知ってトクする「年金講座」基礎の基礎第1章:年金の不安と不満
世代間格差をどう捉えるか?(第13回)

 前々回から2回にわたって、日本の年金制度の歴史を振り返りながら、年金の世代間格差について考察してきたが、まだ、少々続きがある。

「昭和60年改正」は、1946(昭和21)年度生まれ世代で、年金額の計算式における「引き下げ」が完了するものだが、では、1946(昭和21)年度以降生まれ世代間では格差がないのかといえば、そうではない。保険料の負担額が違うからだ。

 年金保険料は、時代とともに右肩上がりで、2017(平成29)年にようやく打ち止めとなる。したがって、「払った保険料に対する年金給付」という面では、1946(昭和21)年度以降生まれ世代間は生じるのである。

 また、近年の「マクロ経済スライド」や、それを修正する「年金カット法案」も、すでに年金を受給している世代にも一部支給水準引き下げが波及する(既得権にも一部踏み込んでいる)ことで、若い世代へのしわ寄せは緩和されるとはいえ、やはり、支給水準が下がる途上の世代と下がりきった後に年金を受給する世代までは格差の拡大は阻止できない。

 これまで見てきたように、年金の世代間格差の原因は過去の歴史にある。過去を変えることはできないのだから、不満や苦情をいうことはできても、解消することはできない。
 そこで、年金の世代間格差をどう捉えるかである。

年金高額受給世代には「親の直接扶養」という別の負担が

 年金制度の歴史上、最も保険料負担額が低く、かつ年金が高額になる世代は、概ね大正後半生まれから、昭和一桁生まれの世代だが、その世代の親の世代は、年金を受給していないか、受給していたとしても、年金額は極めて低額だ。つまり、自身の年金は高く、かつ保険料負担は低くても、別に親の直接扶養という負担があったはずだ。

 そう考えると、この世代との格差はある程度容認すべきである。これは、厚生労働省の見解でもあるが、一理あると思われる。

 次に、高額の年金受給者を親に持つ世代である。概ね昭和20年代から30年代生まれの世代になるが、親の年金がある程度高ければ、間接的に子である自身の世代にも恩恵はある。

 問題は、年金支給水準がかなりの程度下がっている世代を親に持つ世代以降の格差だろう。この世代は、昭和10年代後半から20年代以降生まれの親を持つ世代だから、概ね昭和40年生まれ以降の世代だ。この世代以降の世代間格差はなるべく拡大させないようにすべきである。

 この世代以降の格差要因は「保険料負担」、そして「マクロ経済スライド」の進行による年金支給水準の引き下げだ。保険料については、今年に引き上げが打ち止めになる。したがって、格差拡大を抑制するために重要なことは、「マクロ経済スライド」の進行状況ということになる。

 そう考えると、昨年末に成立した「年金改革法案(年金カット法案)」の中途半端さは、若い世代にとっては批判すべきことなのだが、そういう声はほとんど聞こえてこない。年金制度をその歴史も踏まえて理解することは、特に若い世代が選挙等で候補者の主張を判断する上で重要なことである。

 ところで、先に取り上げた「年金制度の維持継続性」の問題も、その原因をたどると「世代間格差」に行きつく。「世代間格差」の原因は先行世代にその保険料に対して過大な年金を支給したことにあるのだから、当然、財源は「先食い」されたことになる。それが、年金の財政難につながり、少子高齢化と相まって、年金制度の継続が危ぶまれる事態になっていくわけだ。

 年金制度は、相当成熟するまでは、保険料を支払う加入者数に比べて受給者数が圧倒的に少ないので、「財源の先食い」が可能なのである。現在ある年金積立金200兆円も先食いした結果の額だから、本来はもっと大きな額でなければならない。

 そして、年金制度を継続させるために、支給水準を引き下げざるを得ず、それがさらに「世代間格差」を広げるという「負のスパイラル」が、現状の年金制度が抱える根本的問題といえる。ということは、年金問題の根本的な解決とは、この「負のスパイラル」をどこで食い止められるかという点に掛かっているのである。

渋谷康雄(しぶや やすお)
社会保険労務士 / 昭和32年生まれ。社会保険労務士。明治大学卒業。平成13年「渋谷社会保険労務士事務所」開業。平成18年「特定社会保険労務士資格」取得。得意分野は公的年金・65歳までの継続雇用制度構築・高齢者賃金設計・就業規則・個別労働関係紛争の相談等(年金、社会保険、労働法に関する分野)等。他に講演やセミナー講師、テレビコメンテーターなどとしても活躍。主な著書に「60歳からの年金・健保・雇用保険・税金の判断基準」(平成25年三訂版、日本法令)、「ケース別サラリーマン夫婦の年金がわかる本」(平成26年、日本法令)がある。
URL: http://yasuo-shibuya.main.jp/