法・制度/中小企業庁「事業承継5ヶ年計画」70歳以上の経営者数2020年に30万超
環境・補助金など多方面から承継支援

2017年7月7日、中小企業庁が「事業承継5ヶ年計画」を策定し、その概要を発表しました。同庁は昨年12月に事業承継ガイドラインを公表しており、今回の計画策定により中小企業の事業承継を促すための環境づくりに着手。「事業承継を契機に後継者がベンチャー型事業承継などの経営革新等に積極意的にチャレンジしやすい環境を整備するため、今後5年程度を事業承継支援の集中実施期間とする」としています。

事業承継の現状

ここ数年、中小企業庁が事業承継を後押しする背景には、「2020年頃の団塊経営者の大量引退期到来」があります。周知のように、中小企業経営者の高齢化が進んでおり、2015年では経営者年齢分布の山は66歳に移動。2020年までの向こう5年間で新たに70歳となる経営者数は約30.6万人、75歳になる経営者は約6.3万人にも達するとされています。

数十万社の事業者が事業を次世代に承継するタイミングを迎えているというわけです。しかし、6割近くの事業者で後継者が未定であり、70歳代以上の経営者でも事業承継の準備を行っている割合は5割を下回る状況です。

●中小企業の経営者年齢の分布(中小企業庁資料より引用)
●「代表者の年齢別にみた事業承継の準備状況(左図)」と「事業承継の準備内容(右図)」(中小企業庁資料より引用)

また、60歳以上の経営者のうち、半数の経営者が廃業(法人3割/個人事業者7割)を予定しています。廃業理由としては、「当初から自分の代でやめようと思っていた(38.2%)」「事業に将来性がない(27.9%)」、さらに「子供に継ぐ意思がない」「適当な後継者が見つからない」などの後継者難を理由とするものが全体の3割近くを占めています。

●「後継者の決定状況(左図)」と「廃業予定企業の廃業理由(右図)」(中小企業庁資料より引用)

さらに、廃業予定の事業者への調査では、「廃業予定企業であっても3割の経営者が同業他社よりも業績がよいと回答している」といい、「今後10年間の将来性についても4割の経営者が現状維持は可能と答えている」とのこと。これら企業が事業承継されないまま廃業した場合、「事業者が維持している雇用、および有している技術やノウハウが失われる」ことが懸念されています。

こうした事業承継の現状から、中小企業庁は次世代への事業継続を後押しすることを目的に、税制や人材、マッチングなど様々な方面からの支援体制や施策を抜本的に強化し、5年間にわたり集中的に提供しようというわけです。

「事業承継5ヶ年計画」の支援概要

中小企業庁が「事業承継5ヶ年計画」の具体的な支援策として掲げているのは下記の5項目です。
 ①経営者の「気付き」の提供
 ②経営者が継ぎたくなるような環境を整備
 ③後継者マッチング支援の強化
 ④事業からの退出や事業統合などをしやすい環境の整備
 ⑤経営人材の活用

①経営者の「気付き」の提供

「経営者の『気付き』の提供」は、行政側から事業承継を積極的に働きかける取り組みです。地域ごとに商工会や商工会議所、金融機関、士業等専門家などを中心とした機関が相互に協力する体制として「事業承継プラットフォーム」を立ち上げて、事業承継診断などによるプッシュ型の支援を行うことで事業承継ニーズを掘り起こすとしています。

2017年から2018年にかけ、47都道府県に事業承継ネットワークを展開。年間5万件の事業承継診断を行い、今後5年間で25~30万社に対して事業承継診断が実施される予定です。

●事業承継プラットフォームの支援イメージ(中小企業庁資料より引用)

②経営者が継ぎたくなるような環境を整備

「経営者が継ぎたくなるような環境を整備」する取り組みでは、早期承継を促すことを目的にインセンティブを強化するとのこと。様々な補助金制度の新設や事業承継に関わる税制優遇の強化、経営改善や事業再生の支援など、経営者が積極的に事業承継に取り組める体制を整えるとしています。

●「早期承継へのインセンティブ強化」の概要(中小企業庁資料より引用)

③後継者マッチング支援の強化

「後継者マッチング支援の強化」は、後継者難の事業者を支援する取り組みといえます。具体的には、中小規模事業者などを対象としたM&Aマーケットの形成を推進すること。

M&Aを中心とした事業承継に関連する相談窓口である事業引継ぎ支援センター(全国47都道府県で開設)を強化。人員や予算の拡充、データベースの開示範囲を拡大すると共に、民間データベースとの相互乗り入れによるマッチング機会を増やすことなどを検討しています。これにより、M&Aの成約目標として2017年度は前年度から倍増となる1000件、5年後2000件を掲げています。

●後継者マッチング支援を強化するための「小規模M&Aマーケット形成」の概要(中小企業庁資料より引用)

④事業からの退出や事業統合などをしやすい環境の整備

「事業からの退出や事業統合などをしやすい環境の整備」では、サプライチェーンや地域における事業承継、事業再編・統合を促すことにより中小企業の経営力強化を後押しすることを目的としています。

●「サプライチェーン・地域における事業統合・共同化」の概要(中小企業庁資料より引用)
●「サプライチェーン・地域における事業統合・共同化」の支援事例(中小企業庁資料より引用)

⑤経営人材の活用

「経営人材の活用」とは、経営スキルの高い外部人材を活用しやすい環境を整備すること。大企業の経営幹部を歴任した人材を次期経営者候補や後継者のサポート役として社内外から経営に参画してもらえる体制を構築し、後継者が新規事業に挑戦しやすい環境を整えるとしています。

●「経営人材の活用」の概要(中小企業庁資料より引用)

中小企業庁では「経営者の年齢が上がるほど投資意欲が低下し、リスク回避性が高まるため業績が下降する傾向が見られる一方、経営者が交代した企業や若年経営者の方が利益率や売上高を向上させている」といい、「事業の存続はもちろん、企業の成長という視点でも事業承継は重要である」としています。後継者決定や育成、権限譲渡など、事業承継には膨大な時間と労力がかかるだけに様々な支援を活用しながら計画的に取り組むことが欠かせません。この意味でも、今回の5ヶ年計画は、事業承継を考えるよい機会といえるのではないでしょうか。(長谷川丈一)