福島敦子のアントレプレナー対談民間救急搬送サービスの枠を超え
要介護高齢者の旅行提案を本格化

株式会社かご屋 木原 正昭代表

株式会社かご屋(東京都世田谷区)

株式会社かご屋
●設立 2016年3月
●本社 東京都世田谷区池尻4-24-12
●事業内容 民間救急搬送サービス
●HP:http://www.kagoya119.com/

介護と運転を同時に満たせる仕事

福島木原さんは介護関連会社に長く勤務されて、その後、観光バスの運転手を経て昨年、民間救急搬送サービス会社のかご屋を設立されました。まず起業の経緯からお話しいただけますか。

木原介護は楽しいし、やりがいのある仕事です。8年ほど訪問入浴の仕事をしていました。クルマで回って、ご自宅に浴槽を組んで、寝たきりの方の入浴をお手伝いするのですが、泣いて喜ぶ方もいらっしゃるほど。「何年ぶりにお風呂に入れた」といって。人に喜ばれやすいので、楽しいんです。大変ですけどね。

それ以前はクルマに関わる仕事もしていました。昔から運転が好きだったんです。それで30歳になった時に観光バスの運転手になりました。小さい頃からの夢でした。5年やりました。しかし、観光バスは自分の時間がほとんどありません。特にハイシーズンは。それにやっぱり介護の仕事は面白いですし……。

それで行き着いた先が「民間救急搬送サービス(介護タクシー)」です。運転が好きで、介護もやりたいということで、自然とそうなりましたね。

福島介護と運転の二つが同時に満たされるお仕事。

木原そうです。それに、東京消防庁の救急隊に知り合いがいるのですが、彼と話していると、やっぱり救急車の適正利用が話題になります。そういう問題があるのだったら、自分も手助けできるかなというのも、大きな要因ですね。

福島民間救急搬送会社の起業では、どんな許可が必要になってくるのですか?

木原普通の個人タクシーだと、タクシー・ハイヤーの経験年数や、無事故無違反の継続年数が必要条件に入ってきます。我われも個人タクシーに分類されるのですが「限定福祉」という文言が付きます。これが付くと二種免許とヘルパーの資格があれば、誰でも開業できます。

福島限定福祉の認可をもらうのは難しいのですか?

木原そんなことはないです。書類が手間なだけで、やろうと思えば相当独立しやすい業種だと思います。民間救急と聞くと大げさな気がしますけれど、実際は二種免許とヘルパー資格があれば誰でもできます。

なので定年退職後に志のある方が自宅を事務所にして、クルマを買って個人で始めるというケースが多いです。この業界の7〜8割はそういう方。認可だけ取ればできますから、一人でやっている方が多いです。

福島民間救急搬送サービスを提供する競合会社は今、日本にどれぐらいあるのですか。

木原まず介護タクシー全体ですと 1万5000台ぐらいですね。これを2020年までに2万8000台に増やすと国はいっています。この中で民間救急をちゃんとやっている所は、どれぐらいありますかね。二人体制できちんと行っている事業者は1割ぐらいじゃないでしょうか。条件付きで一人でも搬送可能なので、一人でやられている所も多いですね。

民間救急と介護タクシーの違い

福島そもそも民間救急搬送サービスと介護タクシーは何が違うのでしょうか。

木原介護タクシーと民間救急の簡単な違いというと、医療行為を継続しながら搬送できるかどうかです。例えば30分に1回、痰の吸引が必要な方を搬送する場合、看護師さんに同乗してもらって病院までお乗せするとかですね。そこが民間救急と介護タクシーの違いです。

ただし、現実的にはもっと日常的な使われ方の方が多いです。例えば車椅子の方の日常の通院とか、お昼に食事に行くときや旅行など。何でも使っていただけるんですよ、普通のタクシー感覚で。

しかも、車椅子でお乗りいただけますし、寝たきりの方でもストレッチャーがあるので大丈夫です。酸素ボンベも積んでいます。

福島例えば渋谷駅から東京駅まで、寝たきりの方がストレッチャーで行くとしたら、料金はどれぐらいになりますか。

木原ストレッチャーで東京駅まで行くと、そうですね、1万5000円ぐらいだと思います。

福島消防庁の救急車とはどう違うのですか?

