福島敦子のアントレプレナー対談知恵と情熱で野菜を高付加価値化
生産者を支援する農業ベンチャー

株式会社オリザ 藤井 優社長

株式会社オリザ(東京都渋谷区)

●設立:平成19年10月1日
●所在地:〒150-0002 東京都渋谷区渋谷3丁目6番2号4F
●E-mail:info@oryza-i.com
●代表取締役:藤井優
●事業内容:科学とビジネスの視点で農業に取り組み、
 新しい農業を企画し実現していきます。
・アグリビジネス開発事業 ・農業経営者支援/技術者育成事業
・農産物・加工食品/農業用資材流通事業
●URL http://www.oryza-i.com/

勉強会がそのまま事業に発展

福島 藤井さんは京都大学農学部を卒業され、穀物商社、食品メーカーを経て、2007年にオリザを設立されました。まずは起業の経緯から教えてください。

藤井 大学在学中に農業関連の仕事にはどういったものがあるのかを調べたのですが、やはりJAさんなど。当時は生産法人で新卒を採用する会社がほとんどありませんでした。そこで食品系の会社であれば農業にも携われるだろうと思いました。しかし、やはり農業にもっと深く関わりたいと思ったのです。
その頃、フルーツトマトや高糖度系のトマトが流行り始めていまして、これを自分たちで作れないかと。しかも、複数の生産者で作って産地リレーをすれば、年間通しておいしいミニトマトを供給できる。これに共通のブランドを付ければビジネスになるのではないか、というところから始めたわけです。

福島 実際に会社を辞めて、農業分野で起業するのは勇気のいる決断だったのではないですか?

藤井 当時、農業の勉強会に参加していたのですが、その参加者は社会人経験を積んで帰農する人や、実家に帰って新規事業として農業生産法人を立ち上げたいという人たち。
そこでオリザは販売会社になろうと思いました。生産を始めたいという農家の人たちと、それをつなぎたいという会社が同じタイミングで集まっていたので、勉強会がそのまま事業になったのです。

野菜需要の25%はトマト

018-002福島 スーパーマーケットの野菜売り場へ行っても、トマトは他の野菜と比べて種類が多く、競争の厳しいカテゴリーだと思いますが。

藤井 野菜の売り上げの4分の1が、実はトマトなのです。トマトは野菜の中で非常に大きなウェートを占めていて、野菜売り場はトマトなしでは成立しません。ですからバイヤーは差別化商材を常に探しており、新商品を提案しやすいんです。これがキャベツだとそうはいきません。

福島 確かにキャベツで差別化は難しそうですね。

藤井 新しいキャベツを提案しても、棚が取れる確率はかなり低い。でもトマトだと大手のスーパーさんだと年間100アイテムぐらい扱っているので、そこへの提案は採用してもらいやすかったんですね。

福島 御社のミニトマトはやはり、かなりの高糖度が特徴ですか?

藤井 かなりとなると難しい。高糖度ではなくて、年間を通して安定しておいしいトマトを作っています。一般的なトマトの糖度は4〜6度ですが、今の技術では15度を出すことも可能です。それをうちの場合は年間を通して8度オーバーを出すというやり方です。

福島 年間を通して安定した糖度のミニトマトを供給することが重要なのですね。

藤井 はい。ミニトマトやトマトの糖度と数量はバーターな関係なんです。例えば1カ月だけおいしいトマトを作ろうと思うと、糖度を10度以上に高めることができます。
ただしそうなると生産期間が短くなり、収穫量も減ります。それで収入を安定させようとすると、かなり高値
にしなければ成立しないんですね。バランスのいい糖度と数量で、それをリーズナブルな価格で売る方法がないかというのを試行錯誤しながらやってきました。

福島 安定した糖度のミニトマトを1年間を通して供給している企業は他にはないのですか。

藤井 1つの産地では無理ですね、まず。ミニトマトの生産期間は、長いところで6〜8カ月ぐらい。オリザの場合は複数の産地から供給しているので、年間通して高品質のミニトマトを供給できるのです。

価値提供でキロ50円を300円に

021-002福島 オリザのビジネスで特徴的だと思ったのは、自らが生産するのではなく、糖度8度のトマトを安定的に生産するための技術を確立し、それを農家に無償提供。作ってもらい、それを買い取って百貨店や外食産業に販売することです。あまり例のないビジネスモデルだと思いますが。

