30年内に70%の発生確率 “首都直下地震”東京消防庁に学ぶ「事業所の防災対策」

首都直下地震の被害想定

 「関東の企業や事業所であれば、“首都直下地震”を想定した防災対策が必須です。このことは皆さん、頭では理解されているのですが、自分たちは大丈夫という、根拠のない自信をお持ちの方が少なくないように感じています。」

 こう語るのは東京消防庁防災部震災対策課長で消防司令長の山本登氏だ。山本課長によれば、規模の小さな事業所ほど防災対策が浸透していないとのこと。従業員数も少なく、日々の業務に手一杯となっているが実情なのだろう。

 だが首都直下のマグニチュード7クラスの地震は、「今後30年の間に70%の確率で発生する」(内閣府「首都直下地震対策検討ワーキンググループ」2013年12月発表)と予測されており、その直接的な被害だけでも以下のように算定されている。

1.地震の揺れによる被害
 ①全壊家屋:約17万5000棟(これによる死者:最大1万1000人)
 ②上記建物被害に伴う要救助者:最大7万2000人
2.市街地火災の多発と延焼
 ①焼失:最大41万2000棟(建物倒壊等と合わせて最大61万棟)
 ②死者:最大1万6000人(建物倒壊等と合わせて最大2万3000人)

 これらの予測やデータをどう考えるかで、今後の防災対策も変わってくるだろう。山本課長は「たとえ小規模な事業所であっても、できることから最低限の対策や準備を始めていただきたい。それだけでも大きな違いになります」と話す。

最低限やっておくべき対策とは?

 小規模事業所の地震対策として、東京消防庁防火管理課の柳内宏之課長補佐兼指導係長に主なものをあげてもらった。
 ①防災についての任務分担の指定
 ②家族等との安否確認手段の周知
 ③事業所で待機する従業員等のための備蓄品(食料、飲料水、寝具等)の準備
 ④オフィス家具類の転倒・落下・移動防止対策
 ⑤ライフラインの途絶に備えた非常用物品の準備

 まず①従業員の任務分担だが、災害発生時になすべきことを事前にピックアップし、非常事態に具体的な指示がなくても行動できるようにすることが重要だ。例えば出火防止・初期消火を担当する者や、建物・設備等の被害状況の確認を担当する者、そして社員の安否確認や関連部署への連絡などの情報連絡を担当する者など。その上で「これを文章や表にして、社員から見えやすい位置に常に提示しておけば、日頃からの防災意識の醸成にもつながる」(柳内課長補佐)。

 ②家族等の安否確認の手段だが、これは災害用伝言ダイヤルやSNSの活用など複数の手法を家族間で決定しておくこと。そしてそれを、企業側から従業員に啓発することがポイントである。2011年の東日本大震災発生直後に、首都圏ではターミナル駅周辺、幹線道路等では帰宅を急ぐ多数の人であふれ混乱が生じたが、その要因の一つが家族との連絡がつかなかったためだとされる。東京消防庁は地震発生直後にむやみに移動を開始することは、二次災害のおそれがあるとして一斉帰宅の抑制を指導していることから、家族との連絡方法の事前決定は非常に重要な対策である。

 ③水・食糧の備蓄については「3日分、可能であれば1週間分」というのが一つの目安だ。②で述べたように発生直後の一斉帰宅行動は混乱につながることから、企業が備蓄にゆとりをもたせることが有効な帰宅困難者対策となる(詳細は下部「表」を参照)。

 ④オフィス家具類等の転倒・落下・移動防止対策は、家具や設備の転倒による怪我などの事故を防ぐだけでなく、火災などの二次災害の抑止や、出口や通路などを塞がれることによる避難障害回避のためにも有効だ。その多くは市販の転倒防止器具を使用することですぐに対策できるのだが、山本課長によれば、「現状の利用率は都内でも60%を切っている」とのこと。すぐにでも取りかかりたい災害対策の筆頭である。

ぜひとも備えておきたい「リチウムイオン蓄電池」

 ⑤非常用物品の備蓄だが、これには救急医療品や救急雑貨品(簡易トイレ、毛布、ウェットティッシュ、軍手、簡易カイロ等)、そして救急用の家電などもその一つである(表参照)。家電については携帯ラジオや懐中電灯、乾電池などが上げられるが、見落とせないのが非常用の電源供給装置である。これはパソコンや携帯電話、テレビなどをフル活用するための必需品であり、ポータブル発電機や小型の蓄電池の常備などがあげられる(詳細は下部「表」を参照)。

 中でも最新のリチウムイオン蓄電池は燃料を使わずに、簡単な操作で電力供給を可能にする。ガソリンを使用し日頃からのメンテナンスが不可欠な発電機よりも使い勝手に優れることは確かだ。音や臭いもなく使う場所や時間を選ばないこともメリットだろう。

 ただし、停電が長く続いた場合には充電できないデメリットもある。可能であれば昼間は発電機の電力を活用し、その余剰電力で蓄電池を充電する「併用」が望ましいだろう。

 ここにあげた5つの対策や準備は、あくまでその一部であり、「さらに、事業所の用途や特性により、それぞれの対策が必要」(山本課長)という。

 前述したように首都直下地震では大規模被害が予測されているが、その一方で救護する側の体制は、東京消防庁の全職員数が約1万8000人だ。平時ならば十分過ぎる体制といえるが、大震災となればいかがだろうか。これに警視庁(同約4万6000人)や、関東甲信越を担当する陸上自衛隊東部方面隊(同約13万人)を加えても総勢は20万人弱。彼らは人命救助のためには危険を顧みず、最大限の力を発揮してくれるはずであり、そのための鍛錬も日頃から積んでいる。

 だが、東京都の人口は1370万人強であり、企業数は約26万社だ。震災直後の被害現場で求められる“一刻を争う救護活動”に、物理的な限界があることは確かだろう。それだけに東京消防庁の山本課長は「やはり企業や事業所の皆さんに“自分の身を守るためには最低限の準備が必要”との認識を持っていただくことが何よりも重要」と話す。
 対策が遅れている事業所にとっては、今が災害対策を真剣に考える絶好の機会といえるはずだ。

※)防災対策の詳細は東京消防庁HP「職場の地震対策」まで。
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■表「一斉帰宅抑制における従業員のための備蓄(例)」(出典:東京消防庁HP)