知ってトクする「年金講座」基礎の基礎第1章:年金の不安と不満
「年金カット法案」は中途半端?(第7回)

 昨年末に成立した「年金改革法案(年金カット法案)」による「マクロ経済スライド」の機能不全修正法案だが、その修正はいささか中途半端である。「マクロ経済スライド」が機能不全を起こしていた原因は、デフレ下では実施しないことになっていたこと。ところが「年金改革法案(年金カット法案)」が成立しても、やはり、デフレ下では実施はしないのだ。

 では、どのような機能不全対策が講じられたかというと、「マクロ経済スライド」が2年度分まで繰り越しができるようになったのである。

 例えば、ある年度がデフレで、その翌年度にインフレになったとしよう。この場合に、「マクロ経済スライド」における「スライド調整率(割引率)」は2年分になる。単年度分で約1%だから2年分まとめると2%程度になる。

 しかし、デフレが3年続いた場合、その翌年に3年分まとめて割引できるかというと2年分で打ち止めになる。したがって、デフレが長期間継続した場合には、やはり効果は限定される。

 また、デフレ下では、「マクロ経済スライド」を実施しないことは従来と同様だが、従来は物価より賃金の下落幅が大きかった場合には、物価下落率を年金の改定率にしていたところを、賃金下落率を改定率にして、年金額を引き下げることとなった(図表参照)。

 具体例を挙げると、物価下落率が1%で、賃金下落率が1.5%だったら、年金額はより大きく下がった賃金下落率の1.5%下がるということになる。

 デフレ下における年金額の改定は、「マクロ経済スライド」による割引改定にはならないものの、従来よりは多少引き下げ幅が大きくなる。しかし、賃金水準が下がれば年金財政上の保険料収入も下がるのだから、年金財政に対してはフラットである。従来が甘かったといえる。

 今回の改正内容では、デフレが長期継続した場合には、従来よりはましなものの、やはり「マクロ経済スライド」は機能不全に陥ってしまう。中途半端というのはそういう意味である。

 実は、社会保障制度の諮問機関である「社会保障制度改革国民会議」は、デフレ下での「マクロ経済スライド」の完全実施を提言していた。「年金改革法案(年金カット法案)」は、この提言よりも、甘い内容になっているのだ。

 政府とすれば、デフレによる年金額の引き下げに、「マクロ経済スライド」による引き下げが重なると、名目の年金額の引き下げ幅が大きくなるので、国民の理解を得られないと考えたのかもしれない。それとも、安倍政権が「デフレ脱却」をスローガンとしている以上は、長期デフレを想定した年金改正では政策上整合性がなくなると考えたのか?

 いずれにしても、年金給付費の抑制が遅れれば、年金財政が均衡する着地点における年金水準は、より低くなるわけだから、結局のところ若い世代の年金水準がより低くなることになってしまう。

 「年金改革法案」を野党が「年金カット法案」と批判したことに対して、政府は、それを「若年世代の年金水準を維持するための法案」と反論していた。野党の言い分は、やはり一面的だが、政府の言い分にも誇張はある。

 確かに、年金給付費の抑制が早まることは、遅くなることに比べれば、将来世代の年金支給水準を多少なりとも引き上げることにはなるのだが、それはあくまでも相対的な表現であって、実際には、引き下げ幅が幾分抑制されるという程度である。

渋谷康雄(しぶや やすお)
社会保険労務士 / 昭和32年生まれ。社会保険労務士。明治大学卒業。平成13年「渋谷社会保険労務士事務所」開業。平成18年「特定社会保険労務士資格」取得。得意分野は公的年金・65歳までの継続雇用制度構築・高齢者賃金設計・就業規則・個別労働関係紛争の相談等(年金、社会保険、労働法に関する分野)等。他に講演やセミナー講師、テレビコメンテーターなどとしても活躍。主な著書に「60歳からの年金・健保・雇用保険・税金の判断基準」(平成25年三訂版、日本法令)、「ケース別サラリーマン夫婦の年金がわかる本」(平成26年、日本法令)がある。
URL: http://yasuo-shibuya.main.jp/