IBM「ワトソン」活用事例レポート「タイヤ画像診断」サービスをスタート
AIで未来を切り拓くオートバックス

 「AIには2種類あると考えています。1つは“日常生活をサポートするためのAI”。もう一つは“ビジネスをサポートするためのAI”です。前者はアマゾン・アレクサやアップルSIRIなどが代表的。個人的にも重宝しており、日常的に活用していますが、SIRIは仕事のサポートまではしてくれません。なぜなら会社のデータを読み込ませることができないからです。
 一方、後者に位置づけられるのがIBMワトソンです。ワトソンは仕事をサポートするためのAI。自社のクローズドなデータを読み込ませることもでき、そこが一番の違いになっています」

 10月27日に開催された「AI Business Forum TOKYO」の基調講演で、日本IBMのIBMクラウド事業本部長・三澤智光氏はこう語りました。同社のAIプラットホーム「ワトソン」はマスコミ等で、アマゾン・アレクサの対抗馬的な扱いを受けることが多いことから、根本的な違いをこのように表現したのだと思います。

 また、その前日の26日に一部マスコミが報じた「ワトソンが無料に!」との記事も全面否定。ワトソンをすべて無料公開するのではなく、その一部の機能(API/アプリケーション・プログラミング・インターフェース)をIBMの他のクラウドサービスと共に、「IBM Cloudライト・アカウント」として限定的に無償提供するものと訂正しました(詳細はこちらまで)

そもそもワトソンとは? APIとは?

 ビジネス向けAIの代表銘柄とも目されるIBMのワトソンですが、これをきちんと説明せよと言われると、残念ながら自分には不可能。ワトソンという名称のコンピューターやシステムがあるわけではありませんし、11月1日からワトソンの一部機能が無料で使えるといわれても、自分のような一般人がこれを利用してすぐに何かを始められるというわけでもありません。

 知人にたずねたところ、ワトソンとは「人間の認知に匹敵する機能を目指して開発されたAPI群の総称」とのこと。こう説明されてピンとくる一般人は、自分も含めてまだまだ少ないのではないでしょうか。そもそも「APIって何?」という議論になってしまいます。

 もっとかいつまんで説明してほしいとお願いしたところ、ワトソンのAPIとは、アプリを開発するための素材の一つであり、この素材は人間のように判断したり、推測したり、学習する機能を持っている。個々のAPIは、その機能毎に最適化されており、その集合体をワトソンと総称している、とのことでした。

 これならおぼろげながらではありますが、少しはイメージできそうです。自分のようなアプリ開発と無縁の人間にとっては、ワトソン自体を理解するよりも、これを用いて作られたアプリを見る方が、その利便性や有益性を理解できそうです。

 「AI Business Forum TOKYO」の基調講演ではオートバックスセブンの常務執行役員・佐々木勝氏から、自社の活用事例が紹介されました。同社はこの9月から、ワトソンのAPIの一つである「Visual Recognition(画像認識機能)」を活用したアプリ「かんたん タイヤ画像診断」サービスをスタートしています。

 これはスマホ等で撮影したタイヤの画像データを送信するだけで、タイヤの状況を知らせてくれるもの。あらかじめ登録されている数百枚に及ぶさまざまな状態のタイヤ画像の中から、送信されたタイヤ画像と近似する状態の画像を抽出して、その摩耗状態を判別してくれるサービスです。ユーザーは1分ほどの待ち時間ですぐに回答が得られるとのこと。

 オートバックスセブンが同サービスを開始した背景には「車両の整備不良に起因する事故が毎年1500件以上発生しており、中でもタイヤ不良による事故が最も多いという現実がある」といいます。しかも、オーナードライバーであれば本来は欠かすことのできないはずのクルマの日常点検についても、実に35%のドライバーがまったく行っておらず、その理由は「面倒だから。お金がかかるから。時間がないから」がベスト3とのことでした。

 “安全で豊かなカーライフのサポート”をミッションとする同社が、これらの解決策の一助として選んだのが、ワトソンを活用したタイヤ診断アプリというわけです。ユーザーにとっては簡単・短時間でタイヤをチェックでき、安全を確保できます。そしてオートバックスにとっては新規顧客の開拓やタイヤの売り上げアップ、そしてAI活用による先進イメージの浸透などが期待できます。いわばWin Winの関係というわけですが、ワトソンによる瞬時の画像抽出・診断能力がなければ、実現不可能だったことは確かなようです。

 ワトソンに限らずAIをテクノロジーから理解するのは、素人には簡単ではありません。そもそも横文字や専門用語が多く、その理解だけでもひと苦労。それよりも事例などを通じて、具体的な利便性や有効性を判断することが重要だと感じました。オートバックスセブンの佐々木氏は今後のAI活用について「タイヤ診断だけにとどまらない」として次のように語っていました。

 「自動運転やカーシェアリングなどクルマ社会は今、大変革期を迎えており、この変革がユーザーに新たな時間を提供することになる。その時間をどのように活用し、消費するのか。その提案が当社にとっての重要なテーマであり、AIをフル活用しながら、この課題に取り組んでいきたい」

 オートバックスといえば個人的にもカー用品で昔からお世話になっているショップですが、同社の近未来の立ち位置は、もはやそこではないということなのでしょう。この問題意識が、AIへの取り組みをスタートしたきっかけとなったようです。(征矢野毅彦)