本田雅一のスペシャルレポート「Global Press Conference」で意外な報告
世界のテレビ市場は未だに健在!!

ライター:本田雅一(フリージャーナリスト)

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毎年4月に開催されるGlobal Press Conferenceはメッセ・ベルリン(ベルリンの見本市会場運営会社)、gfk(統計調査会社)、gfu(ドイツ電機工業会)が共同で開催しているイベントだ。

50を超える国から300人以上のプレスやアナリスト、メーカーなどが参加して、今年の製品トレンドについて語り合う。今年は「スマートフォンという大きなイノベーションが起きた後、新たな大陸発見を目指して出発する年」がテーマだった。

スマートフォンは大きなイノベーションを起こし、それが登場する前と後で、エレクトロニクス市場の勢力地図は完全に入れ替わってしまった。メカトロニクス時代からのエレクトロニクス企業は技術力や商品で負けたというよりも、市場ルールの逆転を成功され、それまでの“稼ぐ仕組み”を奪われた形だ。

しかし、そうした大規模な地殻変動も落ち着き、では新たな世界でどう生きるべきなのか。どんな製品が望まれているのか。そして新たなるゲームチェンジを引き起こすために、どんな取り組みができるのか。

もちろん、まだ誰も答えは持っていないが、まずは航海に出ねばならない。そうしなければ、発見する可能性すらあり得ないのだから。

もっとも、一番印象に残ったのは、実は“レガシー市場はまだ健全だ”というgfuの報告だった。スマートフォンなどの新しい市場を形成する企業からは「旧世代製品の代表」と見なされることも多いテレビだが、実は欧米における1世帯あたりのテレビは増加を続けており、単価下落も下げ止まったことで、以前ほどではないが回復基調なのだという。

これはテレビ買い替え需要の波が戻りつつある上、2020年にオリンピックを控える日本市場でも近い将来、起こり得るシナリオであろう。

レガシーデバイス代表 テレビ市場は底堅い

テレビ市場が堅調であるという市場データがgfuから示されたとき、アメリカ人の記者が冗談交じりにこう質問した。

「テレビはまだ主役だって? 値段も落ちているし、どんどん売れなくなっている。テレビを観る時間だって短くなっているじゃないか。

もちろん家庭の中には必ずある。でも、どんなテレビを使っているかなんて誰も注意を払っていないし、ネット視聴に切り替わっているから、パソコンやタブレット、スマートフォンに取って代わられるよ。そのあたりを予想しているのに“レガシー”デバイスにカンファレンスの時間を割くのかい?」

gfuは「テレビは確かにレガシーだが市場はいまだに大きい。スマートフォンを除けば、家庭で使われる電機製品の中でもっとも大きな金額が動く。その傾向は今後も変わらないだろう。視聴時間が短くなっても、テレビが不要という議論にはならないからだ。その証拠に欧州の一部では1世帯あたりのテレビ保有台数は増えている」と話した。

このやり取りを聞いてどう思うだろうか? 実はこの噛み合わない議論は、スマートフォンによるイノベーションについて詳しい人ほど陥りやすい誤解を、アメリカ人記者がしているために起きたものだ。

なぜテレビ市場は健全といえるのか?

アメリカ人記者がいぶかしむのも当然といえば当然だ。

gfkによるとコンシューマ向けエレクトロニクス製品の市場は頭打ちで、スマートフォンによるイノベーションが起きてから8年目、電機市場も落ち着き始めた2015年に9480億ドルに成長してからは、2016年が9490億ドルに微増しているが、今年は9450億ドルと予想されている。

スマートフォンは頭打ちとはいえ、まだ新興市場で伸びる余力がある。さらにはスマートフォンの周辺にある新ジャンル(スマホを使ったVRや、スマホ連携する多種多様のIoTデバイス、ウエアラブルデバイスなど)も増加する。すなわち、ほとんど市場サイズが変化していない中では、レガシージャンルの製品は市場が小さくなっていく。