木原救急車との大きな違いは、緊急走行ができるかどうかです。民間救急搬送は転院や入退院、通院といった緊急性のない搬送を請け負います。サイレンも赤灯も付けられませんし、赤信号では止まらないといけません。

福島病院側の受け入れ窓口は救急になるのですか。

木原窓口は時と場合によって変わります。通院なら正面玄関。ストレッチャーを使用しての転院なら、救急の入り口から入って入退院の窓口へ行ったり。これといって決まりはないですし、病院によっても変わってきます。

公的救急車「有料化」の是非

福島本来は救急車を使うべきでない方が使うことによって、救える命が救えなかったり、重傷の方が長い時間かけて搬送されたりしています。その現状がおかしいとの思いも、起業の動機だったのですか。
木原そうですね。日本はいい意味で平和ボケしている人が多いので、この問題は簡単には解決できないでしょう。実際、現場に到着するまでの平均時間は約8分です。平成26年までは年々少しずつ増加傾向にあります。残念ながら出動件数は年々増加しており、平成28年度は過去最高を記録してしまいました。
自分の家族や親友がもしもの時にと思うと、やっぱり適正利用で、役に立てたらなと思っています。

福島公的な救急車のサービスは、税金で賄われているわけですよね。

木原そうです。年間の維持費は1台あたり億を超えています。そして1回の出動を金額換算すると、儲けなしで13万円ぐらいかかります。

福島「有料化を考えた方がいい」という声も出ているようですね。

木原そうです。でも、しょせんは千円単位とか、そのぐらいのレベルの話なんですよ。有料化の声は医療や介護の関係者からも多く上がっています。でも、私はよく考えた方がいいと思っています。

例えば「1000円でも絶対に取ったほうがいい。そうしたら減るから」という意見もあるのですが、1000円にすると「介護タクシーを使うより全然安い」となって、逆に利用が増えるかもしれません。しかも、悪気がないというか、「1000円で乗れるんだ」と勘違いする人が間違いなく増えるでしょう。だから有料化は、そう簡単ではないと思いますね。

私は有料にするのであれば、最低10万円とか、それぐらいにしないと意味がないと思っています。でも10万円にすると、本当に苦しくてどうしようもないのに「お金を払えないから乗らない」というケースも増えてしまうでしょうね。

これは日本のいいところであり、悪いところでもある。やはり公的な救急搬送は無料のままで進めて、あとは国民のモラルに訴えかけるしかないだろうなと思っています。

福島救急車を呼ぶべきかどうか、判断に迷ったときの窓口として「東京消防庁救急相談センター♯7119」がありますね。その活用状況はどうなっていますか。

木原平成19年に運用が開始され、相談件数は年々増加しています。平成28年には約15万件の相談がありました。

しかし、まだまだアピールしていく必要があると感じます。実際に私たち民間救急がセンターの要請で出動するのは、1台あたり月に数回程度。今後周知が進めば徐々に要請が増えていき、救急車の適正利用に繋がると信じています。

福島民間救急搬送サービスは、海外では多いのですか?

木原少しややこしいのですが、諸外国では公的救急と民間救急が一体となった救急医療体制が多いです。諸外国でいう民間救急と、日本の民間救急はまったくの別物。日本で救急搬送ができるのは、公的機関である消防庁の救急車です。

日本でいう民間救急搬送とは民間患者等搬送事業のことです。

諸外国では民間救急を一回使うと、場所によってばらつきがありますが、約2万〜6万円ぐらいかかるようです。

福島公的サービスがないから、民間救急の利用者が多いのですね。

木原そうです。何しろ医療保険でさえ、充実していない国や地域の方が圧倒的に多いですからね。

国営介護施設の現状

福島日本は今、急激に高齢化が進んでいますが、これに対して介護施設や介護士さんの不足が問題視されています。介護に対するニーズはあるけれども、高齢者の方たちが本当に安心して老後を過ごせるような環境作りが、なかなかできていないわけですよね。

木原そうですね。

福島今の介護保険制度のもとでは、介護施設も経営が楽ではないということもよく聞きます。なんかこう、政策がちぐはぐな感じがするのですが、どうなんでしょうか。これまでのご経験から、もっと高齢者の方が安心して老後を過ごせるような環境を作るために、どういうことが必要だと思われますか?

木原そうですね。介護の現場を熟知している人が、政策にあまり携わっていないかな、ということは感じます。介護保険については、それほど詳しくないのですが、最近の特別養護老人ホームは、ゆとりある施設が多いです。部屋が個室だったり、廊下も広々。本来あるべき姿なのかもしれませんが、贅沢な作りというか、昔とは違ってきていますね。

福島それは儲かっている、という意味ですか?

