必読!これがホントの“節税”講座節税を考える上で欠かせない
「給与(所得税)」に関する考察

寄稿:梅川 貢一郎(有限会社トライアングル 代表取締役・税理士・公認会計士)

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日本では、個人事業主の数に対して法人(株式会社、有限会社、合同会社など)の数が多いといわれています。

その理由は、取引の信用上、個人事業よりも会社組織の方が有利ということも大きいですが、やはり税制上のメリットの多さが理由です。

税制上のメリットを最大限に享受するには、会社の利益を限りなくゼロにして、そのかわり個人(家族を含む)の給与所得を最大限にすることが常套手段でした。

しかし近年、必ずしもそのスキームが「節税」にはなりにくくなりました。「節税」を考えるうえでも今回は、給与(所得税)について考察してみましょう。

税率の変遷と時代背景

現在の所得税の最高税率は45%です(課税所得4000万円超に対して。ちなみに法人税の実効税率は約30%です)。

税率の変遷を見ると、その時代背景を反映していることがよく分かります。終戦直後の最高税率は85%。これに住民税が加わるのですから「懲罰的」な税率といえます。

戦後GHQの指導部には社会主義的な思想を持った人が多くいました。財産税の創設など富裕層から多くの税金を徴収して、富の偏在を減らそうとしていたようです。農地改革もその一環です。

しかし最高税率はその後減税傾向に入ります。1974年に75%に。その後も徐々に下げられ、1989年には50%(2000万円超)になります。

確かに戦後日本の税制は、相続税の高い税率と相まって富の偏在をなくしました。

相続税についても付言すると、相続財産に対して課税するという考え方は比較的新しく、近代になってからのものです。封建社会は「世襲」を前提としていたので、相続税はなじまなかったのです。

日本の相続税は、世界に先駆けて明治38年に戦費調達の一環として新設されました。当初は「富の偏在をなくす」という理念はありませんでしたから、税率も約1.5%と低いものでした。

相続税がきわめて重い税金となるのは太平洋戦争後のことです。一時期税率は最高税率が90%まで増税され、ほとんど「財産没収のため」の税金でした。現在は55%ですが、まだ「世界一高い」相続税です。

近年「格差社会」といわれますが、欧米に比べれば財産的には日本はとても「平等」です。

終戦直後の日本にも、社会主義化の動きがあったようです。

ところが意に反して現実として社会主義化しなかった大きな理由は、農地改革により土地持ちの「中産階級」が増えたこと、そして、このようなお金持ちへの厳しい税制のおかげです。

財産を稼いでも手元には現金は残らず、残っていても相続を経て子供の代に替われば、結局ほとんど残らない仕組みができていたからです。

年収500万でも所得税率は5%

話を所得税に戻すと、1989年を境に所得税率はさらに下げられ2000年には37%になりました。ソ連をはじめとする社会主義国家の破たんが、一つの原因といわれています。

もはや「資本家」を攻撃して社会主義化を目指す人々はいなくなった。資本主義の勝利は、誰にも気兼ねなく「自由主義的」政策を容認させました。お金持ちが「自由に」お金儲けできる時代の到来ということでしょうか。

ところで、日本では2007年から「最低税率」も10%から5%(所得195万円以下)に引き下げられました。時代背景には非正規労働者の割合の増加があります。低所得者層に対する配慮から、といわれています。

ちなみに家族構成にもよりますが、年収500万円の給与所得者でも、課税所得は164万円となり、税率は最低税率の5%です(年収500万−給与所得控除154万円−社会保険料控除68万円−基礎控除38万円−扶養控除76万円=課税所得164万円)。

日本人の平均年収は500万円ぐらいといいますから、単純に国民の二人に一人が最低税率分しか税金を払っていないという計算になります。

確かに最高税率を上げるとお金持ちは海外に逃げてしまうかもしれない。かといって、ほとんどの日本人が5%の所得税というのはどのようなものかという気はします。

しかし現行制度では、少なくとも給与所得を500万円ぐらいに抑えておけば、相当節税できることは事実です。仮に事業での利益が1000万円あった場合、夫婦でそれぞれ500万円ずつの役員報酬を得れば、税金はかなり安くなるということです。

累進課税と給与所得控除の理解

それでは、役員報酬をいくらにすればよいのでしょうか。会社を設立したばかりの社長さんからよく聞かれる質問です。

個人事業主であれば、課税されるのは所得税(もちろんその他に住民税もかかりますし、金額により事業税もかかります)のみです。

ところが組織を会社にすると、個人事業の時と同じ儲けでも、税金を法人税で支払うか、それとも所得税で支払うかの選択ができます。

単純に税率だけを比べると、中小企業の場合、法人税の税率は約30%。それに対して所得税は、所得に応じて段階的に税率が上昇する累進課税という構造になっていますが、現在の税率は5%から45%になっていることはすでに述べました。

役員報酬の決め方で話を難しくしているのが、一つにはこの累進課税です。よく誤解をされるのが、所得が900万円以下は、税率は23%、それを超えると33%になるので所得は900万円に抑えたほうがいいという考えです。

実はそのような心配はありません。例えば所得が1000万円の場合、900万円部分までは23%が適用され、それを超える100万円部分のみが33%となります。したがって、ある金額からいきなり税金が高くなるということはないのです。

もう一つ、話をややこしくしているのが、給与所得控除の存在です。

給与所得控除は、サラリーマンだけに認められた「必要経費」の概算額です。サラリーマンは、仕事で使うスーツや靴、鞄などを確定申告で必要経費として控除することができません。

その代わり「給与所得控除」として所得に応じた一定金額を、所得から控除することが認められているのです。この金額がバカにできません。

最低でも65万円。所得が360万円ならば126万円が控除できます。個人事業主の場合、所得が360万円ならば、他に控除するものがなければ所得税率は20%、税金は29万3000円になります。

