知ってトクする「年金講座」基礎の基礎第2章:年金制度の基本 ⑤
年金の種類(老齢年金・遺族年金・障害年金)(第18回)

 今までの解説は、「老齢年金」を念頭に置いたものだった。しかし、年金には「老齢年金」以外にも「遺族年金」、「障害年金」がある。今回は、この3種類の年金について解説しよう。

●保険事故

保険用語で、保険金の支給事由となる出来事を「保険事故」という。いかなる保険も「保険事故」が発生しない限り保険金は支給されない。例えば、生命保険の保険事故は「死亡」だ。被保険者が死亡すると支給対象者に「保険金」が支払われることとなる。

 年金も保険の一種なのでこの用語が使われる。老齢年金では「老齢」が、遺族年金では「死亡」が、障害年金では「障害」が、「保険事故」である。以上の「保険事故」のうち、「老齢」だけはいつ起こるかが確定しているので、言い換えれば、年金額形成期間が確保されていることになる。

 「死亡」と「障害」はいつ起こるかわからない。いつ起こるかわからないということは、年金額形成期間が十分取れる場合もあるが、そうでない場合もあるということである。

●老齢年金の特徴

 老齢年金は、一定年齢に達したら年金が支給されるものだ。現在の日本の年金制度では、老齢年金の支給開始年齢は65歳になっている。前述の「保険事故」という用語を用いれば、老齢年金における「保険事故」は、「65歳到達」ということになる。

 人間誰しも年を取ると健康上の理由や、企業の定年制などの社会的な制約により働いてお金を稼ぐことができなくなる。老齢年金とはこうした老齢による稼得取得の喪失を補償する年金である。

 年金の名称は、「基礎年金」「厚生年金」の頭に「老齢」という言葉がつき、基礎年金は「老齢基礎年金」、厚生年金は「老齢厚生年金」という名称になる。老齢年金は最低40年以上の年金額形成期間が確保されているから、生涯の年金加入履歴が年金額に反映される。

●遺族・障害年金の特徴

 遺族年金は年金加入者の死亡による遺族の所得の喪失を補償する年金である。障害年金は、一定以上の障害による所得の喪失を補償する年金で、障害年金の支給要件は、障害の程度が年金法に定められた一定の障害等級に該当すると支給される。

 遺族・障害年金ともに、「所得の喪失」を補償する年金ではあるが、それは建前で、実際には受給者に稼得収入があっても支給される。ただし、障害年金の場合は、仕事ができるという状況が障害の程度の判断に影響し、結果的に不支給になる場合もある。

 年金の名称には、やはり頭に「遺族」又は「障害」という言葉がつく。遺族年金は「遺族基礎年金」、「遺族厚生年金」、障害年金は「障害基礎年金」、「障害厚生年金」となる。

 遺族・障害年金の「保険事故」である「死亡」と「障害」はいつ起こるか分からない。したがって、年金額形成期間が十分に取れるかどうかは分からないということが、遺族・障害年金の大きな特徴である。

●「そのとき」

 遺族・障害年金においては、「保険事故」発生時点、つまり、死亡や障害(その原因となる事故や発病)という事態が発生した「そのとき」が重要になる。

 遺族・障害年金にも、それぞれ「基礎年金」と「厚生年金」があるが、どちらの年金が受けられるかは、その人が「そのとき」に年金制度上のどの被保険者だったかが問題となる。「そのとき」第2号被保険者であれば、基礎年金と厚生年金が支給対象になるが、「そのとき」第1号被保険者か第3号被保険者であれば「基礎年金」しか支給対象にはならない。

 例えば、会社員(厚生年金=第2号被保険者)だった人が、退職後になんらかの事故に遭い、障害を負ってしまったとする。このケースでは、この人は会社を退職した後は、「第1号被保険者」になっているから、支給対象となる年金は「障害基礎年金」だけになる。

 逆に、自営業(第1号被保険者)を営んできた人が、経営が上手くいかず会社に就職したとする。就職後は、「厚生年金加入者=第2号被保険者」になっている。もし、この人が、就職後に何らかの事故に遭い障害を負ったとすれば、「第2号被保険者」の年金は二階建てだから、支給対象の年金は「障害基礎年金」と「障害厚生年金」になる。
 「そのとき」どの被保険者だったかが問題になるのである。

 年金額については、「そのとき」がいつになるかは分からないため、その決定方式は、十分な年金額形成期間が確保されている老齢年金とは異なる。

 「遺族基礎年金」と「障害基礎年金」は、支給要件さえ満たせば、年金加入期間に関わらず、満額の基礎年金が支給される。満額の基礎年金額は、2017(平成29)年度価額で、77万9300円だが、老齢基礎年金なら40年間国民年金の加入期間(保険料納付が前提)がなければこの額にはならない。

 ところが、遺族・障害年金においては、「そのとき」までの加入期間が40年に満たなくても「満額」の基礎年金が支給されるのである。

 なお、「障害基礎年金」の場合は、年金支給対象となる障害の程度として、障害等級1級と2級があるが、2級障害の場合に満額の基礎年金額になり、1級障害の場合は満額に25%割り増しされた額になる。

 「障害厚生年金」は、ほぼ「老齢厚生年金」の計算方法と同じだが、加入月数については最低300月(25年)が保証される。もし、「そのとき」以前の加入月数が数カ月であっても、250月であっても、300月以下であれば、保険事故発生以前の加入期間の平均報酬額を基準とした1カ月当たりの「年金単価」に300月を掛けることになるのだ。

 「遺族厚生年金」の場合は、死亡者の「老齢厚生年金」の額の4分の3で、300月の保証があることは障害厚生年金と同様である。

 要するに、遺族・障害厚生年金では、「そのとき」がいつくるか分からないので、「そのとき」までの加入期間が短くても、最低300月年間年金に加入していたことにして年金額形成期間の不足を補うということである。

 もちろん、保険事故発生以前の加入月数が、すでに300月を超えていれば、実際の加入月数によって年金額が算出されるので、この場合には「老齢厚生年金」の算出方法と変わらないことになる。

渋谷康雄(しぶや やすお)
社会保険労務士 / 昭和32年生まれ。社会保険労務士。明治大学卒業。平成13年「渋谷社会保険労務士事務所」開業。平成18年「特定社会保険労務士資格」取得。得意分野は公的年金・65歳までの継続雇用制度構築・高齢者賃金設計・就業規則・個別労働関係紛争の相談等(年金、社会保険、労働法に関する分野)等。他に講演やセミナー講師、テレビコメンテーターなどとしても活躍。主な著書に「60歳からの年金・健保・雇用保険・税金の判断基準」(平成25年三訂版、日本法令)、「ケース別サラリーマン夫婦の年金がわかる本」(平成26年、日本法令)がある。
URL: http://yasuo-shibuya.main.jp/