藤井 本来だったら農協さんがやるべき仕事なのかもしれませんね。それをオリザが補完している形になるのかな。

福島 高付加価値な野菜の直販も少しずつ出てきてはいますが、それはやはり、ある程度規模がなければできないということですよね。

藤井 できないと思います。今の農業法人さんの多くは、年商ベースで数千万から大きくて1〜2億円ぐらい。その規模で販売担当を置いて、マーケティング戦略を独自に立てられる法人がどれぐらいありますかといったら、ほとんどない。
一方で、日本は人口が減り始め、高齢化も進んでいるので、量ではなくて品質であったりとか、差別化要素が求められています。
そこで、どういったものが売れるのかを調査して、それを生産技術に落とし込む。あるいはマーケティング機能であったり、営業の機能を持つ組織などがなかったのです。
農業でマーケティングをすること。これは20〜30年前ぐらいからずっといわれていたテーマなのです。ただし年商1億とか1億ないぐらいの生産法人だと、そういったことをわざわざするために人を雇うということはできない。
そこで我われが生産法人から期待されているのは、そういうマーケティング機能だったり商品開発なのです。サツマイモでいうと、本当に普通のサツマイモを普通に生産して出荷するだけだと、大体キロ50円から100円ぐらい。
そうではなく、サイズをそろえて5種類のサツマイモを、ある程度統一された袋に入れて、シリーズとして紹介する。そして、それぞれのサツマイモの違いが一目で分かるようなPOPを作ってスーパーに並べると、キロ300円ぐらいの生産者売価になったりとか、価値が認められるようになるんですね。

福島 そういう情報提供が 藤井さんの重要なお仕事の一つということですね。

藤井 はい。商品の説明もしますし、逆にスーパーからの「5種類ではなく3種類で分かるようにできないか」というようなリクエストを生産者に投げ返してもいます。

野菜の自給率は100%

021-001福島 今、日本の農業は課題山積です。例えば農業従事者の平均年齢が66歳を超えており、後継者も少ない。その一方で若い人が入りたいと思っても、簡単には農地が持てない。あるいは安定した雇用の場を提供してくれる生産法人がないという、本当に八方ふさがりだと思います。農業の現状を、どう見ていますか?

藤井 そういった質問でいつも最初にお話しするのは「農業はレッドオーシャンですよ」ということです。
今、終戦直後のように、みんなが食べ物に困っているという状況ではないですよね。おいしいものを食べたいと思えば、お金を出せばいくらでも手に入る。正直、もうマーケットはいっぱいの状態。お米は余っていますし、野菜も海外でしか育たないものを除けば、ほぼ自給率100%を達成しています。

福島 野菜はほとんど自給できているのですか?

藤井 はい。トマトなどは関税率が低いですし、輸入障壁はないに等しいのですが、それでも国内産が主流です。輸入しても旨みがないからです。トマトでいえば海外と競合できているんですよ。

福島 日本の自給率は低くて、カロリーベースで40%台。大変だといっていますけれど、一概にはいえないんですね。

藤井 カロリーベースの自給率を押し下げている原因は、お肉、砂糖、小麦など。僕はラーメンやパスタが好きなので、麺類をよく食べるのですけれど、それが自給率を下げている。カロリーベースでいくと、米と野菜さえ食べていれば自給率は上がります。

福島 確かにそうですね。

藤井 自給率を上げたければ、日本人全員が米を食べて、野菜を食べて、日本の穀物だけで育った和牛を食べればいい。自給率は簡単に上がります。
ただし、それは豊かな食生活とはちょっと違うのではないかなとも、思っていますが。

6次産業化のリスク

019-001福島 トランプ氏の大統領選勝利で、TTPが今後どうなるか読めませんが、TPPは日本の農業にどんな影響を与えると思いますか。

藤井 畜産は大きな打撃を受ける可能性があるだろうと思います。お米も同じで、要は関税で守られている分野ですね。野菜に関しては関税で守られていない品種が多くて、影響は軽微だろうと思います。
実際、トマトは今でも海外から持ってこようと思えば持ってこられます。ビジネスとしての旨みがないだけです。一括りに農業といっても、すべてがダメージを受けるわけではないと思います。

福島 野菜はそれほど心配はされていないということですか?

藤井 野菜の農家さんが心配しているとしたら、それは稲作農家が野菜を作り始めるのではないか、ということです。そうなると供給過剰が懸念されるからです。

福島 そういう心配なのですね。

藤井 品目によって農家さんの受け取り方は、かなり違います。トマトに関しては、稲作農家がトマトを作るのはちょっと考えにくい。お米は農業の中でも装置産業というか、大きい機械を入れたあまり人手がかからない品目です。
それに対してトマトやミニトマトは多くの人手を必要とする作物なので、業態が全然違うというイメージですね。レストランとスーパーマーケットぐらいの違いがあります。同じ野菜を扱ってはいるけれど「うちは加工しています」「うちは並べています」ぐらいの違いですので、稲作や畜産農家がトマトを作るというのはちょっと考えにくいですね。

福島 以前、ある農業法人を取材したのですが、その際にうかがったのは「農業も1次品(収穫物の無加工での販売)だけでは利益を出すのは難しい。やはり加工品をやらなければ」ということです。

