福島敦子のアントレプレナー対談 No.55基本に立ち返った家電事業と
新規事業の融合で新・成長路線へ

株式会社ヤマダ電機 桑野光正社長

写真:坪田 彩

株式会社ヤマダ電機(群馬県高崎市)

会社概要


創業:1973年4月
設立:1983年9月
上場証券取引所:
東京証券取引所 市場第一部
代表者:
山田 昇(代表取締役会長 兼 取締役会議長)
一宮 忠男(代表取締役副会長 兼 代表執行役員CEO)
桑野 光正(代表取締役社長 兼 代表執行役員COO)
事業内容:
国内有名メーカーおよび海外有名メーカーの家庭電化製品ならびにオーディオ機器・健康器具・介護関連機器・情報機器・携帯電話の販売と修理、ビデオレンタル、ビデオセル、書籍の販売、リフォーム・住宅事業

頭の中が真っ白に

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福島 ヤマダ電機の社長に就任されたのが4月1日。まずはおめでとうございます。今はどういう心境でいらっしゃいますか。

桑野 発表されてから(2016年1月19日付)すぐに動き始めました。2月、3月は各会議に山田会長や一宮副会長と一緒に参加し、4月からの新体制に向け準備をしてきました。この数カ月は、振り返る暇もないほどでしたが、気を引き締めて仕事をしています。

福島 だいぶ慣れてきた感じでしょうか。

桑野 これまで総務・人事担当として組織を見ていましたが、今は会社全体を見ていく立場になり、勉強中であり努力しています。現場の巡店、商品部のメンバーやメーカーさんと話をする機会も増え、視野がさらに広がりました。

福島 山田会長からは、どういう形でいつ頃、打診があったのですか。

桑野 会長からお話があったのは、昨年末ぐらいです。来期の新しい組織についてということでした。私は人事の担当でしたから全然不思議に思わず、「そろそろ、そういう時期ですね」という程度でした。ところが「自分は来期、会長に退く」と話されて、そこで少し驚きました。さらに、一宮忠男副社長(当時)を副会長にすると。
その瞬間からちょっとおかしいなと思いました。「では社長は誰なのかな」と。そして「社長は君にやってもらうよ」と聞かされた瞬間、頭の中が真っ白になりました。「それでいいか」と聞かれたので、確か「分かりました」とお答えしたと思います。その後の会話は、もう頭の中が真っ白になってしまったのでほとんど覚えていません。

新体制での役割分担

福島 山田会長、一宮副会長、そして桑野社長の3人体制と報道されていますけれども、役割分担はどのようになさるのでしょうか。

桑野 役割分担ははっきりしていて、3人の代表取締役が一体となって目指す方向は決まっています。家電販売を中心に事業領域の幅と深さを追求し、新たな方向に広げていかなければなりません。
ただし広げるにあたっては、当社の経営資源を活かすことが前提となります。47都道府県にある店舗網や、そこから得られる5,000万人以上の各種会員のビックデータなど、当社が持つ日本最大級のネットワーク・サービスの強みを生かしたIoT企業として「新規ビジネスの開発と推進」を山田会長、「各種構造改革の強化・推進」を一宮副会長、そして、「既存ビジネスの強化」を私が担当し、さらなる成果につなげられるよう取り組んでまいります。

福島 桑野社長は既存事業を担当されるのですね。それはそれで非常に難しい役割のようにも感じます。

桑野 私はまず、「現状がどうか」という分析から取り組んでいます。例えば、現在の社会は、少子高齢化、人口減、ネット社会が進行し、店舗に足を運んでいただくお客様は、何もしなければ、今後、減少していくことが想定されます。
そこで、私は現状でどのぐらいのお客様に来店いただいているのかが気になり、市場調査を行いました。結果として直営店舗だけでも多くのお客様にご来店いただいていることが分かりました。グループ全体だと、さらに多くのお客様に来店いただいていると思います。
では、実際に購入いただいているお客様の数はといいますと、100%は絶対にあり得ません。
このように、現場を改めて分析することで1つひとつテーマを抽出し、それぞれの取り組みを開始しています。まだ始めたばかりですが、確実に成果として現れはじめています。

スマートハウスの普及拡大

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福島 ここ数年の御社は、今後の持続的な成長に向けた試行錯誤の時期だったように感じます。今後、特に力を入れるのは、どんな分野でしょうか。

