必読!これがホントの“節税”講座マイナンバー制度への一番の期待
“正直者がバカを見る”社会の是正

寄稿:梅川 貢一郎(有限会社トライアングル 代表取締役・税理士・公認会計士)

http://www.umegawa.com/

ご存知のように昨年からマイナンバーの交付が始まりました。マイナンバーとは「社会保障・税番号制度」のこと。2016年1月より利用開始された番号制度です。

番号は、住民票に基づいて赤ちゃん、外国人を含めて日本に居住するすべての人に対して交付されます。希望者に対しては、マイナンバーが記載されたマイナンバーカードが無料交付されています。

同時に意外と知られていないことですが、法人に対しても13けたの番号が付与されました。個人のマイナンバーはもちろん非公開ですが、法人のマイナンバーは公表され、国税のホームページから誰でも検索できます。

マイナンバー制度は行政手続きにおいて、特定の個人を識別するための法律(マイナンバー法)を根拠にしています。この制度によって何がどう変わるのでしょう。また私たち(特に企業経営者)は何を行わなければならないのでしょうか。

マイナンバー制度の主旨

まず、この制度の目的・主旨をおさえておくことです。この制度は、はっきりいって国にとっては利益の大きな制度です。マイナンバー制度自体は総務省の管轄ですが、制度の導入にもっとも積極的なのが国税庁であることからもよく分かります。

国税庁は明言していませんが、マイナンバー制度導入により、将来数千億円規模の徴税漏れあるいは脱税を防げるといわれています。

まず、すべての法人にマイナンバーが付されることにより「無申告」企業を素早く発見できます。

また将来は、法人が発行する領収書、請求書に法人のマイナンバーを記載させる案もあります。これにより税務調査が大幅に効率化されるからです。架空の領収書も存在しなくなるでしょう。

現状では全国に相当数(おそらく数万の)無申告会社が存在するといわれますが、税務署は法務局の法人情報を利用できないため、無申告の会社は自主的に申告するまで分からないのです。

また、給与所得者が提出する扶養控除等申告書の扶養親族が、本当に所得が無いのかどうか今後は一発で分かります。

将来、銀行、証券会社、保険会社の情報がすべて個人とヒモ付けられれば、所得税の申告漏れはもちろんのこと、相続税の申告漏れ、財産隠しはまず不可能になります。

一般市民にはマイナンバーカードを申請する以外に、特に必要な手続きはありません。企業にとって面倒な手続きは、従業員や報酬を支払っている相手のマイナンバーの収集と管理保管です。

今年分の扶養控除等申告書には本人及び扶養家族のマイナンバーを記入することが義務付けられました。マイナンバーは重要な「個人情報」ですから外部に漏れたら大変。保管にも気を使わなければなりません。従業員数の多い会社では、かなり面倒な制度であることは確かです。

税負担の公平性を実現!?

私は個人的にはマイナンバー制度に賛成です。貧乏人のヒガミかもしれませんが、「課税の公平性」が実現するのは、一人の日本人として悪いことだとは思えません。

少なくとも私には何ら悪影響がありません。それどころか、富裕層に対する課税が強化されれば、日本の財政難に多少はプラスに働く望みもあります。

一部には、マイナンバー制度によって、お金持ちが資産を海外に逃避させるという懸念の声もあります。また銀行に預けた預貯金を当局に把握されるのを恐れた富裕層が、銀行預金を引き出してタンス預金にするとの指摘もあります。事実昨年来、金庫がバカ売れして金庫メーカーでは在庫不足に陥っているとか。

いいではないですか。日本に有望な投資先がなく、しかも税金だけがかかるのがイヤであれば、シンガポールでも香港へでもお金を持って移住すればいいだけです。

シンガポールも香港も株の配当にも売却益にも税金がかかりません。また贈与税も相続税も存在しません。世界一高い日本の相続税を回避するためには、合法的な選択肢はいくらでもあります。

むしろ、私が不可解に思うのは、マイナンバー制度に反対する「進歩的でリベラルな」人々です。

彼らは、当局が国民の資産を把握することを「悪」だといいます。また情報が漏えいする可能性があり、そのことにより大変なことが起こるといいます。おそらく彼らは、政府が行うことにはすべて反対なのでしょう。

確かに会社は余計な事務手続きが増えて大変です。しかし、マイナンバー制度は日本が公平で「正直者がバカを見ない」社会になるためには必要な制度です。

誤解していただきたくないのは、マイナンバー制度は一般市民にとって、決してマイナスな制度ではないということです。

“個人情報が漏れるのではないか。国による情報統制が強化されるのではないか”──。はっきりいいますが、ごく限られた富裕層以外は、まったく問題ありません。日本では従来、お金持ち(それもとびきりの)は、資産に見合った税金をあまり払っていないのです。様々な方法を用いて資産の分散を図り、また海外にも資産を逃避させています。

税務署がマイナンバー制度導入によって、把握したいのがまさにこれら富裕層の資産です。申しわけありませんが、我われ一般の小市民や小金もちは眼中にないといっていいでしょう。

無申告法人/個人も標的に

税務署のもう一つのターゲットは、「無申告」な会社や個人事業主です。

マイナンバー制度の導入で、従来の税務調査が変わるということはありません。従来でも社長個人や社長の家族名義の銀行預金などは、税務署は普通に入手しています。マイナンバーによってより事務がスムーズになることはあるかもしれませんが、方法自体は従来とは変わりません。

あくまでも税務署の狙いは無申告者です。例えば店舗を持たない商売、特にネットでの販売業者は、その実態を把握しにくいもの。

しかし、代金のすべてを現金決済にしない限り、必ず銀行口座を経由します。そうすると銀行口座の残高や動きが大きい個人や法人は簡単に検索されます。そして申告情報と照らし合わせれば、申告の有無、適正性が一発で判定できます。

それでも“マイナンバー制度は関係ないよ”というあなた。「正直者はバカを見る」世の中は不公平ではありませんか? マイナンバー制度の導入で、適正申告している納税者への無駄な税務調査が減少し、怪しい人々への徴税が強化されるのであれば結構なことではありませんか。

無税生活者からの税徴収

“フリーランスで仕事をしています。収入はあるが過去にまったく申告をしていない。売り上げは通帳を見れば分かるが、経費に関する領収書はすべて捨ててしまった。どうすればよいでしょう?”

