「IT&家電メーカー」レポート白モノ家電の東芝ライフスタイル
中国企業の傘下入りは新成長路線への布石か!?

正式に認められた自主経営

「マイディアグループは経営理念として、権限の委任、信頼性、責務を重視し、グローバル経営とはローカル経営であると理解している。石渡社長以下の東芝ライフスタイルに、自主経営を正式に認めている」

こう語るのは、中国の大手家電メーカー・マイディアグループ(美的集団)の副社長で、この6月に東芝ライフスタイル(東芝LS)の会長に就任した顧炎民(グゥ・エンミン)氏だ。東芝LSはこれまで、東芝グループで白モノ家電の製造販売を担ってきた。だが、東芝の不正会計問題に対する後処理の一環として、マイディアグループに約540億円で売却された。

国内家電メーカーの外資への売却といえば、台湾の鴻海精密工業に買収されたシャープのニュースが先行している。だが当初、本年6月末に実施されるはずだった鴻海からの出資はいまだに実現されておらず(2016年8月10日現在)、シャープの債務超過額は6月末時点で750億円まで拡大。依然として経営危機から脱する目処が立っていない状況だ。

しかも、鴻海からは多くの人材がすでにシャープに送り込まれており、「鴻海主導の改革が急速に進みつつある」ともいわれている。筆者の知人でもある某シャープ社員に状況を聞いたところでは、「9月にまた大きな組織変動があるようで、自分もどこへ飛ばされるか分からない」と不安を隠さなかった。

石渡敏郎氏が社長を続投

これと比較した場合、マイディアによる東芝LSの買収はかなりスムーズ、かつ穏やかに進行しているように感じられる。その理由の1つが冒頭の顧会長が語ったように「自主経営を正式に認めている」からだろう。実際、2010年に東芝ホームアプライアンス(東芝LSの前身)社長に就任した石渡敏郎氏が新体制移行後も引き続き社長を務めるなど、そこには“マイディア支配”といった様相を感じることはできない。

東芝LSはマイディアグループ内において当面、国内市場及びアジア・中近東市場における白モノや調理家電の製造販売を担うことになる。東芝ブランドを継続使用し(40年間)、アフターサービスなども従来の流れを踏襲することが決まっている。つまり顧客の側から見れば、親会社が東芝からマイディアに移った以外は「何も変わらない」といえる状況だ。

石渡社長は今回の買収を「戦略的パートナーシップ展開」と呼んでおり、短期的なメリットとして「部材調達コストの大幅削減」をあげている。マイディアグループは総売上高約2兆3000億円、白モノ家電部門では世界シェア第2位のグローバル企業だ。これに対して東芝LSの売上高は5000億円弱に過ぎない。だが、今後はマイディアグループとしてのトータルな調達力を発揮することにより、大幅なコストカットが期待できることは確かだろう。

一方、中長期的なメリットとしては「マイディアグループからの積極的な投資による成長」をあげている。石渡社長は「構造改革は2016年3月で完了。新体制となった今後は、積極的な投資による成長戦略にシフトする」と語っているが、そのバックにマイディアグループの積極的な投資意欲があることは確かだろう。同グループは新技術開発への投資額として、今後数年間で4500億円を予算化しているという。その何割が東芝LSに充当されるのかは不明だが、大きな援軍となることは間違いない。

長きにわたる提携関係

これまでのところ、非常に良好に進んでいる東芝LSの改革。その背景には、あまり知られていないことだが、東芝とマイディアとの長い提携の歴史がある。1993年にエアコンの技術協力で提携を開始し、1996年にはコンプレッサーの合弁会社を設立。その後も電子レンジや炊飯器(1999年)、エアコン(2004年)で提携するなど、もともと両社が近しい関係にあったことは、見逃せないポイントだろう。

顧会長は「東芝は長年のパートナー。両社の関係は20年以上にわたり、双方にとって有益な数多くのプロジェクトを生み出してきた」という。そして、「東芝のブランド、組織、従業員を守り、引き続き投資していく。これまで事業の対象外だった地域にもブランドを拡大して、東芝の家電ブランドを名実共に世界的なブランドにしたい」と語っている。

この言葉が本音であるとすれば、東芝LSにとって今回の買収は、新たな成長のチケットを手にしたも同然といえる。ここ数年の同社は構造改革に徹する以外に道はなく、成長のために資金を割り振る余裕はなかったはずだ。その意味ではまさしく「戦略的パートナーシップ展開」といえるだろう。

それだけに今後は、石渡社長以下の現経営陣の力量が問われることになる。自主経営、バイイングパワー、そして投資資金を得た新生・東芝LSが新たな成長軌道に乗ることができるのか、注目したい。

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今期に入っても精力的に新製品を発表し続けている東芝LS。今後のモノ作りがどう変わっていくか注目される。(写真は電子レンジのニューモデル「ER-PD7000」)