柿尾正之氏セミナーレポート「オムニチャネルの現状と今後」オムニで重要なことは実店舗を持つこと
ただし構造・機能を変えなければならない

 先日、東京ビッグサイトで開催された日本最大のファッション展「第4回ファッションワールド東京 春」(主催:リード エグジビション ジャパン(株)、会期:2017年4月5日~7日)に出向きました。別にファッション業界へ進出しようというわけではなく、非常に気になるセミナーがあったのでその取材に出かけました。

 講師はトランス・コスモス・アナリティクス(株)ダイレクトマーケティング研究所所長の柿尾正之氏。元日本通信販売協会(JADMA)の理事で、Eコマースやダイレクトマーケティング等に関する著書も多数上梓されており、機会があればぜひ話を聞いてみたいと思っていたところでした。

 セミナーのタイトルは「オムニチャネルの現状と今後」。今まさに全ての流通業が直面しているテーマです。ファッション展でのセミナーなので、基本的にはアパレル業界人向けのアレンジがなされていましたが、それでも流通業全般に応用が利く興味深い内容だったと思います。

「無印良品」のオムニチャネル施策

 そもそも「オムニチャネル」がキーワードとなってから数年経ちますが、その定義には自分も含めてもう一つピンときていない方が多いのではないでしょうか。一般には「店舗やインターネット、イベントなどのチャネルを問わず、あらゆる場所で顧客と接点を持とうとする考え方やその戦略のこと」と解釈されることが多いようですが、「では、具体的に何をすればいいのか」となると、よく見えないというのが正直なところ。

 ところが柿尾氏は実に明快で、オムニチャネルにおける重要な施策の一つは「スマホ持参で来店した顧客に、自店ですでに先行購入している顧客の評価コメントなどをスマホ経由で伝えることにより、商品選びや購入の意思決定をサポートすること」だと語っていました。さらにいえば、「こうして購入した顧客が、また新たに評価コメントを記すように仕向け、その評価を別の新たな顧客に伝え購入につなげるサイクルを構築すること」とも語っていました。

 確かに購入ユーザーの評価コメントは、その全てが客観的で適切とはいえないものの、購入意思決定のための重要な指標の一つになっていることは確かです。これをEコマースだけでなく、店舗やイベントなどでも行うことで拡販につなげるという考え方は一理あるかも知れません。

 セミナーでは、柿尾氏が語ったようなオムニチャネル施策を実践している国内外の企業事例も紹介されましたが、個人的に興味深かった事例は無印良品の「MUJIパスポート」です。すでに持っている方もいるかもしれませんが、基本的には会員向けの無料アプリで、ニュースや特典の配信、ポイント管理、店舗の在庫検索、チェックイン機能などを有しています。そして最大の特徴は、さまざまなシチュエーションで顧客のコメントや意思・好みなどを吸い上げ、その見返りに顧客へポイントを還元する仕組みになっていることです。

 MUJIパスポートではポイントをマイルと呼称していますが、その還元は商品購入時のみならず「来店時」「口コミ投稿時」「ほしいボタン・持ってるボタンの利用時」「くらしの良品研究所への意見投稿時」など多岐に亘っています。いわば商品の検討段階・購入段階・使用段階など各シチュエーションで、顧客のコメントや意思を吸い上げる仕組みといえます。同社ではこのデータを販促や商品企画、サービス開発などで活用しているとのこと。

 柿尾氏は「ポイント戦略を、値引き代替策やリピーター育成策だけでなく、顧客との接点拡大ツールとしても有効活用している好事例」と紹介していましたが、同社の10%を超える高い営業利益率もこのあたりに秘密がありそうです。

実店舗の重要性

 また柿尾氏は「インターネットは目的にあらず。仮説・検証の手段」だといい、「オムニチャネルで重要なことは実店舗を持つこと。ネットオンリーは弱い。ただし実店舗も構造を変え、機能を変えなければならない」と語っていました。ネットオンリーがなぜ弱いかといえば、顧客と直に接する場がコールセンターぐらいしかないからであり、それだけに実店舗は顧客からの情報・コメント等を吸い上げる機能をより強化すべき、とのことのようです。

 「オムニチャネル販売においても、スタッフと買い物客とのやり取りといった“人対人”のサービス提供が、顧客満足度アップの実現には不可欠。個人的な接客を行うことで、追加販売などセールスアップの機会が増大する」(柿尾氏)。

 実際、海外におけるオムニチャネルの先進企業事例として紹介された百貨店のジョンルイスやアパレルのバーバリーなどは、いずれもネット販売の構成比を急速に高めつつも、一方では実店舗を顧客とのコミュニケーションの場や情報収集の場、そして商品受け渡しや返品受け付けの場などとしてフル活用。その両面展開が高い業績につながっているとのことでした。

 ただし、両社といえどもオムニチャネルはまだ発展途上の段階。今後のさらなるブラッシュアップが不可避だろうとのこと。小売業は「変化対応業」ともいわれますが、それはオムニチャネルにおいて一段と顕著になってきたということなのだと思います。(征矢野毅彦)