本田雅一のスペシャルレポートパナ、東芝、ソニーが新商品を投入
元年迎えた「有機ELテレビ」

ライター:本田雅一(フリージャーナリスト)

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1月、その年の家電トレンドを占うイベント「International CES 2017」がラスベガスで開催され、いよいよソニーが有機ELテレビを発表。さらに日本国内では東芝がタイミングを合わせてレグザシリーズの最上位モデルとして有機ELテレビを発表した。

LG電子が量産で先行していた有機ELテレビだが、昨年からは欧州でパナソニックが販売を開始。今年はパナソニックも国内投入を始める見込みで、発売済みのLG電子と合わせ、大手4メーカーが有機ELテレビを取りそろえることになる。

日本国内ではシャープ、グローバルで観た場合はサムスンが大手としては有機ELテレビを発売していないが、それぞれ極めて大きな液晶パネルメーカーでもあり、LG電子とはテレビ、及びディスプレイパネル生産においてライバル関係にある。

ソニー、パナソニック、東芝は、いずれも過去にテレビ用ディスプレイパネルの生産から撤退しており、それ故に現時点でもっとも量産化が進んだLGディスプレイの有機ELパネルを購入して、タイムリーな時期に新製品を投入しようとしている。

“○○元年”という表現は可能な限り避けるべきだろうが、今年は有機ELテレビ元年と表現しても文句はないだろう。その背景には、テレビ市場の二極化がある。

パナソニックはCES 2017で有機ELテレビ「65EZ1000」を発表。国内にも年内投入する予定だ

テレビ市場は二極化へ

消費者が映像を楽しむデバイスといえば、テレビが当たり前という時代が長かった。だが、ストリーミング配信が普及し始めて、流れが変化している。日本では長らくネットでの映像配信が盛り上がってこなかったため、今一つ実感がないだろう。

しかし、NETFLIXをはじめ加入型映像配信サービスがテレビ放送よりも勢いを持つ米国では、映像作品を見るデバイスのシェアにおいて、テレビは51%しか占めていない。次に多いのは21%のスマートフォンで、そこにモバイルPCの12%が続く。

この傾向は世代ごとに分割し、それぞれの行動範囲における映像の楽しみ方を見ると違いがよく分かる。

テレビ視聴がもっとも多い世代はジェネレーションX(35〜49歳女性)で、彼女たちの69%は自宅で毎週必ず映像を楽しんでいる。NETFLIXなどをパソコンで楽しむ人も多く、52%が毎週1度は映像をパソコンで見る。出先では57%がスマートフォンを用いるが、これはどの世代も同じなので言及は不要だろう。

しかし、ジェネレーションZ(15〜20歳男性)やミレニアルズ(21〜34歳男性)は自宅でもテレビを用いず、パソコンを用いることが多い。特にジェネレーションZは65%がパソコンで映像を楽しむのだ。

これは映像の楽しみ方が変化してきていることを示している。リビングルームに集まって放送を楽しむのではなく、映像配信が主流になってきたことで、個々が好みに応じてコンテンツを選んで楽しむ。

そうなると、リビングではなく各自の個室で、自分が普段使っている道具を通じて楽しむようになるわけだ。主婦の場合、昼間に自宅で映像を楽しめるが、外出時間の長い世代は必然的に出先での視聴、自宅は個々の部屋でという傾向が強まる。

テレビ需要が落ち込んだまま回復しないのは、そもそも台数を積み上げてきたカジュアルな中型テレビ以下の需要が伸び悩んでいるためだ。

パソコンやテレビで映像配信を楽しむ層は、テレビよりスマートフォン、タブレット、パソコンの優先順位の方が高い。彼らもテレビは保有していることが多いものの、優先順位が低いためにエントリークラスの安価な製品、あるいは画質などよりもデザインに目が行きがちになる。

一方で伝統的な“テレビで映像を楽しむ”世代も根強い。一般に指名買いによるテレビ購入者は、以前よりも大型のテレビを購入する傾向が強く、彼らはまた画質や音質といった品位に対して敏感だ。

