本田雅一のスペシャルレポートメーカーの実力が問われる4K-TV「HDR技術」
最適モデルを見極めるには!?

ライター:本田雅一(フリージャーナリスト)

http://about.me/mhonda/

HDRの特徴とは?

 ここ数年、映像製作関係者の話題といえば、ハイダイナミックレンジ(HDR)技術に集中している。

 HDRはカメラが捉える明暗差を、ほぼそのまま記録する技術のことで、高輝度なバックライトを搭載する最新液晶テレビの表示性能を活かし、より現実感のある、しかも誰もがひと目で違いが認識できるほどの進化を感じられる技術だ。

 映像技術はこれまで標準解像度からフルHD、そして4Kへと進化してきたが、ある意味、HDRは4Kへの進化よりも衝撃的といえるだけの高画質をもたらしてくれる。

 HDRになることで、色彩が鮮やかになり精細感も増す。もちろん、明暗の表現力の幅も拡がるが、そうしたスペック上の“向上”ではなく、パッと見ただけで直観的に“違う”と思わせる画質向上がHDRの特徴となっている。

 これまで映像信号は、大昔に決められたカラーテレビ受像機……すなわち、カラーブラウン管の特性を元に規格が決められていた。

 色再現の範囲はブラウン管の蛍光体、ダイナミックレンジはブラウン管の輝度を基準にしていたが、液晶や有機ELを用いたディスプレイは、ブラウン管よりもずっと広い範囲の色を表現でき、ダイナミックレンジに至っては10〜20倍もの高輝度を出せるようになっている。

 HDRが劇的に画質を改善するのは、映像技術が進化してきた歴史の中で、従来は一切、進化せずに残されてきた要素(規格)を最新の表示技術に合わせて拡張したからで、ダイナミックレンジ、色再現域ともに現在のテレビよりも映像規格の方が上回っている。

 このため、高品質・高性能のテレビ、ディスプレイであるほどに、その限界を使い切った映像を楽しむことができる。

商品格差が大きいHDR

 どんなテレビで見ても、「元の映像は同じなのだからあまり画質は変わらないのでは?」と疑問に思うことがあったかもしれないが、HDRソフトの表示はテレビの限界性能を使いこなす必要があるため、メーカーごとの、あるいはグレードごとの差が大きいのも特徴だ。

 なぜなら、HDRの時代には二つの点でメーカーが創意工夫できる要素が生まれるからだ。

 一つは名前の通り広いダイナミックレンジ。HDRソフトには現在のディスプレイ技術では表現しきれないような情報まで入っており、色再現域も液晶やOLEDテレビが表示しきれない範囲の情報まで含めることが可能だ。

 従来は映像エンジニアが狭いダイナミックレンジや狭い色再現域でも、映像作品として成立するように調整を行っていた。これをグレーディングという。

 HDRでもグレーディング作業は行うものの、テレビの性能がすべてを表現できるまでに至っていないため、工夫して表示しなければならない。その表示の工夫で差がつけられる上、ダイナミックレンジを広く表示するための仕組みにも差異化のポイントがある。

 もう一つは、いまだに主流である通常ダイナミックレンジの映像を、新たに開発したHDR対応テレビでいかに良い映像に拡張し(ダイナミックレンジを復元し)表示できるのかという部分で、技術とノウハウを競うことができる。

注目の「ブラビアZ9Dシリーズ」

 例えば今年でいえば、HDRという映像技術トレンドにいち早く注目して投資をしていたソニーが、画面サイズの点でも“こなれている”液晶テレビで、優れたHDR表示を行うため、4年以上前から研究開発を進めてきたバックライトマスタードライブ(BMD)という技術をブラビアZ9Dシリーズに搭載した。

 液晶テレビはLEDの高輝度化というトレンドがあり、高い輝度は出せるもののコントラスト比の問題があって、HDR化と共に黒浮きが目立ちやすいという欠点がある。

 この問題を解決するには、バックライトの明るさを部分的に映像連動で調整した上で、部分駆動の分割数を減らすことや、バックライト連動で処理する映像調整が的確でなければならない。

 Z9Dシリーズは、液晶テレビの概念を覆すほどの高画質を実現しており、今年のAVシーンにおけるハイライトと言い切れる素晴らしい出来映えだ。

 100インチモデルが完璧な仕上がりだが、注目は75インチモデル。65インチサイズのOLED(有機EL)テレビと同等の価格で、より大きなサイズと高画質を実現している。まだ100万円と高価だが、しかしパイオニアKURO(プラズマテレビの名器として一世を風靡したモデル)などからの買い替えならば、現実味のある価格ではないだろうか。

 BMDは画面サイズが小さくなると不利になる。このため、もっとも購入しやすい65インチモデルはやや画質面で妥協がみられるものの、それでも同価格帯の高級液晶テレビの中において、圧倒的に高画質という点は変わらない。

 HDR映像だけでなく、通常ダイナミックレンジの映像を復元表示する機能にも優れている。デジタル放送やインターネット配信映像のノイズ対策も強化。極めて安定した高画質を楽しめるなど、先行してHDRに取り組んできただけのことはある秀逸な製品だ。

同一メーカー品でも格差が

 HDR表示は、最高輝度は低いものの、個々の画素が別々に光るOLEDテレビも得意な分野。部屋の灯りをある程度落とした上で楽しむのであれば、OLEDテレビのHDR表示も魅力的である。

 しかし、OLEDテレビは現時点で階調表現と大型化に課題がある。淡い色調や暗部の階調表現が不得手。また65インチモデルが高価な上、さらなる大型化は難しい。ただし改良は進んでいるので、来年前半には55インチ程度の優れたOLEDテレビが登場しそうだ。

 店頭における販売という側面でみると、HDR対応テレビの良さをどう伝えるか、どう感じてもらえるかが重要になる。

 各社HDR表示に対応するのは当たり前になっているが、HDRへの対応度合いはメーカー間の差が大きいように、同じメーカー間の差も大きい。単純な“HDR対応”だけでなく、そのテレビの実力値を知ってもらう必要があるだろう。

 幸い、UHDブルーレイのソフトは徐々に増加している。UHDブルーレイは基本的にHDRに対応しているので、顧客に体験してもらえる環境は揃ってきている。

 消費者の側も、販売する側も、HDR表示の質の違いを認識した上で購入できるようにすることで、より上位の製品へと消費者の意識は変わっていくと思う。

 なお、HDRの放送についてだが、こちらはNexTVフォーラムの試験放送において、HDR放送が開始されているほか、スカパー!も対応済みである。まだ放送こそ始まっていないが、WOWOWやNHKも撮影段階では4K+HDRでドラマを撮影し始めており、映像ソフトの面では状況が着実に整いつつある。

 HDRは理解が難しい概念だが、一方で体験して、ひと目見るだけで理解できる良さも持ち合わせている。販売店も、そしてより良い買い物をしたい消費者にとっても、それらを理解でき、体感できる場が欲しいところだ。
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