ソフトバンクワールド“孫会長”基調講演レポート通信衛星インフラからスマートロボットまで
IoT・AI時代を見据えた孫氏の大胆投資術

 「ソフトバンクはこれまで、人間が持つ回線の数を競ってきました。しかし、仮に全世界で独占できたとしても、たかだか70億回線。これからのIoT時代に向けては、1兆回線を目指します」

 こう語ったのはソフトバンク・グループの孫正義会長兼社長です。7月20~21日に開催された「ソフトバンクワールド2017」の基調講演での一コマ。孫氏によれば「ARMのテクノロジーを搭載したIoTデバイスが、今後20年間で1兆個、世界中にばらまかれる」とのこと。これを前提とした戦略が、今後の重点方針というわけです。

30年内に必ずやってくる「シンギュラリティ」

 ソフトバンクワールドでの孫氏の基調講演は個人的に、今後のIT市場の行方を占う上での、重要な水先案内人のようなもの。毎年、必ず出向いており、「シンギュラリティ(技術的特異点)」というキーワードを初めて耳にしたのも、昨年のこの場でした。人工知能が人間の能力を超えることで起こる様々な事象、などと訳されていますが、孫氏は昨年の基調講演で「今後、20~30年のうちに必ずやってくる」と言い切り、「これに備えることが今後のビジネスで最重要テーマ」だと語っていました。

 とはいえ、その具体策が明示されたわけではなく、凡人の自分には何をどう備えれば良いのやら、まったくのチンプンカンプン。ただ漠然と「AIに仕事を奪われる日がいよいよやってくるのかな」という程度の感想しか持てずにいました。

 今年の基調講演でも冒頭から、シンギュラリティの話に触れましたが、今回はそのためにソフトバンクが今、どんな事業に投資しているのかについて具体的に紹介されました。

 「人間よりもコンピューターの方が必ず賢くなる。その善し悪しは今後の議論として、必ず賢くなるのだから、これをいい方向に使おうというのが基本的な考え方」という孫氏が描く、IoT時代の新たなビジネスの一端を垣間見ることができました。

 まずは「One Web」社。同社は、この春話題になったソフトバンク主導の10兆円ファンド「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」の第1号投資案件であり、約1100億円を出資して筆頭株主になっています。

同社の事業は、宇宙空間に900基の通信衛星を飛ばして、地球のどこからでもネット接続を可能にすること。地球上の全人口の54%がいまだにネット接続ができない環境とのことで、これを解消することにより、インターネットを誰にでも身近なツールにしようという計画のようです。通信回線を本業とするソフトバンクだけに、IoT時代に向けてまずは地球規模の通信インフラをしっかりと固めるということなのでしょう。

 では、そのインフラには、通信端末以外にどんなデバイスがつながるのか–。その一つがロボットということです。今年6月に買収合意を発表した「ボストン・ダイナミクス」社は、AIを搭載した自律歩行ロボットの開発会社。孫氏によれば「今の産業用ロボットは知性を持たない単純作業用ロボット。しかしロボットが知性を持つことでスマートロボットに進化する」とのこと。その進化のための最有力テクノロジーを持つのが同社なのでしょう。

 同社によれば「混んでいる場所でもヒトがぶつからずに歩けるのは、視覚と脳を持っているから。当社が開発しているロボットもそこを目指している」とのこと。現段階ではそこまでの完成度には達していないものの、デモンストレーションに登場した同社製の四足歩行ロボットは、従来のロボットとは明らかに異質な、滑らかな動きを見せていました。

単純作業はスマートロボットに任せるべき!?

 その一方で自動車も、今後は有力なIoTデバイスと目されており、現状では自動車メーカー各社が自動運転技術の開発にしのぎを削っています。そんな中、孫氏が「各国で様々な自動運転の規制がある中で、今すぐに実現できる自動運転の技術を持っている会社」と紹介したのが「Brain」社です。同社の役割は産業用ロボットなどの機械に搭載するための頭脳を開発すること。

 例えば既存の清掃機械や芝刈り機などに同社製の頭脳を組み込むことで、自律移動しながら安全に作業を行うことが可能になるそうです。「導入した企業はその分の人件費を抑制できるためメリットは大きい」との説明でしたが、これは裏を返せばヒトの仕事を奪うことになりかねないテクノロジーともいえ、今後賛否が分かれそうです。

 こうした議論になると孫氏は決まって「単純作業は機械に任せて、人間はもっと高度な作業や、情緒的な仕事などに取り組むべき」と主張します。

 確かにその通りだとは思うのですが、世の中にはそれができるヒトよりも、できないヒトの方が圧倒的に多いような気がします。ひと頃は「デジタル・デバイドによる格差」が議論されましたが、IoT時代には「仕事のスキルによる格差」が今以上に一層深刻化するのかも知れません。いずれにしても今後、より活発に議論されていくのでしょう。

 ソフトバンクワールド2017の基調講演では他にも、屋内野菜工場を手がける「Plenty」社や、既存の自動車にネットワーク接続したカメラデバイスを取り付けることで、運転の安全性を飛躍的に高める技術を持つ「NAUTO」社などが紹介されました。

 いずれもIoTやAI関連であることは間違いありませんが、現状では知名度がほとんどないベンチャー企業ばかり。そこに数百億~数千億円を、矢継ぎ早につぎ込む孫正義流の投資術には、唖然とする以外にないという印象でしょうか。しかし、考えてみればYahooにしてもアリババにしても、孫氏が投資した当初は、ほとんど無名の存在。その後で大化けしたわけですから、同じような可能性を秘めていることは確かなのでしょう。

 今回の基調講演はこうしたベンチャー企業の紹介に終始し、本業である携帯電話やスマートフォンなどについては一言も触れられなかったことも印象的でした。今まではITビジネスの核を成してきたスマホも、IoT時代には単なるデバイスの一つに過ぎなくなる、ということなのでしょう。(征矢野毅彦)

↑ボストン・ダイナミクスの四足歩行ロボット