて手に入りやすく、自分の手で加工できそうなものは何か? 「必然的に、段ボールしかなかった」と松岡は笑う。本業の建築設計でも、段ボールで建築模型を作ることが多く、松岡にとって扱いやすい素材だった。

段ボールは単純な平面の素材だ。これで多角的な立体を作る場合、折り曲げて組み合わせていくのが普通のやり方だろう。しかし、それでは曲線を美しく表現できない。段ボールを前に松岡は考え、ひらめいた。人体をCTスキャンにかけるように輪切りにするのはどうだろう? その1枚1枚を組み合わせていけば、自然な曲線を創り出せないか。

試してみると、不思議な人体を表現することができた。1枚1枚はつながっていないのに、なぜだか無理なく一体化したように見え、頭や腕、脚、胴体などのすべてが滑らかなアールを描いている。誰も見たことのない、段ボールのマネキン。これがすべての始まりだった。

ミニチュアから巨大オブジェまで

段ボールのマネキンは、松岡の想像以上によい出来栄えに仕上がった。これは需要があるのでは、とアパレルメーカーなどにリリースを発送したのだが……。「残念ながら、まったく反応はありません。事業化するつもりはなかったんですが、もったいないので、自分たちで売るしかないなと考えました」と松岡は振り返る。かくしてアキ工作社はスタートした。

会社を立ち上げたのは1998年。しかし、やはり国内では注目されない。これには理由があった。日本のマネキン市場は8割以上がレンタルで、買い取りでの取り引きは少なかったのだ。一方、欧米の市場はまったく逆で、8割ほどが買い取り。こうした商習慣の違いから、まず反応があったのは海外だった。展示会に来日したフランスのバイヤーに注目され、取り引きが始まる。

とはいえ、手持ちの商品がマネキンだけでは商売にも限界がある。ビジネスの幅が広がったきっかけは、顧客からの意外なリクエストだった。マネキンと同じ構造でイヌやネコのクラフトを作ってほしい、という要望が寄せられるようになったのだ。そうした声に応えるうちに、アイテムが少しずつ広がっていった。

「我われの商品には金型の必要がないんですね。設計はすべてパソコン上で行い、データを作って、レーザーで切る。一度データを作れば、拡大縮小は自由にできるんです。マネキンにせよ、イヌやネコにせよ、等身大から縮小したミニチュアまで、どんな大きさでも作れる。これが大きな強みですね」

このミニチュアクラフトが当たった。最初に作ったのは、戌年用のイヌモデル。翌年はイノシシ、その次はネズミ……と新作が続き、現在は来年の申年用のサルモデルを開発中だ。あとはトリモデルを作れば、いよいよ十二支がひと回りする。ほかにもクラフトのラインアップは多彩で、ディズニーやサンリオなどのライセンス商品も制作している。

会社の立ち上げから8年ほどは、松岡が設計から製造、梱包、発送まで1人でこなしていたアキ工作社。ビジネスの拡大につれて、従業員を雇い入れ、売り上げも右肩上がりに伸びていった。海外での市場も順調に獲得する。ところが、2008年のリーマンショックの時、頼りにしていたヨーロッパのディストリビューターが倒産……。

「顧客はいるのに手が出せない状況になってしまって。ちょうどその頃、ディズニーなどのライセンス商品が動きだしたので、国内に重点を置くようにしました」

狙い通りに国内の売り上げを伸ばしていったが、2011年に東日本大震災が発生。国内市場が混迷するなか、再び海外へと目を向ける。JETROからICFF(ニューヨーク国際現代家具見本市)への出展を誘われて参加すると、独創性あふれる作品群がすぐに注目された。他にはない個性が、海外では最も強い武器になる。

本社エントランスのディスプレイ用に巨大オブジェを作ってもらいたい、と声をかけられたのはあのグーグルだ。1年間にわたる商談ののち、高さ3.5mのクマと体長2.5mのヘラジカを製作して納品した。

ューヨークの高級デパート、サクス・フィフス・アベニューからも発注を受け、各フロアのディスプレイ用にユニークなトルソー(胴体のみのマネキン)などを製作した。ディスプレイの仕事は最近増えており、有名ファッションブランドのショーウィンドウやイベントなどでも活用されている。

クラフトについては今年10月から、ナノブロックで有名なカワダと提携。「もの作りに対するカワダさんのコンセプトは、我われと非常に近しいところがあります。これからは開発製造がアキ工作社、販売がカワダさんという新体制で取り組んでいきます」と松岡。開発製造に集中することにより、一層個性的なもの作りができそうだ。

週休三日の「国東時間」を提唱

最後に、「田舎での暮らし・仕事」に対する松岡独自の考え方を紹介したい。

アキ工作社は東京でスタートしたが、会社の登記は故郷の国東市で行っていた。2001年には東京から拠点を移し、2010年より廃校を借り受けてものづくりを行っている。「20年近く東京にいましたが、魅力を感じていなかった。せっかくものづくりをするのなら田舎でやろうと、当初から考えていました」と明かす。

小学校が廃校になるような過疎地からグローバルに発信してきた松岡。この経験から2013年、斬新な勤務体制を考え出した。月曜から木曜まで1日10時間働き、金・土・日曜は続けて休む。この変形労働時間を「国東時間」と名付けた。

「国東と東京では、流れている時間の質がまるで違います。休日はこの国東の豊かな時間を過ごして、大いにリフレッシュし、アイデア創出やスキルアップにつなげてほしい。導入してみて、実質的な労働時間が減った一方、売上高はアップしました。仕事の効率化が進んだことは間違いないですね」

田舎には、田舎でしかできない働き方がある。田舎から世界に発信することもできる。松岡の思い切った提唱は、地方における暮らしの指針にもなり得る考え方として、全国から注目されている。(敬称略)

グーグル本社エントランスにいる巨大なクマ(左) サクス・フィフス・アベニューを飾ったディスプレイ(中) 作るのが最も面白かったと言う「ヒダリテ」。いまにも動き出しそうだ(右)
グーグル本社エントランスにいる巨大なクマ(左)
サクス・フィフス・アベニューを飾ったディスプレイ(中)
作るのが最も面白かったと言う「ヒダリテ」。いまにも動き出しそうだ(右)