確定申告のシーズンに、必ず何人かそのような方が来られます。特にマイナンバー制度導入の影響からか、今年は無申告の方が多く確定申告を希望されました。こんな場合、どうすればよいのでしょう?

マイナンバー導入の大きな目的の一つが、個人の収入を把握して「無税生活」を送っている人から税金を徴収することです。一説によれば、そのような闇の収入は日本全国で、一兆円にも上るといわれています。もちろん明確なデータが存在するわけではありませんが。

バイト感覚でフリーの仕事を始めた人たちは、そもそも確定申告を行うという前提がなく、領収書も何も保管していない。しかし収入は税務署に把握されてごまかせない。このまま「経費無し」で申告したら、とんでもなく税金がかかってしまう。

実は方法があります。確かに売り上げはごまかしようがありません。しかし、経費は領収書という証拠がなくとも計上できるのです。

例えば仕事場の家賃、光熱費、通信費など。特に賃貸の自宅を仕事場にしているフリーランスの方は、たとえ家賃の領収書がなくとも、実際に支払ったであろう金額を概算計上することに何ら問題がありません。

同様に月に何回かは必ず人と会って打ち合わせ等を行うのであれば、やはり概算で交通費や会議費を計上できます。特にスケジュール帳などで会合や出張の記録が残っていれば強力なサポート資料になります。大阪出張の記録があれば、当然、新幹線か飛行機を利用しているはず。その領収書がなくとも経費としての計上を主張できるわけです。

過去に無申告の時期があっても、今なら間に合います。申告は納税者の権利ですから、一度申告をした経費を否認するのは税務署でも簡単ではありません。しかし、無申告の状態で税務署からお尋ねが来てしまったら“時すでに遅し”。税務署の主導で“いわれるがままの税金”を納める羽目に陥ることでしょう。

社会保険の未加入企業を把握

国税庁と並んでマイナンバー制度に熱心なのは年金機構です。社会保険の未加入法人を一網打尽にできます。しかも会社に所属する役員、従業員の所得情報も入手できますから、社会保険への加入漏れ、不正な標準報酬月額も簡単に見つかってしまいます。

現在、税務署に申告書を提出している法人数は全国で約260万社あります。税務申告をしているということは、少なくとも活動実績のある会社ということでしょう。

ところが、本来は強制加入であるはずの社会保険の加入法人数は、厚生労働省によると180万社。もちろん給与の発生していないケースもあるでしょうが、社会保険未加入の法人が80万社もあるのは異常です。

社会保険は国民年金や国民健康保険に比べて負担が重く、正規の従業員がいない家族経営の会社では未加入の場合が多いことが理由と考えられます。

また、複数の会社から給与所得を受けている場合、現在はそのうちの一つの会社でしか社会保険に加入できません。その場合でも、すべての給与所得を合計して、その合計額に対して負担する保険料を計算しなければなりません。

しかし、現実には複数ある給与のうち給与額が低い会社で社会保険に加入しているケースが多いのです。オーナーが複数の会社を所有している場合、間違いなくそうしています。

社会保険という「税金」は、支払った金額以上の金額が戻ってくる仕組みではありませんから、税負担を少しでも減らそうとの動機が働くのも仕方のないところではあります。

情報漏えいリスクの回避が急務

では、マイナンバー制度の導入で状況はどう変わるのでしょうか。

マイナンバー制度により、個人の所得はその種類ごと(給与や配当、利息等)に完全に把握されることになります。また法人にもマイナンバーが付与されますから、給与の支払い状況も把握できるでしょう。

そうなれば、法人が役職員の給与に見合った保険料を支払っているかどうかは一目瞭然です。検索ソフトでリストを作れば、あっという間でしょう。

しかし、社会保険の場合は税金と異なり、「未加入」や「金額が不適正」であることが判明しても、必ずしもすぐに調査とはならないと考えられます。

というのは「該当社(者)」があまりにも膨大だからです。ところが年金事務所の職員数は、税務署の職員数ほど多くはありません。このため、今までは事実上放置していた未加入法人を、一気に摘発とはいかないと考えられるからです。

しかも、社会保険に加入している法人の2割近くが、社会保険料は未納だといわれています。そのため年金事務所は現状、未納率を下げる、つまりは徴収事務だけでかなり手一杯なのです。

税務署には税務調査というかなり完成された制度があります。しかし年金事務所には、まだそこまでの仕組みがありません。

もちろん厚労省も、いつまでも事態を看過しているはずがありませんし、いずれは制度を整備するのでしょう。ただし当面は、マイナンバー制度が実施されても現状通りではないかと思われます。

国税庁や年金機構がマイナンバーで達成しようとする狙いについて述べてきました。しかしこれらは、不正とは縁がない納税者、経営者にとっては無関係の話です。

当面、経営者にとっての実務問題は「情報漏えい対策」でしょう。

会社は給与計算に際して、従業員、アルバイト、パートのマイナンバーを預からなければなりません。マイナンバーは重要な個人情報です。ベネッセの例を見るまでもなく、個人情報は換金価値・利用価値のあるものとの認識が必要です。漏えいリスクを“いかに無くすか”の対策が、経営者にとっては急務といえます(※)。

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