知ってトクする「年金講座」基礎の基礎第1章:年金の不安と不満
「100年安心」は制度的には一歩後退(第8回)

 ここ数回の「年金カット法案」の説明に際して、「100年安心」を謳った「平成16年改正」に触れた。今回は少し脱線するが、「100年安心」の意味について述べてみたい。

 「100年安心」という言葉は、「100年も大丈夫なんだ」という肯定的な印象を与えると思うが、実は、年金財政的には一歩後退した言葉だ。どういうことかというと、「100年安心」の前の年金財政の方針は、「永久安心」方式だったからだ。

「100年安心」と「永久安心」の違いとは?

 それ以前の年金の保険料は、年金積立金からの繰入に頼らないで給付費を賄うことができるように、必要に応じて引き上げることとなっていた。年金積立金を降ろさないで年金給付費を賄うのだから、財政的には「永久に安心」ということになる。当時「永久安心」という言葉はなかったが、「100年安心」という言葉が生まれてしまえば、それに対して、それ以前はどうだったかといえば、「永久安心」ということになる。

 しかし「永久安心方式」では、保険料を負担する現役世代や企業にとっては、どこまで保険料が上がるのか分からない。その時点ですでに社会保険料は、個人にとっても企業にとっても大きな負担だったのだから、それでは堪らない。

 2004(平成16)年の年金改正はそういう批判を受けてのものだった。保険料はしばらくは上げるけれども、上限を設定することになった。

 「平成16年改正」により、厚生年金の保険料は毎年9月に少しずつ引き上げられることとなり、2017(平成29)年(今年である)の9月に最後の引上げをし、それ以降はもう保険料率は上げない。

 国民年金の保険料は、2017(平成29)年度までやはり段階的に引き上げられ、これで最後の引上げとなる。ただし、国民年金の保険料の額は、2004(平成16)年度を基準年度として、物価水準や賃金水準の変動により改定される。

 保険料の上限を設定した以上、年金給付費も抑制していかないと年金財政が持たない。それで、「平成16年改正」の年金支出側の改革ということで導入されたのが「マクロ経済スライド」である。

 しかし、「マクロ経済スライド」による年金支給水準の引下げには20年から30年程度の長期にわたることが想定されたので、年金財政がバランスするまでに、「虎の子」の年金積立金に手を付けざるを得なくなったわけである。

 当時、年金積立金は年金の総給付費の5年分ぐらいあるといわれていたが、その積立金を1年分ぐらい残して使ってもやむを得ないということになった。

 つまり、「100年安心」の意味は、積立金を取り崩せば、100年ぐらいは大丈夫だろうということであって、それまでの「永久安心」からは一歩後退しているのだ。年金制度にとって、「100年」とは決して長い期間ではないのである。

 「100年安心」は、実質的には従来方式をマイナスに転換した(せざるを得なかったわけだが)年金財政方針を、一般の人になるべくマイナスのイメージを与えないために考え出されたレトリック(表現方法)だったわけである。

 ただし、私自身は「平成16年改正」に否定的ではない。現役世代や企業の負担を考えればやむを得ない改正だったと思っている。すでに年金を受給している世代にも「マクロ経済スライド」による「年金引下げ」という形で、制度維持の負担を一部ではあるが負担させる。すべてを将来の年金受給者である若年世代に負担をさせるわけではない分、相対的に若い世代へのしわ寄せが抑制される。この点は評価に値する。

 しかし、この評価は、あくまでも「改正の方向性」に対してである。実際には、デフレが継続したことによって、「マクロ経済スライド」は、10年以上にわたってほとんど機能しなかったのである。

渋谷康雄(しぶや やすお)
社会保険労務士 / 昭和32年生まれ。社会保険労務士。明治大学卒業。平成13年「渋谷社会保険労務士事務所」開業。平成18年「特定社会保険労務士資格」取得。得意分野は公的年金・65歳までの継続雇用制度構築・高齢者賃金設計・就業規則・個別労働関係紛争の相談等(年金、社会保険、労働法に関する分野)等。他に講演やセミナー講師、テレビコメンテーターなどとしても活躍。主な著書に「60歳からの年金・健保・雇用保険・税金の判断基準」(平成25年三訂版、日本法令)、「ケース別サラリーマン夫婦の年金がわかる本」(平成26年、日本法令)がある。
URL: http://yasuo-shibuya.main.jp/