木原儲かっているという意味ではありません。しかし実際には社会福祉法人等が運営している特別養護老人ホームは、民間とは違いボーナスもきちんと出るみたいですし、お給料は安定していると聞きます。

なぜ私が贅沢と思ってしまうのかというと、地方自治体や社会福祉法人が運営している施設、簡単にいうと官設民営の特別養護老人ホーム等は、従来は介護のしやすさ優先の4人部屋が主流でした。

それが2000年頃からプライバシーの確保や個人の生活スタイルの延長という意味で、厚生労働省は新設する特別養護老人ホームに関しては、個室であることを設置基準に盛り込んだのです。これが贅沢だと思ってしまう一つの要因かもしれません。

入居する人は良いと思いますが、料金も安いためか入所申込者が約50万人います。それなら民間で頑張っている有料老人ホームへのバックアップを、どんどん手厚くしてもらいたいと思います。しかし今の日本の政策が「施設から在宅へ」との方針なので、どうなるでしょうか。

福島民間のサービスが拡充されない理由として、規制などがまだ多いという印象を持たれていますか。

木原規制もあるのでしょうけど、それよりも「民間で本当にやっていけるのか」と考えて、参入を躊躇するケースが多いように感じます。

やってみたいという気持ちはあっても、実際には「できないんじゃないか」「やってはいけないんじゃないか」という感じだと思います。

介護タクシーで起業の例をあげると、お客様から頂く運賃に介護保険は適用されませんので、お客様は10割負担で介護タクシーを利用することになります。

特に介護経験のある人は、介護保険に慣れているというか、そういう感覚なんです。介護経験者の方がけっこう話を聞きにくるんですよ。「介護タクシーをやろうと思うのですけど、でも実際は難しいですよね」とか「儲からないんですよね」とか「お客さん、いるんですか?」とか。

そういうところで立ち止まってる方がすごく多い。ですから規制よりも、みんなの気持ち、心の問題の方が大きいように思います。

指導者の育成が急務

福島今の介護保険制度は、どうなのでしょうか。介護士さんのお給料にしても、なかなか上げてあげられないという状況がありますよね。

木原そういう話はよくします。けれどもどうでしょうか。給料が一気にものすごく上がれば違うのでしょうけれど、少し上がったぐらいでは、文句言っている人は、ずっと言い続けるでしょう。そちらの問題の方が大きいような気がします。

私は介護業界に19歳で入って今年で18年になりますが、昔から給料は安かったですよ。でも、当時はお金のことで文句を言う人は、今よりもずっと少なかったと思います。

介護業界は今、人が足りないので誰でも採っちゃうんです。たいした審査もせずに採用するので、質がどんどん下がっている。少なくとも「自分だけ良ければいい」という人が増えていることは事実だと思います。

このことは多分、この業界の共通認識だと思います。この状況で給料だけを上げたところで、何も変わらないと思います。月給を1〜2万上げたところで、「よし、上がったから頑張るぞ」となるのは、せいぜい2〜3カ月。すぐに慣れて「もっとくれ、もっとくれ」となる。

プラス1〜2万円で「わー、だったら頑張れる」というような簡単な仕事ではないんです。それぐらい大変なので、給料のことよりも、「なぜこの仕事をやるか」「なぜ介護の仕事に就こうと思ったのか」とか、その辺から話を始めて、「どれだけやりがいのある仕事なのか」「尊い仕事なのか」ということを、うまく教えられる指導者を育てる。そういう取り組みをした方が早いと思っています。

旅行は“今ならできる”プレゼント

福島最後に今後の戦略として、どんなことをお考えですか。

木原戦略ですか。特にそういう恰好いいものはないですね。このまんま自然と正攻法でやっていれば世の中に必要とされて、大きくなるだろうなと思っているので。だから、いきなり一人で株式会社にしちゃったんです。「どうせ大きくなるんで」という感覚で。

福島なるほど。そうすると次は仲間を増やしていく。一人では対応できなくなるわけですものね。

木原そうですね。実際に今、昔の同僚で介護経験豊富な知人に話はしているものの、どこの現場も人手不足で、なかなか辞めさせてくれないのが現状です。

だから課題はやっぱり、いい人材を確保することですね。はっきりいって誰でもよければ、簡単に増やせます。需要はありますから。でも、「質を落とさずに、どう大きくしていくか」。それが課題ですし、重要な戦略ですね。