サイズは米国と中国では75インチ前後が伸びており、ソニーのZ9Dシリーズなどプレミアムクラスの液晶テレビや、LG製パネルを用いた有機ELテレビが伸び始めている。

テレビ市場は大型・高級・高画質の最上位モデル層で収益を取りながら、それを一般ユーザーにも手に届く価格帯に降ろした高級モデル(最上位ではない)と、前述のカジュアル層向けの普及型製品に二極化が進んだのが昨年であり、今回のCESにもそれが反映されていた。

課題克服した有機ELテレビ

LGが脱・液晶を目指して取り組んできた大型有機ELパネルの生産が本格化し、経験を重ねたことで日本の大手メーカーが要求する画質基準を満たせるようになってきた。

その結果、すでに昨年から海外で販売しているパナソニックに加え、ソニー、東芝(CES未参加。日本で発表)も加わり、日本の主要メーカーのラインアップはシャープを除き、有機ELテレビが揃うことになる。

有機ELは夢の次世代テレビといわれてきたが、実際には問題も多かった。暗部階調表現が不得手なことに加え、自発光であるが故にバックライトを用いる液晶のように明るさ調整が利かない。全発光から消灯までを画素ごとにデジタル制御するが、全体を暗くしようとすると階調表現能力を失うことになるからだ。

しかし、パネル自体もランニングチェンジで改良が進んだ他、各社がパネルの階調表現を上手に表現するノウハウを盛り込んだLSIを開発したことで、有機ELの問題点がかなり解消されてきていることもある。

本家LGは、いまだに画質面で苦心しているところはあるが、それでも北米では(高級機市場において)サムスンよりも売れ始めている。有機ELテレビは全体に占める割合こそまだ少ないが、数年後を見すえると無視できない存在になってきた。

また、日本メーカーの製品に限っていえば、暗所における画質レベルはかなり高くなっている。

東芝製品はCESで展示されていなかったため評価は製品版まで見送るが、ソニーは最上位にZ9Dを置きながらも、スタイルと音質・画質のトータルで魅力を引き出すゴージャスなモデルという位置付けで有機ELテレビを展示。パネル自身をスピーカーに使う技術を用いたことで、スタイル提案も同時に可能になった。

一方のパナソニックは「業務用にも使えるモニター」のような「忠実画質」に傾倒した開発を行っている。

ハリウッドに拠点を構える研究所の経験を活かし、映像製作者が意図する画質を可能な限り正確に見せようとしているのがパナソニックだ。

ところで、ここまでのテレビ動向にサムスンの名前がないことに違和感を憶える方もいるだろう。サムスンは、新しい技術トレンドをCES 2017では見せなかったのだ。ブースでは「QLED」との名称で新技術をアピールしていたが、このQLEDは昨年、S-UHDとのブランドで訴求していたテレビの改良版でしかない。

サムスンはテレビ用有機ELパネルの実用化競争から脱落。液晶テレビのみのラインナップとなっている。

QLEDの名称は色変換素子の量子ドット(Quantum Dot)が由来なのだが、次世代ディスプレイ技術として別の“QLED”も存在する。同じくQuantum Dotを用いるが、量子ドットのパーティクル自身を電気制御して光らせる自発光デバイスで、実用化はまだ数年先とみられる。

もちろんサムスンのQLEDは、これではない。サムスンは有機ELの増加に対応するため、“有機ELより優れたQLED”とのマーケティングで液晶テレビを売ろうとしているのだ。

いよいよ普及期を迎えたのか?

さて、ここまでくると「いよいよ有機ELテレビが普及するのか?」という議論になるが、適材適所で使い分けられるものだと思う。液晶には最高輝度を高められる利点があり、それはHDRの時代において圧倒的に有利だ。

一方で、液晶で画質を損ねることなくHDRを実現するには、先進的なバックライト制御などが必要となる。有機ELテレビと液晶テレビのどちらが上か? といった議論は無用で、結局のところ自分の目で見て判断した結果が全てということだ。

その意味では、有機ELテレビを最上位モデルと設定せず、選択肢の一つとしたソニーが、もっとも現実的なプランを持つということだろう。

有機ELテレビは普及期というほどにはまだ浸透しておらず、東京オリンピックのまだ先にならなければ、需要急増とはならないだろう。大きなコストダウン要因がないからだ。

ただ、これだけ多くのメーカーが作るようになれば、有力な選択肢になることは間違いない。今後は急速に有機ELテレビへのモメンタムが強まるのではないかと予想される。