本田雅一のスペシャルレポート『Pokémon GO』が秘める可能性
ビジネス波及効果を読み解く

ライター:本田雅一(フリージャーナリスト)

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今さら言うまでもないかもしれないが、「ポケモンGO」を巡る議論は止む気配がない。その大ヒットは様々な数字が示している。7月7日終値で1万5000円に満たなかった任天堂株は、8月9日終値で2万2850円まで上昇している。およそ9300億円も株式時価総額が増えたのだ。

ポケモンGOの開発元はグーグルの内部プロジェクトからスピンアウトしたナイアンティック。ポケモンのライセンスを子会社が行っているものの、このところ国内では妖怪ウォッチに子供たちの人気を奪われた感のあった“ポケモン”が、大復活したと受け取られたのだろう。

その後、ポケモンGOのヒットだけで任天堂の株価が大幅に上昇するのは、実態に合わない過熱状態だという声も拡がった。ポケモンGOは無料で提供され、その後も基本的には課金せずに遊べる設計だ。

かつて社会問題にもなった“射幸性を煽るモバイルゲーム”と比較した場合、「無料+課金」という枠組みなどビジネスの手法は似ているが、その実態はかなり異なる。

しかし、世界でもっとも速いペースでインストールされたポケモンGOだけに「広く浅く」という緩い課金設計でも、驚くほどの売り上げとなった。ポケモンGOの売り上げは1カ月で約2億ドルまでに達したといわれる。このうち、約3割がスマートフォンの基本ソフトを持つ会社へのロイヤリティだ。AndroidとiPhoneは、それぞれ約半分ずつの売り上げと見られており、アップルの株価にまで影響を及ぼした。

しかし、ポケモンGOによる経済効果は、まだまだ始まったばかりだ。

社会現象を生み出した要因

ポケモンGOが単なる流行を超えた「現象」を生み出している理由には、いくつかの背景となる条件がある。それらが揃ってはじめて生まれたものだ。

①通信機能、カメラ、GPS、高精細ディスプレイ、タッチパネルの簡便な操作性などが揃ったスマートフォンが、老若男女を問わず普及して普遍的存在になったこと。

②ポケモンが40歳前後から子供まで幅広いファンを持つ“クラシック”ともいえる定番コンテンツであること。

③現実の地形、ランドマークと連動させたゲームIngressでの豊富な経験が開発元にあったこと。

これらの条件が揃った上で誰もが簡単に参加・交流できる、ハードルが低いシステムを作れたことが背景にある。

ナイアンティックは「イングレス」という、やはり実際の地理と組み合わせたゲームを開発し、熱狂的なファンを集めていた。しかし、世界観が理解しにくく熱狂的ファンの外への拡がりは限定的だった。

そこにポケモンという強力なコンテンツが組み合わされたことで、世界中で爆発的なヒットとなった。ポケモンが現実社会に野生動物と同じように存在している……という背景設定が、長きにわたって親しんできた人たちの共通認識として浸透していることも「ポケモン探し」が流行した理由の一つだろう。

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ポケモンのビジネス波及効果

さて、そんなポケモンGOはゲームそのものだけでなく、ゲームの流行がもたらす波及効果も期待されている。なぜなら、ポケモンGOが本質的に“遊びの場”を提供するゲームになっているからだ。

“エンターテインメントの本質”は何かを考えると、それは他の誰かとの交流にある。そうかつて話したのはプレイステーションの生みの親である久夛良木健氏だった。大人も子供も、ポケストップというランドマークに集まり、それぞれが思い思いにポケモンを集める。

そして、誰かがアイテムを使ってポケモンを引き寄せ始めると、「僕も僕も」とそこに子供たちが集まってくる。そんな「場を生み出す」設計が、ポケモンの本質である。

こうした“場を生み出す”というポケモンGOの特徴は、現実社会と重ね合わせられた世界観によって、大きなB2B市場を生み出そうとしている。すでに日本マクドナルドが全国3000店舗にポケモンプレーヤーを集めるための仕掛けを実施している。今後も大手商業施設が、ポケモンGOでの仮想イベントによって顧客を呼ぶ、いった事例が増えていくだろう。