桑野 当社の主軸である「家電」は生活必需品です。家電は生活にとても密接しており当社子会社である住宅メーカーの「ヤマダ・エスバイエルホーム」や「ヤマダ・ウッドハウス」との事業の親和性は非常に高く、スマートハウスやリフォームなど、家にまつわる事業に注力しています。
ただし、大手住宅メーカーさんと同じことをやるつもりはありません。当社が重視しているのはスマートハウスの普及促進です。省エネ・創エネ・蓄エネの切り口で太陽光発電システムやHEMS、蓄電池、そこに通信インフラを連携させたスマートハウスです。新築住宅の太陽光発電システムやHEMSの搭載率は、ヤマダ・ウッドハウスの場合、非常に高い割合になっています。
設計段階から太陽光発電システムやHEMSを標準装備し、省エネエアコンなどの家電も最初から付帯させ、さらに通信インフラを含めた家一軒丸ごとのご提案を行っています。さらに住宅購入時に関わるさまざまなサービスのご提供等、そのような取り組みをお客様目線、川下発想で行っており、さらに強化していきます。
お客様がご予算に合わせたスマートハウスを建てられるということを目指しています。スマートハウス事業を開始してからまだ4年ぐらいですが、ようやく軌道にのってきました。今後もさらに、いろいろな設備やサービスを付帯させたスマートハウスをご提案し続けたいと思っています。

福島 中古家電にも力を入れられており、中古家電を扱う店舗を今後、50店舗ぐらいまで増やすとうかがいました。中古家電の可能性を、どう見ていらっしゃいますか。

桑野 当社がリユースやアウトレット事業を始めたのには、いくつかのきっかけがあります。当社は、CSR経営を推進しており、その一つのテーマとして地球環境の取り組みを掲げています。
家電事業を行う場合、必ず発生するのが廃家電の問題です。これは業界全体の問題でもあります。当社は、引き取ってから処理するまで、一気通貫で対応できる体制、いわゆる循環型社会構築推進の必要性を感じていました。新しい家電に買い換えたけれども、古い製品もまだ動く。そうしたものを引き取って再製品化するための工場を、12年ほど前に作りました。
他社は、簡単に真似することができない工場でありノウハウです。冷蔵庫、洗濯機、テレビ、エアコンなどの主要商品については、引き取ってから点検、修理、分解し、洗浄して高品質なリユース商品として再製品化します。
こうした体制を長年かけて確立した上で、閉鎖した店舗や一部の店舗を業態転換し、「アウトレット&リユース店舗」としてリニューアルオープンしました。

一気通貫の中古・リサイクル事業

福島 中古事業の取り組みには、長い歴史があるわけですね。

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桑野 ただ、中古家電を売ると新品家電の販売にどれだけ影響するかという懸念がありました。しかし、お客様は、新品の商品とアウトレットやリユース商品を使い分けるということが分かり、新たな顧客層の開拓につながりました。
例えば、学生さんや単身赴任の方など、ある程度、ご使用になる期間が決まっているお客様や、ご使用になる場所が事務所などの家電は、リユースやアウトレットが好まれます。
また、一部の店舗では、同じ店の中で新品もアウトレット商品もリユース商品も扱っています。
最初は新品販売に影響すると思いましたが、お客様はそれぞれのライフスタイル、ビジネススタイルに合わせてちゃんと使い分けをされています。
自宅用の新品家電を買ったついでに、事務所用のアウトレットやリユース家電商品を見て行かれることもあるようです。

福島 物を大事に長く使いたい、有効活用したいという消費者心理の変化も、背景にはあるのかなという感じがしますね。

桑野 そうですね。特に当社は再製品化の技術が進んでおり、高い品質で仕上げることができます。その技術に自信があるので、冷蔵庫、洗濯機、テレビには2年間の保証を付けています。小物家電でもレンジと炊飯器、クリーナーは1年保証です。

福島 ヤマダ電機がうまくやっているということで、競合他社も追随してくるのでは…。

桑野 簡単には真似できないはずです。再生工場の設備と技術、運営ノウハウや販売網が必要となりますから。当社が十数年前からやってきたことが、今につながり結果として出てきています。
引き取るだけなら他社でも可能かと思います。しかし、当社には引き取ってから工場へ運ぶ物流システムや自社工場の設備・再製品化技術、そして販売する店舗まであり一気通貫で対応できます。これはそう簡単にはできません。

