知ってトクする「年金講座」基礎の基礎 第1章:年金の不安と不満
年金水準はどこまで下がるのか?(第9回)

 政府は、十分ではないが、年金制度維持のための対策(年金カット法案等)を打っている。したがって年金制度は破綻しないが、年金支給水準の引き下げは覚悟しなければならない。以上が、「年金制度は破綻する?」というテーマに対する私なりの回答だ。

では、年金支給水準はどの程度まで下がるのか?

 引き下げの水準に関しては今後の経済状況や出生率等も関係してくるので、明確に答えることは難しいのだが、現在水準の2割程度の低下というラインが一応の目安になると思う。その根拠は、「100年安心」をうたった2004(平成16)年改正で、将来的に年金の「所得代替率(※1)」は、現役時代の平均所得の50%以上を確保するとされたからだ。

 当時の所得代替率は、おおよそ60%ぐらいだったから、将来50%程度に下がるということは、当時の年金支給水準が将来2割弱下がるということになる。2004(平成16)年改正後、年金支給水準を引き下げる「マクロ経済スライド」は、ほとんど機能していなかったから、所得代替率は現在でもほとんど変わっていない。だから、現在を基準にしても、2割程度下がるというところが目安になる。

 マクロ経済スライドが機能不全を起こしていたことは、年金財政が当時の想定よりも悪化していることを意味するが、2004(平成16)年改正で50%確保をうたっている以上、もし、2割程度の引き下げで年金財政が立て直せない場合には、別の対策が講じられる可能性が高いと思われる。

 ところで、この「所得代替率50%」という指標は、誰にでも当てはまるわけではない。そもそも年金の所得代替率というものは、その人の現役時代の収入によって変わってくるものなのだ。

 例えば、サラリーマンの年金は、定額の「基礎年金」と報酬比例の「厚生年金」の組み合わせで、いわゆる「2階建年金」になっている。「基礎年金」が定額というのは、加入期間が同じであればその人の所得とは関係なく、同額の年金がもらえるという意味である。
 年金加入の最小単位は1カ月だから、「年金額の月単価(年金加入月数に対する年金額)」が定額と言い換えてもよい。

 これに対して「厚生年金」は報酬に対して比例する。言い換えれば、「年金額の月単価」が報酬比例ということだ。ただし、この場合の報酬とは厚生年金の保険料の基となる報酬であって、サラリーマンが会社から受ける給料や賞与に対してかかる。
 それ以外に、例えば株で儲けたとか、不動産を持っていて家賃収入等があったとしても、その所得には保険料がからないので、年金額には反映されないし、所得代替率の計算からも除外される。

 サラリーマンの年金保険料は完全な報酬比例なので、年金が完全に報酬比例であれば「所得代替率」は一律に計算できる。しかし実際には、年金は「報酬比例年金」と「定額年金」がミックスされた、いわば、「不完全な報酬比例」だから、所得が高い人の方が年金額は高くなるが、「所得代替率」は低くなるのである。

ならば、なぜ厚生労働省は、将来の年金の「所得代替率」を50%と言えるのか?

 実は、厚生労働省は、様々な条件の世帯ごとの「所得代替率」を公表している。しかし、それでは年金の将来的な支給水準を示すにはわかりにくい。そこで、厚生労働省は、2004(平成16)年改正にあたって、一定の条件の世帯を「標準世帯」として、将来の「所得代替率」を示したわけである。

 2004(平成16)年改正時に、「所得代替率」50%以上を確保するとした「標準世帯」とは、平均的な所得者(月給36万円程度、賞与含めた年収470万円程度)で、妻が「第3号被保険者」というものだ。

 つまり、厚生労働省が将来50%を確保するとしている「所得代替率」とは、すべての人(または世帯)に当てはまるわけではなく、「標準世帯」にしか当てはまらない指標である。したがって、厚生労働省のいう「所得代替率」を自分に当てはめて将来の年金額を計算しても、ほとんど意味がないものになるだろう。

 しかし、「所得代替率」自体は世帯の条件で異なるとしても、将来的に現時点の年金支給水準に比べて20%程度下がるという点については世帯条件に関わらず同じだ。したがって、「所得代替率50%」の「50%」という数値にはこだわらずに、現時点の自分の年金額または年金見込額(60歳まで今と同条件で勤務した場合の見込額)を基準に、将来はその8割程度になると想定しておくべきだろう。

 なお、年金支給水準が20%下がるということは、あくまでも「実質額」であって、必ずしも名目額が下がるという意味ではない。そして、20%下がりきるまでには、20年から30年程度の期間はかかると思われる。

※1) 年金受け取りのスタート時点(65歳)での年金額が、現役世代の手取り収入(ボーナス込み)と比較してどのくらいの割合かを示すもの。

渋谷康雄(しぶや やすお)
社会保険労務士 / 昭和32年生まれ。社会保険労務士。明治大学卒業。平成13年「渋谷社会保険労務士事務所」開業。平成18年「特定社会保険労務士資格」取得。得意分野は公的年金・65歳までの継続雇用制度構築・高齢者賃金設計・就業規則・個別労働関係紛争の相談等(年金、社会保険、労働法に関する分野)等。他に講演やセミナー講師、テレビコメンテーターなどとしても活躍。主な著書に「60歳からの年金・健保・雇用保険・税金の判断基準」(平成25年三訂版、日本法令)、「ケース別サラリーマン夫婦の年金がわかる本」(平成26年、日本法令)がある。
URL: http://yasuo-shibuya.main.jp/