知ってトクする「年金講座」基礎の基礎第2章:年金制度の基本
人生いろいろ(第17回)

 人の生き方はいろいろである。男性の多くは、就職してずっとサラリーマンとして人生を歩むことになるだろうが、中には脱サラする人もいる。

 逆に生涯自営の人もいれば、事業に失敗してサラリーマンになる人もいる。女性の場合は、結婚して専業主婦になる人もいれば、会社を辞めずに共稼ぎする人もいる。

 このように、人の人生は多様でも、年金制度的には「第1号被保険者」、「第2号被保険者」、「第3号被保険者」の3種類の期間に収れんされる。一人の人の年金加入期間がすべて「1号被保険者」または、「2号被保険者」というような単一コースはむしろ少数で、複数の被保険者期間が混在する人が多い。

 学卒後ずっとサラリーマンを続けた人でも、1991(平成3)年度(それまでは学生は20歳になっても国民年金加入義務がなかった)以降に20歳になった世代であれば、大卒者は最初の2年か3年は「第1号被保険者」になり、その後、就職して「第2号被保険者」になる。

 この人が60歳前に脱サラすれば、脱サラ後はまた「第1号被保険者」に戻ることになる。もし、脱サラして、しばらくは収入がほとんどない時期があり、なおかつ奥さんが会社員(厚生年金加入者=第2号被保険者)であれば、男性でも「第3号被保険者」になり得る。レアケースではあるが、男性でもすべての被保険者を経験することがあるのだ。

 女性の場合は、むしろ「1号」「2号」「3号」の期間が混在することが普通だ。近年は、育児休業などの制度がかなり充実してきているので、結婚や出産で会社を退職しない女性も増えているから「第3号被保険者期間」がないという女性も増えてはいるだろうが、やはり、女性の方が男性よりすべての被保険者期間が混在する可能性は高いだろう。

年金の受給資格期間

 老齢年金の受給資格期間は、今年(2017年)の8月から、これまでの「25年」が「10年」に短縮された。

 受給資格期間とは、年金の受給資格を得るための期間で、年金加入期間が受給資格期間に届いていなければ、数年間保険料を支払っていたとしても、ビタ一文年金は支給されない。その受給資格期間が「25年」から「10年」に短縮されたので、今後は、無年金者は極めて少数になると思われるが、ここでは、「受給資格期間」という「期間」を理解してもらいたい。

 年金受給資格期間とは、「第1号」「第2号」「第3号」すべての「国民年金加入期間」を合計した期間で、滞納期間(第1号だけにある)を除いた期間である。

 例えばこういうことだ。会社員は厚生年金に加入し、厚生年金加入期間は国民年金の「第2号被保険者期間」でもある。もし、会社員が厚生年金だけで受給資格期間に満たないまま退職しても、今度は国民年金の「第1号被保険者」になるが、国民年金の第1号被保険者期間(滞納期間は除く)を足して受給資格期間になれば受給資格を得ることができる。

 だから、極端に言えば、会社員が1カ月で退職してしまっても、国民年金の保険料を9年11カ月支払えば、合計10年で年金の受給資格は得られるのである。

 経済的に苦しければ、保険料免除制度や保険料納付猶予制度を利用しても構わないし、もし配偶者が会社員なら配偶者の扶養に入って「第3号被保険者」となったとしても、とにかく、滞納期間を除いて、「第1号」「第2号」「第3号」期間の合計が10年あればよいのだ。

 簡単にいえば、現在の年金制度は、すべての年金制度を「国民年金」に統合することによって、年金の受給資格も「人生いろいろ」に対応しているということだ。ただし、受給資格と年金額は別問題である。

年金給付はどうなる?

 年金の額は受給資格期間と異なり、基本的には加入期間が長いほど高くなる。「定額」の基礎年金は、共通の年金月単価×加入月数(40年限度)、「報酬比例」の厚生年金は、その人の報酬による年金月単価×加入月数(限度無し)である。

 いずれも、年金額計算要素に「加入月数」が含まれるから、受給資格期間を満たせば、みな同じということはあり得ない。したがって、時間軸が重要だ。

 「第1号被保険者」と「第3号被保険者」は基礎年金だけの「1階建年金」、「第2号被保険者」は基礎年金+厚生年金の「2階建年金」という説明は、人生のある瞬間を切り取った説明である。これに時間軸を加えると、国民年金の加入期間は共通(第1号被保険者の期間は保険料を支払っている前提)なので、あとは「第2号被保険者」の期間がどれだけあるかで2階部分の厚み(年金額)が変わってくる。

 「1号」「2号」「3号」の期間が混在していたとしても、「基礎年金」になる期間は共通だから、滞納がなければ、生き方による違いはほとんどない。しかし、「第2号被保険者」の期間が少なければ、2階部分の「厚生年金」の年金額が低くなるということになる。

 逆にいえば、生涯のほとんどを専業主婦として過ごした人でも、結婚前に少しでも会社勤務期間があれば、金額は低いものの2階部分の「厚生年金」を受給することができる。

 「2階建年金」をキーワードに、年金の適用と給付の関係を理解し、かつ時間軸を加味して理解できれば、年金のかなりの部分が分かるのである。

障害・遺族年金は違う

 なお、ここまでの説明は、「老齢年金」を前提にした説明である。老齢年金というものは、ある年齢(現行制度では65歳)に達すると年金受給権が発生する。20歳の若者が翌日突然65歳になるということはあり得ない。20歳の若者が65歳になるまでには、必ず45年という時の経過がある。いい換えれば、年金額形成期間が十分に確保されているということだ。

 しかし、障害年金や遺族年金はそうではない。遺族年金や障害年金が支給される要因は死亡や障害の原因になった事故や病気であり、これはいつ起こるかわからない。先の例えでいえば、20歳の若者が明日何らかの事故に遭ってしまうことはあり得ることだ。

 したがって、障害年金や遺族年金では、老齢年金とは「時間軸」の考え方が異なり、死亡や障害の原因になる事故に遭ったり、病気になった時点の年金の加入状況が重要になってくる。また、年金額形成期間が十分にあるかどうかはわからないので、年金給付の計算方法も老齢年金とは違ってくる。遺族・障害年金については、次回、もう少し掘り下げて解説しよう。

渋谷康雄(しぶや やすお)
社会保険労務士 / 昭和32年生まれ。社会保険労務士。明治大学卒業。平成13年「渋谷社会保険労務士事務所」開業。平成18年「特定社会保険労務士資格」取得。得意分野は公的年金・65歳までの継続雇用制度構築・高齢者賃金設計・就業規則・個別労働関係紛争の相談等(年金、社会保険、労働法に関する分野)等。他に講演やセミナー講師、テレビコメンテーターなどとしても活躍。主な著書に「60歳からの年金・健保・雇用保険・税金の判断基準」(平成25年三訂版、日本法令)、「ケース別サラリーマン夫婦の年金がわかる本」(平成26年、日本法令)がある。
URL: http://yasuo-shibuya.main.jp/