テスラの太陽光発電「自家消費」戦略量産EV「モデル3」の開発で実現した
家庭用蓄電池“低価格モデル”の投入

 パシフィコ横浜にて開催された「PV Japan 2017」(7月5日~7日)で、非常に興味深いセミナーを取材してきました。テスラのシニアディレクターを務めるカート・ケルティ氏の「太陽光発電と蓄電池によるライフスタイル~固定価格買取制度後の新しいステージに向けて~」です。

 いわゆる「太陽光発電の自家消費」に関するセミナーだったのですが、そこで明かされた同社の戦略には「なるほど」と思わされる部分が多々ありました。そして終了後には、「もしかするとこの会社なら、太陽光発電の自家消費を世界で急速普及させることが不可能ではないかもしれない」と感じさせられました。

「13.5kWh蓄電池」が69万6000円!

 テスラといえば電気自動車(EV)ですが、PV Japan 2017で注目されたのは同社の家庭用リチウムイオン蓄電池(以下蓄電池)「POWERWALL」です。これは電気容量13.5kWhというハイスペックなもので、標準的な日本人家庭1日分の電力使用量(約15kWh)をほぼ賄えるほどの蓄電容量です。

 それでありながら、価格は税込69万6000円(※1)。これは「既存メーカー同容量蓄電池の、25%ほどの水準」(ケルティ氏)という群を抜いた低価格設定。同社ではこれをホームページにて「太陽光発電の有無にかかわらず電力を。」とのキャッチコピーで提案しています。

 「太陽光発電+蓄電池」の組み合わせによる電力自家消費は、CO2排出量削減や環境保全などの観点から極めて合理的なシステムであり、これでも内外のさまざまなメーカーがシステム提案してきました。しかしながら異口同音に聞かされてきたのが「普及の課題は蓄電池の低価格化」です。

 いくら合理的なシステムでも「そんなに高くては」という状態だったのですが、この課題をテスラは大きく払しょくしたわけです。少なくとも一般家庭における太陽光発電電力の「自家消費のトビラ」が、大きく開き始めたことは確かでしょう。

 しかもテスラのこの価格展開は、シェア確保のための単なる低価格戦略ではないことがミソ。これは同社が2003年の設立以来、ミッションとして掲げている「持続可能なエネルギーに世界の移行を加速させること」の一環であり、POWERWALLの販売開始は現段階における一つの到達点とのことです。

 テスラのCEOイーロン・マスク氏は、設立から間もない2006年8月に「テスラモーターズ秘密のマスタープラン(ここだけの話です)」とのステートメントを発表していますが、この最後の部分は次のような一文で締めくくられています。

「最後に、マスタープランを簡潔にまとめると:
 1.(EVの)スポーツカーを作る。
 2.その売上で手頃な価格のクルマを作る
 3.さらにその売上でもっと手頃な価格のクルマを作る
 4.上記を進めながら、ゼロエミッションの発電オプションを提供する(※2)」(抜粋/()書きのみ筆者)

 つまりマスク氏はテスラ設立当初から「再生可能エネルギーによる発電ソリューションの提供」を事業目標に掲げており、そのためのネックが蓄電池の価格や性能であることも熟知していたわけです。

 そこでまずは蓄電池に「EVスポーツカー」という付加価値を与えて、富裕層に供給することからスタートし、EV車種の拡充と共に供給層の裾野を拡大(=量産化)。これと並行して蓄電池の量産化・低価格化・高性能化にも着手。10数年を経た今、リーズナブルな家庭用蓄電池POWERWALLの販売にこぎ着けたということなのだと思います。

起爆剤は新型EV「モデル3」

 そのための起爆剤となったのが、2017年に米国から販売を開始したEVの量産車種「モデル3」だったと、ケルティ氏は話していました。同モデルの米国価格は3万5000ドル~(日本での価格・発売時期は未定)。これまでのテスラ車は10万ドル以上の上級モデルが主流だっただけに、相対的にかなり手頃になったことは確かでしょう。

 ケルティ氏によれば、モデル3の開発は2013年から始まったとのこと。「その当時、世界の全メーカーが製造していたリチウムイオン電池の総容量は30万GWh。ところが我われはモデル3を全世界で50万台以上を売りたいと計画しており、それに必要な蓄電池の総容量は35万GWh。世界中の蓄電池を独占しても足りないことが分かり、蓄電池の自社生産に踏み切りました」

 このスケール感がPOWERWALLの約70万円という価格設定を実現可能にしたわけです。しかも、テスラは自社工場「ギガファクトリー1」(ネバダ洲)において、2016年12月から新型蓄電池の生産を開始しており、その生産量は「2018年までに年間35万GWhに達する」とのこと。計画からわずか5年ほどで世界規模を凌駕する生産量を実現(予定)という、このスピード感も“半端じゃない”としかいいようがありません。

 テスラの蓄電池開発ではパナソニックとの二人三脚がよく知られたところですが、現時点で最大の成果物は「独自の蓄電池セル21-70の開発」だとケルティ氏は話していました。これはEV用に開発しつつも、若干の変更で施設用蓄電池への転用も可能なもの。もちろんPOWERWALLにも採用されており、だからこそその低価格設定は、モデル3の量産効果を反映した無理のないものというわけです。

分かりやすいストーリー展開

 考えてみればこれまで、こうしたビジョンでEV、蓄電池、太陽光発電パネル(※3)の開発・販売を手がけたメーカーは皆無でしょう。一般的には蓄電池メーカーは部材としての蓄電池を開発・販売し、これを仕入れた自動車メーカーはクルマを売るためにEVを開発・販売する。至極当然の流れだと思いますが、イーロン・マスク氏はそうは考えなかったわけですね。

 テスラのここまでのストーリーは理にかなっていますし、非常に分かりやすい。さらにいえば、フランスが2040年までに国内でのガソリン車販売禁止の方針を明らかにし、中国政府がEV普及を本格化する方針を打ち出すなど、外部環境がテスラにとって今後の強烈な追い風となる可能性が高く、結果として蓄電池のさらなる低価格化・高性能化にも拍車をかけることになりそうです。

 設立からわずか十数年でここまで到達できたその根底に、設立以来のミッションである「持続可能なエネルギーに世界の移行を加速させること」の実現があるとしたら、イーロン・マスク氏はあまりにも「カッコよ過ぎ」、ですよね。まあ、凡人のヒガミですが。

 もちろん現段階では、蓄電池の大量生産・大量販売という未知の展開を不安視する声が多いことも確かですし、今後、さまざまな壁にぶつかる可能性も否定できないでしょう。しかしながら、そんなことを踏まえても、テスラはこれからもウォッチし続けたい会社であることは確かです。(征矢野毅彦)

※1)他に周辺機器8万9000円、一般的な設置費10万1000~25万3000円が必要。
※2)この部分は2016年7月に発表されたマスタープラン・パート2では「ソーラーエネルギーを提供する」に修正されています。
※3)2016年8月に米・太陽発電パネルメーカー「SolarCity」を買収。また同年12月には、パナソニックとの協業で太陽光発電パネルの生産開始を発表。今後は太陽光発電パネルと蓄電池をセットにした「自家消費ソリューション」の販売を強化するとのこと。