アメリカではポケストップに近い飲食店が、ポケモンを引き寄せるアイテムを使って顧客を誘因して成功したといった事例が報道されたが、東京都内を歩いていると同じことをやっている飲食店は非常に多い。今後、飲食店のクーポン発行ビジネスなどと接続される可能性もある。

任天堂は、ポケモンが近くにいるとユーザーに知らせてくれる腕時計型の装置を発表しているが、派生製品もたくさん出てくる。バッテリーを多く消費するため、モバイルバッテリーの売り上げ増や、通信量増大対策で各社が競うことは間違いない。北米では7月、モバイルバッテリーの売り上げが2倍以上に増加した。

今後、ポケモンキャラクターを模したモバイルバッテリーが投入されるなどすれば、さらにその経済効果は大きなものになるだろう。iPhoneと同時にケーブルレスで手持ちしながら使える「NuAns TAGPLATE」のようなバッテリーが今後も増えるだろう。

ポケモンGOが使うデータ転送量は、利用制限から除外するサービスを始めた通信会社も現れた。DTIとFREETELがそれだが、まだまだ拡がっていく可能性がある。

このあたりも、ビジネスの工夫を施せるポイントだろう。

エンタメ市場への影響

先行して配信が始まった米国での分析では、ポケモンGOは利用時間が他アプリに比べて長いというデータも出ている。

スマートフォンで使われるアプリのうち、利用時間が長いものは、SNSやメッセンジャーサービスだ。冒頭でも述べたように人とのコミュニケーションに、消費者はエンターテインメントの場を求める。ところが、ツイッターはおろか、フェイスブックやウィチャットなど、多くのアプリの1.5倍以上の利用滞在時間を誇っているという。

この結果は、あるいはエンターテインメント機器の市場を大きく変えてしまうかもしれない。任天堂をはじめとするポータブルゲーム市場にインパクトを与えるからだ。遊びに使える時間は限られている。とするならば、ポケモンGOで遊んでいる時間分、何かの遊びやエンターテインメントに使う時間が減っているはずなのだ。

例えば意外かもしれないが、スマートニュースなどのニュース閲覧アプリは利用時間が減少する可能性が高い。なぜなら、こうしたニュースアプリは、通勤時などに電車の中で楽しむ「電車内エンターテインメント」という要素があるためだ。

ニュース閲覧アプリ勃興の影には、スマホ向けソーシャルゲーム市場の縮小がある。移動時にゲームを遊ぶか、ニュースを遊ぶかで、ニュースを取る人が多くなってきたからだ。それがポケモンGOに一部を奪われるようだと、今後の成長が怪しくなってくるかもしれない。

もちろん、子供たちがポケモン探しで街中を歩き始めれば、モンスターストライクやパズドラといったゲームの利用時間が減り、自宅から公園や街中に出るようになれば、子供番組の視聴率や、据え置き型ゲーム機のビジネスにも異変が起きるかもしれない。

限られた時間の奪い合いという視点で見ると、任天堂自身を含めた携帯型ゲーム全体に市場縮小という結果をもたらすかもしれない。

しかし、すべてがマイナスかといえばそうではない。市場ルールが変化していると見るべきだ。

GPSや通信機能を内蔵しているのが当たり前の“持ち歩けるコンピュータ”としてスマートフォンを捉えれば、これまでの携帯型ゲーム機にはない遊びの場が生まれるだろう。その可能性を示したのが、ポケモンGOだといえるだろう。

これを一つのきっかけとして、モバイルゲーム市場は大きく動き始めるかもしれない。新しいエンターテインメントが、今後いろいろと提案されるようになるのではないだろうか。