CEATEC JAPAN「夏野剛氏」基調講演レポートIT化でも生産性が向上しない日本
GDP成長率は1996年比「102%」

 10月3~6日に開催された「CEATEC JAPAN」(主催:JEITA他)。かつての「最新家電&ITの総合展示会」から「CPS&IoTの総合展示会」へと大きく軌道修正した今年の催しでは、出展各社はハードの展示ウェートを引き下げ、ソリューションやシステム紹介などを前面に押し出すブース展開でした。

 そのため、ともすれば理屈っぽいというか、本質が見えにくいというか、見る側もそれなりの知識や問題意識などを持っていないと、いささか難解な展示会であったように感じました。少なくともハード主体だったこれまでのように、ひと目見てその善し悪しや要不要がピンとくるようなシンプルな展示会でなくなったことは確かでしょう。しかし、現状のIT・電機業界がそうした方向に突き進んでいる以上、CEATECもそちらの方向を今後、より一層強化するはずです。

IT化にまい進したこれまでの20年間を振り返る

 今回のCEATECで個人的に期待していたのは、10月3日の午前中に行われた夏野剛氏(慶應義塾大学大学院特別招聘教授)の基調講演でした。タイトルは「IoTの現状と今後の展望」というオーソドックスなものでしたが、日頃から テレビのコメンテーターなどとして独自の主張を堂々と発信している氏だけに、このテーマをどのように語ってくれるのかが、非常に興味深いと思っていました。

 その期待に違わず夏野氏は講演の冒頭、次のように語り始めました。
 「ここに集まっている皆さんに、今さら“IoTとはなんぞや”を語っても仕方がないでしょう。今回はこれからの20年がどうなるかを話す前に、これまでの20年がどうだったのかを振り返ることから始めましょう」

 これまでの20年間とは、文字通りIT革命が急速に進化・浸透した20年間といえます。

 1996年の日本は、Yahoo! JAPANが産声をあげたばかり。ブロードバンドもなければ、スマホもアマゾンもない。写メールサービスもiモードサービスもADSLサービスも始まっていない文字通りの“革命前夜”でした。そして、ここからの20年間は「IT化による効率革命」の掛け声の下、様々な技術やサービスが急速に拡大。生産性の向上を旗印に、社会や暮らしが大きく変革したわけです。

 では、それらの成果であるはずの「GDP成長率はどう変化したのか?」。これが今回の夏野氏の問題提起でした。そして氏が公開したデータは、かなりの衝撃でした。

 表は夏野氏のプレゼン資料を参考に、シャニム編集部で作成した「2016年の国別名目GDP伸長率(1996年比)」です。ここで日本はGDP絶対額こそ世界3位につけているものの、1996年比の成長率はわずか102.2%。表にあげた11カ国の中では群を抜く低成長率。改めて提示されると、驚く以外にはないという事実でした。

 この20年間で中国やインド、ブラジル、韓国などの途上国が急成長を遂げたことは理解できます。しかしながら、先進国のアメリカが229%、カナダが245%、イギリスが186%、そしてフランスが152%。イタリアでさえ141%という成長を遂げている事実に対して、日本はわずか102%でしかない。

 夏野氏は「この事実をご存知だった方は挙手をお願いします」と会場に問いかけたものの、挙手した人は数人レベル。しかし夏野氏によれば「このデータを政界や財界のトップに提示し、同様に問いかけてみたが、やはり同じような反応だった」とのこと。

 日本の低成長要因の一つとして、人口の横ばい(102%)という事実も考えられますが、同じように人口が横ばいだったドイツ(100%)でもGDP成長率は138%に達しており、人口を言い訳にはできないようです。

 では、真の要因は何なのか? この問いに対する夏野氏の回答は「ソーシャルアダプテーションの問題」でした。

 アダプテーションとは適応や順応といった意味ですが、夏野氏は「社会や組織へのIT導入自体は、日本も欧米も変わらない。問題はそれらの技術によって、仕組みや組織がどう変わったのか」だといい、「日本の社会の仕組みはITを前提にしていないものが多い。例えば先進国でウーバーのサービスを使えない国は日本だけ」だと語っています。

 ウーバーについていえば、そこに古くからの規制が大きく立ちはだかっていることは確かであり、これによってITを前提とした配車サービスが実現できていないことは事実です。

現状維持のままAI&IoTを導入しても結果は同じ!?

 そして、ここからが夏野氏の主張の本番です。それは、過去の20年間と同じ考え方・取り組み方で、新たな技術であるAIやIoTを導入しても「20年後に出てくる結果は同じではないか」ということです。

 つまりはAIやIoTを目先の効率化ツールとしてではなく、社会を変革するためのエンジンとして、それこそ国を挙げて取り込んでいかない限り、GDPは米国や中国に大きく引き離され、いずれは4位以下の国々にも追い越される可能性が高い、ということなのでしょう。

 客観的にみてもこれからの日本は人口減少が加速し、高齢化の進展に拍車がかかるわけですから、何も手を打たず、過去の20年間と同様に過ごせばGDPが減少する可能性は極めて高いといえるでしょう。

 「それはそれでいいじゃないか」という考え方もありますが、「経済は成長すべき」と考える人にとっては夏野氏の問題提起は説得力があうように感じます。

 では、どうすればいいのか? 夏野氏は講演の最後を「日本に残された2つの道」と題して次のように締めくくりました。
 ①過去になかったイノベーションを創出し続ける。
 ②グローバル市場への大規模進出。
 以上のどちらかか、その両方が日本のこれからの道、ということでした。

 締めくくりはオーソドックスというか、一般的によく聞く結論でした。これを具体的にどう行うのか、までは言及しませんでしたが、そこから先は自身で考えろ、ということなのでしょう。

 ただし、この結論を導く前段で語られた「個人がどう行動すべきか」の中に、これからの具体的なヒントが隠されているように感じました。それは過去の20年間で実現したIT革命によるいくつかの果実をベースにしています。

 ①個人の情報収集能力の飛躍的拡大
 ②にわか専門家量産システム
 ③個人の情報発信能力の飛躍的拡大

 情報の収集・発信能力が飛躍的に拡大した今は、個人が自分の好きな領域を徹底的に突き詰めることで、プロをはるかにしのぐ専門家となり、そのことを世間に認知される可能性が高い。企業はそうした「専門家」を積極的に活用することで、ビジネスをより効率化することが可能、という解説でした。

 この主張は個人的に、多くの人に希望を与えるものではないかと感じました。夏野氏は「AIに仕事を奪われることを恐れる必要はまったくない。簡単な仕事や単純な作業はAIにやらせて、自分は好きなことをとことん突き詰めればいい」とし、「たとえ周囲に賛同者がいなくても、その専門性が確かならば、全国規模でみれば2万や3万の賛同者を得ることは、それほど難しいことではない」と語っていました。

 これはこれで簡単ではないでしょうが、AI時代を見据えた一つの方向性であることは確かでしょう。わずか25分ほどの短い講演でしたが、その内容は実に深かったと感じました。(征矢野毅彦)