ちなみにgfkの予測では2018年の家電市場は9450億ドル。新興国は伸びるものの、欧州や米国需要が減り、成長はインドと東欧諸国が主役になるとの見立てである。中国も成長はするが、今後は主役から外れるとの予想だ。

もっとも市場サイズの増分は新ジャンルの製品ばかりで、レガシー製品全体では、やはりマイナスが予想されているが、テレビだけは例外なのだそうだ。

なぜなら、確かにテレビを見る人たちは減少を続けているものの、映像コンテンツの消費時間はさほど減っていないからだ。電波による放送は見てなくとも、NETFLIXやAmazon Videoなどネットによる映像視聴時間は増え続けている。

日本では馴染みがないが、実はアジアではiFLIXという映像配信サービスが急伸している(本社はマレーシア)。これは簡単にいえばNETFLIXの“アジア版パクリサービス”なのだが、NETFLIXとは異なるハリウッド映画スタジオもコンテンツ供給面で支援している。

もともとDVDやBlu-rayが売れていなかった地域なので、ネット配信でハリウッド映画に親しんでもらい、劇場公開映画や米国製ドラマのファン層を広げようという意図があるためだ。

同時にアジア諸国で人気のあるジャンルならば自主制作番組にも投資しており、国ごとに異なる好みに応じた番組選びをすることで、米大手映像配信サービスよりも有利にビジネスを進めている。彼らは今年、中東やインドといった地域にもサービス地域を広げる予定である。

このように各地域に根差す形でネットを用いた映像配信サービスが展開し、スマートフォン、パソコン、タブレットなどで見ている映像を、ゆったりとした場で、大画面で楽しむ手段としてテレビが再び買われ、あるいは置かれる部屋が増えているのだという。

放送コンテンツが乏しかった地域ほど伸びる

とはいうものの、販売台数が急増するわけではない。北米、西ヨーロッパの伸びは期待されていない。主に伸びるのはアジア、南アメリカ、そして東欧だ。

こうした国はローカル放送局のコンテンツ制作力が低く、海外の番組を購入して放送することが多かったが、ネット配信で自由に好きな番組を選べるようになり、選べるコンテンツの幅がグッと拡がったことで、それらをパソコンやタブレットではなく、テレビで見たいというニーズが生まれてきたのだ。

将来“大画面のテレビで映像を楽しみたい”という発想をまったく持たない世代が、世帯主の主流になっていくことももちろんあるだろう。

しかし、少なくともここ数年の間ではなく、世帯単位で考えてテレビで映像を楽しみたいという人がいる限り、少なくとも1台以上……さらに各個人が別々の映像をビデオオンデマンドで見られる時代と考えれば複数台、テレビが導入されるチャンスが出てくる。

もちろん、日本市場となると話は変わってくるが、少なくともネット配信でテレビ以外の機器に視聴時間が奪われることで、受像機がどんどん売れなくなるという予想が的外れであることは間違いなさそうだ。

意外にも足元に宝があるのでは?

さて、gfuのテレビ市場が健全であるという主張に着目したからというわけではないが、個人的にも、ここ数年はレガシーデバイスの健闘が続くのではないか? という印象を持っている。

ソニーのエレクトロニクス事業が持ち直している一方、スマートフォンの伸び悩みやタブレット端末の存在感低下などが示しているように、スマートフォンによるイノベーション、市場ルールの変化はいったん落ち着き、市場の形は定まった。

そうした中でメーカー数は減り、また価格下落もある程度、落ち着き始めている。一方でレガシーの家電製品も、ネットワークに繋がることで新たな価値が見出されることが多くなっている。

足元、手元にある商品が技術を、今の安定したエレクトロニクス市場に最適化できれば、爆発的ではなくとも持続的な収益事業になるだろう。

レガシーはレガシーでも、最新の市場環境に合わせ込むことができれば、世帯普及率が高いだけに、そこには“足元にこそ宝”といえるものが埋蔵されているかもしれない。