福島なるほど。

木原あとは通院だけではなく、楽しい外出の提案を積極化していきます。ご家族はもちろん、病院の先生にも、ソーシャルワーカーにも、介護保険を扱っているケアマネージャーにもです。

私が接している高齢者の方の多くは正直なところ、いきなり歩けるようになる日がくるというのは、かなり難しい。ですので、「行きたい」とか「連れて行ってあげたい」と思った時が「行きどき」なんです。

例えば「三世代旅行」と呼んでいるのですが、お爺ちゃんやお婆ちゃん、その息子さん夫婦とお孫さんで、一泊二日でも日帰りでも、どこかへ旅行すれば、お爺ちゃん・お婆ちゃんはその楽しい思い出で、その後の人生を過ごせるじゃないですか。

でも「じゃあ来年行こうね」といっていたら、本当に実現できるか分かりません。1回転んだら、それで寝たきりになってしまう方も、本当にたくさん見ています。

こういう話をすると「ああ、去年の今頃だったら、頭もしっかりして分かっていたし、少しは歩けたし」とか「車椅子だったけど、花を見たいといっていたな。連れていってあげればよかったな」とか。そういう声がものすごく多いので、これを世に広めたいですね。

福島お世話になった両親や祖父母への“今ならできる”プレゼントですね。

木原まさしくそうです。去年の敬老の日もSNSなどを通じて「こういう旅行をご両親にプレゼントしたらどうですか」というような提案を発信しました。書いてはいませんが、「今を逃したら後悔しますよ」というぐらいの強いメッセージです。

でもね、それを率直に書いてもいいぐらい。それぐらいの話も聞いていますし、経験もしてきました。どんな言い方でも構わないから1回連れていってあげてほしいなと、本当に思います。

福島普通の旅行会社には難しい、介護のプロならではの提案ですね。

木原今は高級な老人ホームでさえ人が足りないので、外へ連れていってあげたくても、中のスタッフがいなくなってしまうからできない。

でも、私が企画した旅行は、施設からはスタッフを1名出してもらえればいい。あとの必要なスタッフは私の方で手配します。去年の夏頃から提案をスタートして、12月に初めて1件成立しました。今年に入って問い合わせが増えてきていますし、これからはどんどん増えますよ。

中には「こういうサービスを探していた」といってくださった方もいます。その方はお母さんを旅行に連れて行ってあげたいとずっと思っていたのですが、他の家族や病院の先生が全員で反対。そのうちに自分の方が、おかしなことをいっているんじゃないかと思い始めた矢先に、私と出会った。そして「こういう旅行を提案していますよ」と話したら、本当に泣いて喜んでくれたんです。

やっぱり潜在的なニーズはめちゃくちゃあるんです。車椅子の人10人に「旅行に行きたいですか、行きたくないですか」と聞いたら多分、9人は「行きたい」と答えるでしょう。

でも「行きたい」で終わっているのが現状なので、その突破口を開きたいと思っています。(敬称略)

木原 正昭(きはら・まさあき)氏
介護経験10年、観光バス運転手5年、介護タクシー会社での1年の経験を活かし2016年3月に株式会社かご屋を設立。大型自動車2種/ヘルパー2級/患者等搬送乗務員/上級救命技能認定/応急手当普及員認定/喀淡吸引等(認定特定行為業務従事者認定)等の資格を取得。
福島敦子(ふくしま・あつこ)
ジャーナリスト / 津田塾大学英文科卒。中部日本放送を経て1988年独立。NHK、TBSで報道番組を担当。テレビ東京の経済番組や週刊誌「サンデー毎日」でのトップ対談をはじめ、日本経済新聞、経済誌など、これまでに600人を超える経営者を取材。現在、BSジャパンの経済番組「マゼランの遺伝子」のキャスターを担当。経済・経営の他、環境、コミュニケーション、地域再生、農業・食などをテーマにした講演やフォーラムでも活躍。上場企業の社外取締役や経営アドバイザーも務める。島根大学経営協議会委員。1997年にはワインアドバイザーの資格を取得。主な著書に「愛が企業を繁栄させる」(リックテレコム)をはじめ、「それでもあきらめない経営」「ききわけの悪い経営者が成功する」「就職・無職・転職」「これが美味しい世界のワイン」などがある。
URL: http://www.atsuko-fukushima.com/