前年比120%以上! 急成長する「アナログレコード市場」ソニーが国内自社生産を29年ぶりに再開
高音質な“重量盤”がブームを後押しか!?

 ソニーミュージックエンターテインメント(SME)がアナログレコードの国内自社生産を再開すると発表しました。グループのディスク製造工場ソニーDADCジャパンに、アナログレコード用のプレス機を導入。「2017年度中の生産及び製造受注を目指す」とのことで、実現すれば1989年の国内生産終了から実に29年ぶりの復活ということになります。

 これに先立つように本年2月には、ソニーミュージックスタジオ内にアナログレコード製造用マスターのラッカー盤カッティングマシンを導入。スタジオ内の演奏をダイレクトに原盤加工できる体制を整え、すでに制作を開始しているとのこと。

 同社は「グループ内にカッティングマスター制作からプレス製造に及ぶ一連のアナログレコード生産体制を整備。高品質・短納期・低コストを実現し、アナログレコード及び音楽パッケージ市場の拡大に貢献する」と話しており、本格的なレコード復活への狼煙をあげたといえます。

 確かにここ数年、レコード(最近では“Vynilビニール”と呼ぶようです)の人気は高まってきており、都内にはレコード専門店や専門コーナーが増えてきています。

 日本レコード協会のレコード(アナログディスク)生産実績を見ても、2016年は数量で79万9000枚(前年比121%)、金額で14億5500万円(同124%)という二桁成長。この実績を、過去10年で最も市場規模が縮小した2009年と比較した場合、2016年の伸長率は数量で783%、金額で765%という驚異的な急成長市場となっています。

若者層の“所有欲”を刺激!?

 この人気をけん引しているのは、青春期にはレコードが当たり前で経済的にもゆとりの出てきた中高年層、と思いきや、音楽に敏感な若者世代だそうです。日本経済新聞は2017年6月29日付け朝刊で、次のように解説していました。

 “レコードブームをけん引するのは、音楽配信に慣れ親しんだ若いデジタルネーティブ世代だ。「ストリーミング(逐次再生)で聞いて気に入った曲を買う若者が多く、『好きな曲は所有したい』という欲求につながっている」(SMEの水野道訓社長)”

 好きな曲は所有したい、という気持ちはよく分かります。やはりデジタルデータだけでは味気ないですし、都内のレコードショップやレコードコーナーをのぞくと、若者層が多く目に付くことは確かです。

とはいえ、今や数十万曲とも数百万曲ともいわれる音楽配信。その中から無作為に選ばれる“好きな曲”に対して、いくら急成長中とはいえ、たかだか80万枚規模にしか過ぎない現状のレコード供給量で、どれだけの“所有したい”という欲求を満たせるものでしょうか。そのことを考えると、上記解説はいささか強引かなとも思えます。若者層のけん引以外にも、複数の要因があることは間違いないでしょう。

 実は個人的にもこの春、レコードプレイヤーを25年ぶりに購入。昔から持っていて手放さなかったレコードのみならず、たまにショップをのぞいて新たなレコードを購入することが密かな楽しみになっています。個人的にはアナログの温かみのある音には、安らぎや癒やしがあるように感じられます。しかも大きなジャケットがいい。これ自体が音楽表現の1つになっており、曲を聴きながら眺める時間にも捨てがたいものがあります。

 もっとも音質をどう感じるかについては個人差がありますし、レコードをかけるための準備(盤面を拭き、ターンテーブルにのせて回して、針を落とす)を面倒な作業ととらえるか、神聖なる儀式ととらえるかも別れるでしょう。個人的にはこの儀式が「これから音楽をじっくりと楽しむぞ」という心構えになり、ミュージシャン達が奏でるプレイにもより敬意を払えるような気がしています。

 しかも今は重量盤という新たな規格のレコードも登場。これがまた音質のよさを引き立ててくれています。重量盤の存在はこの春にプレイヤーを買ってレコードショップに通うようになってから知ったのですが、通常盤の約130gに対して180gのずっしりとしたレコード。解説などを読むと、盤が重い分ターンテーブルの回転が安定し、針とレコードの溝の接触を安定させる効果があるとのこと。そのせいかどうか定かでありませんが、自分には1つ1つの楽器の音がより立体的になって、演奏の臨場感がアップしているように感じられます。

 少なくとも昔聴いていたレコードよりも音質が進化しているように感じられるわけで、そのことも、レコード人気が再燃している理由の1つになっているように思えます。そして、これを認識し始めた中高年層が少なくはなく、それがブームのけん引に一役買っているのではないでしょうか。何より今店頭で並んでいるレコードタイトルは、ジャズにしろロックにしろ、かつての名盤が中心。音質の進化に懐古趣味も加わって、音楽への関心がレコードへと向かっている(戻っている?)ということではないかと解釈しています。

 では、音楽を聴くのは常にレコードなのかといえば、そんなことはなく、例えばシャニム編集部の事務所ではスマホを通じた音楽配信の楽曲が四六時中流れています。“ながら聴き”には、やはり音楽配信は最適ですから。

 要は使い分けということでしょう。食事でもサッと済ませるならファストフード、じっくり楽しむなら洒落たレストランというように、音楽もTPOに応じた使い分けがどんどん進むのだと思います。レコードであれ配信であれ、音楽を聴く機会が今以上に増えることが、ユーザーにとっても業界にとっても一番ハッピーなのではないかと感じます。(征矢野毅彦)