シャニム推奨 この一冊!「宅配がなくなる日」 松岡真宏&山手剛人(著)/日本経済新聞出版社宅配の再配達問題を一刀両断
“同時性の解消”こそ真の解決策

 今回は最近読んだ書籍の中で、ぜひともおすすめしたい一冊をご紹介しましょう。松岡真宏氏&山手剛人氏の共著「宅配がなくなる日–同時性解消の社会論」(日本経済新聞出版社)です。

 今年の初頭から春にかけて大きな話題となった宅配便問題を起点として、その混乱の本質的な原因や、日本が誇る宅配便ネットワークが制度疲労を起こした要因、そしてEコマースの急拡大の中で今起こっている流通業の変革のありようや、スマホを手にした消費者の購買行動の変化、そして来るべきAI時代に予想される社会の変化などを、分かりやすく解説しています。

「同時性」と「同時性の解消」とは!?

 本書でキーワードとなっており、随所に登場するのが「同時性」です。これは、財やサービスの供給者と受益者とが同じ時間、同じ場所に集うことであり、経済活動における原初的な成立条件だったと著者は述べています。
 そして、決済や交易、コミュニケーションなどの高度化により、互いに対面して居合わせなくてもサービスの交換が行われることを「同時性の解消」と呼んでおり、宅配便問題についても同時性の解消なくして、根本的な解決にはならないと述べています。

 ここで興味深いことは、消費者が買い物をする行為の変遷を、同時性とその解消で解説していること。買い物という行為を細分化すると、①「(商品の)選択」②「支払い」③「(商品の)受け取り」となりますが、かつてはそのすべてが同時性の中で行われていました。自分が幼少の頃には、買い物とは店に出向き、商品を選んで支払いを済ませ、商品を家まで持ち帰ることが当たり前でした。

 今でもこうした買い物スタイルが廃れたわけではありませんが、Eコマースの出現とその発達により、「選択」と「支払い」については同時性の解消が実現。消費者はパソコンやスマホを通じて、自分の好きな時間に好きな場所で買い物をすることができます。

 しかしながら現状の、宅配便に頼った③「受け取り」だけは同時性が解消できておらず、宅配業者と消費者は必ず同じ場所で対面にて商品を受け取らなければなりません。このシステムは3~4人以上の世帯が主流だった時代までであれば、極めて有効。本人が不在でも家人の誰かが受け取る確率が高く、再配達となる頻度は今ほど多くなかったからです。

 ところが単身世帯や二人世帯が主流となり、しかも専業主婦が大幅に減少している今は、不在の確率が大幅にアップ。宅配便の「再配達問題」につながっていくわけです。しかも著者は、今の消費者はかつてないほど時間価値を重視しており、宅配便で時間帯指定した2時間程度の枠でさえ、商品の到着時間として待つことを厭うと述べています。

 本書では、こうした時代に即した「同時性を解消した“これからの商品受け取り”」手法について、さまざまな角度から提案や提言が行われています。それらについてはぜひ、本書を一読いただければと思います。

 著者は現状の再配達問題の解決について、次のように述べています。

 「再配達問題は必ずしも“利用者のモラルの問題”ではないということだ。(中略)“再配達を減らそう”などと“やさしさ”を求めて呼びかけたり、人々の倫理観や公共心に訴えかけたりすることではなく、もっとドライな社会科学の視点から商品やサービスの需給や価格決定メカニズムの変容を見通していく態度が求められる」(抜粋)

 「経済問題を“文化”や“モラル”の話として切って捨てることは、その問題が複雑で分かりにくいほど陥りがちな罠であるが、それは問題解決に背を向ける結果になりかねない。同様に再配達問題をドライバーの働き方の問題にしてしまってはならないことは言うまでもない」(抜粋)

 実は著者の松岡真宏氏とは、少なからず面識がありました。20年ほど前、氏がまだNo.1流通アナリストとして外資系証券会社で活躍されていた時代に、寄稿やインタビュアーなどをお願いしたのです。

 その出合いのきかけとなったのは、氏が1998年に上梓された「小売業の最適戦略」(日本経済新聞社)でした。同書は当時、小売業の経営理論として主流だった「チェーンストア理論」を一刀両断に論破。小売業の成長を4つのステップに分けて、それぞれの段階で行うべき施策などが分かりやすく綴られていました。

サザエさん一家やちびまる子ちゃん一家も登場

 当時、家電流通の担当記者だった自分も、上司の指示でチェーンストア理論を学ばされていました。ところが不思議なことに、現実の家電流通業界で起こっていたことは、チェーンストア理論の優等生と目されていた家電量販店よりも、チェーンストア理論を匂わせない(少なくとも表面的には)家電量販店の方が、成長力がはるかに大きく、消費者指向で、トップの話も理にかなっていたということです。

 後者に属する家電量販店がヤマダ電機でありヨドバシカメラなどであったわけですが、当時はまだ家電業界の非主流派的な扱い。主流派はチェーンストア理論型の量販店でした。

 それだけに「小売業の最適戦略」を読んだときには「やっぱりコレだ!」と直感。その場ですぐに電話をして松岡氏に面会を申し込んだという、今から思えば随分と図々しく失礼なアポイントだっだと反省しています。

 松岡氏は現在、経営コンサルティング会社「フロンティア・マネジメント」の代表取締役として多忙な日々を送られていますが、その一方で執筆活動にも積極的。氏の著書に共通することは、今起こっていることやこれから起こるであろうことを、客観的かつ経済学的にクールに分析していること。そして、そこから導き出られる考察や提案などに無理がなく、しかも分かりやすいことです。

 本書も難しく理屈っぽい内容に思われるかもしれませんが、氏が非凡なところはそうした一見難しげなテーマを、非常に分かりやすく文章化できること。本書においても要所要所ではサザエさん一家やちびまる子ちゃん一家などが登場し、理論などをかみ砕いて解説。「なるほどね」と、ちょっと経済学が分かったように気にさせてくれます。

 そして何より、来たるべきAI時代に向けて、流通業が向かうべき方向性やその際の「ヒトの役割の変化」などについても冷静かつ客観的に詳述しています。AIについては漠然とした不安を抱えている人も多いと聞きますが、本書はそんな人にも何らかのヒントを与えてくれる良書に仕上がっていると思います。(征矢野毅彦)