藤井 6次産業化ですね。

福島 でもオリザさんのビジネスは1次品が主体。その辺のお考えは、少し違いますか。

藤井 そうですね。6次産業化は農商工連携などともといわれ、注目されていますが、売り上げで少なくとも1億円を超えない限り、やるべきではないと思っています。
6次産業化の多くは、食品加工業への進出です。食品加工業にはその道のプロがいますが、そこに農家さんが参入するということを、言い方を変えただけなので、個人的には結構危険かなと思っています。
農家としての強みは、例えばトマトジュースを開発したいと思っていたら、ジュース用の最適なトマトを自分たちで作れることでしょう。その上である程度の規模があり、年間を通してたくさん作れ、たくさん売る力があります、というところであればやったほうがいいでしょう。
でも、6次産業化で商品化したはいいけれど、「売り先がない」「在庫が山のようにある」という話をたくさん聞きます。あるいは「2億円かけて建てた工場が年間10日しか稼働していない」とか。もちろん成功事例もたくさんありますし、6次産業化をすべて否定するものではありませんが。

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農業法人も上場を目指すべき

福島 今後の事業展開はどう考えていらっしゃいますか?

藤井 まず、今のミニトマトのネットワークを広げていきたいと思っています。施設総合環境制御装置を導入したハウスでミニトマトを長期間にわたって栽培したいという生産者の仲間を広げていきたいんです。
おそらく今後は、法人が事業多角化の一環として参入してくるパターンが増えるのかなとも思っています。

福島 いろいろな業種からの参入ですね。

藤井 本当にいろいろな業種です。基本的には建築系や物流系の法人が多いイメージがあります。皆さんが異口同音に語るのは「地元の公共事業が減ってきている中で、新しい事業に参入して新たな成長軌道にのりたい」とか「地域で何か新しい産業を興したい」ということです。
建築業や物流業に限らず、都内で倉庫業をやっている会社だったり、化学品メーカーだったりとか多種多様です。全国規模で物流ネットワークを持っている物流会社さんからも問い合わせを受けました。

福島 そんなに多くの業種が農業に参入しようとしているというのは、やはり農業は成長産業ということなのでしょうね。

藤井 成長産業というよりも「変化している産業」だと思います。

福島 なるほど。変化は新たなビジネスチャンスを生み出す可能性が高いですからね。藤井さんご自身としては、どんな未来像を描いているのですか。

藤井 年商100億円規模の生産法人が日本中にごろごろできてきて、そういう会社ともっと大きな規模で農産物の取り引きをして、スーパーと対等に話をしながら売り場をもっと面白くしたいと思っています。

福島 売り場をもっと面白くというのは、もっといろいろな情報を提供していきたいということですか。

藤井 そうです。本当に今の売り場というのはジャガイモが並んでいるだけとか、カボチャが並んでいるだけじゃないですか。そこに農家さんの思いはほとんど入ってなくて、写真が1枚張ってあるとか、○○県産と書いてあるぐらい。
「実はこれを作るのにすごく苦労があって」というような話をもっと伝わるようにできないかなとか。例えばデパートの北海物産展などは、とても面白いじゃないですか。あの物産展の雰囲気というのは、物産展でないと今のところ出せていない。
でも、スーパーの普段の売り場でも、もっと出せると思うのです。本当に生産者の面白さが伝わってくるような売り場ですね。生産者がこう頑張って作って、こういうふうに食べたらおいしいですよ、というようなことが分かる売り場が、きっとできるはずなんです。それには多分、農家の努力も必要だし、ITをもっと活用しなければいけないと思っています。

福島 作って終わりではなく、その価値をいかに消費者に伝えるか。

藤井 はい。農業も親から子にとか、儲からないから子供が継がないとかではなく、普通の会社としてビジネスを展開し、規模を拡大したり、上場を目指せばいいのではないでしょうか。そう思っています。(敬称略)

 

藤井 優(ふじい・ゆう)氏
京都大学農学部 農業資源経済学専攻卒。穀物商社にて大豆等穀物の貿易関連業務に従事。その後、株式会社キンレイの経営企画室にて、食品の営業・開発のほか、業績管理・システム管理を担当。2010年4月より株式会社オリザ代表取締役に就任。
福島敦子(ふくしま・あつこ)
ジャーナリスト / 津田塾大学英文科卒。中部日本放送を経て1988年独立。NHK、TBSで報道番組を担当。テレビ東京の経済番組や週刊誌「サンデー毎日」でのトップ対談をはじめ、日本経済新聞、経済誌など、これまでに600人を超える経営者を取材。現在、BSジャパンの経済番組「マゼランの遺伝子」のキャスターを担当。経済・経営の他、環境、コミュニケーション、地域再生、農業・食などをテーマにした講演やフォーラムでも活躍。上場企業の社外取締役や経営アドバイザーも務める。島根大学経営協議会委員。1997年にはワインアドバイザーの資格を取得。主な著書に「愛が企業を繁栄させる」(リックテレコム)をはじめ、「それでもあきらめない経営」「ききわけの悪い経営者が成功する」「就職・無職・転職」「これが美味しい世界のワイン」などがある。
URL: http://www.atsuko-fukushima.com/