知ってトクする「年金講座」基礎の基礎第2章:年金制度の基本
「遺族年金と障害年金」の受給資格(第19回)

 前回、老齢年金と遺族・障害年金との違いを「そのとき」というキーワードで説明した。遺族・障害年金の支給原因(=保険事故)となる死亡や障害(その原因となる事故や発病)はいつ起こるか分からない。

 したがって、老齢年金のように年金加入歴全体で支給される年金や年金額が決まる方式ではなく、期間死亡や障害の原因となる事故や発病が起こった「そのとき」が決め手になる。「そのとき」に加入していた年金制度(第1号か第2号か第3号か)により、支給対象の年金(基礎年金だけか、プラス厚生年金か)が決まり、「そのとき」までに十分な年金額形成期間があるとは限らないから、基礎年金は加入期間に関係なく満額の年金額になり、厚生年金は最低300月加入していたとみなされて年金額が算出される。

 しかし、受給資格という点では、「そのとき」ではなく「それ以前」がキーワードになる。

受給資格は「それ以前」

 遺族・障害年金には「保険料納付要件」というものがある。「保険料納付要件」とは、遺族・障害年金の受給資格があるかないかを決定する要件である。老齢年金の受給資格期間は2017年8月から「10年」に短縮されたが、それまで長い間「25年」だった。

 老齢年金の受給資格が10年に短縮されたといっても、遺族・障害年金の「そのとき」はいつくるか分からない。例えば、年金に加入して3年で「そのとき」がきてしまうと、老齢年金のような受給資格期間を設けていては、必要性があるのに遺族または障害年金が支給されないということが起こり得る。

 したがって、そういうことがないように、遺族・障害年金では、「それ以前」に保険料をどの程度まじめに納付していたかによって支給されるか否かが決定されるというルールになっている。これが「保険料納付要件」である。

 「保険料納付要件」は具体的には、死亡や障害の原因となった保険事故発病時以前の年金加入義務期間のうち、滞納期間が全体の3分の1を超えないことだ。

 例えば、25歳で何らかの事故で障害を負った若者は、年金加入義務期間は20歳からの5年(=60月)である。この60月のうち、もし滞納期間が通算20月以下なら保険料納付要件をクリアするが、21月以上だと保険料納付要件を満たさず、たとえ、他の要件(障害等級に該当する等)を満たしていたとしても、障害年金を受給することができない。

 現時点では「経過措置」として、直近の1年間保険料を納付していれば保険料納付要件は満たされることになっている。つまり、「それ以前」にいくら滞納期間があったとしても、直近の1年間保険料を納付しさえすれば、「保険料納付要件」はクリアすることになる。これは、「経過措置」なので、いつかはなくなるのだが、いつなくなるかは定かになっていない。

 なお、「それ以前」を正確にいうと、遺族・障害年金の支給原因となる死亡や障害(その原因となる事故や発病)があった月の「前々月以前」の年金加入義務期間だ。なぜ「前々月以前」なのかというと、「保険の逆選択」を避けるためだ。

 国民年金の保険料は後払いなので、今月末までに支払う保険料は前月分である。「それ以前」が、文字通り、その月以前」であれば、保険事故が発生した時点では、まだ支払うべき保険料の納期限がきていない。したがって、障害または遺族年金を受給するために、今まで保険料を滞納していた人が、あわてて過去に滞納していた分も合わせて保険料を支払って、「保険料納付要件」をクリアすることが可能だ。

 しかし、保険料納付要件を見る期間が、保険事故発生月の「前々月以前」であれば、保険事故発生時にすでに、保険料の納期限は過ぎているので、保険事故があったから保険料を支払うという「保険の逆選択」はできないことになる。

保険料免除と保険料納付猶予と受給資格

 遺族・障害年金の「保険料納付要件」において、以前説明した第1号被保険者の「保険料免除期間」と「保険料納付猶予制度」の意味が出てくる。

 「保険料免除期間」は、一部老齢基礎年金の年金額に反映されるが、「保険料納付猶予」期間は年金額にはまったく反映されない。しかし、いずれの期間も「滞納期間」ではなく、年金制度上正式に保険料を納付しないことが認められた期間なので、遺族・障害年金の「保険料納付要件」においては「保険料納付」と同様の効果を持つのである。

 「保険料免除期間」と「保険料納付猶予制度」は、老齢年金においても受給資格期間になるのだが、老齢年金の場合は受給資格期間が10年に短縮されたので、さほど意味はなくなった。しかし、遺族・障害年金の受給資格においては、今でも意味があるのである。

渋谷康雄(しぶや やすお)
社会保険労務士 / 昭和32年生まれ。社会保険労務士。明治大学卒業。平成13年「渋谷社会保険労務士事務所」開業。平成18年「特定社会保険労務士資格」取得。得意分野は公的年金・65歳までの継続雇用制度構築・高齢者賃金設計・就業規則・個別労働関係紛争の相談等(年金、社会保険、労働法に関する分野)等。他に講演やセミナー講師、テレビコメンテーターなどとしても活躍。主な著書に「60歳からの年金・健保・雇用保険・税金の判断基準」(平成25年三訂版、日本法令)、「ケース別サラリーマン夫婦の年金がわかる本」(平成26年、日本法令)がある。
URL: http://yasuo-shibuya.main.jp/