地方発!世界で活躍する会社独自開拓の輸入ルートで
宮島名物「アナゴ」を支える

有限会社 スイコウ[広島県]

広島市西区草津町1-52-20

代表取締役 土岡 正人

TEL. 082-279-2020

URL. http://www.suikoh.net/index.html


ご当地グルメの食材を提供

カキと並ぶ広島の名産といえばアナゴ。
甘辛く味付けしたものをたっぷり使った「アナゴめし」は、宮島のご当地グルメとして、旅行者の舌を大いに喜ばせている。

この名物料理を陰で支え、観光振興に一役買っているのが、独自のアナゴ輸入ルートを開発した水産会社スイコウである。
いまや同社が韓国から仕入れるアナゴなくして、宮島のアナゴ料理は成り立たないといっても過言ではない。

スイコウの歩みは1967年、現社長・土岡正人の両親が、廿日市のスーパーマーケット内に鮮魚コーナーを開いたことから始まった。
土岡本人は高校卒業後、いったん広島市内の建築資材会社に就職したが、数年後に呼び戻された。
「扱っている鮮魚の中でも、特にアナゴを卸す仕事が忙しくなって、両親だけでは手が足りなくなってきたんですね」と土岡は23年前を振り返る。

アナゴめしが看板メニューの駅弁メーカーや、宮島近くにある老舗旅館などを大きな得意先に、スイコウは売り上げを伸ばしていく。
日々の仕事が、観光客の「宮島に来てよかった」という満足感につながる。地元に貢献しているという、確かなやりがいを実感できる仕事だった。

得意先からの信頼も厚く、『父ちゃん、母ちゃん、兄ちゃん』の典型的な「さんちゃん商売」から、4、5年後には二桁の従業員を抱える水産会社に成長した。
極めて順調に見える歩み。だが、土岡の胸の中には消すことのできない不安があった。

好不漁の波が大きいアナゴ

「宮島のアナゴは地元で『前浜』と呼ぶ、目の前の広島湾で獲れたものが好まれていました。前浜は昔から好漁場で、ええアナゴがよう獲れよったんです。しかし、天候によっては漁師が海に出られん日もあるし、漁にばらつきもあるんです」

アナゴはウナギと違って、養殖技術が確立されていない。
漁師が獲ってくる天然ものに頼るしかないのだ。安定供給しがたい一方、観光客は年間を通じてやって来る。
カキ料理にシーズンはあっても、アナゴなら年中食べられると思っているからだ。

当然、スイコウは得意先から決まった量の確保を求められる。
漁が少なくて浜値が跳ね上がっている場合、「損をしてでも、持っていかにゃいけん」と土岡はいう。
会社は年々売り上げを伸ばしながらも、そうした危ない場面にしばしば遭遇しているのが実情だった。

将来的にも、漁が安定して水揚げを増やす見込みはない。ある日、市場の職員に聞いた言葉が、土岡の耳から離れなかった。
──漁師さんはみな高齢だ。10年したら、今の5分の1くらいに減るだろう。獲れる量も、同じぐらい減っていくよ…。

さらに、土岡にはもう一つ、心配なことがあった。アナゴの漁獲量は年によって変動し、4年に1回ほどは不漁になることが避けられないのだ。
そのひどい不漁の年が、1999年にやってきた。

頼みの綱は保管していた「箱」

前浜でアナゴが獲れず、市場にわずかしか揚がらない。
何とかしなければ、大事なお客さんに迷惑がかかる──。
窮地に陥った土岡は、加工場の隅に保管していた1つの箱を手に取った。
その箱の文字はハングルで表記されていた。

「以前、市場に韓国のアナゴが入荷したことがあったんです。
大阪あたりで余ったものが流れてきたんでしょうね。
見てみると、魚自体は悪くない。
もしかしたら、この先、使うことがあるかもしれんと、その箱を取っておいたんです。
電話番号が書かれてあったので、電話しようと思ったんですが、国際電話のかけ方を知らない。
104番に電話して、国際電話のかけ方を教えてもらうことから始めました」

アナゴを何とか手に入れなければ。
この一心で、土岡は何のツテもない韓国の会社に電話をかけた。
当然、向こうは韓国語で話すが、土岡には何を言っているのかわからない。
それは先方も同じだ。土岡は受話器を片手に、「日本語!日本語!」とただ連呼していた。
まったく意思の疎通のないまま5分ほどがすぎ、ようやく日本語のわかるスタッフに替わった。

せきを切ったように土岡は話した。──広島には今アナゴがなくて困っている。
以前、市場で見かけたおたくの箱を大事に取っておいて、今電話をかけさせてもらっている。
そちらにはアナゴはありますか?

先方は「ええ、普通にありますよ」と答えた。
土岡は意気込んで、「じゃあ、見にいかせてもらえませんか」と話を持ちかけた。
会社があるのは韓国南部の釜山。行き方を尋ねると、福岡から水中翼船に乗れば3時間で着くという。
土岡はその3日後、先方がどういう会社なのか、詳しく分からないまま、対馬海峡を疾走する船に乗っていた。

今やアナゴの6割は韓国産

訪ねた釜山の水産会社はなかなかの規模だった。
工場も大きく、スイコウの10倍以上の従業員が働いていた。
土岡は先方と交渉したものの、商談はすぐにはまとまらない。

「商売は信用ですからね。先方からすると、日本から妙な若造がきたぞ」といった感じだったのかもしれません。
広島の事情を説明し、韓国の漁の状況やアナゴの品質などを聞き、実際にサンプルを送ってもらうように交渉しました。
それから3〜4回訪ね、ようやく信用してもらえて、取り引きを始められました。

サンプルを調べたところ、品質については、韓国産と前浜のアナゴに顕著な差はないことが分かった。
ただ、わずかな違いがあり、香りは前浜産が若干優れているが、脂ののりは韓国産が少し上だった。
「前浜のアナゴはエビやシャコを食べ、韓国のアナゴは深海性のイワシが主食だからではないか」と土岡は分析する。
とはいえ、魚のプロが見て食べて、やっとわずかな違いを感じる程度なので、実際には問題がない。

その後、一時は中国からも輸入しようと、ルート開拓を模索した。
しかし、中国には兼業漁師が多く、魚の扱いが丁寧ではないことが判明した。
船の生け簀に重油が混じり、アナゴが臭くなって使えないこともしばしば。
どうにも品質が安定しないため、中国進出は断念した。

一方、韓国との取り引きは順調に伸びていった。今スイコウの売り上げ比率は、アナゴと他の鮮魚がおよそ半々。

そのアナゴの6割を韓国産が占めるまでになっている。
当初は韓国産に抵抗を示した得意先もあったが、品質のよさが分かるにつれ、好んで使ってくれるようになった。
現在、前浜のアナゴ漁獲量は10年前の5分の1にまで落ち込んでいる。
土岡が前浜のアナゴに固執していたら、スイコウ一社の売り上げのみならず、宮島の名物料理の提供にも大きな支障が出たかもしれない。

「うちの仕事は観光業と密接につながっています。我われがしっかりせんと、広島や宮島の観光に悪い影響を与えます。将来的には水産物加工のメーカーになり、土産物の販売などにも進出したい。これもある意味、観光の一翼を担うということになるんでしょうね」

単身韓国に渡って商談を成立させた熱意と行動力が、その夢を実現に向かわせるだろう。(敬称略)