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人材育成のポイント

福島 桑野社長は主に人材育成の分野で経験を積んでこられました。これまでのご経験から、人を育てるポイントをどうお考えですか。

桑野 研修や教育は非常に重要だと思います。しかし、それだけではないとも思っています。
はヤマダ電機に入社して、最初に「礎生塾」(ヤマダ電機の研修施設)の塾長を任されました。そこで全国から店長を集めて研修しましたが、一番意味があったと思うのは、店長同士のコミュニケーションが非常に活発化したことです。各部屋は旅館のようになっていて、ベッドではありません。

福島 布団を敷いて。

桑野 そうです。修学旅行のような形で行います。これは参加者の距離感を縮めるため、意図的にそのようにしています。お風呂も部屋のものは使わせずに大浴場を使います。初めて会った全国の店長たちが同じ部屋で4泊5日、寝食を共にして規則正しい生活を送ります。
店長たちからは、「自分だけが悩んでいるのではないことが分かってよかった」というレポートが数多く上がってきました。研修を共にした店長たちが研修後も電話をかけ合い、相談や激励し合うというケースがたくさんありました。
私はこれが、一番価値があったかなと思います。教育はもちろんですが、「コミュニケーションをとること」が非常に重要だと思っています。
研修中、質問もたくさんありました。例えば「部下に対してどうやって接したらよいか」など。それは、教育する側も明確な答えを持っているわけではありません。おそらく、一番の回答を持っていたのは、一緒に研修を受けている店長たちだったのではないでしょうか。

福島 最後に、新社長としての抱負をお聞かせください。

桑野 私は経営者として既存ビジネスの強化・推進を図りつつ、山田会長、一宮副会長と一体となって中期経営計画を達成することが、最大の目標です。そのためのプロセスとして、先ほどお話しした少子高齢化、人口減、ネット社会を認識しつつ、この店舗網を活かした小売りというビジネスを、もう一度「基本」から分析し、取り組んでいくということが、まずは必要だと思っています。
それが確実にできたら、その次のステップです。地道ですがもう一度「基本」から取り組んでいくことで、既存ビジネスを活性化できると確信しています。
「新規ビジネス」「構造改革の強化・推進」「既存ビジネス」を3人の代表取締役が一体となって取り組んでいくことで、会社を持続的に成長・発展させていくことができると考えています。
当社には約2万人の社員がいます。そのメンバーに対しては、エリア長を通じて様々なことを徹底していきます。そして、もう一度「基本」を教えていくこと、徹底していくことに力を入れていきます。くどいようですが、これを、まずはやっていかなければならないと思っています。
当社が取り組んでいく特に大きなテーマとして「モノ(商品)提案からコト(サービス等)提案の強化」があります。「モノ」だけを売るのではなく、これからは「コト」も一緒にご提案することにより、「モノ」の価値がさらに上がります。
それを徹底的にやっていくということが重要であり、それをなし得るのが店舗であり、一人ひとりの社員の力なのです。(敬称略)

桑野光正(くわの・みつまさ)氏
昭和29年神奈川県生まれ。昭和52年専修大学経済学部卒。平成16年9月にヤマダ電機に入社し、同年12月から「礎生塾」塾長。平成18年6月に取締役常務執行役員総務本部副本部長に就任。平成22年8月に取締役執行役員専務総務本部長に就任。平成28年4月に代表取締役社長兼代表執行役員COOに就任(現任)。
福島敦子(ふくしま・あつこ)
ジャーナリスト / 津田塾大学英文科卒。中部日本放送を経て1988年独立。NHK、TBSで報道番組を担当。テレビ東京の経済番組や週刊誌「サンデー毎日」でのトップ対談をはじめ、日本経済新聞、経済誌など、これまでに600人を超える経営者を取材。現在、BSジャパンの経済番組「マゼランの遺伝子」のキャスターを担当。経済・経営の他、環境、コミュニケーション、地域再生、農業・食などをテーマにした講演やフォーラムでも活躍。上場企業の社外取締役や経営アドバイザーも務める。島根大学経営協議会委員。1997年にはワインアドバイザーの資格を取得。主な著書に「愛が企業を繁栄させる」(リックテレコム)をはじめ、「それでもあきらめない経営」「ききわけの悪い経営者が成功する」「就職・無職・転職」「これが美味しい世界のワイン」などがある。
URL: http://www.atsuko-fukushima.com/