知ってトクする「年金講座」基礎の基礎第1章:年金の不安と不満
年金の世代間格差(第11回)

 今回から、「年金の不安と不満」の「不満」編に入ろう。年金制度に対する不満としては、まずは、「世代間格差」があげられると思う。昭和一桁世代を親に持っている人には、実感があると思うが、実際に年金の世代間格差はかなり大きい。

 なぜ、そうなってしまったのか?

 それを知るためには、日本の公的年金制度の歴史を遡らなければならない。しかしその前に、一度日本の年金制度から離れて、年金制度の一般論を考えてみよう。

「個人的扶養」と「社会的扶養」

 そもそも年金という社会制度は、社会が近代社会になって発足したものだ。それまでは、老齢により所得のなくなった親は子供世代に扶養されていた。これを「個人的扶養」という。それに対して年金制度は「社会的扶養」といわれる。

 さて、年金制度がスタートした時点では、ほとんどすべてが加入者だが、少し時が経過すると、短期の加入期間しか持たない受給者が出てくる。年金額は基本的に「年金の加入1カ月分の単価×加入月数」で計算される。だから、当然加入月数が少なければ年金額は低くなる。

 しかし、あまりにも給付額が低いと、年金制度は「社会的扶養」の役割を果たせなくなることから、年金制度発足初期の段階では、加入1カ月当たりの「単価」を高くする必要が生じる。

 さらに時が経過して、中期加入や長期加入の年金受給者が出てくると、初期に設定した「単価」で年金額を計算すると、今度は年金が高くなりすぎてしまう。それで、年金制度発足後の期間が長くなるにつれて、年金額の加入1カ月当たりの単価を徐々に下げていく必要が生じる。

 つまり、年金制度とは、最初から「世代間格差」が内包されているのである。ただ、時の経過による年金単価の修正を上手くやっていければ、年金額自体は格差が生じない。

 年金発足初期:高い年金単価×短い加入期間
 年金成熟期 :低い年金単価×長い加入期間

となるから、年金単価には格差はあっても各世代の人が受け取る年金額はさほど変わらなくなる。

 しかし、日本の年金制度の場合、昭和初期生まれ世代と団塊世代(昭和22年~24年生まれ世代をいう)以降の世代の年金額格差は大きい。

 この格差は「老齢厚生年金」の年金額計算式に現れている。「老齢厚生年金」は報酬比例の年金で、年金加入期間の平均報酬額に「乗率」と加入月数を掛けて算出される。平均報酬額×乗率で、年金加入1カ月当たりの単価が算出されるのである。

 この「乗率」が世代によって異なるのである。例えば、大正15年度(大正15年は12月に昭和元年となる)生まれの「乗率」は、「9.5/1000」だが、昭和21年度生まれ以降の「乗率」は「7.125/1000」だ。「9.5」が「7.125」まで低下しているのである。

 なお、「老齢基礎年金」は定額の年金といわれるが、定額とは年金加入1カ月当たりの単価が定額という意味である。定額なのは「単価」だから、加入月数が異なれば年金額自体は異なる。この定額年金の「単価」にも世代間格差がある。

 サラリーマンの年金額はその人の現役時代の所得や加入月数によっても違ってくるので、一概にはいえないが、一般的なサラリーマンの1年分の年金支給総額で比較すると、昭和一桁生まれの世代では概ね300万円を超える額になるが、団塊以降の世代は200万円いくかどうかというところだ。

 さらに年金の保険料負担は、年金額とは逆に若い世代ほど高くなるから、払った保険料と受け取れる年金の割合で見れば、さらに格差は拡大するのである。

 この大きな格差の原因は、日本の年金制度の歴史にある。日本の年金制度は1942(昭和17)年に発足、戦後に建て直しされ、その後も何度も改正を経て現在の姿になるのだが、終戦直後の年金は当時の先進国に比べて貧弱(支給水準が低い)なものだった。

 その後、日本は経済の高度成長期に入り、年金制度も充実化が図られた。昭和40年から昭和48年頃にかけて年金支給水準の大幅な引き上げが実現した。この経済の高度成長期における年金制度の充実策により、日本の年金制度は、年金制度の一般論とは「逆コース」をたどることになったのである。

渋谷康雄(しぶや やすお)
社会保険労務士 / 昭和32年生まれ。社会保険労務士。明治大学卒業。平成13年「渋谷社会保険労務士事務所」開業。平成18年「特定社会保険労務士資格」取得。得意分野は公的年金・65歳までの継続雇用制度構築・高齢者賃金設計・就業規則・個別労働関係紛争の相談等(年金、社会保険、労働法に関する分野)等。他に講演やセミナー講師、テレビコメンテーターなどとしても活躍。主な著書に「60歳からの年金・健保・雇用保険・税金の判断基準」(平成25年三訂版、日本法令)、「ケース別サラリーマン夫婦の年金がわかる本」(平成26年、日本法令)がある。
URL: http://yasuo-shibuya.main.jp/