本田雅一のスペシャルレポート解像度の向上だけに止まらない
本質的進化を遂げた「4K/HDR」テレビ

ライター:本田雅一(フリージャーナリスト)

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ここ数年、毎年のように『今年は4Kテレビの年』といわれ続けてきた。これだけ毎年のようにいわれると「今年も?」と思うことだろう。しかし、過去の4Kテレビ動向が、低価格化や従来のフルHD映像を高画質に映せるようになったという話だったのに対して、今年は4Kコンテンツの本格化を基本としている。

4KテレビはフルHDの縦横2倍、画素数で4倍もの解像力を持つデジタルテレビのことだ。液晶テレビは高精細化が容易なため、テレビを構成するLSI回路が高性能化すると、アッという間に4Kテレビを商品化できるようになり、その価格も毎年のように安価になってきている。

しかし映像を構成する要素は解像度だけではない。『今年こそ本格的な4Kテレビの年』といえるのは、解像度以外の画質要素も、映像機器側とコンテンツ側の両方で進化しているためだ。
今回は、映像コンテンツと映像機器が今年、なぜ長足の進歩を遂げるのかについて話を進めよう。

『4K化』を契機に映像のあらゆる面が進化

かつて、標準解像度のテレビからハイビジョンへの移行期間があったが、その頃にはまだ『ブラウン管』が想定されていた。ブラウン管には階調表現が滑らかでコントラストに優れるという利点がある反面、色再現範囲や輝度に制約がある。

だから『解像度だけ』が向上する規格になっていた。実際のところ、標準解像度の映像は大画面テレビに満足な映像を映せるだけの情報がなかったので、解像度の向上だけでも十分に美しいと感じられ、アナログからデジタルへの移行などの紆余曲折あって、今、我われの生活に浸透している。

『4K化』をあの時と同じように捉え、解像度が高まるだけだと思っている方も多いかもしれない。しかし、あの頃と現在では異なることがある。ブラウン管が使われなくなり、液晶パネルが表示装置の主流になっていることだ。

液晶はブラウン管の10倍以上の輝度を出すことができ、色再現域も圧倒的に広い。色というのは平面ではなく、明暗を含めた立体で表現されるのだが、ブラウン管時代よりも現在は、表現できる光の範囲(色立体)の体積がはるかに大きい。

そこで、映像コンテンツを4Kに移行させる際、液晶パネルだけでなく有機ELディスプレイ(OLED)や、来るべき将来の表示技術まで包含できるよう、カメラやネガフィルムが捉えることのできる光の範囲をすべて、コンテンツの中に入れようということになった。色再現範囲に関してはBT.2020という規格で決められていたが、今年、いよいよ本格普及し始めているのが、HDR(ハイダイナミックレンジ)という技術だ。

HDRを映像に収めるには、大きく分けてPQカーブと呼ばれる人間の眼の特性に合わせて効率良く階調特性を割り当てた明暗の表現手法と、通常のテレビ放送との互換性があるHybrid-Log Gammaという手法があるが、ここではいずれもHDRとして話を進めよう。

BT.2020は、スカパー!やNexTV-Fの実験放送などでも採用されており、世の中にある4K映像の多くがBT.2020で制作されている(全てではない)。4K対応機器であれば、同じくBT.2020に対応していると考えていい。

しかし、いくら鮮やかな色を表現できるBT.2020に対応していても、HDRに非対応ではその良さを活かすことができない。なぜなら、明るい窓の外や、暗い部屋の中にボンヤリと浮かび上がる被写体などは、HDRでカラーボリュームが明暗方向に拡大されていないと表現できないからだ。つまり、4K化は解像度だけでなく、映像で表現できるあらゆる要素がグレードアップされているのだ。

ネット配信、ブルーレイ、放送4K/HDR化が一気に進行

このムーブメントをコンテンツサイドで見ると、もっとも市場に早く届いているのがネット配信だ。NETFLIXはオリジナル制作のドラマの中でも、4K撮影している作品の多くをHDRで配信しようとしている。