ところが、給与としてもらうと給与所得控除のおかげで、課税所得は234万円となり所得税の金額は、13万6500円ですみます。同じ利益を出しても、支払う所得税の金額は約半分で済みます。

ちなみにこのおいしい給与所得控除。かつては青天井でしたが、昨今の税制改正で上限が設定され、平成29年度からは上限が給与1000万円まで、最高額が220万円とされてしまいました。

給与所得が1000万円を超える人は給与所得者全体の約5%といわれていますが、とりあえず取りやすい人からより多く取るという安易な発想が感じられてしまいます。

では会社の場合、同じく360万円の利益があったとして、役員報酬なしとして全額を会社の利益とすると、支払うべき税金はどうなるでしょうか。

先ほど会社の税率は、約30%と書きましたが、中小企業の場合、現在は800万円以下の利益に対しては特別に法人税が15%に減税されています。それでも360万円に対しての法人税は、54万円にもなります。

今回は、住民税は無視して書いてきました。しかし個人でも法人でも住民税はかかりますから、結果は変わりません。「ある程度の金額」までは、利益は会社で法人税を課税されるよりも、個人で役員報酬として受け取ったほうがお得になります。

社長一人会社の社会保険加入

では、法人税と所得税が逆転するのは利益がいくらからでしょうか。

実は、約1500万円で逆転して法人税のほうが安くなります。

ただし、もう一つ考慮しなければならない重要な要素があります。それは、社会保険料です。会社が社会保険に加入した場合、役員報酬の金額にもよりますが、経営者は支払った厚生年金保険料の元を取るのは困難です。

ところが社会保険料は極めて高額です。支払う給与の約30%を徴収されます。もちろん負担割合は、会社が半分、本人が半分ですから見かけ上の負担率は15%です。

しかし「社長一人だけ」の実質個人事業の場合、財布は個人も法人も一緒のようなものですから負担は実に重いものとなります。

「会社」は、社会保険に強制加入が義務付けられています。ですが従業員がいるならまだしも、社長一人だけの実質「個人事業」の名目的な会社でも、社会保険に加入しなければならないのでしょうか。

実態をいえば、このような一人会社の場合、10社に9社は社会保険に加入していません。

私が事務所を開業した16年前のこと。もちろん私一人だけの会社でしたが、当時の社会保険事務所(現在の年金事務所)に加入申し込みにいったところ「設立したばかりの法人は社会保険に加入できません。従業員を雇うようになったら、その時にまたきなさい」といわれました。

なんと、一人社長の新設会社は社会保険加入「お断り」だったのです。

当時は(おそらく今でも)年金事務所は「延滞」を非常に嫌います。税務署と違って年金事務所には延滞金を徴収する部門の人数が少ないのでしょう(一部徴収業務を外部委託しているようです)。

延滞率が高い新設法人はそもそも「社会保険に加入させない」ことが当時の方針でした。社会保険に加入できるほど「立派な」会社になる必要があったのです。

事態が変わったのは、社会保険庁が民営化され、日本年金機構が生まれてからです。

まず、保険料延滞の督促が厳しくなりました。保険料の納付を2カ月無視したら、いきなり預金を差し押さえられた会社もあります。新設法人に対しても「漏れなく」社会保険加入を促す通知が送られてきます。

しかし、設立5年以下の小規模企業では、毎月決まった金額の役員報酬を、自分に支払うのも難しい収益不安定な会社も多いのが現実です。

一人会社の社会保険加入時期

社会保険に新規に加入するのは簡単ですが、毎月の「多額な」保険料を支払い続けるのは容易ではありません。

私は、一人会社の社長から、社会保険加入の督促がきた場合の応対として「次のように回答することもあり」だと伝えています。

 (うそでなければ)会社を設立したものの、経営が不安定で従業員を雇える余裕がない。それどころか、毎月の自分に対する給料でさえ、定額を払えないことも多く厳しい状況である。

 社会保険に加入しても毎月支払う自信がない。年金は国民年金を支払っているので、社会保険加入は経営が安定するまで待ってほしい。

ポイントは「従業員がいない」「業績が悪い」「社会保険料は払えないかもしれない」「でも国民年金はしっかり払っている(もちろん事実であることが前提)」。

これを電話で伝えると、多くの場合は、「業績がよくなったら加入してくださいね」で終わり。ただし、その後「業績はいかがですか」というフォローの電話があることも。

現在、社会保険に未加入の会社は、日本全国で数十万社に上る数です。人員の少ない年金事務所が、そのすべてに調査に入ることは物理的に難しいのが現状です。

重要性と効率の観点から、授業員がいるにもかかわらず、社会保険に未加入の法人について、優先的に調査を行っているようです。

もちろん、保険加入は会社の「義務」ですから加入は必要ですが、適切な時期もあります。

いずれは税金と社会保険料は徴収が一体化されるはずです。税金が社会保障に投入され、会計を分ける意味がなくなっているからです。社会保険“料”ではなく、社会保険“税”が実情です。

そうなれば、マイナンバー制度と相まって、社会保険から逃れるのは不可能になるでしょう。まだ5年〜10年は先のことだと思っています。

サラリーマンは、本人の意思とは無関係に所得税や住民税、社会保険料などが「天引き」されますから、税金に対する負担をあまり意識することはないでしょう。

しかし、「手元にいくら現金を残せるか」が勝負の個人事業者(中小企業の社長を含む)にとって、支払わなければならない税金は重要要件です。

もちろん違法な「脱税」を勧めるものではありませんが、税金の仕組みや社会保険の実態なども、しっかりと把握しておくべきでしょう。

一人会社も加入すべきだが、加入する時期を考慮すべき