北米ではHDR対応コンテンツが増加中だが、日本ではマルコポーロなど一部のみ。しかしこの春に対応テレビが急増したこともあり、日本でのHDRコンテンツも増えるとみられる。

またHDR化はNETFLIX以上に、ハリウッド映画スタジオが積極的だ。ハリウッド映画スタジオはNETFLIXには4K/HDRコンテンツを供給していないが、他の配信経路(時間限定のレンタル型VoDなど)での配信はあるだろう。

また、6月からは日本でもワーナー、20世紀フォックス、ソニーピクチャーなどが、UHD Blu-ray対応パッケージソフトを発売。購入しやすい対応プレーヤの発売も予定されているほか、ミドルクラスのBlu-rayレコーダーにもUHD Blu-ray再生機能が入るという。まだUHD Blu-rayを発売していないディズニーも、近く、グローバルでUHD Blu-rayを発売するとのこと。収録解像度はフルHDとなるが、広色域とHDRに対応することで画質が大幅に高まる。

HDR対応映画という面でいえば、UHD Blu-rayが当面、もっとも高画質かつ手早く入手出来る4K/HDRコンテンツになる。

そして放送だが、こちらは前述したHybrid Log-gamma(HLG)という技術が採用される。これは従来のテレビにそのまま表示しても違和感がなく、対応テレビで観るとHDRとして機能する特殊な明暗情報の記録カーブ。すでに欧州でBBCが放送実験を終えており、日本でもNHKが夏以降に実験放送を企画している。そして、HLGの実証が終了次第、スカパー!4KがHDRでの放送を開始すると予想される。

このように、4K/HDRの映像を楽しめる環境が今年、一気に進行する。

再び積極的に消費者がテレビを選ぶ時代へ

テレビは長年、色再現の範囲も輝度の範囲も変えられず、単に解像度がフルHDになっただけで技術の進歩が止まっていた。標準解像度とハイビジョンの違いを除けば、最初のカラーテレビ放送から、カラーボリュームは変化しなかったのだ。

これでは不安定だった液晶テレビの画質が安定し、フルHDパネルが安価になれば、あとはテレビに新しい要素を求めなくなるのも当然のことだろう。

消費者は積極的にテレビを選択するよりも、目先のお買い得な商品を選んだ方がいい。積極的に消費者が、より良いテレビを選ぶ利点が少なくなってしまったのだ。

これでは(機能面は評価されても)テレビメーカーが画質にいくらこだわろうとしても、消費者はどんどん冷めていってしまう。だが、4K化はその状況を変える可能性がある。

前記のBT.2020とHDRで表現できるカラーボリュームは、液晶テレビが再現できる範囲も、OLEDテレビが再現できる範囲も超えている。

従来は大きな器(ディスプレイ)に、小さな内容物(コンテンツ)を入れていた。だが、4K時代は内容物の方が大きくなるため、『どのように器にコンテンツを収めるか』というノウハウ、そして『どこまで大きな器にできるか?』というディスプレイ性能への要求という二つのテーマがテレビ開発に重要になっている。

言い換えれば、この二つのテーマに対して、どこまで真剣に取り組んでいるかが、より明確な形で商品に現れる。再び、積極的に消費者がテレビの画質、性能を評価して選ぶ時代がやってくるだろう。

各社は液晶テレビのバックライト構造を工夫したり、細かな分割制御でコントラストや色再現範囲を拡げようと努力している。また、HDRはOLEDとの相性もよいため、来年以降はOLED普及の足がかりを作ることにもなる。

カラーテレビ誕生以来、初めての『カラーボリューム増大』がもたらすのは、圧倒的な現実感だ。優れたHDR映像を、優れたHDRディスプレイで見ると、まるで窓の外に拡がる現実の風景が見えているかのような錯覚に陥る。

また、コンテンツの規格としては、まだまだ余裕があるため、ディスプレイの技術が進歩すれば、それに併せて画質が向上する余力がある。そうした意味でも4K/HDRのトレンドは大きなもので、テレビ評価の基準を大きく変える可能性がある。

26-01-1

パナソニックのフラッグシップ4Kテレビ「TH-65DX950」